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3.きっと暑さのせい 〜少年サイド〜
「はぁっ……はぁっ……!」
息を切らし、前を行く彼女に手を引かれながら西陽の照り返す路面を走る。速さはそれ程じゃない。ついて行ける。ただ身体が重い。いつもより早く息が切れる。
胸が急に重くなったせいだ。揺れて振り回されてちょっと痛いし、重心が前に偏っていて、脚を一歩出す度つんのめって倒れてしまわないか不安になる。
うぅ……ど、どうしよう……!
湧き上がる懐かしい気持ちよりもまず先に、自分のミスを悔いた。なんて馬鹿な事をしたんだろうと。
本当に出来心だったんだ。誰にも相談出来ない、恥ずかしい事だったから。でも、誰かと共有せずにはいられなくて……だから、ちょっとメジャーどころから外れた掲示板で、自分のおかしな身体を晒した訳で。
自罰的な気持ちとは裏腹に、あの時感じていた異様な、湿った背徳と荒々しい欲求が蘇り背筋をぞくぞくと駆け上がった。が、前方の背中を見据え、頭を振って立ち直る。
でも、まさかよりにもよって隣の席の、この子に見られてただなんて。しかも、問い詰められて、目の前で、こんなっ……!
彼女にだけは知られたく無かったのに。真っ先に、最悪の形でバレてしまった。
抑えなきゃ抑えなきゃって思ってたのにっ……! あの動画見せられて、耳元で声聴いてっ……興奮するなんてっ……!
「はぁっ……はーーっ、しんどっ……ここまで来りゃもう大丈夫だろ」
ぐるぐるぐるぐる、誰に聞かせるでもない反省を脳内で巡らせていると間も無く、前を走る彼女がゆっくりと減速し立ち止まった。顔を上げると、いつの間にか僕の家はもう目の前で。側で息を切らす彼女は「ほら、ジャージ返せ……」と催促して来る。
「あっ、うん……ありがと……」
お礼を言って羽織っていたジャージを返す。
あっ、洗って返すって言った方が良かったかも……僕汗だくだし!
九月とはいえまだまだ暑い。夕方なのに三十度くらいはありそうだ。日に当たった肌がジリジリする。
彼女の方もそれは同じな様で、綺麗な白い肌に玉の様な汗を浮かべている。ここは一つ、何か気の利いた事を____
「はぁー……よし、じゃーなー……」
「えっ⁉︎」
思わず声を上げてしまった。何と彼女、ジャージを雑に鞄に放り込んだかと思えば、そそくさと立ち去ろうとしているではないか。
「まっ、まって!」
思い立つよりも先に身体が動いて、慌てて袖を掴んで引き留めた。すると、「……何?」と彼女。黒縁眼鏡の奥の冷たくてキリリとした目を不機嫌そうに細め見下ろして来る。
あっ、えっ、ぼく、何で引き留めたんだろっ⁉︎
何も考えて無かった。本当に。ただ、話がしたくて。しなきゃ、いけないと思って。
「……ぅち……上がって……? 話、しなきゃ、だから…………」
何だか、すごく変な感じの言葉になった。口に出してからその内容のおかしさに気付いて、恥ずかしさでカーッとなって顔が熱くなる。
うわぁっぼくの馬鹿っ! 相手女の子だぞっ⁉︎ 昔と違うんだぞ⁉︎ しかも本当に久し振りで気まずいのにっ……あああああばかばかばかっ!
心音が五月蝿い。相手の顔、見られない。
「……っ、わかった」
「……ぇっ」
少し間を置いて返ってきた答えは、意外にもオーケーだった。聞き間違いかと思ったけど、そうじゃないらしい。
「分かったって言ったんだよ。さっさと動いて。暑いから」
「う、うん……?」
予想だにしない事の連続で、僕の思考はそこで完全にショートした。
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