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夢は交錯する
第18話
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「カーラ様!いい加減になさいませ!」
こういうときストッパーになるのは年長のナラである。母というほどではないが、頭の上がらない姉のような存在だ。
「ご主人も、申し訳ございません」
「いえ、謝って頂くようなことは何も」
「左様でございますか、それならよろしいのですが」
「ナーラ。仕事の話なのだから迷惑であるはずがないわ」
「そんなことを仰って、シオンのことをお忘れですか?」
─そうだった!─
バツの悪い顔をしたが、工房主はシオンの名を聞いて反応した。
「シオンのことを知っているのですか?もしかしてシオンの後援になったコーテズの貴族って」
「それ!それわたくしですわ」
当てずっぽうが当たってアルトスはびっくりしている。
「シオンとお知り合いかしら?」
「はあ、職人ギルドでは今シオンの幸運の話でもちきりですよ」
「貴方もその幸運を掴めますわよ、私に猫足のかわいい家具を作ってくだされば。如何かしら」
「やりたいのはやまやまですが、以前より注文が少なくなって弟子ももう一人しかいないもので、量が作れないかと」
「そう、シルベスではもう行き渡っちゃったのかしらね。でもコーテズではこれからよ。なんならコーテズに移ってきてもいいわ。猫ちゃんと」
「いやでも、また工房を構えたりすることは」
「こちらで揃えて差し上げてよ」
「え」
シオンから聞いていた、恐ろしく気前のいい貴族の話。そんな幸運を掴むなんて自分には一生無理だと思っていたが。
「猫もいいんですか?」
「ええ。んー、工房と住居にして、店は私のサロンがいいわね。でもサロンに猫ちゃんは・・・」
急に黙り込むと、何かを考え始める。
「うん、そうこれならいいと思う!」
ナラはまた何か良からぬことを思いついたなと、遠い目で見守った。
「猫ちゃんのためのお店をやればいいわ」
「そんなの誰も来ないんじゃないですか?」
「来るわ。ねえ小人の童話で小さなベッドに眠る話を聞いたことあるでしょう?猫ちゃんが小さな専用のベッドに寝ていたら?ネコ好きなら可愛くて身悶えしちゃうと思わない?可愛らしい首輪はどう?可愛らしいご飯の器や水入れは?ねえ、ご主人だってネコ好きで自分の家具を猫に似合うように作っているほどなのだから、こういう人は貴族にだってたくさんいるわよ」
カーラは猫が大好きな貴族を何人か知っていた。そういう貴族たちは、猫好き同士子供を産ませ合ったりと派閥を超えて繋がっている。
そのうちの二、三人に売れれば、誰かしら自慢するだろうし、自慢された方は欲しくなるだろう。そうして拡がっていくに違いない。
「大丈夫!欲しがる人たちがいるから、任せて」
結局アルトスは猫と弟子を連れ、ヴァーミルの工房を畳んでカーラについていくことにした。
独り者で気楽な身、ヴァーミルのほうが金になり、仕事もしやすそうだと考えたのだが、何故かナラがうれしそうな顔をしていた。
こういうときストッパーになるのは年長のナラである。母というほどではないが、頭の上がらない姉のような存在だ。
「ご主人も、申し訳ございません」
「いえ、謝って頂くようなことは何も」
「左様でございますか、それならよろしいのですが」
「ナーラ。仕事の話なのだから迷惑であるはずがないわ」
「そんなことを仰って、シオンのことをお忘れですか?」
─そうだった!─
バツの悪い顔をしたが、工房主はシオンの名を聞いて反応した。
「シオンのことを知っているのですか?もしかしてシオンの後援になったコーテズの貴族って」
「それ!それわたくしですわ」
当てずっぽうが当たってアルトスはびっくりしている。
「シオンとお知り合いかしら?」
「はあ、職人ギルドでは今シオンの幸運の話でもちきりですよ」
「貴方もその幸運を掴めますわよ、私に猫足のかわいい家具を作ってくだされば。如何かしら」
「やりたいのはやまやまですが、以前より注文が少なくなって弟子ももう一人しかいないもので、量が作れないかと」
「そう、シルベスではもう行き渡っちゃったのかしらね。でもコーテズではこれからよ。なんならコーテズに移ってきてもいいわ。猫ちゃんと」
「いやでも、また工房を構えたりすることは」
「こちらで揃えて差し上げてよ」
「え」
シオンから聞いていた、恐ろしく気前のいい貴族の話。そんな幸運を掴むなんて自分には一生無理だと思っていたが。
「猫もいいんですか?」
「ええ。んー、工房と住居にして、店は私のサロンがいいわね。でもサロンに猫ちゃんは・・・」
急に黙り込むと、何かを考え始める。
「うん、そうこれならいいと思う!」
ナラはまた何か良からぬことを思いついたなと、遠い目で見守った。
「猫ちゃんのためのお店をやればいいわ」
「そんなの誰も来ないんじゃないですか?」
「来るわ。ねえ小人の童話で小さなベッドに眠る話を聞いたことあるでしょう?猫ちゃんが小さな専用のベッドに寝ていたら?ネコ好きなら可愛くて身悶えしちゃうと思わない?可愛らしい首輪はどう?可愛らしいご飯の器や水入れは?ねえ、ご主人だってネコ好きで自分の家具を猫に似合うように作っているほどなのだから、こういう人は貴族にだってたくさんいるわよ」
カーラは猫が大好きな貴族を何人か知っていた。そういう貴族たちは、猫好き同士子供を産ませ合ったりと派閥を超えて繋がっている。
そのうちの二、三人に売れれば、誰かしら自慢するだろうし、自慢された方は欲しくなるだろう。そうして拡がっていくに違いない。
「大丈夫!欲しがる人たちがいるから、任せて」
結局アルトスは猫と弟子を連れ、ヴァーミルの工房を畳んでカーラについていくことにした。
独り者で気楽な身、ヴァーミルのほうが金になり、仕事もしやすそうだと考えたのだが、何故かナラがうれしそうな顔をしていた。
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