4 / 16
4.開花 〜幼馴染女子サイド〜
「お邪魔しまーす……」
数年ぶりに入る旧友の家だ。なんとなく気が引き締まって身構える。が、人の気配は無い。
「ご両親は?」
「ぅ、今日は、二人とも遅くまで帰って来れない日だから……」
玄関で靴を脱ぎ揃えた後、先を歩く彼について行く。廊下を通って、リビングへ。
「っ、ここ、座って……?」
指示されるまま食卓らしき長机の四角に揃えられた長椅子の一つに座ると、「ちょっとまってて」と彼。クーラーを付けた後、何やら台所の方へ。蒸し暑さの中シャツをパタパタと仰いで少し待つと、
「むぎちゃ、どうぞ……」
「……どーも」
冷えたお茶を振る舞われた。こくっ、こくっ、こくっ……飲み干して、ふはっ、と一息吐く。
____懐かしい。
内装が記憶と結構違う。けれど、変わらぬ間取りと嗅いだ事のある匂いが、ここを過去の景色と重ね合わせてくれる。
「…………っ」
しかし、目の前で気恥ずかしそうに沈黙するおっぱいの付いた彼はやはり異質だ。ただただ新鮮かつ異常で一切慣れないし、滅茶苦茶気まずい。
やべー……何で踏み込んじゃったんだろ。
一度はお宅訪問を考えていた私だが、実はついさっきまでは、なんかもう、知りたい事は知れたし今日のところは良くね? と。そう思っていた。
どうしてそうなったのかとか、そもそもどうなってるのとか、お前確か興奮したらそうなるとか言ってたけどさっきのでしちゃったのか、とか。気にならない訳ではない。ただその点を問い詰めるのは、先刻の困り様でちょっと萎えてしまっていた。
何より見せられた事態が事態だ。本物であるならば深刻で手に負えない。深入りすると面倒そうだし、それより何よりとっとと帰ってシャワーを浴びてクーラーの下ソファーに転がりたい、と。誠に勝手ながら思考は帰宅へと切り替わった為、踵を返しその場を去ろうとしていた。
が、引き留められ、上目遣いの彼に袖を引かれた瞬間、ある感情が胸の奥から膨れ上がり爆ぜた。
____んだこのあざとい生物は。
つまり自己解決すると、愛おしさに突き動かされたという事なんだとは思う。そうなるともう直前の及び腰は何処へやら。
別に元から聞こうとは思ってたし? 遠慮してただけだから? そっちが話したいって言うんだったら聞いてやるよぉ?
なんてウザいノリで、こうして席につくことになってしまった次第だ。
「…………」
しかし、話しなきゃと言った割に、彼は一向に口を開かない。麦茶で頭が冷えて再び後悔し始めた私は、こう切り出すしか無くなる。
「……あの、一応私はそっちから話があるって体でいるんだけど」
「あっ、ごめんっ……」
なんか自分が嫌な奴になったみたいで嫌なんだよなぁ。こっちもコミュ障なんだから勘弁して。
「……はぁ、で? 話って?」
「ぁっ……いや、えっと…………何から話したら、って感じだけど……その、日直の事、ごめん。気まずくて、休んじゃって」
あそっちから行くのかー。
「あっ、うん、それは別にいいよー、なんかもう吹っ飛んだ」
「そ、そっか…………」
互いにえへへと愛想笑いを繰り返す。そして、
「…………」
「…………」
沈黙。会話途絶。
____アカン、このままじゃ埒があかん。間がもたん。
「……それだけ? もう何も無いなら帰ってもー」
「っ! いやっ、ある! あるから待って……!」
「エーナーニー?」
此方が意地悪く急かすと、彼は一生懸命に言葉を選んで語り始める。
「ほんの一ヶ月前くらい……いや、正確にはもっと前から、なんだけど……っ、ごめんっ、恥ずかしくて言えないからぼかすっ、けど……」
「いやいい、デリケートな問題なのは分かってるから」
「うん、ごめん……っで、ね____」
とはいえ取り留めが無かったので要約すると、身体の違和感自体は今年初めからあって、はっきりとこうなったのは夏休みから。興奮すると胸が張る様になってしまって、現在急速に悪化中、と。まあ可能な限り暈されていた上、期間以外は概ね掲示板で見た通りの内容だった。
「ふーん……」
「一応だけど……これ、治し方とか」
「知ってる訳ないでしょ。まさか胸は急に膨らむモノじゃないって事、ご存じない?」
「ひっ、ごっ、ごめん」
む、なんか胸元に失礼な視線を感じた。そうだよちょっと羨ましいんだよこんちきしょう。
なんて戯れはさておき、ちょっと感嘆した。正直、旧知とはいえ疎遠だった相手に話すには少々厳しい内容だったから。
もしかして割と頼りにされているんだろうか。それとも単に不安で、打ち明ける相手が欲しかっただけか。何にせよ、よく喋ってくれたと思う。少し嬉しい。
…………ぞくっ。
と同時に、その無防備さを前にして私の中でよからぬ何かが芽生えた。
「へぇー、学校で全く喋らないのも、日直から逃げてたのもそのせいだった、ってこと?」
「いや、う、それは、その……」
ふむふむ。まあ第二次性徴巻き戻されたみたいなこんな可愛らしい声だとコンプレックスにもなるだろうしなぁ。納得だ。いやしかし、その割には。
「ふふ、私で興奮するとか物好きだよねー」
「っっ……ごめんなさいっっ……!」
____まずい、すっげー嗜虐心を唆られるんだが。
自分が凄くゲスで性悪な顔になっているのが分かる。シチュエーションに酔狂な何かを感じずにはいられず、愉悦してしまう。
「……んで、これってまだ誰にも?」
「っ……言ってない…………だから、あの……」
まあここまでフラフラとした経緯を辿ったが、これが本題か。
「誰にも言わないで欲しい、か?」
彼は徐にコク、と頷いた。
「……どーしよっかなぁー」
「っ⁉︎ えぇっ⁉︎」
おかしなヤツめ。何を考えているんだろうか。こんな事、誰かに話した所で信じて貰える訳が無かろうて。それこそ、私だって目の前で膨乳現場を目撃しなきゃ信じていないんだし。
「ぉ、おねがい! 頼むよっ!」
ただ、背徳的行為を行なっているという自覚があるから、こうも必死になってしまうんだろう。恥ずかしくて堪らないんだ、焦ってしまうのも無理はない。
しかし、そんな状況の彼だからこそ____愛おしい。
きっとこれは知ってはいけない感情だ。歪だ。歪んでいる。しかし、分かっていても、ぞくり、ぞくり。心の中で育っていく。
と、その時。
「ぼくにできる事ならっ、なんでもするからっ…………!」
渡りに船が来てしまった。
____その言葉を待ってた。
「言ったね?」
ポケットからスマホを取り出し、パシャリ。身を乗り出す彼の姿を撮影した。
「っ、っ?」
そしてたじろぐ相手に提案する。
「じゃあさ……観察させてよ。膨らむのは見たから、今度はどうやって、元に戻すのか」
「…………ぇっ」
紅潮していた頬が色を失った。
「………………」
彼は暫し唇を甘噛み沈黙する。クーラーが効き始めたのか、はたまたその場の空気感か。俄にひんやりとしてきた。
「…………ビデオとかじゃ、だめ?」
恐る恐る、重い口が開いた。此方が意図を汲んだ上で発言していると理解して、その上で食い下がる事を選んだ様だ。
ただ、その程度じゃ私の横暴は止まらない。寧ろ湧き上がる非日常への渇望と覚えたての嗜虐心は一層激しさを増して、私自身、止められない。
「ダメ、今この場で見たい」
飢えた獣の如く欲求を隠さず、獲物を逃すまいという意志を全面に押し出し、目を爛々とさせて前のめる。
「えっ、だって……それってっ、つまりっ……!」
「そうだよ。ここで、いつもやってるみたく、やって見せて」
はっきりと言い放った。ここで元に戻る条件を満たせ、スッキリしろ、オナニーしろと。
彼の表情が怯えと羞恥で染まっていく。
「いっ、いやだ! いやだ無理だよそんなの! 人の前で、ましてや君の前でそんなっ」
「なんでもするって言ったじゃんさっき。嘘だったの?」
「っ…………!」
撮った写真をちらつかせ言質で脅すと、遂に押し黙り、長い前髪の隙間から潤んだ瞳を弱々しく光らせた。
流石に罪悪感が胸の内をチクチクと刺して来る。脇の下や首筋を嫌な汗がじんわり伝って、慣れない事をする自分を苛む。
「大丈夫だよ、今のあんたどう見ても女の子だし。恥ずかしがらなくていい」
しかし、もう後には引けない。軽薄な言葉で相手と自分を騙そうとする。
…………流石にやり過ぎか? いやでも、今私だけが知ってるんだぞ? 私だけがこの事態を、好きに出来るんだぞ? でもそもそもこんな条件呑むか? でも見たい。さっきのを、もっと____
「ごめっ……ゆるして……」
気圧され椅子からずり落ちそうになりながら震える彼。それを見た瞬間、頭の中でカッと熱いモノが爆ぜた。
「出来ないか。まあそうだよね、人が見てる中でやるとかそりゃね」
「っ……!」
理解を示す様な言葉を口にして席を立つと、期待と不安がない混ぜになった眼差しを向けられる。そこへ警戒心を与えない様徐に歩み寄って、告げた。
「出来ないなら手伝うよ。私が」
「ぇっ……っ⁉︎」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。