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メルディ国編

22 実は……ですヨ

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 ほら、やっぱり――などと表示しているマレットを華麗に無視し、あたしは目の前にいる真っ赤な竜を見上げる。
 見上げる大きさ……というか、高さは……大体、ビル3階分くらい? 10メートルって所かな。デカい。
 トカゲをでっかくした――あ、恐竜って言った方が早いか――形とか、羽が生えてて立派な角があり、ゴツゴツした鱗が固そうとか、金の瞳に縦長の瞳孔、背中とか顔とか綺麗な赤――というか、炎の様に鮮やかな色をしているのに、お腹は白いトコとか……ホント、あたしのよく知る物語の・・・赤竜そのものだ。

 あー……それにしても、あたしの後ろの正面に出てきてくれて助かったなぁ……。逆だったら村とかト――牢とかプチッと踏んじゃってたかも。……それはそれで面白いかもしれないが、面倒な事には確実になっただろうから、これでいい。
 あ、でも、こんな巨体がいきなり出現しちゃったから、普通な村の中は大パニックかな? よくある話だと、強敵に対し、協力して討伐する緊急依頼とか出ちゃうんだよね、確か。冒険者ギルドは現在停止中だし、こういう場合の緊急依頼とかはどうするんだろう? 兵士が出す? でも、そのトップがここに居る状態で出せるのか?

 え? 妙に冷静? いや、ツッコミ入れたら妙に落ち着いちゃった。ツッコミに鎮静効果があるとは知らなかったよ。
 そんな訳あるかって? いや、実際に落ち着いちゃってるんだからいんじゃない?

 それにしても……まさかあたしが『お約束』をやっちゃうとは……。

 召喚魔法で間違って何かを呼んじゃうとかドラゴン召喚しちゃうとか、よくあるよくある。使い古された王道的ストーリーのひとつでしょ。
 ツッコミ入れるとしたら、「王道乙!」とか、「テンプレ過ぎ!」ってトコかな?
 で、定番として、間違って呼んじゃったのに、相手が友好的で、普通に仲良くなっちゃうまでがパターンだよね。
 今回の場合はどうなんだろう?

 そう考えながら、すっごい上の方にある――って、いつの間にか頭下げてて、赤竜の金色の瞳が目の前に。
 いや、うん。ビル3階分の高さがある生き物の頭なんだもん、でっかくて当然なんだけど……頭だけで普通の民家の部屋一つ分くらいありそう。口の大きさは3分の2くらい? そりゃみんな、パクっと食べられそうとか思うわ。
 で、瞳は窓くらいかな? 金色だけどくもりはないから、あたしがバッチリ映ってる。その金の瞳がジーッとあたしを見てるんだけど……あたしはどこを見ればいいんだろう?
 え? 論点が違う? いや、でもさぁ、でっかいと、どこ見ていいか困んない? しかも、離れているんじゃなくて目と鼻の先だよ? 目を見ても、これだけデカいとあたしの視界に収まりきらず、結局は鏡と同じ状況。自分の姿見て何が楽しいの。老いた姿見てもムカつくだけじゃん。

 という訳で、数歩下がって少しだけ視界に入る姿を広くしてみたんだけど……あれ? 伏せ?
 頭低くして……ちょこんって感じで赤竜が座っている。これってどう見ても伏せだよね? ドラゴンが伏せしてるよ? え? あたし、ドラゴン躾中??
 えーと……? ど、どうしよう? 取り敢えず……褒めとく?

 大人しく伏せをしている赤竜に近付き、手が届く鼻先をなでなでしてみる。
 あ、固い。でも、鱗一つひとつの間隔が緻密だからか、ゴツゴツした見た目に反してスベスベしていて不思議な手触りだ。炎の様に赤い所為で熱いかなと考えていたけどそんな事なく、ちょっとひんやり。気持ちいいかも。
 あ、汚れ発見。よく見れば、所々、鱗の隙間に草とか泥? とか挟まっている。うーん……タワシかデッキブラシでもあれば、思いっ切り擦って掃除したいかも……。

 それにしても、ほんっと、大人しいねー。
 突然撫で出したあたしに怒るでもなく、何故か目を細めて気持ちよさそうにぐるぐる言ってるよ。
 それに、あたしの手に鼻先を押し付けてくる様な感覚がする。もっと撫でろって事? よしよしよし……。

『召喚獣との契約をして下さい!』

 あたしの目の前にマレットが自己主張する様に飛び出してきて、文字が……なんで電光掲示板の様に流れるの……見にくい、読みにくい、止まれ!!
 ……うん、文字が止まった。止まったのはいいけど……。
 画面が大きくなり、カラフルな文字が揺らめいてる……ネオン街の看板だよ、それじゃあ……。

 マルあんた、こんなどうでもいいような知識、どこから仕入れてきたの? え? 過去に召喚された者達が残した知識? なんでそんなロクでもない、どうでもいい知識を残すんだよオイ!
 もしかしてアレ? 召喚なんてされたから、「俺TUEEEEE!」とか、「チートきたぁ!」とか言って、現実と空想ごちゃ混ぜにしてアホな事ばかりやった奴が多いとか?
 え? アホかどうかは意見分かれるけど、そんな事は言っていた?

 ……同郷の……しかも、世代的に似通ったのが多く召喚されてるって事? 物語の主人公にでもなったつもりで浮かれ、役に立つんだか分からない知識を無駄に広めたの?
 うわ、やだ……そんなのと同一視されたくない……。
 あたし、無駄知識やその置き土産なんかに巻き込まれたくないから、この世界の常識、後でしっかり勉強しよう……マル、よろしく。

 て、……あれ?
 取り敢えず、言動や行動は置いとくとして、そんな事を言っちゃってたのが少なくとも一人以上は居るって事だよね?
 つまり、召喚した人数だけ、誘拐犯がいるって事?

 あのさ、その人達、誘拐している自覚あるの?
 元の世界じゃ、急に行方不明になったりしたら、ローカルだろうとニュースにされてると思うよ?
 最後の目撃地点から何の痕跡も見付からないとかなったら、ローカルから一気に全国だよ? 大騒ぎだよ? 警察がのべ人数投入して草の根分けて探すレベルだよ?
 え? 平民相手にそんな事するのかって?
 何言ってんの、普通にやるよ? 「事件や事故に巻き込まれた可能性を視野に捜査を進めています」とか言われちゃうよ?

 あ、黙った。って、なんでマレットが消えるの!? 何かあった!?
 再び出てき――え? 召喚くらいでそんな大事になる世界があるなんて思ってなかった……?

 ――あんたもバカかアホなの? 世界が違えば常識が違うのなんて当然でしょ?
 あたしの居た世界――というより、あたしの住んでた国は比較的平和な国だったから、行方不明になれば騒がれるよ。

 マレットが地面に落ちた……壊れはしてない――当然か――けど、画面真っ暗になっている……。なんというオーバーリアクション……今時、こんなリアクションするのいたんだ……って、そういやここ異世界だった。いてもおかしくないか。
 それにしても……マルあんた、妙な部分で打たれ弱いね。この程度で項垂れ(?)てたら、あたしのヘルプなんてできないよ? 根性を見せろ! 精進しろよ~。

 うーん……マル&マレットがこんな反応って事は、本当に、異世界召喚とかいう耳当たりの良い言葉で誤魔化しているけど誘拐であるとか、異世界なんだから常識が違うとか、この世界では認識してなかったんだろうね。
 という事は、物語とかでよくある異世界召喚ものの話って、世界が変われば常識が変わるって全く理解していないおバカさんが世界の為とか言いつつ自分の為に誘拐しちゃった物語って事でオーケー?
 あらまぁ……こう言っちゃうと、身もふたも、ロマンもなにもないな、異世界召喚物語。

『契約』

 あ、少し復活した? また同じ事を――って、そうだったそうだった。意思疎通して、あたしの乗り物になってもらわなきゃいけないんだった。
 で、契約ってどうやるの? え? 竜本人に聞け? どうやって? え? 心で話し掛けろ? つまり念、話――あれ?

 あのさ、もしかしてだけどさ……。
 あたしが『移動手段になりそうな意思疎通できる生き物――できれば会話もしくは念話みたいなものが可能な存在がいいなぁ――』とか思った所為で、この赤竜……呼ばれちゃった?

 そう……獣神や幸運神の加護があたしの希望を最大限に叶えようと頑張って発動しちゃった可能性がある、と……。

 頼むから、妙な方向に頑張らないでよ!
 色々すっ飛ばして、ラスボス候補連れてくるなんて、パワーバランスおかしいから!
 乗れるよ、確かに乗れると思うよ。
 でもさこれ、乗れるだけじゃなくて、あたしの護衛も担えちゃうよね? 過剰戦力じゃない?
 へ? そうだね? ……まさかまた神絡み? ……無言デスカ……。

 だから、神は自重しろよーーーーーっ! 過保護はもういいよっ!!

 あああぁ……。
 もう、このセリフ、昨日から何度言っているんだろう……。
 え……『この世界に居る限り言い続ける事になる』?

 ……。

 やめて、ソレ……予言どころじゃないよね……確信レベルの言葉だよね……。

 がっくり項垂れていると。

(そろそろ、ワシの事を思い出してくれると嬉しいんだがのぅ)

 頭の中に直接、声が響いてきた。
 うわぁおワシだって。ドラマとかならよく聞く、年寄りである事を強調するかの様な言葉遣いだけど、実際にそう言ってるのは初めて聞いた。

 それにしても……なるほど、これが『念話』。マルとはやっぱり違うね。マルの場合、頭に直接情報を叩き込まれている感じだから。
 さて。これに返事をしなきゃいけないんだけど……んー……マルはあたしの思考を勝手に読んで返事してくれてるけど、念話はそうじゃないよね?
 え? 念話は、言葉や思考に魔力を付与して相手に届ける? 意味解らん。
 いや、理論的な事は何となく分かるけど、魔法初心者に実践は難しくない?
 は? ――『魔術神の加護が補助して魔法を簡略化するから大丈夫』? ……加護が補助するの? 普通、無理じゃない? え、間違えた? 魔術神の加護から『魔術神が』補助して魔法を簡略化するから大丈夫? いやそれ、大きな間違いじゃない? 加護を擬人化してどうするの。
 それより念話を返せって……逃げたな、マル……。

(ワシを無視するのはやめてくれんかのぉ)
(やっかましいわ! 考え事してんだから邪魔するなっ!)
(おう……理不尽じゃあ。ワシを呼んだのはお主なのに怒るとは)

 しくしくしくと泣き真似する赤竜。そのデカい図体でやられても……微妙。
 って、そうじゃなくて。普通に念話、できた。魔術神の補助がきちんと作用し、赤竜に対して思った事がそのままダイレクトに伝わったようだ。
 取り敢えず、構わないと先に進まないから、サクサク行ってみよう!

(ねえ。何で召喚に応えたの? 貴方、竜でしょ? 強いでしょ? 人間に構ったって、百害あって一利なし。良い事なんてないでしょ?)
(うむ? 確かにそうだがのぉ……何と言えばよいのか……お主の魔力が面白かったから、かのぉ……)
(面白いって……魔力に面白いとかあるかっ!)
(そう言われてものぉ……感覚的な問題じゃから、それ以外に答え様がないの)

 感覚的に面白い魔力って何だそれとは思うけど、それより気になるのが……。

(ねえ……)
(うむ?)
(その、わざとらしい間延びした話し方、止めない? ぶん殴りたくなる)
(おう! お主は結構、過激じゃのぉ)

 笑いを堪える感じで、その話し方をずっとしている赤竜。
 過激とか言いながら笑っている感じが伝わり、流石にイラッとし。
 拳を作って、身体強化の魔法を使って、思いっ切り! 鼻先を横殴りした。
 暴力反対!? うん、そうだね。あたしもそう思うよう。でもこれは(多分)必要な教育的し――って……。

 ……あれ?

 ……いや、身体能力、上がってるなぁとは思っていたけど……。

 相手を殴る以上、あたしの拳も痛いのを覚悟した――魔法で少しくらい緩和してくれるといいなぁとは思った――けど……あたしの拳、痛くない……。殴ったよね? 間違いなく。

 それなのに……。


 赤竜の頭が浮き上がり半回転。

 地面に叩きつけられた赤竜の目の焦点があっていない。多分、脳震盪でも起こした?

 ……うん、なんでだーーーーーーっ!?

 え、何で竜を殴ってあたし五体満足で、あっちがダメージ受けてんの? あれ? あたし、いつの間にかやっぱり人外? マルはちゃんと人間って証明してくれたよね? え?

「凄いな」

 ネス! あんた、それしか言えないの!?

『護衛、必要なかった気がします』

 マル! 冷静にそんな事を言ってないでよ!?

 も、訳分かんない! いつの間にこんな妙な戦闘力(?)手に入れた!?
 もしやこれ、闘神の加護の所為とか? え? 可能性あり?

 ちょっ――要らんよ、こんな妙な力!
 あたしは、極々普通の人間なんだよ?

『竜を撫でたり殴ったりする時点で普通ではありません』

 あれ? え、そう?

 ……言われてみれば……そう、かも……?

 れ、冷静になったつもりが、やっぱりあたし、どこかパニクってた……?

 おうふ。
 どうしてこうなったのぉーーーーー。
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