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8.久しぶり 〜幼馴染女子サイド〜
彼女は私だと分かるなり、ドアホン越しに訊いて来る。
「ほんと久しぶりねぇ、今日はどうしたの?」
「あっ、あの……学校のプリント、届けに……」
ああっ、咄嗟に嘘吐いちゃった。しかもプリントとか、その場で手渡すだけで良いじゃん。ヤバい……!
焦燥と罪悪感が胸を刺す。最中、「あらそう、ちょっと待って」と彼女。暫し間を空けた後、
「有難うねぇ。って、汗だくじゃない! 急いで来たの? ささ、暑いでしょ。どうぞ入って」
そうあっけらかんと快諾してドアを開けた。まさか普通に招かれるとは思わなかった私は「えっあっ、はい……」と返して、家に上がる事に。
「見ないうちにおっきくなったわねー、もう私より全然おっきぃ……一瞬分からなかったわー。スリッパ出しとくね」
「はは……」
声だけで気付いてくれたじゃん。小さい頃とだいぶ変わってる筈なのに……ってか、お母さん変わらなさ過ぎ! というか、うそ、改めてみるとアイツそっくり……。
心中でコロコロ移ろうリアクションを誤魔化す様に愛想笑いしつつ、未だに整わない息をぜーぜー切らし、気まずさに身を縮こませながら玄関で靴を脱ぐ。出されたスリッパに履き替えたところで「はーー……あの、僕君は?」と尋ねると、彼女はあははとはにかんで話す。
「ごめんねーあの子シャイで……呼んでも来ないのよ。学校でもああなの?」
「っ、まあ、そうですね……」
「やっぱりー? というか私ちゃん、プリント届けに来てくれたって事は……まさか同じクラス?」
「ええ……久しぶりに……」
「そうなのねー……まったく、僕ったら学校の事全然話してくれないから分からないのよねー。相変わらず友達とも全然遊ぶ様子無いし……」
久しぶりなのに、いや、久しぶりだからか、募る話がある様だ。
「私ちゃんはどう? 学校。上手くやれてる?」
「ぼちぼちですかね」
「あはは、私ちゃんはしっかりしてそうだし、大丈夫よね、そりゃ……」
「別にそんな事無いですよ」
「またまたー……見てれば分かるわ。堂々としてるもの。あの子と違って」
というか、何だろうこれは。探りを入れて、聞きたいのかな。学校でのアイツの様子を。
「僕君はまあ、確かに、大人しいです、けど……」
「そうなのよ。担任の先生からもそんな評判ばっかりで、なんだかねー……」
彼女は少し愚痴っぽくそう言って眉尻を下げた。小柄で柔和なシルエットやしょげた顔が実に彼そっくりで、何とも言えない気分になる。
「っ、ごめんなさいね、こんな話しちゃって。何だかんだ、あの子の友達だったって知ってるの、あなただけで……」
此方の複雑な心境を見透かされたのか謝られた。別に不快に思った訳じゃないですよ、と断っておく。
しかし、思ったより深刻そうだ。私が唯一の情報源とは。お母さんこんな心配させんなよ馬鹿野郎。私が言えた話じゃ無いけどさ。
「なんか、すみません……」
「あっ、違うの謝らないで。分かってるわ、私ちゃん女の子だもの。中々難しいよね……」
うわ、ヤバい、やめて辛い。純粋に辛い。語彙を失う程に良心が痛む____って、そんな場合じゃない。お母さんにも言えない様な危うい事情が進行中なのだ。
「取り敢えず、あいっ……僕君と、話さなきゃいけない事があるんです。会いに行っても良いですか?」
言い方がおかしくなってないか、おっかなびっくりそう告げた。すると、彼女。ぱぁっと表情を明るくして「良いに決まってるわよ!」と返事する。
「あの子最近ずっと元気無くてねぇ、元気付けてくれたら嬉しいわ」
「あ、あはは……」
「多分部屋にいるから……場所分かる?」
「一応覚えてます、大丈夫です」
何はともあれお許しを得たので、まだ話し足りなさそうな彼女を尻目に私は彼の部屋へ向かい歩みを進める。昔懐かし、二階に上がる為の階段は恐らくあまり変わっていない。昔は大股で苦労して登っていたであろう段差を一歩一歩、急ぎつつも何となく小股で、恐る恐る足音を殺して上がっていく。
アイツの部屋は……多分、変わってないよな。
登り切ってすぐ、前方突き当たりにあるドアには、これもまた記憶の中の物と同じ、ローマ字で綴られた彼の名前が書かれた掛け札がぶら下がっていた。
私はドアにそっと近付き、聞き耳を立てつつ戸締りをチェックする。
思ったより静か…………鍵は……あれ? 掛かってない⁉︎
てっきり如何わしい事をしているならば施錠しているものと思っていた。呆気に取られるも、一つ息を呑み、そのまま静かにドアを開け中を覗き込む。
____あれ、いない……?
直後、後方で「うわぁっ⁉︎」と甲高くひっくり返った悲鳴が上がり、ドンッと廊下に転げた音と振動が響く。振り向けば案の定、そこにはパジャマ姿で尻餅を付いた彼の姿が。
「なっ、ななな、何でいるの⁉︎」
成る程道理で。丁度トイレに居たらしい。とは言え中で何をしていたのか、様子を見れば察するに余りある。
……赤ら顔に荒い息。ダボついた胸元をよく見ると汗でぐっしょりと濡れているけど、そこに膨らみは存在せずぺたんと潰れている。
「っ、いや、そう、だよね……理由なんて、一つしかない、よね……」
すっきり、出来たんだろうか。しかしこれまたなんとまあ、よくもこれだけ平静を装ったセリフが情けなく震えるものだ。
「…………ふっ」
自重するべきなのは分かっている。しかし、理解していても、自分の口角は心なしか引き上がってしまっている気がした。
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