魔法世界の綺沙羅

みちづきシモン

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綺沙羅続き(仮)

29。魂の修行

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 そう言われ愛羅は、頭をかきながら綺沙羅と炎羅を抱きしめた。
「よく頑張って生きてくれたわ。ここに今きざみお父さんはいないけど、きっと喜んでる」
「お母さん……!」
「今からもっと大変だと思うけど、絶対負けないで!心を強く持ってればどんな試練も乗り越えられるわ」
「おばあちゃんも初めまして!」
「ふふふ、私のことはいいのよ」
「母さんも照れてるじゃない!」
「どうせなら生きて会いたかったわ。でもこうして会えて嬉しいわ。きっと試練を乗り越えてね。大丈夫、私達がついてるわ」
 コホンと巫羅が咳払いした。
「再会はその辺にしてください。今から試練を行います。私以外誰も体験した事のない試練と言っても過言ではないでしょう。覚悟してください」
「巫羅様は乗り越えたということですか?」
 綺沙羅が興味津々に尋ねる。
「正確に言うと乗り越えたというより、作ったと言った方が良いでしょう。あなた達二人に与える試練は、最大級の魔法を扱えるようになること。と言っても魔法世界で扱えても現世で扱えるかどうかはわからないのですが。それでも魔法世界で魂が扱えるとなれば、オーブも使いこなすことが出来るでしょう」
 巫羅が説明をする。
「要は魔法のコントロールの修行ね?」
「近いですね。まぁやればわかるでしょう。ついてきなさい」
 炎羅の問いに違うと答えた巫羅は魔法世界を移動し始めた。歴代の王族もついて行く。
「引っ張られてきたけど、どうやって移動するんだろう」
「行こうとする方向へ意識を向ければ行けるわ、さぁ行きましょう」
 炎羅の手に引かれ綺沙羅もついて行く。
 ある程度移動すると、火丸王国らしき場所が見えてきた。
「まずはここがいいでしょう。ここは魔法世界の火丸王国。ここで炎魔法を扱ってもらいます」
「ワタシの出番ね」
「いいえ、綺沙羅にも当然やってもらいます。というのも二人でやった方が効率が良いからです」
「ワタシ一人では難しいということ?」
「こちらへ……」
 中へ入っていく巫羅を追いかけて綺沙羅と炎羅はついて行く。
 中には大きな炎の塊が燃えていた。そのサイズは、太陽がそこにあるんじゃないかと思う程だった。
「これは火のオーブの中に溜め込まれた火魔法の塊です。つまり今お母様、神羅様のオーブに溜め込まれているのです」
「こ、これをどうするんですか?」
 綺沙羅はあまりの大きさに驚いていた。そしてこれからこれを使って何をするのかが疑問だった。
「そうですね。これを使って二人にはキャッチボールでもしてもらいましょうか」
「ええっ?!」
「ハァッ?!」
「なぁに、簡単ですよ。魂の力が強くなれば対応する属性でもそうじゃなくても。この大きさの魔法もほら、こうやって」
 巫羅は軽々と巨大な炎の塊を持ち上げた。
「まずは持ち上げることからしてみましょう。火魔法に適応してる炎羅が綺沙羅とうまく合わせてあげてみてください」
 炎の塊を下ろすと、やってみるように促す巫羅。
綺沙羅は恐る恐る炎に近づいた。
「熱くはないね」
「当然です。魔法世界では感触までは掴めません。ですが、そこに確かに火魔法は存在するのです。それを扱うだけの魂が身につけばいいのです。逆に言えば扱えなければ現世でも到底上手く抑えられません」
「これだけを扱えればいいんじゃないんだよね?」
「火、水、木、雷、光、闇。それぞれ特色ある扱い方があります。その全てに慣れなければなりません」
「とにかく、この炎からチャレンジしてみようよ!」
 綺沙羅が手を触れようとする。
「触れてはなりません!」
「え?!」
「いくら魔法世界で魂の形とはいえ、これは魔法の塊です。触れれば焼け焦げますよ?触れずに扱う。そういう意味では魔法のコントロールに似ていますね」
「わかりました」
 綺沙羅は魔法を扱うように力を向けてみる。だがピクリともしない。
炎羅もやってみる。ほんの少しだけ浮いたがすぐに落ちた。
「ワタシでもきついなんて、綺沙羅大丈夫?」
「頑張るよ!やらなきゃいけないことだもん」
 それから二人は対極に立って必死に持ち上げようとした。なかなか上がらない炎の塊に、愛羅がアドバイスした。
「二人ともまずは魂の集中からやってみるといいわ」
 そう言うと愛羅は、座禅を組んで手をへその前で組み集中した。
 すると少しだけ愛羅の魂が濃くなった気がした。
 綺沙羅と炎羅も真似てみる。集中し魂を強くする。再び炎の塊に向かうと持ち上がった。とはいえ、二人で持ち上げている状態だ。
 これを繰り返した二人は徐々に高く、そして一人でも持てるようになった。
歴代の王族の一人が近づいてきて拍手をした。
「現代の神の血を引くもの達よ。我は火塚、火丸王国を治めた者だ。我からもアドバイスをやよう。炎はゆらゆら揺れるもの。揺らめきに合わせて掴みとるのだ」
「ありがとうございます」
 綺沙羅と炎羅は、持ち上げた後軽くポンと投げてみたりした。空中に浮かんだ炎の塊を受け止めるのは至難の技だったが何とか慣れてきた。
 そうして気の遠くなるような時間をかけて努力していた二人だった。
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