君に触れたい

むらさきおいも

文字の大きさ
9 / 20

9話 大樹と葵

しおりを挟む
あの日から暫く経ったけど、特に変わった様子もなく紫雨さんはいつも通り優しい。

でもどこかやっぱり触れることに敏感なようで、俺から急に触れるような事はしないけど、それを察してなのか紫雨さんからのスキンシップが増えた気がする…

だけどそういう雰囲気になるとその先に進めないのはやっぱり何かあるのか、それともやっぱり俺が他でシてる事に嫌悪感を抱いての事なのか。

こんなんじゃいくら優しい紫雨さんでも、もう受け入れてはくれないよな…

だけど、あの時の件について改めて聞かれる事も無く、お互い気になっているであろう事をあえて口にする事は無かった。


「紫雨さん?どっか行くの?」

「あぁ、今日は友達と約束があってさ」

「友達…?」

「おぅ、葵は?バイト休み?」

「あ、えっと午後から…」

「そっか、出かける時戸締りよろしくな」

「…うん」

「じゃあ行ってくるね~」

「うん…いってらっしゃい」
 

友達か…そうだよね、大人でも友達の一人や二人いて当たり前だろう。

でも俺にはもう、友達と呼べるやつがいない。
あの事があってたら俺は友達を作るのを止めたんだ…

なんか思い出したくもない事を思い出しそうで、頭を横に振って気を紛らわした。

まぁでも忘れたくても忘れられるわけもない…
今でもそれは俺に付き纏って離れることは無いんだから。

紫雨さんが出かけてから暫くして玄関のチャイムが鳴った。

家主でもない俺が出ていいものかと思って、チラッと庭から門を眺めると見た事のある男の人が立っていた。

あれ?なんの用だろう…
いない事知らないのかな?

取り敢えず知らない人でもないので自動で門を開け暫くすると、引き戸が開きキョトンとした顔と目が合った。


「先生部屋におる?」

「あの…紫雨さんは今日出かけてて…」 

「はへっ!?出かけとるってどこに?」

「えっと、友達と約束してるって…」 

「嘘やろ!?俺に何も言わんとあの人は…!」


プリプリと怒る大樹さんになんか申し訳ない気持ちになって、俺が紫雨さんの管理をしている訳でもないが何となく謝ってみる。


「なんか、すいません…」

「やや、葵くんが謝ることちゃうから」

「でもどうしよう…行先とかまでわかんない」

「あぁ、ええんよ。気にせんどいて?別に特に用があった訳でも  ないねん…あ!せや、せっかくやしちょっと話せえへん?」

「え?俺…?」

「おん!」


せっかく来たのにこのまま帰ってくれとも言えず、バイトの時間まではまだ暫くあるしと、渋々大樹さんを部屋に通した。

テーブルで向き合えば大樹さんの方から次々と質問が飛んでくる。

最初紹介された時に、あまりよく思われてないんだろうという事くらいは分かってたから余計に警戒してしまう。

けど以外に聞かれたくないような裏事情なんかには全く触れてこず、紫雨さんが知ってるであろう事を改めて聞かれた感じだ。

そして、話しやすい雰囲気も相まって大樹さんのペースに流されていけば、いつの間にかペラペラと話している自分に気付く。


「ははっ、そうかぁ…んなら上手い事やってんねんな」

「はい…お陰様で」

「まぁ、紫雨さんも葵くんが来てから調子よさそうやし…ええんちゃう?このまま一緒に住んだらええやん」

「…それは」

「あかんの?…じゃあ葵くんはいつかここを出てくつもりなんか?」


そうだ…俺いつまでここにいるつもりなんだ?

決心が鈍るからぬるま湯には浸かりたくないと思ってたのに、いつの間にか居心地が良すぎて紫雨さんとの生活が当たり前になってしまってたんだ。


「葵くん?」

「あ…うん…出ていかなきゃ」

「紫雨さんたぶんそんな事望んでへんで?」

「え?」

「だって好きやもん、葵くんの事。手放したくないんちゃう?」


すき…?好きって…嬉しいけど…

でもやっぱりあんな事してる俺の事なんか好きになるわけないと、グッと握り拳に力が入る。


「紫雨さんは別に俺の事…そんな風に思ってないと思います…」

「…分からへんかな?大事にされてんねんで?君…」

「時々避けられてる気もするし…違うと思う」

「避けられてるって?」

「…なんて言うか、俺が触るのを嫌がる…と言うか…多分触れてほしくないんだと思う…」

「もしかしてなんも聞いてへんの?」

「なんもって…?」

「紫雨さんの体質の事や」

「体…質?」


そんな話は少しも聞いた事がない…

そういや、大樹さんは結構長い間、紫雨さんの担当をやってるって言ってた。

俺は大樹さんからその紫雨さんの体質とやらの話を、事細かに聞かせてもらった。

にわかには信じがたい話だが、今までの紫雨さんの行動からすれば全て合点がいく…

恥ずかしいながらも詳しく知りたくて、自分の体験談も織り交ぜながら話を進めていった。


「せやけどそんな状態でようできたな…感心するわ。それ、紫雨さん相当本気やで?」

「好きな人だけ…触れると痛いの?」

「せやな…信じられへんかもやけどホンマにそうやねん…だからあの人ずっと本気の恋してへんのや…」

「そうだったんだ…」


だからあんなに苦しんで…
でもじゃあ紫雨さんは本当に俺の事本気で…?
 

「せやからな?葵くんは愛されてんねんて…」


心を読まれたかのような発言にめちゃくちゃ恥ずかしくなって、思わず大樹さんから目を逸らした。

でも好き人にだけ触れられないなんて、そんな事本当にあるんだろうか…


「ねぇ、それって好きじゃない人なら何しても平気って事…だよね?」

「おん…そういう事になるな?現に俺は何しても…っ」 

「ん…?」

「や、ほらっ!触っても別に平気やねんっ」

「あぁ、そうだよね…」


慌てて俺から目を逸らした大樹さん。
紫雨さんとの間に何かあるんだろうか…

紫雨さんの事、本当に何も知らないんだと再認識した俺は、もう少し心を開いてもいいのかもと思いながら、大樹さんと別れバイトに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...