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夢は交錯する
第8話
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「あの、父上。シーズン様をお招きするとき、母上はどう致しましょう?」
母キャメイリアも、今はもうなにがあってもノアランがヴァーミルのノアランでいることを守り続けるとわかっているので、以前のような強い拒絶はしないと思ったが。
「あまりに急な変化は良くないかもしれないな。今回は私だけにしておくか。話だけは私からしておくから」
使者ニルズはヤーリッツからの2日後の招待状を懐に抱き、カーラの元へ戻って行った。
「そうか。シーズン様がこのヴァーミルに」
ヤーリッツはなんとなくうれしそうだが、しかし何かの糸に絡まったような息子を不憫そうに見ている。
「そうだ、花茶を飲んでもらって感想を聞きたいな!この前の良くできたやつ、まだあったかな」
ブツブツ独り言を言っていたと思うと、すくっと立ち上がり走って行ってしまった。
「本当なら当たり前に隣に立っていたはずなのに、皮肉なものだな」
ヤーリッツの独り言にツッコんだ者がいた。
「何が皮肉なんですか?」
キーシュである。
「帰っていたのか」
「ええ、今戻りました。で?何が皮肉なんです?」
「ノアとシーズン公爵家のご令嬢だよ」
「ああ。でもノアはうちのノアですから、そもそも無い話じゃないですか。何が皮肉なんです?」
「たぶんノアはご令嬢を・・・」
皆まで聞かずともキーシュはヤーリッツの憂いに気がついた。
「うそ!そうなのですか?」
言葉はないが、ヤーリッツの顔がそうだと言っている。
「そうかぁ。それは確かに皮肉ですね」
「そういえば、シーズン公爵家にノアの偽物のことを報せておいたのだが、ちゃんと調べてくれただろうかな。十日ほどだからまだどうもないか」
「ローリスやシーズン家に何か変化があったか調べてみますか?」
「ああ・・・。匿名の投書をどこまで信じて動くかはあまり期待できんがな」
「まあ、明日にでも調べてみますよ」
しかしキーシュは自分が言ったことをころりと忘れ、ヤーリッツもノアランもコーテズの変化を知らないまま、カーラを出迎えた。
「シーズン様、お久しぶりにございます」
「ヴァーミル侯爵様、ご令息様、ご機嫌よう」
挨拶もそこそこに、早速食堂へと誘う。
「シーズン様に教えられたとおり、花茶を作り始めたのです!今日はぜひそれを飲んでみてくださいね」
「ええ、楽しみにしております!」
ヴァーミル父子とカーラのランチは、美味しい食事と花茶の話であっという間に終わりを迎えた。
「花茶を煮出して作らせたデザートを最後におあがりください」
名残惜しそうなノアランをカーラも無碍にしたりはしない。
「ではそれを頂いてから、お暇いたしますわ」
「ところで。実は私商会を起こすことに致しましたの。コーテズの王都で店も用意しましたので、いつかいらっしゃる際は是非お立ち寄りください」
「それはすごいな」
ヤーリッツにはいくら公爵家の令嬢と言っても、王都に店を構えるのは大変なものだと舌を巻いた。
「相当な金がかかったのではありませんか?」
下世話な好奇心に負けてヤーリッツが訊ねると、カーラの口元がむにゅむにゅと緩む。
「うふふ。そうなのですが。ええっとですね」
一際声を潜めて、嬉しそうに話しだした。
「実は婚約者が偽の身代わりだったことが判明致しまして」
母キャメイリアも、今はもうなにがあってもノアランがヴァーミルのノアランでいることを守り続けるとわかっているので、以前のような強い拒絶はしないと思ったが。
「あまりに急な変化は良くないかもしれないな。今回は私だけにしておくか。話だけは私からしておくから」
使者ニルズはヤーリッツからの2日後の招待状を懐に抱き、カーラの元へ戻って行った。
「そうか。シーズン様がこのヴァーミルに」
ヤーリッツはなんとなくうれしそうだが、しかし何かの糸に絡まったような息子を不憫そうに見ている。
「そうだ、花茶を飲んでもらって感想を聞きたいな!この前の良くできたやつ、まだあったかな」
ブツブツ独り言を言っていたと思うと、すくっと立ち上がり走って行ってしまった。
「本当なら当たり前に隣に立っていたはずなのに、皮肉なものだな」
ヤーリッツの独り言にツッコんだ者がいた。
「何が皮肉なんですか?」
キーシュである。
「帰っていたのか」
「ええ、今戻りました。で?何が皮肉なんです?」
「ノアとシーズン公爵家のご令嬢だよ」
「ああ。でもノアはうちのノアですから、そもそも無い話じゃないですか。何が皮肉なんです?」
「たぶんノアはご令嬢を・・・」
皆まで聞かずともキーシュはヤーリッツの憂いに気がついた。
「うそ!そうなのですか?」
言葉はないが、ヤーリッツの顔がそうだと言っている。
「そうかぁ。それは確かに皮肉ですね」
「そういえば、シーズン公爵家にノアの偽物のことを報せておいたのだが、ちゃんと調べてくれただろうかな。十日ほどだからまだどうもないか」
「ローリスやシーズン家に何か変化があったか調べてみますか?」
「ああ・・・。匿名の投書をどこまで信じて動くかはあまり期待できんがな」
「まあ、明日にでも調べてみますよ」
しかしキーシュは自分が言ったことをころりと忘れ、ヤーリッツもノアランもコーテズの変化を知らないまま、カーラを出迎えた。
「シーズン様、お久しぶりにございます」
「ヴァーミル侯爵様、ご令息様、ご機嫌よう」
挨拶もそこそこに、早速食堂へと誘う。
「シーズン様に教えられたとおり、花茶を作り始めたのです!今日はぜひそれを飲んでみてくださいね」
「ええ、楽しみにしております!」
ヴァーミル父子とカーラのランチは、美味しい食事と花茶の話であっという間に終わりを迎えた。
「花茶を煮出して作らせたデザートを最後におあがりください」
名残惜しそうなノアランをカーラも無碍にしたりはしない。
「ではそれを頂いてから、お暇いたしますわ」
「ところで。実は私商会を起こすことに致しましたの。コーテズの王都で店も用意しましたので、いつかいらっしゃる際は是非お立ち寄りください」
「それはすごいな」
ヤーリッツにはいくら公爵家の令嬢と言っても、王都に店を構えるのは大変なものだと舌を巻いた。
「相当な金がかかったのではありませんか?」
下世話な好奇心に負けてヤーリッツが訊ねると、カーラの口元がむにゅむにゅと緩む。
「うふふ。そうなのですが。ええっとですね」
一際声を潜めて、嬉しそうに話しだした。
「実は婚約者が偽の身代わりだったことが判明致しまして」
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