君に触れたい

むらさきおいも

文字の大きさ
20 / 20

最終話

しおりを挟む
次の日、目を覚ますとすやすやと寝息を立てて眠る葵の寝顔が目の前にあって、その頬に触れるべくそっと手を伸ばした。

その時…


「う"っ…」

「…んぅ、紫雨…さん…?」

「痛っ…てぇ…」

「紫雨さんっ、紫雨さん!大丈夫!?」

「あぁ…大丈夫…」

「やっぱり…治ってなかったんだ…」 


俺に気を使いながら心配そうな表情を見せる葵だけど、やっぱりそれはどこか寂しげで、今日はもう昨日のようにはいかないのかと俺も少し残念な気持ちになった。

だけど何かおかしい…
俺のもう片方の腕は、昨日の夜からずっと葵の頭の下敷きになっているのに、あの独特な痛みは全くない。
強いて言うなら痺れてるくらいだ。

じゃあ今の痛みは…
よくよく考えてみれば触れた指先ではなく、肩から腰にかけて痛みが走ったようにも思える。

もう一度ゆっくりと葵の頬に触れれば指先に痛みは感じない。

そのまま葵の頬に流れた涙を拭って、体制を整えようとすると腰に痛みが走った。


「あ"っ…」

「紫雨さんっ…!」

「腰…っ」

「え?」

「腰が痛てぇ…」

「指…は…?」

「よく見てみ?葵の頭の下…」


葵は慌てた様子で体を起こしその状況を確認すると、まん丸のお目目で俺を見つめてくる…


「…!?痛く…ないの?」

「おぅ、痛くない」

「じゃあ…っ」

「とりあえず、克服できたのかもな。先生に連絡しなきゃ」

「紫雨さんっ…うぅ…っ」

「せっかく涙拭いてやったのに…また泣くの?」

「だってぇ…」


グズグズと泣き出す葵が可愛すぎて、そのまま俺の腕の中に収めた。

触れている箇所の痛みはない。

ただ腰やら肩やらが痛いのはきっと別の理由…
こんなに幸せな痛みならあっても悪くないな。

それでも葵は遠慮がちに手を回してこようとはせず、布団をぎゅっと掴んだまま…


「葵…俺の事も抱きしめてよ」

「…っ、うん」


ゆっくりと葵の手が俺の背中に回ると、さっきよりも肌が触れ合って葵の温もりを感じられる。

神様…どうかもう二度とあんな思いさせないでくれよ。
俺、こいつの事本気で大事にするからさ。


「…ほんとに…平気?」


俺の胸の辺りから顔をひょこっと出して、まだ涙目のまま上目遣いで問いかけてくるからたまったもんじゃない。


「全然平気…むしろもっとこっちきて…」

「もうこれ以上近づけないよ?」

「ふふっ…じゃあ俺から行くわ…」


どういうこと?とでも言いたげにキョトンとした表情の葵の顔を覗き込み、無防備な唇を塞げば柔らかくて気持ちいい…

下敷きになってた腕を引き抜き、葵の上に覆い被さりもう一度唇を重ね、優しく挟み込むように何度も角度を変えながら葵の唇を堪能した。


「…っ、ん、ふ…っ、はぁっ…紫雨さ…っ」

「違うだろ…っ、昨日教えよな…?」

「ん…っ、ゆ…うっ…////」

「堪んないね…っ、葵…」

「優…っ、俺っ、ちゃんと話さなきゃいけない事がある…っ」

「うん、後で聞く…今はこっちに集中して…」

「んぅ…っ////」

「大丈夫…俺が絶対守ってやるから…」

「んっ…優…っ」


やっと…やっと普通の恋愛ができる。
これで俺らを阻むものはなくなった。
これからは俺が全力で葵を幸せにしてやる。
もう、離さないからな。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...