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12話 紫雨の覚悟
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玄関のチャイムの音に慌てて後処理をして、身なりを整えベットから立ち上がり、引き戸を開けてリビングに出ると、足元が何故か濡れていて違和感を覚えた。
今日はまだ風呂にも入ってないし何かこぼした覚えもないが…
とりあえずインターフォンを確認すれば頼んでいた荷物が届いた様で、急いで玄関を出て荷物を受け取った。
そしてふっと視線を落とした時に心臓がドキッと跳ね上がった。
葵の靴…?えっ、嘘だろ…?
帰って…来てる…?
だけど当たりを見回しても葵の姿はない…
でもこの家のどこかに葵がいるとしたら、顔を出さない理由は一つしかないだろう。
「葵っ!?葵どこっ?帰ってきてんだろっ?」
「どないしたん!?葵くん帰ってたんか?」
「うん…多分…靴あるし…」
「っ…ほんまか…?うわ…やってもぉたぁ…」
本来ならこの時間に帰ってくるはずのない葵が帰ってきてる…
事情はともかく、葵が持ってる靴はこれだけなのは確かだから外に出たわけでも無さそうだ。
「ごめん…大樹…今日はもう…」
「おん…せやな、今日は帰らせてもらうわ…」
「悪いな…」
「…けど紫雨さん、さっき言った事は本心でで…」
「えっ…?」
「取られたないねん…」
さっきまでバツの悪そうな顔をしていた大樹が急に視線を外し、しおらしくポツリと呟いた。
「大…樹っ…?」
「ほなっ、先進めといてな!」
先程の表情とは打って変わって笑顔に戻り靴を履き終えると、ヒラヒラと手を振りながら、一切振り返りもせず帰って行った。
そんな大樹を玄関で見送り、複雑な心境にかられながらも、帰ってきてるはずの葵を探す。
当たりを見回し隠れる場所なんてさほどないこの家の中で、隠れられる場所なんてたかが知れてる。
そして、廊下の突き当たりのトイレの扉を開けようとドアノブをそっと回すと、すんなりとドアが開いた。
「あっ、だめっ!」
「…っ、だったらなんで鍵閉めないの?」
「えっ、あっ…」
しまった…とばかりに必死にドアノブを掴んでドアを閉めようとする葵…
こんなに時にだって、そんな彼が可愛くて愛おしくて仕方ない。
「そんなこと考えてる余裕なかったか…」
「だってぇっ…グスッ」
「そうだよな。ごめん…見たんだろ…?何つうか…ちゃんと話…しない?」
半べそでしゃがみこみ俺を見上げる葵が、何を思ってここに隠れたのか…
葵の気持ちを直接聞いた事もなければ、もちろん自分の気持ちを話したこともない。
俺はドアが閉まらないように足を入れ込んで体をねじ込ませ、ドアノブを掴んでる葵の両手をそっと引き剥がすと、だまったまま俯く葵をそっと抱きしめた。
「…っ!?紫雨さん…駄目っ!」
「大樹から…聞いたんだろ…っ?」
たぶん葵なりの優しさなんだろう…
俺を引き剥がそうにも触れたらと思うと出来ないのか、両手を宙に浮かせたまま俺の腕の中で固まっている。
「ありえないよな…こんなの。俺だってどうしていいかわかんねぇんだ…」
「あのっ…大樹くんはっ…大樹くんの事は好きじゃないの?」
「あいつに恋愛感情はねぇよ。良い奴だけど…ただ、好きな人と出来ないから…ああやってたまに…」
「今…痛くないの…?」
「痛てぇよ…葵に触れるとめっちゃ痛ぇ…」
「…っ、じゃあ離してよっ…なんでっ…」
「好きだからっ…」
ビクッと身体を震わせた葵を力いっぱいに抱きしめると、触れてる部分全てが痛い…
けどこの気持ちだけはちゃんと伝えたいんだ。
「俺、葵の事が好きなの。さっきあんな事しといて説得力ないかもだけど、マジなの…でもだからこそ痛てぇ…こんな奴…嫌だよな?」
「…っ、嫌じゃ…ないっ」
「ほんとに…?」
「うん…」
「さっきの…ごめんな…。もうしねぇから…」
「でも俺じゃ…っ、出来ないから…」
「そんなこと気にすんな…シなくたって死にゃしねぇ」
「っ、でも…」
「いてくれるだけでいい…どこにも行くな…」
こんなの俺のわがままだよな…
葵はそれじゃ嫌かもしれないのに、それでもどうしても手離したくないんだ。
離したくないのに、こんな決心も揺らぐほどに全身が痺れて痛くてどうしようも無くて苦しいのに…っ。
その内にさっきまで固まってた葵の力がだんだん抜けて、ほっとしたと思ったのもつかの間、両手をだらりと下げ俺に寄りかかってきた時に初めて葵の異変に気がついたんだ。
「…っ!?…あお…い?」
「んぅ……」
慌てて腕の中の葵を見れば、真っ青な顔で表情は虚ろ、額には汗が滲んで触れるとかなり熱が高い事が伺えた。
「おまっ…熱あんじゃんっ!もしかしてそれで
帰ってきたの?」
「ん…帰れって言われて…」
「ばかっ!早く言えよっ!」
痛いとか思ってる場合じゃなかった…
真っ直ぐ座ってる事さえままならない葵を抱えて、やっとの思いでベットまで運べば、自分も痛みを堪えたせいで汗だくだ。
「はぁ…っ、ふぅ…夕飯までとにかく寝てろ」
「ん…っ、ごめん…」
腕で顔を隠しながら涙声で謝るからいたたまれなくなって、葵の腕をどかし目を合わせて指で涙を拭う。
「大丈夫だから…な?」
「んっ…」
苦しそうに呼吸する葵の汗を拭いながら眠るまで傍にいれば、よっぽど辛かったのか直ぐに瞼が閉じて眠ってしまった。
一先ずほっとして寝顔を眺めながら思い返してみれば、最近バイトの休みもなく帰りも遅かったし、バイト以外に他にも何かしてるんじゃないかと心配になってきた…
俺に出来ることがあるならしてやりたい…
起きたら話してくれるだろうか…
話してくれない事には先に進まないし、とにかく葵が起きたら今日こそきちんと話をしようと心に決めた。
今日はまだ風呂にも入ってないし何かこぼした覚えもないが…
とりあえずインターフォンを確認すれば頼んでいた荷物が届いた様で、急いで玄関を出て荷物を受け取った。
そしてふっと視線を落とした時に心臓がドキッと跳ね上がった。
葵の靴…?えっ、嘘だろ…?
帰って…来てる…?
だけど当たりを見回しても葵の姿はない…
でもこの家のどこかに葵がいるとしたら、顔を出さない理由は一つしかないだろう。
「葵っ!?葵どこっ?帰ってきてんだろっ?」
「どないしたん!?葵くん帰ってたんか?」
「うん…多分…靴あるし…」
「っ…ほんまか…?うわ…やってもぉたぁ…」
本来ならこの時間に帰ってくるはずのない葵が帰ってきてる…
事情はともかく、葵が持ってる靴はこれだけなのは確かだから外に出たわけでも無さそうだ。
「ごめん…大樹…今日はもう…」
「おん…せやな、今日は帰らせてもらうわ…」
「悪いな…」
「…けど紫雨さん、さっき言った事は本心でで…」
「えっ…?」
「取られたないねん…」
さっきまでバツの悪そうな顔をしていた大樹が急に視線を外し、しおらしくポツリと呟いた。
「大…樹っ…?」
「ほなっ、先進めといてな!」
先程の表情とは打って変わって笑顔に戻り靴を履き終えると、ヒラヒラと手を振りながら、一切振り返りもせず帰って行った。
そんな大樹を玄関で見送り、複雑な心境にかられながらも、帰ってきてるはずの葵を探す。
当たりを見回し隠れる場所なんてさほどないこの家の中で、隠れられる場所なんてたかが知れてる。
そして、廊下の突き当たりのトイレの扉を開けようとドアノブをそっと回すと、すんなりとドアが開いた。
「あっ、だめっ!」
「…っ、だったらなんで鍵閉めないの?」
「えっ、あっ…」
しまった…とばかりに必死にドアノブを掴んでドアを閉めようとする葵…
こんなに時にだって、そんな彼が可愛くて愛おしくて仕方ない。
「そんなこと考えてる余裕なかったか…」
「だってぇっ…グスッ」
「そうだよな。ごめん…見たんだろ…?何つうか…ちゃんと話…しない?」
半べそでしゃがみこみ俺を見上げる葵が、何を思ってここに隠れたのか…
葵の気持ちを直接聞いた事もなければ、もちろん自分の気持ちを話したこともない。
俺はドアが閉まらないように足を入れ込んで体をねじ込ませ、ドアノブを掴んでる葵の両手をそっと引き剥がすと、だまったまま俯く葵をそっと抱きしめた。
「…っ!?紫雨さん…駄目っ!」
「大樹から…聞いたんだろ…っ?」
たぶん葵なりの優しさなんだろう…
俺を引き剥がそうにも触れたらと思うと出来ないのか、両手を宙に浮かせたまま俺の腕の中で固まっている。
「ありえないよな…こんなの。俺だってどうしていいかわかんねぇんだ…」
「あのっ…大樹くんはっ…大樹くんの事は好きじゃないの?」
「あいつに恋愛感情はねぇよ。良い奴だけど…ただ、好きな人と出来ないから…ああやってたまに…」
「今…痛くないの…?」
「痛てぇよ…葵に触れるとめっちゃ痛ぇ…」
「…っ、じゃあ離してよっ…なんでっ…」
「好きだからっ…」
ビクッと身体を震わせた葵を力いっぱいに抱きしめると、触れてる部分全てが痛い…
けどこの気持ちだけはちゃんと伝えたいんだ。
「俺、葵の事が好きなの。さっきあんな事しといて説得力ないかもだけど、マジなの…でもだからこそ痛てぇ…こんな奴…嫌だよな?」
「…っ、嫌じゃ…ないっ」
「ほんとに…?」
「うん…」
「さっきの…ごめんな…。もうしねぇから…」
「でも俺じゃ…っ、出来ないから…」
「そんなこと気にすんな…シなくたって死にゃしねぇ」
「っ、でも…」
「いてくれるだけでいい…どこにも行くな…」
こんなの俺のわがままだよな…
葵はそれじゃ嫌かもしれないのに、それでもどうしても手離したくないんだ。
離したくないのに、こんな決心も揺らぐほどに全身が痺れて痛くてどうしようも無くて苦しいのに…っ。
その内にさっきまで固まってた葵の力がだんだん抜けて、ほっとしたと思ったのもつかの間、両手をだらりと下げ俺に寄りかかってきた時に初めて葵の異変に気がついたんだ。
「…っ!?…あお…い?」
「んぅ……」
慌てて腕の中の葵を見れば、真っ青な顔で表情は虚ろ、額には汗が滲んで触れるとかなり熱が高い事が伺えた。
「おまっ…熱あんじゃんっ!もしかしてそれで
帰ってきたの?」
「ん…帰れって言われて…」
「ばかっ!早く言えよっ!」
痛いとか思ってる場合じゃなかった…
真っ直ぐ座ってる事さえままならない葵を抱えて、やっとの思いでベットまで運べば、自分も痛みを堪えたせいで汗だくだ。
「はぁ…っ、ふぅ…夕飯までとにかく寝てろ」
「ん…っ、ごめん…」
腕で顔を隠しながら涙声で謝るからいたたまれなくなって、葵の腕をどかし目を合わせて指で涙を拭う。
「大丈夫だから…な?」
「んっ…」
苦しそうに呼吸する葵の汗を拭いながら眠るまで傍にいれば、よっぽど辛かったのか直ぐに瞼が閉じて眠ってしまった。
一先ずほっとして寝顔を眺めながら思い返してみれば、最近バイトの休みもなく帰りも遅かったし、バイト以外に他にも何かしてるんじゃないかと心配になってきた…
俺に出来ることがあるならしてやりたい…
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