バック=バグと三つの顔の月

みちづきシモン

文字の大きさ
4 / 42

三つの顔の月と、何かを企む男

しおりを挟む
 あるマンションの最上階の部屋に住む男、夜になると度々カーテンを広げ、窓から大きくなってくる月と会話する。
「今はラックの月のようだな。教えてくれ、俺は一体どこにいる少女を排除したらいい?」
「やれやれ、デスの月から聞いていないのですか? バック=バグ、そう呼ばれている少女です」
 男は悩む顔をして再び尋ねる。
「そんな名前の少女はこの国に存在しない・・・・・
「そんなハズはない。確かにバック=バグという名の少女はいる」
「国のデータにハッキングして閲覧したが、該当する名前の少女はいなかった。だからどうやって探せばいいか分からない……」
「ふぅ。その足があるでしょう? 学校に通っているはずですから、学生です。片っ端から探せばいいでしょう?」
「それしかないようだな」
 男はため息をついて椅子に腰かける。何故この男が月の呪いの力を解放したいのか、それはこの国を滅ぼしたいからに過ぎない。
 そして男は次の日から行動に移す。あの月の背に張り付いていた少女バック=バグの姿を思い出しながら、街を渡り歩いていた。



『気をつけろ、バック』
 電話の相手は博士。バックは気だるそうに聞いている。
『国のデータにハッキングがあった。お前の名前を探していたようだ。念の為学校のデータも、『バック=ダズ』という名に変えているからまだ大丈夫だが、もしかすると月神会の生き残りがお前を探しているかもしれない』
 バックは、だからどうした? という感じで聞いている。
『お前を殺しにくるかもしれないんだ。三つの顔の月はお前を殺せない。だが人間にはお前を殺せる。お前に死なれると困るんだ』
「博士、博士『達』が必死になって私を保護してくれてるのはわかってる。でも私には人間はどうしようもない。気をつけろと言われてもどうしたらいいかわからない」
『ある物を渡す。それを使え』
 後日、博士から渡されたものを鞄にしまい、いつも通り登校するバック。

「おはよう! バック!」
 エラが近づいてくる。随分明るめの声でだ。
 バックはいつも浮いていた。一人で孤独にいた。それでもよかった。でも友達が出来てしまった。それはとても不安な事だった。
 失う不安。バックも昔は多くの人に囲まれて友達もいた。それを全て失って今がある。
 なるべく感情を低下させないように気を配りながら、挨拶をする。
「おはよう、エラ」
 その光景は他人から見たら異様な物だった。バックは手の付けられない不良少女。エラはお嬢様なのだ。
「ちょっとエラ! あなたバック=バグさんに何を握られているの?」
 エラはどう説明しよう悩んだ。本当のことは話せない。話したところで信じて貰えないし、バックの信頼を落とす事になる。
「……バックってね、不良少女だと思ってたの」
「うん? そうでしょ?」
「でも違ったわ。ちゃんと優しい子だった。不器用なだけなのよ」
「エラ、本気で言ってる?」
「信じて貰えないならそれでいい。でも私はバックを支持する!」
「ふーん……」

 その日からエラも仲間はずれにされるようになった。その事を後悔したバックは感情を低下させ、欠蝿を発生させることになった。
 対応に追われた後、帰った家で、エラは怒っていた。
「どうして? 私のせい? 私足手まとい?」
「違うの、私のせいでエラが仲間はずれにされたのが悲しくて……」
 また感情が下がる。それをエラが抱きしめた。
「いいじゃない! 他の人なんて放っておきなさいよ! あたなは影のヒーローなんだから! 私は応援したいの!」
「エラ……ありがとう……でも学校では私に冷たくして欲しい。そう演じて欲しい。あなたが私に優しいのはこの家の中でだけでいてほしい」
 エラは驚いた。冷たく演じろと言うバックの願いは彼女にとって苦痛だった。だがバックのためならそうしようと思ったのだ。
「わかった。明日からそうするわ」
 次の日、バックに冷たくするエラを見て周りは安心した。エラとバックは仲間でいてはいけないと思う人間ばかりだからだ。
 エラの交友関係も元に戻った。それはエラの表向きの顔。エラとバックは学校帰り、こっそりバックの家で、ダンスをした。
 エラのダンスは神薬の植物の成長には意味がなかったが、共にダンスをする事がバックの心の支えになり、バック=バグの力を強めた。
 バックは博士に頼み、エラが帰る時、送るように頼んだ。
 博士も協力者は内密でいて欲しいため了承してくれたのだ。
 こうして博士のサポートもあり、バックとエラは共に歩み、バックの心の安定に繋がっていったのだった。



 三つの顔の月の力が弱まっている。それにイライラする例の男は、バック=バグを探して街を彷徨くがなかなか見つからない。
 この国がいくら小さいとはいえ、学校もそれなりにある。せめて何か手がかりが分かればいいが、背中に張り付いたバック=バグの幻影は裸だ。
 また縮小されているため実際の身長もわからない。せいぜい顔がわかるくらいだ。
 似たような顔なんていくらでもいる。
 人海戦術でも使えれば変わるが、月神会の生き残りは彼だけ。
 他の生き残りは皆、違法性を問われ捕まった。彼は表立って月神会の活動をしてなかったから逃れられたのだ。
 彼の計画は彼が完遂するしかない。
 男はまた深くため息をついて無能力の自分を呪った。
「何故神に選ばれるほどの女に、俺は無能力で挑まねばならんのだ!」
 三つの顔の月は何もしてくれない。三つの顔の月のために動いているのだというのにだ。
 それでも男は彼の計画のために、バック=バグを探すのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...