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メルディ国編
50 要らないヨ
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モンド隊長達と共に遣って来た控え室は、通過してきた部屋や階段、通路同様、石造りのシンプルな部屋だった。先に部屋へと入ったモンド隊長が明かりを灯すと、漸く中がはっきり見えた。
やっぱり実用一辺倒な、本当にただ一時的に待機する為だけの部屋って感じで、カーペットもなければ窓もない。一応、天井部分に明かりの魔道具と換気用であろう風が流れる魔道具が埋め込まれ、申し訳程度に何人かで座れるソファが3つ、テーブルが1つ、作業台っぽいハイテーブルが1つ置いてある。他の家具は……ない。ただ座って待てと、そういう事だろう。
隊長達はあたし達にソファへ座る様に促すと、モンド隊長がハイテーブルへ近付き何かの作業を始め、他の兵士4人――カジス2人+ルチタン2人――は出入り口付近の壁に寄り掛かり待機姿勢となった。
彼等を立たせておくのもちょっと微妙だったので座る様に促してみたが、現在任務中だからと辞退してきた。有事の際、即行動できないのは困ると。ホント、隊長達は真面目だね。
勤務中と言われてしまえばこれ以上勧めるのも申し訳ない。あたし達が立っているのも彼等は落ち着かないだろうと思い、ソファに座る事にしたんだけど……念の為、防護結界みたいなものを張っておいた。うん、念の為ね。
それに気付いた隊長や兵士達が苦笑したが何も言わない。そりゃそうだ。ただの『念の為の措置』には何も言えないよね。
そんな感じ(どんな感じ?)で隊長達と無言の遣り取りをしている傍ら、あたしに懐いている神獣達が騒ぎ出した。
その会話を聞いて、放置する事に決めた。あたしの隣に誰が座るかって……アホかこいつ等。
神獣ってこれでいいの? 神の使いや眷属って、これでいいのか!?
『全員、至って真剣です』
うん、その合いの手要らないから!
傍から見れば、アホな事に変わりはない!
誰が隣――しかも、見た目はおばあちゃんの隣――に座るかで牽制し合う神獣達に呆れ、さっき決意した通りネスを構う為、ネスの腕を引きソファの右側に座らせその隣、中央部分にあたしが座る。
さあ。これで残っている席はあたしの左隣1つだけ。さっさと決める様に。あたしはあんた達に構うつもりはない! その証拠に、ネスの頭をなでなでしてやる!
ぽむぽむという感じで頭をなでていると、ネスが尻尾を振り振り擦り寄ってきた。
ネス……あんた、26だよね? なんでこんなに甘えっ子なのよ……。まあ、耳も尻尾も――擽ったいらしく、時々悶えるが――なで放題、もふ放題だから、いいけどね。
あ、髪に隠れていたけど耳の付け根にもふ毛が! つやふわもこ具合がちょっとポリエステル100%素材の冬服に似てる。いい手触りだ。
あたしの行動に神獣達は一瞬黙り込み、次いで即座にじゃんけんを始めた。じゃんけんって……これも昔の召喚された者達の置き土産か何か?
ネスをなでながら眺めていると、何度か続くあいこの末、フォスに決まった様だ。人化した時に残っている牛の尻尾を悠々と振りながらあたしの左隣に腰掛けてきた。あー……ルベルとブラウが悔しそうデスヨ……。
と思ったら、ルベルがバタバタをあたしに駆け寄ってきて、なにを思ったのかあたしの膝の上によじ登りちょこんと座った。これって……膝抱っこ状態? ……ブラウとフォスが歯ぎしりしてる……。
もう勝手にしてと放っておいたら、ブラウが獣化――勿論、大きさは加減している――し、更に縮小。中型位の猫サイズになるとソファの背もたれにピョンと飛び乗り、背後からあたしの首筋にすりすりしてきた。擽ったいよ。
って! 前後左右から一斉に擦り寄るなっ!!!
なんなのこのでっかい甘えっ子達は。
モンド隊長達はこちらを見て苦笑するだけでツッコミを入れる事はない。どうもコレが当たり前になっている様だ。
頼む。コレを普通だと思いスルーしないで……。
ああ、もう! もういい! グーリアスが来るまで、種類の違う4つのもふもふ(一部違う)をもふもふなでなでしまくってやるーーーーーっ!!!
「……どーしたっすか、これ……」
扉を開き、開口一番グーリアスが唖然としながら言った。どうしたって……。
あたしは周囲を見渡す。獣化した4人が床にごろんと転がっているだけ。うん、それだけ――いや違う! 全員、艶ぴかになっている! うん、あたし頑張ったヨ!!
ここで何があったか、一部始終を目撃したモンド隊長達は賢明にも沈黙を守り、そっと目を逸らした。転がっているのが神獣とAプラスランク冒険者だからねー。下手な事は言えないか。
そんな心情をあたしは正確(多分)に読み取り、あっけらかんと口を開く。
「気にするなっ!」
「いや、気にするなって!?」
気にならない訳がないだろうと言わんばかりに一歩、グーリアスが中へ入ると、背後にいたであろうゴーレム馬がその体を鼻先でグイグイ押し込み、できたスペースから足音高く中へと入ってくる。その背には何もない。トイレは外された様だ。
ゴーレム馬は床に転がる者を器用に避けてソファに座るあたしに近寄り、「終わったよー」と言った感じで頷くと、頭を下げてきた。
「お疲れ様。偉いえらい」
頭をなでながら褒めると、鼻を伸ばしながら尻尾がぶんぶん振れる。感情豊かになったなー。
で。賢く良い子なゴーレム馬は、自らトキの中に帰っていった。マジで凄いな、神製……。
「は!? なんだこれ!? なんなんだっ!!?」
ゴーレム馬がアイテムバッグに自ら入っていくのを目撃したグーリアスがパニックを起こした様だ。
うん、正常な反応だなー。新鮮だー。モンド隊長達は、ほぼ初期に達観しちゃったからなー。今も苦笑するだけで平然としている。この差。愉快だねー。
グーリアスが落ち着くまで放っておいて観察するのも面白そうだけど、時間は有限だ。ネス達も復活して人化、元のポジション――あたしの隣、膝上、背後――に戻ったから、強制終了しよう。
「それで? これからどうすれば?」
「へ? は? あ、あれ??」
あたしの問い掛けにグーリアスは意識をこちらの世界に戻した様だが、パニックになる前と様子が異なる事に盛大な疑問を浮かべている。
ほんっとーに、ふっつーの反応だなー。冒険者ギルドのマスター、しかも1つの国の責任者である以上、もうちょっと図太い方が楽だぞー。
『リジーが言うな! です』
おおおおお!? マルがツッコミを覚えたーーーーーっ!!?
だが惜しい! その『です』が不要! その一言の所為で勢いが削がれてしまった。惜しいなー。
『……』
「おーい、グーリアス? どうすればいいか、はっきりしてくれない? あたし、冒険者登録もしたいんだけど?」
「はっ、はいっすっ!」
何某か考え込んでしまった様な感じのマルをスルーし、グーリアスに声を掛ける。
すると、姿勢を正したグーリアスがビシッと敬礼してきた。なぜ? これはあれか? あたし、答礼しないとダメ?
「ここでは詳しい話もできませんので、ギルド長室までの移動をお願いしやす!」
……それは、敬礼して言わなきゃいけない事なのだろうか? しかも、しやす、って……。
さっきの「ぶち込んでくる」や「どーしたっすか」といい、この「しやす」といい、所々で丁寧な言葉が崩れ、化けの皮が剥がれてるなー。無理にギルドマスターらしい(と思われる)態度や言動を取らなくてもいいのにね。
『そのように言ってあげないのですか?』
面白いから放っておく!
『……なるほど』
どんどんあたしに毒されている――というか素(多分)が出てきているマルの納得する様な言葉を見聞きしながら、あたし達はグーリアスと共にギルド長室まで移動する。
どうもこの控え室があった場所もまだ地下だったようで、もう1つ階段を上がると、壁とかは石造りなのに、片方の通路は木の床、片方は石造りの床という場所に出た。
ギルドの受付等があるホール(?)の床は普通に石のままだけど、上位の存在――所謂、貴族とか――を通す部屋やそこに繋がる通路だけは木の床にしているとグーリアスが説明してくれた。特別感を演出する事で、面倒事を極力少なくする為らしい。なるほどね。
で、ギルド長室は、その特別な空間の中にある。体裁は整えておかないと、下位貴族になる程、鬱陶しいとか。ああ……あの小物デブを思い出すと、納得するしかない。
木と石の床の境目が、一般立入制限の目印。あたし達は、本来なら冒険者が迂闊に入る事ができないエリアへと足を踏み入れ、先へ先へ進んでいく。
途中、いくつかの部屋――貴族を通す客室――を通過し、角にぶつかり左折。右手側に窓、左手側にいくつかの部屋がある――資料等が保管されているらしくガッチリ施錠してある――のを見つつ通過し、再び角にぶつかり左折。今度は左右に窓しかない廊下を真っ直ぐ進み、漸く、突き当りにギルド長室が見えた。
ギルド長室、結構遠いな……って、あれ? 角を左折して、次の角も左折……? ……180度??
護送の為に横を通過した時とか空から見た限りだと、ギルド全体はかなり広く、いくつかの建物が合体している様ではあったが、どの建物も長方形になっていた。
ギルドの受付等がある建物は、屋根付きで横にデカい長方形の右隣に接していた縦型の長方形だろう。遠方ではあったが目が良くなっているので人が出入りしているのは上空から見えていた。
その縦の長方形を上下で半分に分け、下部分がギルド受付、上部分が今通過してきた部屋とかがあるエリアだと思う。
最初の客室エリアは右上――建物全体の4分の1――部分の丁度真ん中に通路を通し、左右に部屋を作り、ドアは貴族同士が顔を合わせない様にわざと交互に設計したのだろう。
その客室エリアを北上し、突き当りの四角の上辺部分が資料エリアの廊下。壁沿いに左というか西へ進むと、こちらは短い間隔でドアがあった。資料を保管しているならば間隔が狭すぎる様な気もするが、もしかして部屋を縦長――客室エリアの通路と同じ長さ――にし、ギルド受付側からも入れる様にしているのかも? そうしておけば、ギルド職員が資料等必要になった時、即行けて楽だろう。
その資料エリアを抜けてぶつかるのが、四角の左辺。左右に窓はあったが外が見える訳ではなく、どちらも建物が見えたから、南下していると考えると、右手側にあったのが横にデカい長方形の建物で、左手側が資料エリアの部屋の壁。ちなみに、この資料部屋の壁と窓の間は資材置き場の様で、木製の箱とか木剣の様な物がゴロゴロ転がっていた。で、この廊下の突き当り。丁度四角の左辺中央部分にギルド長室がある計算となる。
つまりギルド長室は、本来ならギルド受付側に出てから横断した方が早くないか!?
グーリアスが扉を開き、ギルド長室に通される。
中に入ると、右手側――今は南が正面だから西方向――に窓。この窓からはあのデカい建物の出入り口に繋がる通路というか渡り廊下が丸見えだ。冒険者らしき数人が歩いているのが分かる。
正面には天井まで届く棚があり、書籍っぽい物が並んでいるけど……ダミー? なんというか、妙な違和感がある。ああ、そうだ。空気の壁――じゃなく、魔力の壁で覆われているのかな? 多分、そこに本来ある物を隠し、棚である様に見せかけているのだろう。あたしがダミーだと分かるのは、魔力が高いか、魔術神あたりの加護の影響かな? 普通は見分けるのは無理な気がする。
で、そのダミー棚の前に重厚な作りの木製デスクと革張り擬きの椅子。デスクの上にはインクとか紙とか置いてある。あ、兵舎の通信の間にあった様な魔道具発見。ここから直接、どこかと連絡を取れる様だ。
部屋の左側――方角的には東――に置かれている本物であろう革張りの幅広ソファとローテーブル。そこが客との対話用なのか、座る様に促された。
グーリアスに促されるまま座る――其々のポジションはさっきの控え室と同じ――傍ら、どうせだからとさっき考えた疑問をぶつけてみる。すると、グーリアスとモンド隊長達が驚いた。
「よく気付い――気付きましたな」
「そうなんですかっ!?」
これって、ツッコミを入れるべきなのか、脱力するべきなのか、微妙に悩むんですが……。
確信犯っぽいグーリアスと本気で気付いていなかったっぽいモンド隊長&兵士達の対比が見事ですよ、はい。
まあ、ここまで来る間に一緒に居たから分かるが、モンド隊長達は説明すれば理解してくれる。若干、達観している部分はあるが、理解力は高い方だ。ついでに、あたしに説明を求めるのが普通にもなっていた。今も、「どういう事ですか?」的な目であたしを見ている。これなら、グーリアスへのツッコミだけでいいだろう。
「グーリアス……あんた、あたしを馬鹿にしてんの? ぐるっと半周させられたら気付くっての」
「いや、普通の人は気付かないっ――です。気付くのは、注意力のある人や警戒心の強い人等、どちらかというと危機意識の高い人っす――人です」
「……いちいち言い直さなくていい。丁寧に話すの苦手なんだろうし、いつも通りの言葉遣いでいいよ」
「そうかっ! 助かるっす!」
変わり身早っ!? って、まあ、この反応も普通……というか、冒険者あるある(元の世界基準)か。
ただ所々の語尾に小者臭が漂ってるんだよね……これでギルマス?
速攻で言葉遣いが適当になったグーリアスによると、ぐるっと回るのは方向感覚を狂わせる為とか、建物を広く見せる為の工夫らしい。低位の貴族程くだらない事に拘るから、対策の為そうしたとか。
隊長達がその仕掛け(?)に気付かなかったのは、ある意味、素直だからだろうね~。
「貴族相手に敬意を持って接していないとか難癖付けて、少しでも依頼料を安くするとか、金巻き上げようとかするんで、体裁だけは取り繕う様にしてるっすよ」
「……あっという間にボロが出たその話し方で?」
「勿論、貴族を相手にする職員は決まっているっすよ! 丁寧に接しつつ、利益も上げる凄い職員っす!」
まさに「ドヤァ」的な顔をして説明しているけど……つまり、言葉は丁寧に、態度もそれなりに持ちあげつつ馬鹿貴族を手の平で転がして、正規もしくはそれ以上の依頼料をきっちり回収する敏腕職員に全て丸投げしている、って事だよね?
「そうとも言うっす!」
「そうとしか言わないってのっ!!」
思わずツッコミを入れると、なぜかグーリアスは楽しそうに笑い、モンド隊長を見た。
「リジー殿は面白い人っすね!」
「面白くも凄い方です」
訳分からん。
ってかモンド隊長! 話し掛けられたからって速攻で同意するな! こらっ! そこの隊員達も力強く頷くんじゃないっ!!
「……あたしって面白いの?」
「貴女は貴女です」
「おう!」
「そうじゃのぉ」
ダメだ。聞いた相手が悪かった。
グーリアスやモンド隊長の言葉が引っ掛かり、ネス達にこそっと尋ねた問いの答えは答えになっていない。
ついでにネスは無言で頷くだけ。その頷きの意味は……あたしって、おもろい人って事?
「リジー殿の事や、あのカジスの元支部長の聴取内容、依頼等についてはこちらを確認して下さい」
「おう、どうもっす」
その言葉遣い、あたしは良いって言ったけど、モンド隊長達は許してない筈なんだけど……双方ともに気にしちゃいない! 凄いな、モンド隊長達のスルー力!!
いつの間に用意したのか数枚の書類をモンド隊長はグーリアスに渡し、中を確認する様に促している。
グーリアスも速攻で中を読み、暫く経って頷いた。
「間違いなく。お預かりしやす。ご足労、ありがとうございました」
「はい。後は宜しくお願いします」
あ、話がまとまったようだ。それに、最後だけはグーリアスの言葉がきちんとしている。淀みもない事から、この言葉は言い慣れているのかも?
「それにしても、地方とはいえ1つの団体の隊長を務める方が、護衛依頼の協力者とはいえただ1人の身分を保証するって珍しいっすね」
「それだけ、リジー殿の功績が大きいという事です」
「そっすね。ここに書いてある事以外にも、色々と報告を受けてるっすから……」
あたしの事? 隊長が身分を保証って……最初からそういう約束で護送依頼協力した筈だけど、それって異例な事だったの?
それに功績? あの魔道具とか? あれは神やフォスに協力してもらって出来た物だから、厳密にはあたしの功績にならないんだけど? 礼を言うなら、神の像にでも祈る方が正しいよ。
そんな事を思いながら眺めていると、モンド隊長以下、隊員全員があたしに向き直った。
「リジー殿。今回はご協力、ありがとうございました」
「え? いや、そんなに畏まらなくていいよ。あたしとしても、モンド隊長達との旅は結構楽しかったし」
なにより、身元保証されているから余計なトラブルが(最初以外)なかったのが大きい!
素直にそう言うと、モンド隊長達は朗らかに笑い、きっちり頭を下げてきた。
「我々も貴重な経験ができました。そして、リジー殿と出会えた事で、我々の仕事に大きな利益が生まれました。これはリジー殿だからこそです。ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」
「いやだから、礼はいいって……あたしが気に食わなくて勝手にやった事だし……」
なんか妙に居心地が悪いというか、ばつが悪いというか……。しかも隊長達、初めて普通に笑うものだから、余計にこう……ねぇ?
隊長達の言う『利益』にあたるあの魔道具とか提案とかも、きっかけは、ただ単にあたしの都合だから、お礼を言われてもむず痒いと言うか……。
お、落ち着かない……。
あたしは微妙な顔でもしていたのだろう。隊長達は「リジー殿らしい」とか呟く。
いや、意味解らんから!!
「では、我々はこれで失礼します」
「ご苦労様でした」
「あ、隊長達、元気で」
「はい、リジー殿も、ネスフィル殿もお元気で」
ギルド長室を出て行こうとする隊長達に慌てて声を掛けると、隊長達は再び笑いながら言葉を返し、そのまま扉の外に消えていった。
……あれ?
「……グーリアス」
「はい? なんすか?」
「隊長達、帰っちゃっていいの?」
「リジー殿の身分証明の書類とかは今貰ったっすから大丈夫っす」
「そう……」
いや、それはいいとして……。
「隊長達って、仕事でここまで来たんだよね?」
「そっすね」
「うん。しかも隊長達はギルドの関係者じゃなく、メルディ国の兵士だよね?」
「当たり前じゃないっすか」
「じゃあ、仕事でここまで来たメルディ国の兵士であるモンド隊長達を……ギルド長であるグーリアスが部屋の中から見送るだけでいいの?」
「……ああっ!?」
グーリアスが慌てて立ち上がり、扉の外に消えた隊長達を追い掛ける。
「待って下さいっす! 地下から帰って下さい! でもあの扉はギルド員しか開けられないっすから、待って下さいっすーーーっ!!」
は? ギルド員しかって……おいっ!?
あたしとしては、態々ここまで護送してくれた隊長達に感謝し、最後まで見送るのが筋だと思って言った事だったのに……あたしの想像と違う方向でグーリアスは慌てた訳!?
慌てていた所為で開けっ放しの扉から聞こえるドタドタという足音に頭を抱えながら、あたしはひとつ、愚痴を零す。
「この国の冒険者ギルド、大丈夫か?」
「さあ?」
「分からんのぉ」
「放っとけ」
「どうでしょう?」
うん。独り言のつもりだったんだけど……まあいいか。
やっぱり実用一辺倒な、本当にただ一時的に待機する為だけの部屋って感じで、カーペットもなければ窓もない。一応、天井部分に明かりの魔道具と換気用であろう風が流れる魔道具が埋め込まれ、申し訳程度に何人かで座れるソファが3つ、テーブルが1つ、作業台っぽいハイテーブルが1つ置いてある。他の家具は……ない。ただ座って待てと、そういう事だろう。
隊長達はあたし達にソファへ座る様に促すと、モンド隊長がハイテーブルへ近付き何かの作業を始め、他の兵士4人――カジス2人+ルチタン2人――は出入り口付近の壁に寄り掛かり待機姿勢となった。
彼等を立たせておくのもちょっと微妙だったので座る様に促してみたが、現在任務中だからと辞退してきた。有事の際、即行動できないのは困ると。ホント、隊長達は真面目だね。
勤務中と言われてしまえばこれ以上勧めるのも申し訳ない。あたし達が立っているのも彼等は落ち着かないだろうと思い、ソファに座る事にしたんだけど……念の為、防護結界みたいなものを張っておいた。うん、念の為ね。
それに気付いた隊長や兵士達が苦笑したが何も言わない。そりゃそうだ。ただの『念の為の措置』には何も言えないよね。
そんな感じ(どんな感じ?)で隊長達と無言の遣り取りをしている傍ら、あたしに懐いている神獣達が騒ぎ出した。
その会話を聞いて、放置する事に決めた。あたしの隣に誰が座るかって……アホかこいつ等。
神獣ってこれでいいの? 神の使いや眷属って、これでいいのか!?
『全員、至って真剣です』
うん、その合いの手要らないから!
傍から見れば、アホな事に変わりはない!
誰が隣――しかも、見た目はおばあちゃんの隣――に座るかで牽制し合う神獣達に呆れ、さっき決意した通りネスを構う為、ネスの腕を引きソファの右側に座らせその隣、中央部分にあたしが座る。
さあ。これで残っている席はあたしの左隣1つだけ。さっさと決める様に。あたしはあんた達に構うつもりはない! その証拠に、ネスの頭をなでなでしてやる!
ぽむぽむという感じで頭をなでていると、ネスが尻尾を振り振り擦り寄ってきた。
ネス……あんた、26だよね? なんでこんなに甘えっ子なのよ……。まあ、耳も尻尾も――擽ったいらしく、時々悶えるが――なで放題、もふ放題だから、いいけどね。
あ、髪に隠れていたけど耳の付け根にもふ毛が! つやふわもこ具合がちょっとポリエステル100%素材の冬服に似てる。いい手触りだ。
あたしの行動に神獣達は一瞬黙り込み、次いで即座にじゃんけんを始めた。じゃんけんって……これも昔の召喚された者達の置き土産か何か?
ネスをなでながら眺めていると、何度か続くあいこの末、フォスに決まった様だ。人化した時に残っている牛の尻尾を悠々と振りながらあたしの左隣に腰掛けてきた。あー……ルベルとブラウが悔しそうデスヨ……。
と思ったら、ルベルがバタバタをあたしに駆け寄ってきて、なにを思ったのかあたしの膝の上によじ登りちょこんと座った。これって……膝抱っこ状態? ……ブラウとフォスが歯ぎしりしてる……。
もう勝手にしてと放っておいたら、ブラウが獣化――勿論、大きさは加減している――し、更に縮小。中型位の猫サイズになるとソファの背もたれにピョンと飛び乗り、背後からあたしの首筋にすりすりしてきた。擽ったいよ。
って! 前後左右から一斉に擦り寄るなっ!!!
なんなのこのでっかい甘えっ子達は。
モンド隊長達はこちらを見て苦笑するだけでツッコミを入れる事はない。どうもコレが当たり前になっている様だ。
頼む。コレを普通だと思いスルーしないで……。
ああ、もう! もういい! グーリアスが来るまで、種類の違う4つのもふもふ(一部違う)をもふもふなでなでしまくってやるーーーーーっ!!!
「……どーしたっすか、これ……」
扉を開き、開口一番グーリアスが唖然としながら言った。どうしたって……。
あたしは周囲を見渡す。獣化した4人が床にごろんと転がっているだけ。うん、それだけ――いや違う! 全員、艶ぴかになっている! うん、あたし頑張ったヨ!!
ここで何があったか、一部始終を目撃したモンド隊長達は賢明にも沈黙を守り、そっと目を逸らした。転がっているのが神獣とAプラスランク冒険者だからねー。下手な事は言えないか。
そんな心情をあたしは正確(多分)に読み取り、あっけらかんと口を開く。
「気にするなっ!」
「いや、気にするなって!?」
気にならない訳がないだろうと言わんばかりに一歩、グーリアスが中へ入ると、背後にいたであろうゴーレム馬がその体を鼻先でグイグイ押し込み、できたスペースから足音高く中へと入ってくる。その背には何もない。トイレは外された様だ。
ゴーレム馬は床に転がる者を器用に避けてソファに座るあたしに近寄り、「終わったよー」と言った感じで頷くと、頭を下げてきた。
「お疲れ様。偉いえらい」
頭をなでながら褒めると、鼻を伸ばしながら尻尾がぶんぶん振れる。感情豊かになったなー。
で。賢く良い子なゴーレム馬は、自らトキの中に帰っていった。マジで凄いな、神製……。
「は!? なんだこれ!? なんなんだっ!!?」
ゴーレム馬がアイテムバッグに自ら入っていくのを目撃したグーリアスがパニックを起こした様だ。
うん、正常な反応だなー。新鮮だー。モンド隊長達は、ほぼ初期に達観しちゃったからなー。今も苦笑するだけで平然としている。この差。愉快だねー。
グーリアスが落ち着くまで放っておいて観察するのも面白そうだけど、時間は有限だ。ネス達も復活して人化、元のポジション――あたしの隣、膝上、背後――に戻ったから、強制終了しよう。
「それで? これからどうすれば?」
「へ? は? あ、あれ??」
あたしの問い掛けにグーリアスは意識をこちらの世界に戻した様だが、パニックになる前と様子が異なる事に盛大な疑問を浮かべている。
ほんっとーに、ふっつーの反応だなー。冒険者ギルドのマスター、しかも1つの国の責任者である以上、もうちょっと図太い方が楽だぞー。
『リジーが言うな! です』
おおおおお!? マルがツッコミを覚えたーーーーーっ!!?
だが惜しい! その『です』が不要! その一言の所為で勢いが削がれてしまった。惜しいなー。
『……』
「おーい、グーリアス? どうすればいいか、はっきりしてくれない? あたし、冒険者登録もしたいんだけど?」
「はっ、はいっすっ!」
何某か考え込んでしまった様な感じのマルをスルーし、グーリアスに声を掛ける。
すると、姿勢を正したグーリアスがビシッと敬礼してきた。なぜ? これはあれか? あたし、答礼しないとダメ?
「ここでは詳しい話もできませんので、ギルド長室までの移動をお願いしやす!」
……それは、敬礼して言わなきゃいけない事なのだろうか? しかも、しやす、って……。
さっきの「ぶち込んでくる」や「どーしたっすか」といい、この「しやす」といい、所々で丁寧な言葉が崩れ、化けの皮が剥がれてるなー。無理にギルドマスターらしい(と思われる)態度や言動を取らなくてもいいのにね。
『そのように言ってあげないのですか?』
面白いから放っておく!
『……なるほど』
どんどんあたしに毒されている――というか素(多分)が出てきているマルの納得する様な言葉を見聞きしながら、あたし達はグーリアスと共にギルド長室まで移動する。
どうもこの控え室があった場所もまだ地下だったようで、もう1つ階段を上がると、壁とかは石造りなのに、片方の通路は木の床、片方は石造りの床という場所に出た。
ギルドの受付等があるホール(?)の床は普通に石のままだけど、上位の存在――所謂、貴族とか――を通す部屋やそこに繋がる通路だけは木の床にしているとグーリアスが説明してくれた。特別感を演出する事で、面倒事を極力少なくする為らしい。なるほどね。
で、ギルド長室は、その特別な空間の中にある。体裁は整えておかないと、下位貴族になる程、鬱陶しいとか。ああ……あの小物デブを思い出すと、納得するしかない。
木と石の床の境目が、一般立入制限の目印。あたし達は、本来なら冒険者が迂闊に入る事ができないエリアへと足を踏み入れ、先へ先へ進んでいく。
途中、いくつかの部屋――貴族を通す客室――を通過し、角にぶつかり左折。右手側に窓、左手側にいくつかの部屋がある――資料等が保管されているらしくガッチリ施錠してある――のを見つつ通過し、再び角にぶつかり左折。今度は左右に窓しかない廊下を真っ直ぐ進み、漸く、突き当りにギルド長室が見えた。
ギルド長室、結構遠いな……って、あれ? 角を左折して、次の角も左折……? ……180度??
護送の為に横を通過した時とか空から見た限りだと、ギルド全体はかなり広く、いくつかの建物が合体している様ではあったが、どの建物も長方形になっていた。
ギルドの受付等がある建物は、屋根付きで横にデカい長方形の右隣に接していた縦型の長方形だろう。遠方ではあったが目が良くなっているので人が出入りしているのは上空から見えていた。
その縦の長方形を上下で半分に分け、下部分がギルド受付、上部分が今通過してきた部屋とかがあるエリアだと思う。
最初の客室エリアは右上――建物全体の4分の1――部分の丁度真ん中に通路を通し、左右に部屋を作り、ドアは貴族同士が顔を合わせない様にわざと交互に設計したのだろう。
その客室エリアを北上し、突き当りの四角の上辺部分が資料エリアの廊下。壁沿いに左というか西へ進むと、こちらは短い間隔でドアがあった。資料を保管しているならば間隔が狭すぎる様な気もするが、もしかして部屋を縦長――客室エリアの通路と同じ長さ――にし、ギルド受付側からも入れる様にしているのかも? そうしておけば、ギルド職員が資料等必要になった時、即行けて楽だろう。
その資料エリアを抜けてぶつかるのが、四角の左辺。左右に窓はあったが外が見える訳ではなく、どちらも建物が見えたから、南下していると考えると、右手側にあったのが横にデカい長方形の建物で、左手側が資料エリアの部屋の壁。ちなみに、この資料部屋の壁と窓の間は資材置き場の様で、木製の箱とか木剣の様な物がゴロゴロ転がっていた。で、この廊下の突き当り。丁度四角の左辺中央部分にギルド長室がある計算となる。
つまりギルド長室は、本来ならギルド受付側に出てから横断した方が早くないか!?
グーリアスが扉を開き、ギルド長室に通される。
中に入ると、右手側――今は南が正面だから西方向――に窓。この窓からはあのデカい建物の出入り口に繋がる通路というか渡り廊下が丸見えだ。冒険者らしき数人が歩いているのが分かる。
正面には天井まで届く棚があり、書籍っぽい物が並んでいるけど……ダミー? なんというか、妙な違和感がある。ああ、そうだ。空気の壁――じゃなく、魔力の壁で覆われているのかな? 多分、そこに本来ある物を隠し、棚である様に見せかけているのだろう。あたしがダミーだと分かるのは、魔力が高いか、魔術神あたりの加護の影響かな? 普通は見分けるのは無理な気がする。
で、そのダミー棚の前に重厚な作りの木製デスクと革張り擬きの椅子。デスクの上にはインクとか紙とか置いてある。あ、兵舎の通信の間にあった様な魔道具発見。ここから直接、どこかと連絡を取れる様だ。
部屋の左側――方角的には東――に置かれている本物であろう革張りの幅広ソファとローテーブル。そこが客との対話用なのか、座る様に促された。
グーリアスに促されるまま座る――其々のポジションはさっきの控え室と同じ――傍ら、どうせだからとさっき考えた疑問をぶつけてみる。すると、グーリアスとモンド隊長達が驚いた。
「よく気付い――気付きましたな」
「そうなんですかっ!?」
これって、ツッコミを入れるべきなのか、脱力するべきなのか、微妙に悩むんですが……。
確信犯っぽいグーリアスと本気で気付いていなかったっぽいモンド隊長&兵士達の対比が見事ですよ、はい。
まあ、ここまで来る間に一緒に居たから分かるが、モンド隊長達は説明すれば理解してくれる。若干、達観している部分はあるが、理解力は高い方だ。ついでに、あたしに説明を求めるのが普通にもなっていた。今も、「どういう事ですか?」的な目であたしを見ている。これなら、グーリアスへのツッコミだけでいいだろう。
「グーリアス……あんた、あたしを馬鹿にしてんの? ぐるっと半周させられたら気付くっての」
「いや、普通の人は気付かないっ――です。気付くのは、注意力のある人や警戒心の強い人等、どちらかというと危機意識の高い人っす――人です」
「……いちいち言い直さなくていい。丁寧に話すの苦手なんだろうし、いつも通りの言葉遣いでいいよ」
「そうかっ! 助かるっす!」
変わり身早っ!? って、まあ、この反応も普通……というか、冒険者あるある(元の世界基準)か。
ただ所々の語尾に小者臭が漂ってるんだよね……これでギルマス?
速攻で言葉遣いが適当になったグーリアスによると、ぐるっと回るのは方向感覚を狂わせる為とか、建物を広く見せる為の工夫らしい。低位の貴族程くだらない事に拘るから、対策の為そうしたとか。
隊長達がその仕掛け(?)に気付かなかったのは、ある意味、素直だからだろうね~。
「貴族相手に敬意を持って接していないとか難癖付けて、少しでも依頼料を安くするとか、金巻き上げようとかするんで、体裁だけは取り繕う様にしてるっすよ」
「……あっという間にボロが出たその話し方で?」
「勿論、貴族を相手にする職員は決まっているっすよ! 丁寧に接しつつ、利益も上げる凄い職員っす!」
まさに「ドヤァ」的な顔をして説明しているけど……つまり、言葉は丁寧に、態度もそれなりに持ちあげつつ馬鹿貴族を手の平で転がして、正規もしくはそれ以上の依頼料をきっちり回収する敏腕職員に全て丸投げしている、って事だよね?
「そうとも言うっす!」
「そうとしか言わないってのっ!!」
思わずツッコミを入れると、なぜかグーリアスは楽しそうに笑い、モンド隊長を見た。
「リジー殿は面白い人っすね!」
「面白くも凄い方です」
訳分からん。
ってかモンド隊長! 話し掛けられたからって速攻で同意するな! こらっ! そこの隊員達も力強く頷くんじゃないっ!!
「……あたしって面白いの?」
「貴女は貴女です」
「おう!」
「そうじゃのぉ」
ダメだ。聞いた相手が悪かった。
グーリアスやモンド隊長の言葉が引っ掛かり、ネス達にこそっと尋ねた問いの答えは答えになっていない。
ついでにネスは無言で頷くだけ。その頷きの意味は……あたしって、おもろい人って事?
「リジー殿の事や、あのカジスの元支部長の聴取内容、依頼等についてはこちらを確認して下さい」
「おう、どうもっす」
その言葉遣い、あたしは良いって言ったけど、モンド隊長達は許してない筈なんだけど……双方ともに気にしちゃいない! 凄いな、モンド隊長達のスルー力!!
いつの間に用意したのか数枚の書類をモンド隊長はグーリアスに渡し、中を確認する様に促している。
グーリアスも速攻で中を読み、暫く経って頷いた。
「間違いなく。お預かりしやす。ご足労、ありがとうございました」
「はい。後は宜しくお願いします」
あ、話がまとまったようだ。それに、最後だけはグーリアスの言葉がきちんとしている。淀みもない事から、この言葉は言い慣れているのかも?
「それにしても、地方とはいえ1つの団体の隊長を務める方が、護衛依頼の協力者とはいえただ1人の身分を保証するって珍しいっすね」
「それだけ、リジー殿の功績が大きいという事です」
「そっすね。ここに書いてある事以外にも、色々と報告を受けてるっすから……」
あたしの事? 隊長が身分を保証って……最初からそういう約束で護送依頼協力した筈だけど、それって異例な事だったの?
それに功績? あの魔道具とか? あれは神やフォスに協力してもらって出来た物だから、厳密にはあたしの功績にならないんだけど? 礼を言うなら、神の像にでも祈る方が正しいよ。
そんな事を思いながら眺めていると、モンド隊長以下、隊員全員があたしに向き直った。
「リジー殿。今回はご協力、ありがとうございました」
「え? いや、そんなに畏まらなくていいよ。あたしとしても、モンド隊長達との旅は結構楽しかったし」
なにより、身元保証されているから余計なトラブルが(最初以外)なかったのが大きい!
素直にそう言うと、モンド隊長達は朗らかに笑い、きっちり頭を下げてきた。
「我々も貴重な経験ができました。そして、リジー殿と出会えた事で、我々の仕事に大きな利益が生まれました。これはリジー殿だからこそです。ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」
「いやだから、礼はいいって……あたしが気に食わなくて勝手にやった事だし……」
なんか妙に居心地が悪いというか、ばつが悪いというか……。しかも隊長達、初めて普通に笑うものだから、余計にこう……ねぇ?
隊長達の言う『利益』にあたるあの魔道具とか提案とかも、きっかけは、ただ単にあたしの都合だから、お礼を言われてもむず痒いと言うか……。
お、落ち着かない……。
あたしは微妙な顔でもしていたのだろう。隊長達は「リジー殿らしい」とか呟く。
いや、意味解らんから!!
「では、我々はこれで失礼します」
「ご苦労様でした」
「あ、隊長達、元気で」
「はい、リジー殿も、ネスフィル殿もお元気で」
ギルド長室を出て行こうとする隊長達に慌てて声を掛けると、隊長達は再び笑いながら言葉を返し、そのまま扉の外に消えていった。
……あれ?
「……グーリアス」
「はい? なんすか?」
「隊長達、帰っちゃっていいの?」
「リジー殿の身分証明の書類とかは今貰ったっすから大丈夫っす」
「そう……」
いや、それはいいとして……。
「隊長達って、仕事でここまで来たんだよね?」
「そっすね」
「うん。しかも隊長達はギルドの関係者じゃなく、メルディ国の兵士だよね?」
「当たり前じゃないっすか」
「じゃあ、仕事でここまで来たメルディ国の兵士であるモンド隊長達を……ギルド長であるグーリアスが部屋の中から見送るだけでいいの?」
「……ああっ!?」
グーリアスが慌てて立ち上がり、扉の外に消えた隊長達を追い掛ける。
「待って下さいっす! 地下から帰って下さい! でもあの扉はギルド員しか開けられないっすから、待って下さいっすーーーっ!!」
は? ギルド員しかって……おいっ!?
あたしとしては、態々ここまで護送してくれた隊長達に感謝し、最後まで見送るのが筋だと思って言った事だったのに……あたしの想像と違う方向でグーリアスは慌てた訳!?
慌てていた所為で開けっ放しの扉から聞こえるドタドタという足音に頭を抱えながら、あたしはひとつ、愚痴を零す。
「この国の冒険者ギルド、大丈夫か?」
「さあ?」
「分からんのぉ」
「放っとけ」
「どうでしょう?」
うん。独り言のつもりだったんだけど……まあいいか。
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