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9話 大樹と葵
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あの日から暫く経ったけど、特に変わった様子もなく紫雨さんはいつも通り優しい。
でもどこかやっぱり触れることに敏感なようで、俺から急に触れるような事はしないけど、それを察してなのか紫雨さんからのスキンシップが増えた気がする…
だけどそういう雰囲気になるとその先に進めないのはやっぱり何かあるのか、それともやっぱり俺が他でシてる事に嫌悪感を抱いての事なのか。
こんなんじゃいくら優しい紫雨さんでも、もう受け入れてはくれないよな…
だけど、あの時の件について改めて聞かれる事も無く、お互い気になっているであろう事をあえて口にする事は無かった。
「紫雨さん?どっか行くの?」
「あぁ、今日は友達と約束があってさ」
「友達…?」
「おぅ、葵は?バイト休み?」
「あ、えっと午後から…」
「そっか、出かける時戸締りよろしくな」
「…うん」
「じゃあ行ってくるね~」
「うん…いってらっしゃい」
友達か…そうだよね、大人でも友達の一人や二人いて当たり前だろう。
でも俺にはもう、友達と呼べるやつがいない。
あの事があってたら俺は友達を作るのを止めたんだ…
なんか思い出したくもない事を思い出しそうで、頭を横に振って気を紛らわした。
まぁでも忘れたくても忘れられるわけもない…
今でもそれは俺に付き纏って離れることは無いんだから。
紫雨さんが出かけてから暫くして玄関のチャイムが鳴った。
家主でもない俺が出ていいものかと思って、チラッと庭から門を眺めると見た事のある男の人が立っていた。
あれ?なんの用だろう…
いない事知らないのかな?
取り敢えず知らない人でもないので自動で門を開け暫くすると、引き戸が開きキョトンとした顔と目が合った。
「先生部屋におる?」
「あの…紫雨さんは今日出かけてて…」
「はへっ!?出かけとるってどこに?」
「えっと、友達と約束してるって…」
「嘘やろ!?俺に何も言わんとあの人は…!」
プリプリと怒る大樹さんになんか申し訳ない気持ちになって、俺が紫雨さんの管理をしている訳でもないが何となく謝ってみる。
「なんか、すいません…」
「やや、葵くんが謝ることちゃうから」
「でもどうしよう…行先とかまでわかんない」
「あぁ、ええんよ。気にせんどいて?別に特に用があった訳でも ないねん…あ!せや、せっかくやしちょっと話せえへん?」
「え?俺…?」
「おん!」
せっかく来たのにこのまま帰ってくれとも言えず、バイトの時間まではまだ暫くあるしと、渋々大樹さんを部屋に通した。
テーブルで向き合えば大樹さんの方から次々と質問が飛んでくる。
最初紹介された時に、あまりよく思われてないんだろうという事くらいは分かってたから余計に警戒してしまう。
けど以外に聞かれたくないような裏事情なんかには全く触れてこず、紫雨さんが知ってるであろう事を改めて聞かれた感じだ。
そして、話しやすい雰囲気も相まって大樹さんのペースに流されていけば、いつの間にかペラペラと話している自分に気付く。
「ははっ、そうかぁ…んなら上手い事やってんねんな」
「はい…お陰様で」
「まぁ、紫雨さんも葵くんが来てから調子よさそうやし…ええんちゃう?このまま一緒に住んだらええやん」
「…それは」
「あかんの?…じゃあ葵くんはいつかここを出てくつもりなんか?」
そうだ…俺いつまでここにいるつもりなんだ?
決心が鈍るからぬるま湯には浸かりたくないと思ってたのに、いつの間にか居心地が良すぎて紫雨さんとの生活が当たり前になってしまってたんだ。
「葵くん?」
「あ…うん…出ていかなきゃ」
「紫雨さんたぶんそんな事望んでへんで?」
「え?」
「だって好きやもん、葵くんの事。手放したくないんちゃう?」
すき…?好きって…嬉しいけど…
でもやっぱりあんな事してる俺の事なんか好きになるわけないと、グッと握り拳に力が入る。
「紫雨さんは別に俺の事…そんな風に思ってないと思います…」
「…分からへんかな?大事にされてんねんで?君…」
「時々避けられてる気もするし…違うと思う」
「避けられてるって?」
「…なんて言うか、俺が触るのを嫌がる…と言うか…多分触れてほしくないんだと思う…」
「もしかしてなんも聞いてへんの?」
「なんもって…?」
「紫雨さんの体質の事や」
「体…質?」
そんな話は少しも聞いた事がない…
そういや、大樹さんは結構長い間、紫雨さんの担当をやってるって言ってた。
俺は大樹さんからその紫雨さんの体質とやらの話を、事細かに聞かせてもらった。
にわかには信じがたい話だが、今までの紫雨さんの行動からすれば全て合点がいく…
恥ずかしいながらも詳しく知りたくて、自分の体験談も織り交ぜながら話を進めていった。
「せやけどそんな状態でようできたな…感心するわ。それ、紫雨さん相当本気やで?」
「好きな人だけ…触れると痛いの?」
「せやな…信じられへんかもやけどホンマにそうやねん…だからあの人ずっと本気の恋してへんのや…」
「そうだったんだ…」
だからあんなに苦しんで…
でもじゃあ紫雨さんは本当に俺の事本気で…?
「せやからな?葵くんは愛されてんねんて…」
心を読まれたかのような発言にめちゃくちゃ恥ずかしくなって、思わず大樹さんから目を逸らした。
でも好き人にだけ触れられないなんて、そんな事本当にあるんだろうか…
「ねぇ、それって好きじゃない人なら何しても平気って事…だよね?」
「おん…そういう事になるな?現に俺は何しても…っ」
「ん…?」
「や、ほらっ!触っても別に平気やねんっ」
「あぁ、そうだよね…」
慌てて俺から目を逸らした大樹さん。
紫雨さんとの間に何かあるんだろうか…
紫雨さんの事、本当に何も知らないんだと再認識した俺は、もう少し心を開いてもいいのかもと思いながら、大樹さんと別れバイトに向かった。
でもどこかやっぱり触れることに敏感なようで、俺から急に触れるような事はしないけど、それを察してなのか紫雨さんからのスキンシップが増えた気がする…
だけどそういう雰囲気になるとその先に進めないのはやっぱり何かあるのか、それともやっぱり俺が他でシてる事に嫌悪感を抱いての事なのか。
こんなんじゃいくら優しい紫雨さんでも、もう受け入れてはくれないよな…
だけど、あの時の件について改めて聞かれる事も無く、お互い気になっているであろう事をあえて口にする事は無かった。
「紫雨さん?どっか行くの?」
「あぁ、今日は友達と約束があってさ」
「友達…?」
「おぅ、葵は?バイト休み?」
「あ、えっと午後から…」
「そっか、出かける時戸締りよろしくな」
「…うん」
「じゃあ行ってくるね~」
「うん…いってらっしゃい」
友達か…そうだよね、大人でも友達の一人や二人いて当たり前だろう。
でも俺にはもう、友達と呼べるやつがいない。
あの事があってたら俺は友達を作るのを止めたんだ…
なんか思い出したくもない事を思い出しそうで、頭を横に振って気を紛らわした。
まぁでも忘れたくても忘れられるわけもない…
今でもそれは俺に付き纏って離れることは無いんだから。
紫雨さんが出かけてから暫くして玄関のチャイムが鳴った。
家主でもない俺が出ていいものかと思って、チラッと庭から門を眺めると見た事のある男の人が立っていた。
あれ?なんの用だろう…
いない事知らないのかな?
取り敢えず知らない人でもないので自動で門を開け暫くすると、引き戸が開きキョトンとした顔と目が合った。
「先生部屋におる?」
「あの…紫雨さんは今日出かけてて…」
「はへっ!?出かけとるってどこに?」
「えっと、友達と約束してるって…」
「嘘やろ!?俺に何も言わんとあの人は…!」
プリプリと怒る大樹さんになんか申し訳ない気持ちになって、俺が紫雨さんの管理をしている訳でもないが何となく謝ってみる。
「なんか、すいません…」
「やや、葵くんが謝ることちゃうから」
「でもどうしよう…行先とかまでわかんない」
「あぁ、ええんよ。気にせんどいて?別に特に用があった訳でも ないねん…あ!せや、せっかくやしちょっと話せえへん?」
「え?俺…?」
「おん!」
せっかく来たのにこのまま帰ってくれとも言えず、バイトの時間まではまだ暫くあるしと、渋々大樹さんを部屋に通した。
テーブルで向き合えば大樹さんの方から次々と質問が飛んでくる。
最初紹介された時に、あまりよく思われてないんだろうという事くらいは分かってたから余計に警戒してしまう。
けど以外に聞かれたくないような裏事情なんかには全く触れてこず、紫雨さんが知ってるであろう事を改めて聞かれた感じだ。
そして、話しやすい雰囲気も相まって大樹さんのペースに流されていけば、いつの間にかペラペラと話している自分に気付く。
「ははっ、そうかぁ…んなら上手い事やってんねんな」
「はい…お陰様で」
「まぁ、紫雨さんも葵くんが来てから調子よさそうやし…ええんちゃう?このまま一緒に住んだらええやん」
「…それは」
「あかんの?…じゃあ葵くんはいつかここを出てくつもりなんか?」
そうだ…俺いつまでここにいるつもりなんだ?
決心が鈍るからぬるま湯には浸かりたくないと思ってたのに、いつの間にか居心地が良すぎて紫雨さんとの生活が当たり前になってしまってたんだ。
「葵くん?」
「あ…うん…出ていかなきゃ」
「紫雨さんたぶんそんな事望んでへんで?」
「え?」
「だって好きやもん、葵くんの事。手放したくないんちゃう?」
すき…?好きって…嬉しいけど…
でもやっぱりあんな事してる俺の事なんか好きになるわけないと、グッと握り拳に力が入る。
「紫雨さんは別に俺の事…そんな風に思ってないと思います…」
「…分からへんかな?大事にされてんねんで?君…」
「時々避けられてる気もするし…違うと思う」
「避けられてるって?」
「…なんて言うか、俺が触るのを嫌がる…と言うか…多分触れてほしくないんだと思う…」
「もしかしてなんも聞いてへんの?」
「なんもって…?」
「紫雨さんの体質の事や」
「体…質?」
そんな話は少しも聞いた事がない…
そういや、大樹さんは結構長い間、紫雨さんの担当をやってるって言ってた。
俺は大樹さんからその紫雨さんの体質とやらの話を、事細かに聞かせてもらった。
にわかには信じがたい話だが、今までの紫雨さんの行動からすれば全て合点がいく…
恥ずかしいながらも詳しく知りたくて、自分の体験談も織り交ぜながら話を進めていった。
「せやけどそんな状態でようできたな…感心するわ。それ、紫雨さん相当本気やで?」
「好きな人だけ…触れると痛いの?」
「せやな…信じられへんかもやけどホンマにそうやねん…だからあの人ずっと本気の恋してへんのや…」
「そうだったんだ…」
だからあんなに苦しんで…
でもじゃあ紫雨さんは本当に俺の事本気で…?
「せやからな?葵くんは愛されてんねんて…」
心を読まれたかのような発言にめちゃくちゃ恥ずかしくなって、思わず大樹さんから目を逸らした。
でも好き人にだけ触れられないなんて、そんな事本当にあるんだろうか…
「ねぇ、それって好きじゃない人なら何しても平気って事…だよね?」
「おん…そういう事になるな?現に俺は何しても…っ」
「ん…?」
「や、ほらっ!触っても別に平気やねんっ」
「あぁ、そうだよね…」
慌てて俺から目を逸らした大樹さん。
紫雨さんとの間に何かあるんだろうか…
紫雨さんの事、本当に何も知らないんだと再認識した俺は、もう少し心を開いてもいいのかもと思いながら、大樹さんと別れバイトに向かった。
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