バック=バグと三つの顔の月

みちづきシモン

文字の大きさ
11 / 42

水族館へ来た三人

しおりを挟む
 水族館に来た三人は、様々な魚を楽しむ。イルカショーなどもあり、三人は大はしゃぎ。ペンギンの餌やりでは、バックが魚を食べさせてもらうペンギンに目を細めていた。
 水中に浮かぶクラゲに目をやる。クラゲは死ぬと水に溶ける、その性質を説明されながらバックは、もし自分が死んだ時、溶けられたらいいのにと思ってしまう。
 水中の生き物たちに思いを馳せて、お土産コーナーに寄る。ペンギンのぬいぐるみとイルカのぬいぐるみを買ったバックは満足気だ。
 人が混む中でも何も起きずに済んでホッとしたウェイだったが、そうは問屋が卸さない。
 三人が帰ろうとした、そんな中で事件は起きた。
「きゃああああ!」
 刃物を振り回す男が暴れていたのだ。そして一人の男の子が人質となってしまった。
「警察はまだか?」
「どうしたら……」
 様々な人が迷う中、エラはウェイに言うのだ。
「ウェイなら何とかなるんじゃないの?」
「無茶言っちゃ駄目だよ、エラ」
 バックはそう言うが、ウェイは周りを確認し適切な位置を確保、一瞬で銃を構えると犯罪者の頭を撃ち抜き、武器をしまう。

「出ますわよ」
 人混みを掻き分け水族館を出る。外に出た瞬間バックが倒れた。
「どうしましたの!? バック!」
「凄すぎて驚いたとか?」
 エラは平気そうだが、バックの顔色が悪い。
「マズイですわ。感情を低下させてはいけませんわよ!」
「ごめん……無理……人が死ぬところは……思い出しちゃう……」
 これを聞いて……しくじった、そう感じたウェイはバックを抱き上げ走る。エラもついていく。
(ほほほ、いい具合に弱りましたなぁ)
 今はハーフの月。命が半分になる半蝿を出していく。
「バック! しっかりして!」
 エラがバックの手を握る。
「ありがとう……もう大丈夫。でもいけない! 半蝿が出現した! 博士に連絡しないと!」
「ワタクシのミスですわ。ワタクシが連絡します。場所を教えてくださいませ」
 そしてウェイは電話をして車を寄越す。五つの病院で半蝿が出てしまったようだ。近い病院から向かう。
「ごめんなさい」
 バックは謝るが、むしろ謝るのはエラとウェイだった。
「ごめん、私がウェイに頼んだから……」
「ワタクシが軽率でしたの。殺せば楽な感覚が染み付いてしまっていますわね」

 薬は三人で持ってきているため沢山あるが、飲ませるのが大変だ。だが運転手の女性が手助けしてくれた。
 病院に入る前に看護服に車で着替え、薬を受け取った女性は、バックが指示する患者に的確に薬を投与していく。
 その間にバックは半蝿を潰した。
「次!」
 こうして五つの病院を駆け回った三人と、女性は何とか事態を収めたのだった。
(あらまあ、対処されましたか。まぁ私はあなたを弱らせる役ですしね)
 ハーフの月はバックに囁く。
 女性はウェイに伝言を伝えた。
「博士からの伝言です。ウェイ、次判断を誤ったら、その役から下ろすとのことです」
 その言葉に頭を下げるウェイ。だがエラとバックが抗議する。
「私が悪いの! ウェイは悪くないんです! ウェイを責めないでください!」
「元はと言えば水族館にも来たいと言った私のせい。ウェイを代えたら私も許さないと博士に伝えてください」
 その言葉に驚いたのは女性だけではなかった。ウェイも驚いたのだ。
「大丈夫です。もうしくじりませんので」

 こうして休みの日を終えた三人だった。いずれデスの月がやってくる。
 その時にはこんな事では済まないだろう。ウェイは本部の対策室に来た。ノックをする。
「入れ」
「失礼致しますわ」
 そこには眼鏡をかけた白衣の男がいた。
「この度は申し訳ございませんわ」
 ウェイは頭を下げる。博士はウェイが頭を上げるのを待った。
「殺し屋としての動きに慣れすぎていたのなら仕方ない。注意事項を伝えていなかった我々のミスでもある。以後気をつけてくれたまえ」

「想像していたより優しく接してくださりますのね」
「バックのお気に入りになってくれたようだから、これ以上ないくらい敬意を払うよ、むしろ君のおかげでバックの安全がより高まって助かる。だからといって気を抜かれたら困るがね」
「ご心配なく。緊急時以外は、バックの目に見える範囲では・・・・・・・・・殺しを控えますわ」
「そうしてくれると助かる。流石、一流の殺し屋トップ=キラーが手塩にかけて育てたという天才だ」
「その師匠の名前、偽名でしてよ」
「君のもだろう」
「あら、お気付きでしたの?」
「データベースには一応、名前は載っているし顔写真も君のものだ。だが経歴に差がありすぎる。偽造したと丸分かりだ」
「師匠に伝えておきますわ。仕事がザルだと」
「必要ない。既に伝えた」
 雑談している二人は笑っている。その会話内容が日常では絶対に出ないものではあるが、計画通りいっていることに喜ぶ博士。

「無事、バックが十八歳の誕生日を迎えられることを祈る」
「確か三月三十一日ですわね?」
「そうだ、何としても乗り越えさせる」
「受験がないのが救いですわ」
 ローディア王国では小学校入学のために試験があるものの、中学、高校、大学はエスカレーター式。よっぽど酷い行動を取るか、逆にいい点を取って学校を変える以外、退学すらない。
 義務教育は大学卒業までだ。悪い学校では縛りがとても大きいが、いい学校では自由が効く。
 ちなみに、三人の通う学校は比較的良い学校だ。だからある程度ならサボりも容認される。
 まぁそんな学校にウェイが年齢も詐称して通えるくらいだから、中々情報の管理が杜撰ずさんではあるが。
 とにかく、またバックの感情の低下に繋がらないように注意しなければと心を引きしめるウェイだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...