清算のメリークリスマス 〜TSっ娘と親友と男の娘、三角関係が招く結末〜

あかん子をセッ法

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メリクリ

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 十二月二十四日、寒波押し寄せ真冬の寒さの夜。世間はクリスマスで賑わう中、それとはかけ離れた暗く冷たい寂れた廃工場の一空間にて。背後の一斗缶の中で燃える焚き火の明かりが揺れる中、何やら仰々しい仕掛けの付いた椅子に縛られ口を封じられた、季節外れの夏の学制服姿の少女が一人、くぐもった叫び声を発してもがき始める。

 「…………んんんん⁉︎ んんんんんん!」

 対しその正面、影の中から足音と共に現れた、パーカーのフードを目深に被った一つの華奢な人影は、男とも女とも取れる中性的で深く甘い声音で言った。

 「気付いた? メリークリスマス、アキラ」
 「んんんんん!」
 「ああ、口枷は取ってあげた方がいいか」

 人影はもがく少女へ歩み寄り、口を塞いでいた猿履を首元に下げる。

 「っはぁっ! カオル! おいっ! 何なんだよこれは⁉︎ っ、シンヤ! シンヤアアア! いないのかっ⁉︎」

 少女は男勝りな荒々しい口調と発声で叫んだ。が、その声は暫し虚しく木霊するだけで、望ましい返事は返らない。代わりにくつくつとした笑い声ばかりが聞こえて来る。

 「くっ……! なあカオル、そこにいるんだろ……? 縄解いてくれよ……寒くておしっことかヤバいんだよ……なあおいってば……!」

 寒さと恐怖に震える声音が不安そうに沈んだ所で、フードの人影は苛立ちを露わに少女の頬を張り、渇いた打音が響いた。そしてその音が静まっていく中、震える声で告げる。

 「相変わらずほんと馬鹿だね。馬鹿で鈍くてガサツで図々しくて……ほんと、君って女の子になってから悪い所ばっかりが目立って嫌」
 「え……?」

 ビンタで目隠しがズレて、その隙間から彼女は目撃する。よくよく見知った、親しい筈の友人の、美少女と見紛う程に整った容姿が憎悪に歪んでいる様を。

 「なん、で…………?」
 「なんで? …………ははっ、ほんと、何でだろうね? 自分で考えてみなよ」



 動揺の最中、彼女、アキラは回想する。

 数年前、地元の中学に入学したばかりの頃。彼女は取り立てて容姿や体格に目立つ所は無かったものの、誰に対しても優しく朗らかで、元気と明るさが取り柄の男児であった。

 しかしそれから間も無く病魔に倒れ、医師に告げられる。

 「お気の毒ですが、急性性転換症候群です」

 数千万人に一人の難病であった。治療法は存在せず、出来る事といえば全身の激痛と発熱を和らげる事だけ。一年間、骨格含めた肉体の変化に耐える日々が続いた。

 「っ、くっ、ううぅっ…………」

 その苦しみは分かち合い難く。何故自分だけがこんなに苦しい思いをしなければならないのだろうと、何事も無く健やかに過ごす同年代の子供達を羨み、恨めしく思い、幾度と無く病床を涙で濡らした。

 しかし、幸いにも彼は一人では無かった。幼少の頃より常に近所付き合いで共にあった、二人の男友達が存在していたのだ。

 「よ、アキラ。今日は一緒に遊べるのか?」

 一人はシンヤ。少し大柄な体格に見合った堂々とした風体であり、誰からも好まれる、気のいいクラスの人気者。アキラとは共に良い影響を与え合う関係性であった。

 「ごめんアキラ、今日もちょっと、痛くて……」
 「そっか……」

 身体を動かす事が好きで以前までは共に元気に駆け回っていた彼だからこそ、動けない親友の辛さに誰より共感出来たのだろう。彼は雨の日も晴れの日も必ずサッカーボールを掲げては、幼少の頃と何ら変わりないそのやんちゃな笑顔を輝かせアキラを遊びに誘った。

 「いやだから何でサッカーなのさ。普通にゲームで遊べばいいでしょ? それなら一緒に遊べるじゃん」

 そしてそんな彼と共に居て毎度折衷案を挙げる、彼より頭一つ以上小さくてどちらかと言うと可愛らしさの目立つクールな少年。それが二人目のカオルであった。

 「いや、だって……出来るならそっちの方が楽しいだろ?」
 「君はそうだろうけど、動けない僕ら二人はゲームの方がいいのよ。ね、アキラ」
 「ま、まあ、そうだけど……」

 おおらかなシンヤととにかく明るいアキラの二人とは対照的。内向的かつ真面目で、ツンツンしていて、クラスでは決して素の顔を見せないのがカオルの人間性である。が、こと二人の前では柔らかな口調で、愉快に会話を弾ませた。

 「むぅ、しゃーない。だったらイ○イレやろうぜ!」
 「結局サッカーじゃん! どんだけサッカー馬鹿なの⁉︎」
 「おっ、よく分かってんねぇ」
 「はぁもう……ねぇ聞いてよアキラ、こいつまた病院のエントランスでリフティングして怒られてたんだよ?」
 「別に人もあんま居ないし、あれだけ広いんだからいいと思うんだけどなぁ」
 「良くないっての!」

 カオルとシンヤのやり取りは賑やかで小気味良く、一人で寂しい時間の多かったアキラにとってはその会話の輪の中に居るだけで大きな救いとなった。

 「もー早く元気になってよアキラ、じゃないとこいつが病院のどっか壊しちゃう」
 「そうだぞ、早くしろ」
 「ははは、どんな脅しだよ……!」



 尚、それは入院期間中だけでは終わらない。性転換症。その特性上、災難は体調が安定してからも降り掛かり続ける物だが、二人の親友の存在が悉く彼を守った。

 「あっ、アキラちゃんみっけ!」
 「よっしゃちんちんチェックだ!」
 「っ! っ、やめろっ!」

 肉体が完全に女性となってからも中学の内は男子として学校に通う事を望んだアキラに待ち受けていたのは、周囲からの好奇の目と心無い行為であった。これは中学の二年時、昼休みの時間中、人気の無いトイレを探していた時の事。

 「うおっ、マジで無い! しかもなんか柔っこ……!」
 「ほんとほんと? オレにも触らせて!」
 「へーマジだったんだ性転換症って」

 同クラスに居たガラの悪い男子五人組の標的にされたアキラは、その身体を興味半分に弄られていた。

 「やめろマジっ……キモいんだよっ! ホ○野郎共がっ!」
 「気持ちいい? 今気持ちいいって言ったよね?」
 「ホ○って、お前今女の子じゃん」
 「女の子なのに男子の制服着て来るお前の方がおかしくね?」

 へらへらへらへら、下卑た笑顔を向けて笑う五人。それを一切振り払えず、非力さを実感したアキラの頬を涙が伝ったその時。

 「あはは泣いてらばっ⁉︎」

 その場に駆け付けたシンヤの拳が、一人の男子の頬にクリーンヒット。

 「げっ、シンヤっ」
 「何でここっ、お゛っ」

 続けて一人、また一人と一撃の下に彼らを沈めていくシンヤ。全てはあっという間の出来事で、「えっ、なんで、シンヤっ」とアキラがその名を呼んだ時にはもう、五人はトイレの床に倒れ伏していた。

 無言のシンヤは更に気絶しているリーダー格の男の胸倉を掴んで拳を振り上げる。が、そこへ「おい馬鹿! 出て行くのが早過ぎだしやり過ぎだ!」とカオル。スマホ片手に飛び出して、彼とリーダー格の男の間に割って入った。

 「わりぃ我慢出来なかった」

 パッと手を離す彼はそう言った後、ハッとした様にアキラに向き直る。

 「っ、アキラ! 大丈夫だった⁉︎ 何もされてない?」
 「っ……されて、ないっ……」
 「そっか良かったぁ……ってこれどうしよう」
 「はぁ……まあこうなる気はしてたさ。事後処理は僕に任せて」

 この件は暴力沙汰として問題になったものの、カオルの集めていた五人の悪事の証拠提出により殆ど彼らの責任で処理された。しかしその一件以来、学校側には男子としての登校に難色を示され、アキラ自身も登校が難しくなり学校に行けない日が増える様に。

 「アキラ、今日も学校来ないのか……?」
 「うん……ごめん……」

 肉体は日々男子との体力、体格のギャップと女性らしさが増していく。意識せずにはいられず、生来の明るさはすっかり失せ、自室に閉じ籠りがちになっていた。
 だがそんな時も、二人はアキラに寄り添った。

 「何でアキラが謝るのさ? あの頭の硬い学校が悪いんだよ。これ世間に公表すりゃ大炎上だよ?」
 「いや、そんな事したらみんなに迷惑だよ……」
 「まず迷惑してるのアキラじゃん。別にいいのに」

 俯くアキラに、優しく微笑み続けた。

 「かなり昔だから覚えてないかもだけど……アキラだってさ、僕がいじめられてた時助けてくれたじゃん? まて、カイジンども! ってさ。」
 「それは……きっとシンヤが一緒に居たから……」
 「? アキラが助けようってまず言って無かったらオレは動けてなかったぞ多分。ライダーごっこのノリとか思い付かなかったし」
 「そんな、こと…………」
 「……んああぁ、もう! だからさ、遠慮なんかしなくて良いんだよ! 助けて欲しい時は助けてって言えよ!」
 「そうだぞ」

 伝えられたカオルの言葉が、迷いの無いシンヤの瞳が、その心を救った。

 「……ありがとう。俺、また頑張るよ」
 「なっ、何だよそれ!」
 「学校、また通えるのか?」
 「うーん……お前ら、俺が女子の格好とかしてても笑わない?」
 「笑いはしない。複雑な気分にはなるけど」
 「同じく」
 「はは、率直な意見が言えるお前ら大好き」

 結果として残りの一年間は保健室登校になったものの、学校側の配慮と当人の努力によってしっかりとした成績が付き、彼は二人と話し合って決めた都立高校への進学が出来たのだ。

 「…………なんだよ」

 恥ずかしそうに頬を染めながらもスカートを履いた、制服姿の女子生徒として。



 「……いや、分かんねえ、分かんねえよカオル」

 現在に立ち戻り、アキラは答えを出した。分からない、と。目一杯カオルとの思い出を振り返った上で、そう答えざるを得なかった。

 「ほんと? 本当に真面目に考えた?」
 「ああ本当だ!」

 アキラはサッカー部のマネージャーで、シンヤは部の主力選手。対しカオルのみ生徒会活動と、高校に入ってからは同じ活動で顔を合わせる時間の多い二人に比べて一人だけ会う機会が減り、寂しい思いをしているという懸念は当然あった。しかしそんな事は既に幾度と無く話し合っていて、問題無いとカオル側から何度も言われている。

 「高校上がってから付き合いは減ったけど、会う時はいつも元気そうに笑ってたじゃんか……この間だって、一緒にカラオケ行ったばっかで」

 現在、三人は高校三年生。人生の帰路にあって最も悩み深き時期であり、受験に加え、サッカー部は最後の大会が控えている。その上悲惨な中学時代を乗り越えたアキラだ。高校の三年間は多難多忙ではあったものの順風満帆であったが故、硬い絆を信じ切り、重大な見落としをしてしまっていた。

 「本当なら、正解するまで罰ゲームだなぁ」

 カチリ。カオルの手が突っ込まれたポケットの中からスイッチの押された様な音がした。それと同時に、アキラの股座からバイヴの振動音が響き出す。

 「うぉっ⁉︎ おまっ、ちょっ、えぇっ⁉︎」

 股下がスースーする様な違和感はあったものの、まさかこんな事になろうとは。突然直に来た秘部への冷たくてこそばゆい感触にアキラは困惑の色が隠せず、半ばパニック気味に叫ぶ。

 「うそだろ⁉︎ カオルっ、お前にこんな変態趣味がっ⁉︎」
 「そんな事言ってられるのも今のうちだよ」

 最初言葉の意味が分からなかったものの、暫くすると気付いてカオルを睨んだ。

 「…………っ! おいよせよ、こんな、悪ふざけっ……!」

 対し「あは、そんな顔しちゃうんだ」とカオル。心胆寒からしめる笑みを浮かべ言う。

 「悪ふざけじゃないよ、本気。さ、早く正解を考えて」
 「はぁっ、まっ、マジで、だめだってばっ! そ、そうだっ、シンヤ! シンヤは⁉︎ 俺達皆同じ場所で待ち合わせてた筈だろ⁉︎」
 「チクタクチクタク……ヒントは無いよー」

 考える余裕など無かった。端から答えさせる気など無いと言わんばかりに振動する秘部への圧迫は僅かな時間で刻々と、容赦なく強まっていき、そして。

 「まて、まてまてまてまて頼むやめてくれっ」

 めり、めりめりめりめり…………!

 「はい、時間切れ」

 ぶちっ! 宣告と共に裂けた感触がして、アキラは激痛に悶えた。

 「い゛っ、っ~~~~~~!」

 明らかにサイズの大きな張り型を突っ込まれた割れ目からポタポタと赤い液体が滴り、穴空き椅子の直下に落ちてシミを作っていく。

 「あーあ。はじめて、無くなっちゃったね」
 「あ゛あああぁっ…………ぐっ、ううううううぅっ…………!」

 悶絶。振動によって暴れ増幅される痛みと圧迫感に耐えかね、涙と嗚咽が溢れて止まらない。が、そこへ「まだ取っておいてあったんだね。シンヤのため?」とカオルの挑発的な言葉が飛ぶと、途端に「っ、ふざけっ……!」と歯を食いしばり、顔を上げて睨んだ。

 「あーはいはい、分かり易くて結構。ほんと、幻滅だよ」
 「くっ、っ……?」

 その時、目眩がする程の絶望的状況下で、文脈と性的な復讐行為からもしかして、とアキラの頭の中である考えが過ぎる。それは少し昔のカオルの人物像がしっかりインプット出来ていたならば有り得ない答えだったが、唯一救いのあるその可能性に縋る他無く、焦った当人は違うと分かっていてもそれを口にせずにはいられなかった。

 「カオル、カオルは、もしかして、女になった俺の事、好き……」
 「は?」

 言葉は心底冷淡な態度によって一蹴された。

 「ちょっと……まさかそんなおめでたい頭してるとは思わなかったよ……ちょっとクラクラしてきたわ」

 手元のボタンが力強く何度も押され、その度に振動はより激しくなり、更にはピストンムーブが追加される。苦痛は増し、「う゛っ……んんん゛っ…………!」とアキラは悶え苦しむ事しか出来なくなっていく。

 「こんな玩具で処女失ってアンアン喘いでるビッチを好きになる奴なんている訳ないだろが」
 「あ゛んっ、ぐっ、ちがっ、いだっ、いあ゛ぁっ!」

 後ろに温熱があるとは言え、氷点下に近い寒さの中行われるそれは拷問でしか無い。

 「違う? なら声我慢してみてよ」
 「い゛っ、っ、っ…………!」

 内臓が叩き上げられ、揺らされる。激痛の中声を漏らさず押し留める事は極めて困難だったが、アキラは必死に我慢しようとした。結果、わざとではないが小動物的顔貌が愛らしく歪み、受け手にはあざとく映ってしまう。

 (うわぁムカつくなぁああ。はぁ、もうダメだ、我慢出来ない)
 
 ここまでする予定は無かった。しかし、一挙手一投足に神経を逆撫でされ頭に血の昇ったカオルは、もう止まれなかった。ズボンの方のポケットから小さな注射器を取り出し、ぷすり。アキラの首筋に薬液を注射した。

 「っ……⁉︎」

 すぐさま効果は現れる。ぞわぞわぞわっ。悪寒の様な、それでいて熱い痺れの様な震えが走り、ぐにゃりと認識が歪んで平衡感覚が失われると共に頭に流れ込む痛みが徐々に薄れていく。

 「っ……う゛っ、あ゛あぁっ、あ゛あああぁっ!」

 痺れが末端まで行き渡った瞬間、痛んでいた箇所が急激に火の出る様な掻痒に襲われる様になり、突かれたり振動を受けたりするだけで身体が跳ねて堪らず声を漏らし、同時に股が弛緩して失禁までしてしまった。

 「っ、うわっ、これ、マジのやつ……?」

 想像以上の効き目に、注射した当人も驚き我に返る。やり過ぎたと自覚し、慌てて手元のボタンを操作して止めようとする。

 「えっと、えっと……ダメだ、分からない」

 ピストンムーブは止められたが、振動は止められなかった。仕方なく高さだけを調整し、刺激を中断する。

 「はーーっ……ふっ、ぅ……っ、ふーー……」
 「あっ、アキラ、生きてる? 死んでない?」
 「っーー……なんてこと……すんだ、ったく……」
 (良かった。ムカつくけど今死なれたら流石に困る)

 落ち着きを取り戻すと共にパーカーのポケットからスマホを取り出して時間を確認し、失敗を自覚。興が削がれたカオルは「言いたく無いけど、もう面倒だから教えるよ」とそう口にして、自身にとっての本当の過去を語り始める。



 曰く、最初の出逢いは決して悪く無かったという。否、最初とは言わず、途中まで。

 「うわっ、カオルくんまたひとりでおままごとしてる!」
 「カオルちゃんじゃん!」
 「おんなおとこ! おんなおとこだ! あはははは」

 男の子と趣味が合わなかったカオルは一人遊びが多く、格好の揶揄いの的。ちょっかいは絶えなかった。しかしある時。

 「まて! そこまでだサベツカイジンども!」

 まるでお伽話の英雄達の如く、ピンチに颯爽と現れた二人の少年。アキラとシンヤ。二人はまさにカオルの中では王子様であった。

 「ふっふっふ、もうダイジョウブだ。しょうりいわいにおちゃでもいただこうかな?」
 「え……?」
 「むちゃをいうなアキラーかめん、えっと、キミ、なまえは?」
 「カオ、ル……」

 ユーモアもあり、咄嗟にままごとに合わせる事も出来た。初めて現れた、対等に接してくれる数少ない相手である。生来の気質とも相まって、カオルは深く深く二人に傾倒した。

 「まって二人共! はやいよー!」

 駆け回る王子様達。それを追い掛ける姫である自分。時にはその世界観に没頭し、時にはそれを超える彼らのショーに魅せられた。独特過ぎる自覚はあり、彼らにすらはっきりとは明かせはしなかったものの、彼らなら気付いてくれていて、その上で愛してくれる様な、そんな淡い期待に酔っていた。

 そこに他者の割り込む余地は無く、いつまでもいつまでも、その世界は続くかに思われた。
 しかし、ある時。完璧な世界に異変は起こった。

 「アキラが、病気……? 女の子になる……え?」

 初め訳が分からず頭が真っ白になった。何故自分じゃなく王子様が女の子になるのだろう。どうして神様。どうして。
 カオルの中の本当のカオル。強いヒロイン願望を持った彼女は世界を呪ったが、同時に祈った。これが何かの呪いであり、愛によって解ける事を。あり得ないと分かっていたのに。

 「男子制服のまま通うって……本当に大丈夫?」
 「ああ、だって俺、こうなっても男だし……」

 病後初めて登校する事になった日のやり取りの時点で予感はあった。言葉とは裏腹に、彼が女に、それも自分がなりたかった様なヒロインになっていくのではと。女性的な仕草や雰囲気。垣間見える物は既にあった。

 疑いは日に日に深まり、不良に絡まれていた所を救った時、予感は確信へと変わった。

 「アキラ、ほんとに大丈夫?」
 「……ぐすっ、ごめん」

 心配そうに肩を抱くシンジの眼差し、しおらしく涙に震え、それを享受するアキラ。証拠が入ったスマホを握り締めるカオルの手は、爪が食い込んで血が滲んでいた。

 「あはは、カオルに身長抜かれちゃったし……男名乗るのはキツいのかなもう……」
 「気にするな。アキラはアキラだ」

 魔性に堕ちた王子が、唯一の王子となったシンジの寵愛を攫う最悪の存在へと変わっていく。最初の内はそれでも健気にロマンチックな展開があると期待していたが、当然そんな事は無く、それすらも段々と冷めていき、次第に苛立ちが先行する様になった。



 「っ、まさか、そんな……なんで…………」

 動揺しつつも、心の何処かでそんな気がしていたアキラは納得するしか無かった。そして自分がその事実から必死に目を逸らしていた事に気付き懺悔の念に駆られるも、手遅れを悟っているが故に言い訳がましい言葉ばかりが苦悶の吐息と共に口を突いて出る。

 「っどうしてっ、そんな大事な事……」
 「はっ、友達であっても言える訳ないでしょ! そんな事大っぴらにさ!」

 乱暴なバイヴレーションと体液の滴る音が止まぬ中、ひた隠しにしてきた醜い本性を初めて打ち明けたカオルは激情のまま涙ながらに続ける。

 「本当はさ、この気持ちを抱えたまま消えようとも思ったんだ。変わってしまっても、憎くても、君は君で大切な友達だから」
 「かっ……!」
 「でもダメだった! 君のせいだよ、いつまで経っても中途半端な君の! 何なんだよほんと! シンヤの事好きな癖に! 完全に女の子な癖に“自分は本当は男だから”とか言ってずーっと一歩引いちゃってさ!」

 苛立ちながらも友情と愛憎の間で葛藤し、抑えていた。酔狂な性を持ち合わせているとはいえ、人並みの人情は持ち合わせているのだ。だからこそ成り行きに気付いてからは恨めしく思う一方、彼らの幸せを願い、諦め、譲るつもりでいた。
 にも関わらず、高校に上がって三年目のとある夏の日の朝の通学中。日常的に二人の後をつけていたカオルは、聞いてしまった。

 「なあ、アキラって好きな人とかいるの?」
 「ん? ……あはは、そうだなー。居なくはないけど、俺男なのにこんなだからなぁ」
 「こんなって……」
 「ははっ。ほんと、ありがとな。親友で居てくれて。これからも宜しく」

 女子の制服に身を包み、シンジの気を引いて起きながら、あろう事か自分はまだ男で彼の親友だとそう宣ったのだ。

 高校三年間。その期間でこの苦しみにも決着は付くと、そう思っていたカオルの心は、そこで限界に達した。

 フードを外し、メッシュの入ったツインテールのウィッグと耳元のピアスを見せ付ける。

 「僕はこんなにも女の子になりたいのに……! 女の子になってシンヤと……シンヤと一緒になりたいのに!」

 そして何と言っていいか分からず目を見開き、言葉に詰まり続けるアキラの胸倉を掴み哀哭する。

 「変わってよ……僕と変わってよ女の子!」

 言葉が部屋の中で木霊する中、冷たい風が吹き抜ける音がした。痛みと寒さを堪えながら、友人の本心を聞き届けたアキラはやるせなさを前面に出し言う。

 「……そっか……っ、ぐっ、ごめん、な……気付いて、やれなくてっ…………」
 「っ……ふっ」

 何で謝るんだろう。変わって欲しいだけなのに。訳が分からない。

 「謝んなくていいよ。もうどうにもならない事は分かってるからさ」

 素直に謝られても、もう仕方が無かった。関係はとうに破綻し、カオルは悪に身を窶してしまっているのだから。

 ガチャン。タイミングを計ったかの如く硬いドアが軋みながら開く音がして、輩の下衆な笑い声と足音がゾロゾロと入って来る。
 
 「っ、何……?」
 「ああ、どうやらここまでみたいだね」

 思う事は幾つもあったが非情に徹し、カオルは告げる。

 「君を悪い人達の所に売る事にしたんだ。そうなればもう、中途半端な気持ちも捨てられるだろうしさ。いいよね?」
 「っ、カオ、ル…………」

 輩の内の一人、ガラの悪い男の声が「おうカオルちゃん、このコが例のコかい? 何やらもうお楽しみみたいだが」と荒々しく息巻く。

 「うん、そうだよ」
 「なんだ中々上玉じゃねえか、いいねぇ」
 「うん、好き勝手にしていいからね」

 そんなまさか、あの真面目で優等生なカオルが、こんな輩と……。

 彼らが言葉を交わす様を唖然と眺めたアキラは、自身の想像よりも事はずっと深刻であると悟り、その表情を徐々に恐怖で強張らせながらしめやかに失禁した。

 「ぷっ、すげえ漏らしてんじゃねーか!」「メスくさっ」「あっはははは!」「いいねぇかわいいねぇ!」

 輩達が俄に色めき立ち、周囲を囲っていく。カオルは今一度フードを被り直すと、アキラに向き直り言った。

 「じゃ、バイバイ、アキラ。もう会う事も無いかもだけど、元気でね」

 ゆるりと手を振ってその場から去っていく。そのまま影の中に消えていくかに思われたが、しかし。途中で壁にぶつかったかの如く跳ね返され尻餅をついた。

 「っ……誰だ?」
 「ふひひひひ、すいやせんねぇ……」

 立ち上がりその横を通り過ぎようとするも、次から次へと男達に取り囲まれ阻まれる。「邪魔だっ、くっ……おい! 話が違うぞ⁉︎」と取り乱すカオルへ、先程まで直接話していた声が言う。

 「話が違うのはこっちもなんだよなぁ。売るモノ売る前にここまで傷付けちゃあダメでしょう?」
 「カオルちゃん、人を呪えば穴二つってぇ言葉、知ってるかい?」
 「っふざけっ……やめろっ、っぐっ! ああああっ!」

 あっという間にアキラからその姿は見えなくなって、悲鳴だけが聞こえて来る様になった。続けて間も無く、同じ運命が迫る。絶体絶命の瞬間、瞼の裏に浮かぶのは、親友でありながらにして思い人となってしまった彼の顔。

 シンヤ……シンヤ、助けて……!



 「…………ん?」

 寮の自室にて。一人目を覚ましたシンヤは、ぼんやりとした頭を傾げる。

 (あれ、オレ、なんで寝てたんだ……? 二人は? もう帰ったのか……?)

 カーテンの隙間からは煌々と日光が差し込んでいる。最後の記憶は、泊まりでのクリスマスパーティー。ケーキを囲って盛り上がる、友人達の姿。

 「アキラ……? カオル……?」

 ベランダの入り口が少し開いていて、冷たい風が入ってきている事に気付く。流れる空気は澱んでいて、栗の花の様な臭いがする。無性に胸騒ぎのした彼は、おぼつかない足取りで歩みを進め徐に戸を開いた。どうやら下に何か赤いリボンの様な物が挟まっていた様だ。視線を下ろし、リボンを辿る。すると、すぐに辿り着いた。

 「…………っ!」

 乱雑な結び目のリボンで簀巻きにされた二人の姿に。

 ────メリークリスマス。

 二人の間に挟み込まれたメッセージカードが、冷たい風に静かに揺られていた。


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