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メルディ国編

30 だから、違いますヨ

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 思わず叫び声を上げた後、あたしは慌ててテントの入り口から外を窺う。叫び声を聞いて、ネスやルベルがこの中に入ってきたら大変だ。誤魔化しは無理。
 そろーっと周囲を確認する。……誰もいない。隊長も寝てる。
 なんの偶然か、叫び声は外に漏れなか――って、うん、分かってる。これも神がなにかしらやらかしたのだろう。
 今回ばかりはありがたく思い、あたしは入り口を閉め、あたし以外、出入禁止と願う。ちゃんと、魔法が発動したようだ。やれやれ。

 あたしは改めて振り返り、テント――な筈の室内を立ち上がって見渡す。
 もうこれ、立ち上がれちゃう時点でテントじゃなく、普通に部屋だよね。いや、これは部屋じゃない。洋館等でよく見られるエントランスホールというものだろう。

 広く高い天井。その天井には豪華としか言いようがないシャンデリアが複数。ロウソクタイプじゃなくて、電気? いや、魔法?
 部屋全体に広がるのは、清潔感溢れる真っ白い壁。部屋の中央にある階段は半円を描きながら上へと続いているものが2つ。どんな舞台装置だ。
 その階段と階段の間。円形に残るデッドスペースには……多分、アクアリウム? なにも入っていないけど、これって水槽だよね?
 で、階段の脇には通路があり、奥に行けるようだ。……どこまで行けるのか不明。先が暗い為、果てが見えない。あ、所々にドアっぽいものがある? ドアノブが見えないから、スライド式のドアなのかな?
 左右にも通路があるけど、こちらは果てが見える。ただし、その果ては曲がり角。結局、どこまで行けるのかは進んでみなければ分からない。
 そんな、ホテルとか結婚式場みたいなホールの入り口側の壁はガラス製――多分――になっており、自然の光が降り注いでくる。……今、夜なんだけど……どこからこの光はくるんだろう……。
 いやそれよりも、外観と中身が一致しないんだけど、どうなってる!?
 取り敢えず、うん。

 時空神! なんでこんなに無駄な拡張してんの! 限度ってものがあるでしょうがっ!!
 技工神! なんでこんなに豪華なリフォーム(?)してんのよ! アホみたいに部屋があったって使える訳ないでしょうがっ!! 時空神に便乗して遊ぶなっ!!!

 これを快適というあんた達の神経を疑うわ! 小市民なあたしは、これじゃ落ち着かないってのっ!!

 これ以上、神の過保護に付き合ってられるかと、寝られる場所を探す為、近くにあったドアを開けようとして気付く。そのドアの近く、テントの出入り口付近の壁に9枚のパネル?
 近寄って見てみると、3×3に並んだ30センチくらいの正方形の……マレット? デカい。
 そのマレットの一番下の列の真ん中に『現在地』の文字が点滅している。それ以外は、直線や曲線、四角なんかが書かれているだけなんだけど……。

 もしかして、マップというか案内板? デパートやホテルなんかにあるアレ? まさかでしょ?

 疑問に思いながらも『現在地』と書かれているマレットに触れる。
 するとマレットが巨大化し、一番上に『玄関ホール』の文字。手前部分――上下に3等分した一番下の約3分の1くらい――には、今あたしが見えている範囲の情報――出入り口とか階段とか――が書かれている。
 あたしが開けようとしたドアの向こうは……は? 『警備員控室』?
 他にも、警備員仮眠室、トイレ、備品倉庫に――防災用品置き場?

 色々とおかしいんだけど!? 何でテントに警備員が必要!? てか、あたししか居ないのに、警備員って何よ!? あたしに寝ないで警備しろっての!?

 ふと、階段の後ろのスペース、真ん中の3分の1スペースの中心、階段の後ろ側に『警備員置き場』の文字があるのを発見した。
 警備員……置き場??

 中を覗いてみようと、地図上に記されているドアのある方に向かう。うん、ちゃんとドアがあった。あの地図は、中身は分からないが作りは正確な様だ。
 スライド式のドアを開けると、窓もない真っ暗な内部に明かりが点る。オート? 看破看破。は? 人感センサー魔法? ……あたししか居ないのに、すっごい無駄じゃね? というかこの魔法……誰の仕業?

「……」

 明るくなった中を見て言葉を失う。
 警備員『置き場』の意味が一発で分かった。そこには――人型のゴーレムが整然と並んでいた。
 なぜゴーレムなのか分かったかというと、よく見かける警備員の制服に近い服を着てはいるが、その他は全て白一色だったからだ。マネキンが同じ服を着てズラーと並んでいる光景を想像して欲しい。不気味過ぎ。

 これ、技工神製? でも、技工神だけじゃ無理だよね? 他の神の過保護もくっついてない?

 よく見ようと、一番手前にあるゴーレムを覗き込んだ途端。
 部屋の床一面に魔法陣、天井付近の壁には『所有者を確認しました。警備を開始します』の文字が浮かび上がる。所有者って、あたし? いつの間に所有者登録されていた?
 ゴーレムはというと……突然カッと目を見開き――流石に怖い――、髪や瞳に様々な色が浮かび上がったかと思うとキビキビした動作であたしの横を順番にすり抜け扉の外に出て行く。
 色によって左右に分かれて行くんだけど、何か意味があるのだろうか?

 警備員置き場から全てのゴーレムが消えた後、あたしは部屋を出て周囲を確認する。
 うん……テントの出入り口に2体のゴーレム、他にも倉庫前に歩哨が立っていたり、2体1組で巡回や部屋の内部を確認しているゴーレムまで居る。正しく警備だね……。

 ……はぁ……。
 神はあたしをなんだと思っているんだろう? ここまでしなきゃいけない理由は何?

 なんかもう、付き合っているのも疲れるので、さっさと眠りたい。
 さっきの案内板で眠れる場所を探そう。
 え? 仮眠室はって?
 ドアを開けたゴーレムに便乗して中を確認したんだけど……部屋にいくつかの魔法陣があり、そこにゴーレムが立つと『充電中です』とか表示されてた……。あたしがあそこで寝るのは無理。

 さてと。案内板の前に戻ってきたけど……順番に確認してみないと、どこに何があるか分からない。
 仕方ないから、一番上の左端から右へ①、②、③として、中央も左から順に④、⑤、⑥。一番下も左から⑦、⑧、⑨として、①から順番にマレット表示を拡大する。

①鍛錬エリア:武器
 ……鍛錬?
②神殿エリア
 はあっ!? 神は一体、何を考えてこれを!?
③鍛冶エリア:武具
 えーと? 技工神の加護を使って、ド素人なあたしに武具を作れとでも言うのか!?
④鍛錬エリア:魔法
 武器ときたから魔法?
⑤憩いのエリア:中庭、吹き抜け
 いくつかのブロックに分かれ、中には洋風、和風など……オイ。
⑥錬金エリア:アイテムなど
 やっぱり作れって言われてんのっ!?
⑦会議エリア
 は? 必要??
⑧玄関ホール
 うん、ここだね。
⑨図書エリア:取扱注意
 ……マレット回収の貴重本がありそうだね。

 って、あたしが寝られる場所ないよ!? というか、それ必要かというのがかなりあるんだけど!!?
 ちなみに、①と④、③と⑥、④と⑦、⑥と⑨の中間辺りに階段とトイレがあるようだ。そこまで階段を設置しなきゃいけない程には移動が大変って事!?

 ダメだ。本気で疲れてきた。『コレ』を快適という時空神や技工神にツッコミ入れるのすら面倒になってきた。
 はぁ……ここに寝られそうな所がないって事は、2階にあるんだよね?
 もう、目の前にある階段を使ってさっさと上に行こう。
 あたしは、玄関スペースの残り3分の1に表示されている『使用人置き場』、『使用人控室』、『使用人仮眠室』を無視し、2階へ。

 階段を上って辿り着いたのは踊り場だった。……ソファーやテーブルまで設置されている……。
 もう、何もかもスルーして2階にもあるであろう案内板を探す。
 あ、あった。踊り場の壁際。1階からすると出入り口側に、さっきと同じマレット9枚。順番に確認してみる。

①大浴場エリア:大理石、ヒノキ、岩等
 ……へ?
②製品置き場
 ……鍛冶や錬金エリアで作った物を保管しておく場所の様だ。……こんなに広いスペース必要?
③予備
 ……はあ?
④リジーの召喚獣エリア
 ルベルを連れて来いと!?
⑤吹き抜け、1階が見える
 そりゃ、吹き抜けなんだから1階が見えなきゃおかしいっての。
⑥リジーの仲間エリア
 ……ネスの寝床か何か?
⑦リジーの部屋エリア
 漸くあった――って、え!? 一区画全部があたし用!?
⑧踊り場、くつろぎエリア
 ココ
⑨キッチン、食堂エリア
 仲間を連れて来て、ここで仲良く食事しろと?

 ツッコミどころ満載だけど、もうイヤ。今日はもうヤダ。寝る!
 あたしは自分の部屋エリアへと急ぐ。これ以上、何も見たくない。

 長い廊下を突っ切って行くと、無駄に豪華な扉が見えた。
 色はオーソドックスに茶系なのに、妙に凝った装飾とライオンを模ったドアノッカーが付けられている。
 ホント、無駄……寝る事にしか使わないのに、凝ってどうする。
 ドアを開け中に入ろうとしたら、1階とは色違いのゴーレム2体が遣って来て、あたしの部屋のドアの前を陣取る。
 あー……色違いは、1階警備と2階警備を分けていたからなんだ……。
 わざわざ歩哨が立つVIP待遇にツッコミ入れるのも面倒で、あたしは部屋の中へ入ったんだけど……。

 ……部屋?

 なんと言えばいいのか……ドアを開けた先は、下駄箱のある普通の玄関。立ち上がりには玄関マットが敷かれ、スリッパまで置いてある。
 奥に続く廊下があり、ドアがいくつか。
 左側の一番手前は……トイレ? 普通に水洗の様だけど……この水はどこに繋がっているんだろう……。
 その隣は洗面台+バスルーム。ここの水も以下略。
 反対側、右側一番手前のドアはキッチンというか、リビングダイニング+対面キッチン? キッチン側には、あの調理器具セットが程よい高さの台の上に鎮座している。システムキッチンのつもりなのかな? 他にも、カウンターや収納庫に……え、冷蔵庫!? あ、冷蔵庫だ。しかもこれ、トキの中身に繋がっている……? うん。見なかった事にしよう。
 リビング側には……パッと見、革製のソファーセットにテーブル? 毛足の長そうな絨毯?
 …………つ、次に行こう!

 廊下を進むと、突き当りに微妙に開閉部をずらして設置されているドアが3つ。突き当り、真ん中のドアは収納庫の様だ。
 で、右側のドアの先はリビングダイニング。やっぱり広い……一人しかいない部屋にコレは無駄だよね……。
 こうなると、左側があたしの寝室って扱いかな?
 ドアを開けると……一人掛け用のソファーにテーブル、例の家具セット。壁一面にはカーテンが掛かっている窓とベランダ(?)に続くガラス製っぽいドア。タペストリーや絵画、花等で空間が演出されている。

 ……ベッドないな~寝る所は?

 奥にドア発見。まさか?

 その『まさか』だったーーーーー。
 ドアを開けた先は、所謂ベッドルーム。広い部屋の中には暖炉まである。
 そしてベッドは……デカい。デカ過ぎ。これはシングルやダブルなんて目じゃない。クイーンサイズ? いやもしかしたらキングサイズはあるかも?

 おい、こら神っ! あたしの寝相が悪いとでも言いたいのかーーーっ!?
 こんなデカいベッド、普通の人には必要ないってばぁーーーーー!!!

 しかもこのベッド、天蓋まで付いてる……どこのお嬢様、お貴族様だよ……。

 あ、でも見た目、布団はふかふかそう?
 近付いて触ってみる。あ、掛け布団は羽毛っぽい? 枕も程よい硬さと高さがある。敷布団やマットレスも弾力性があり、寝やすそう。
 よし、これで寝よう。デカいのは気にしない。うん、そうしよう。

 そうと決まれば、お風呂入って~さっぱりして~。
 うん。程よく体も温まったし。

 おやすみなさい。
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