【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます

やまぐちこはる

文字の大きさ
100 / 149
コーテズにて

第4話

しおりを挟む
 強引にケリンガンに支援を約束させたカーラは、翌日機嫌よく王都目指して旅立った。

 ケリンガンが敷き始めた石畳はローリスのメイン通りを覆い、まだ街中だけだが、埃をたてることなく馬車は先を行くことができるようになっていた。

「どれだけ早く仕事させているのかしら、ケリンガン様ってば鬼ね」

 カーラの呟きを聞いたら、ケリンガンはきっと、おまえの方が鬼だと言ったことだろう。
シルベスの職人たちは睡眠時間をけずり、カーラに頼まれた膨大な量のピンをせっせと作り続けているのだから。



 王都につくと、自分の店に帰る。
 まだ内装も外装も中途半端なので、建物をすっぽり覆う布がかけられていて、秘密の匂いが漂うそれを通りすがる人々が噂しながら歩いていた。

「いいわね、噂は大切よ。みんな気になって仕方がないって顔しているわ」

 裏口から中に入ると、グレージュとシアーピンクに塗られた可愛らしい室内はまだガランとしている。

 アルトスがカーラに手招きされてやってきた。

「ここにね、ほらこうして」

 怒涛のように頭に詰まっていたアイデアをアルトスに話し出すカーラ。
すぐに手帳を出し、メモを取り、質問しながらカーラが欲しいものをアルトスは感じ取っていく。

「全部作るのにどれくらいかかって?」
「え・・・三月くらいですか」
「ええ?三月?だめだめ、ひと月でやって頂戴」

 アルトスはその言葉の意味がわからなかった。

「ひ、ひと月ですか?」
「ええ。だって開店が遅れてしまうもの。中の準備ができたら、ヘアサロンで接客の練習と確認もしなきゃだし」
「しかし、私と弟子だけでは」
「家具職人を雇えばいいわ。ローリスを発つ前にギルドに書状を出して依頼してあるから、アルトスが面談して良さそうな人を雇って頂戴。そうね、今後の家具の生産も考えたらまず一人前の職人を三人くらいともうひとり見習いを雇えばいいのではなくて?」

 まるで工房主のように、一人前の職人ができる仕事量をほぼ正確に捉え、ディスプレイに使う分と商品分を生み出すのに必要な人員を割り出したカーラに、アルトスは舌を巻く。

「それとアルトス、あなたの工房と店なのだけど、裏通りにはなるけどここから近いところに一軒探しておいてもらった建物があるのよ。私もまだ見てないけど、今から一緒に行きましょう!」

(工房と、み・・せ?)

 アルトスが首をひねる間もなく、カーラはサッサと外に出てしまった。
 急いで後を追うと、護衛騎士たちが周りを囲み、ザクザクと足音を立てて歩かされる。

 護衛に囲まれるのも、平民のアルトスには人生初の出来事でまだ慣れない。
それを見透かしたのか、ルブが気安く声をかけてきた。

「なあ、アルトスさんでいいか?」
「はあ」
「カーラ様の言うことやることの意味を稽えたり、やりやすいように制御するのは無理だから、早く慣れたほうが楽だぞ。護衛されるのもな」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

イリス、今度はあなたの味方

さくたろう
恋愛
 20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。  今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 前世持ちのファビアは、ちょっと変わった子爵令嬢に育っていた。その彼女の望みは、一生ケーキを食べて暮らす事! その為に彼女は魔法学園に通う事にした。  継母の策略を蹴散らし、非常識な義妹に振り回されつつも、ケーキの為に頑張ります!

処理中です...