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プロローグ的な物
00 ここどこヨ
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薄暗い石造りの建物の中。高い天井近くに設けられている明り取りから光が差し込み、一部だけを浮かび上がらせている。その光に浮かび上がった、ピカピカに磨かれた大理石らしき床には摩訶不思議な幾何学模様が描かれている。
あたし――梅木里子は、そんな幾何学模様の隅っこに呆然と座り込み、何とか状況を把握しようとあちこちに視線を彷徨わせていた。
写真で見る様な、どこかの神殿とか宮殿を思わせる落ち着いてはいるけれど豪華な装飾。室内には、これまた歴史の教科書や絵画で見る様な豪華だけれどどこか古いデザインの衣装を身にまとった10人前後の男性たちが居る。
彼等はみな、ちょっと可愛目の制服を着て、髪を明るい茶色に染め、バッチリ化粧を決めている高校生らしき少女に群がっていた。
何なの、これ? 何が起こっているの?
状況把握とはいっても限界がある。あたしはついさっき、仕事が終わって帰宅してきたばかりの筈。その証拠に、シンプルな外出着にヒールのあるパンプスのままだ。
玄関の鍵を開けて家の中に足を踏み入れたのに……何でこんな見知らぬ場所に居るの?
もう一度、周囲を見渡す。
どこか古い建築様式、衣装、髪型等々。何と言うか……これドッキリ? いやいやいや。その辺に居る一般市民にドッキリ仕掛けても面白味なんてないでしょ。
でも、どうしても中世くらいのヨーロッパ辺りを意識して組み立てたセットか何かに突然迷い込んだと言った方が正しい気がする。
ん? もしかして、小説とかでは定番の異世界転移とか、異世界召喚とか?
そんなバカな。あれは空想の産物であって現実ではない。
パラレルワールドという概念は理論的な可能性として在るとは知っているけど、異世界系は完全に架空の物。だからファンタジー等と言われているんだ。
それに、あたしがそういったモノに巻き込まれるなんてない。物語の主人公というのは、何かしら良い所がある。あたしみたいに、性格悪い自覚ありありなんて事はない。あたしの性格がよろしくないのは、実年齢28歳=彼氏いない歴という事実で真実味が増すだろう。
でも、だったら、今の状況をどう説明すれば……?
ああ、ああ。分からない。
何度目になるか。周囲を見渡す。
そこで、漸く気付いた。高校生の目の前に、一際豪華な――ただし、現代人の感覚からすると豪華だけど古めかしいデザインとしか言えない――ジュストコール、ジレ、キュロットを着ている茶色味の強い金髪に茶色い瞳を持つ男が居た。長髪巻き毛のかつらは被ってないが、フランス革命前に王侯貴族辺りが着ていた物に似ている。
服装からすると、中世ヨーロッパというより近代に近い? ルネサンス期辺り?
言っちゃあ何だけど……あのフリルとか、ゴテゴテした刺繍とか……趣味悪!! ――じゃなくて。いかんいかん。本音が出た。えっと……誰よりも身分が高そうに見える。
小説定番の転移や召喚系だと、アレは王子ポジション? うっわ……もしそうならベタ過ぎ……。
思考の中で引きながら、あたしを完璧に無視しているその他大勢を見るとはなしに見ていると、こちらに気付いた悪趣味王子(仮定)があたしがそちらを見ていた事に気付く。
――おい。アレ、鼻で笑った後、すっごい見下した目であたしを睨んでくるんだけど?
不快に思っていると、悪趣味王子――仮定であって悪口ではないヨ――があたしに近付いてきた……と思ったら。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
口悪っ! とか考える間もなく足蹴にされ、座り込んでいたあたしは床に倒れ込んでしまった。
――……ちょっと……ふざけんなよ?
何が起きているのかなんて分からない。でも、今あたしは、間違いなくバカにされ、蔑ろにされた。
初対面の人間に軽んじられる理由はないんだけど?
それに――――あたしはまだ、28! まだ20代!! ババアって言われる筋合いは、ない!!!
ブチッとあたしの中で何かが切れた瞬間、目の前で悲鳴が上がった。
何だ、と思って顔を上げようとした時……気付いてしまった。
ピカピカに磨き上げられた大理石の様な床。それは、鏡の様な光沢で。
その床に、映り込む人の顔。
さっきまで、まあそれなりに美形だったであろう王子らしき人は――しわくちゃヨボヨボ、元の顔の見る影もない色の抜けた茶髪に濁った茶色の瞳のおじいちゃんになっていた。
そしてその手前。
床に映り込むあたしの顔は――
――黒髪に黒い瞳はそのままに、一気に40歳は老け込んでいた――。
あたし――梅木里子は、そんな幾何学模様の隅っこに呆然と座り込み、何とか状況を把握しようとあちこちに視線を彷徨わせていた。
写真で見る様な、どこかの神殿とか宮殿を思わせる落ち着いてはいるけれど豪華な装飾。室内には、これまた歴史の教科書や絵画で見る様な豪華だけれどどこか古いデザインの衣装を身にまとった10人前後の男性たちが居る。
彼等はみな、ちょっと可愛目の制服を着て、髪を明るい茶色に染め、バッチリ化粧を決めている高校生らしき少女に群がっていた。
何なの、これ? 何が起こっているの?
状況把握とはいっても限界がある。あたしはついさっき、仕事が終わって帰宅してきたばかりの筈。その証拠に、シンプルな外出着にヒールのあるパンプスのままだ。
玄関の鍵を開けて家の中に足を踏み入れたのに……何でこんな見知らぬ場所に居るの?
もう一度、周囲を見渡す。
どこか古い建築様式、衣装、髪型等々。何と言うか……これドッキリ? いやいやいや。その辺に居る一般市民にドッキリ仕掛けても面白味なんてないでしょ。
でも、どうしても中世くらいのヨーロッパ辺りを意識して組み立てたセットか何かに突然迷い込んだと言った方が正しい気がする。
ん? もしかして、小説とかでは定番の異世界転移とか、異世界召喚とか?
そんなバカな。あれは空想の産物であって現実ではない。
パラレルワールドという概念は理論的な可能性として在るとは知っているけど、異世界系は完全に架空の物。だからファンタジー等と言われているんだ。
それに、あたしがそういったモノに巻き込まれるなんてない。物語の主人公というのは、何かしら良い所がある。あたしみたいに、性格悪い自覚ありありなんて事はない。あたしの性格がよろしくないのは、実年齢28歳=彼氏いない歴という事実で真実味が増すだろう。
でも、だったら、今の状況をどう説明すれば……?
ああ、ああ。分からない。
何度目になるか。周囲を見渡す。
そこで、漸く気付いた。高校生の目の前に、一際豪華な――ただし、現代人の感覚からすると豪華だけど古めかしいデザインとしか言えない――ジュストコール、ジレ、キュロットを着ている茶色味の強い金髪に茶色い瞳を持つ男が居た。長髪巻き毛のかつらは被ってないが、フランス革命前に王侯貴族辺りが着ていた物に似ている。
服装からすると、中世ヨーロッパというより近代に近い? ルネサンス期辺り?
言っちゃあ何だけど……あのフリルとか、ゴテゴテした刺繍とか……趣味悪!! ――じゃなくて。いかんいかん。本音が出た。えっと……誰よりも身分が高そうに見える。
小説定番の転移や召喚系だと、アレは王子ポジション? うっわ……もしそうならベタ過ぎ……。
思考の中で引きながら、あたしを完璧に無視しているその他大勢を見るとはなしに見ていると、こちらに気付いた悪趣味王子(仮定)があたしがそちらを見ていた事に気付く。
――おい。アレ、鼻で笑った後、すっごい見下した目であたしを睨んでくるんだけど?
不快に思っていると、悪趣味王子――仮定であって悪口ではないヨ――があたしに近付いてきた……と思ったら。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
口悪っ! とか考える間もなく足蹴にされ、座り込んでいたあたしは床に倒れ込んでしまった。
――……ちょっと……ふざけんなよ?
何が起きているのかなんて分からない。でも、今あたしは、間違いなくバカにされ、蔑ろにされた。
初対面の人間に軽んじられる理由はないんだけど?
それに――――あたしはまだ、28! まだ20代!! ババアって言われる筋合いは、ない!!!
ブチッとあたしの中で何かが切れた瞬間、目の前で悲鳴が上がった。
何だ、と思って顔を上げようとした時……気付いてしまった。
ピカピカに磨き上げられた大理石の様な床。それは、鏡の様な光沢で。
その床に、映り込む人の顔。
さっきまで、まあそれなりに美形だったであろう王子らしき人は――しわくちゃヨボヨボ、元の顔の見る影もない色の抜けた茶髪に濁った茶色の瞳のおじいちゃんになっていた。
そしてその手前。
床に映り込むあたしの顔は――
――黒髪に黒い瞳はそのままに、一気に40歳は老け込んでいた――。
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