君に触れたい

桜ゆき

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最終話

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次の日、目を覚ますとすやすやと寝息を立てて眠る葵の寝顔が目の前にあって、その頬に触れるべくそっと手を伸ばした。

その時…


「う"っ…」

「…んぅ、紫雨…さん…?」

「痛っ…てぇ…」

「紫雨さんっ、紫雨さん!大丈夫!?」

「あぁ…大丈夫…」

「やっぱり…治ってなかったんだ…」 


俺に気を使いながら心配そうな表情を見せる葵だけど、やっぱりそれはどこか寂しげで、今日はもう昨日のようにはいかないのかと俺も少し残念な気持ちになった。

だけど何かおかしい…
俺のもう片方の腕は、昨日の夜からずっと葵の頭の下敷きになっているのに、あの独特な痛みは全くない。
強いて言うなら痺れてるくらいだ。

じゃあ今の痛みは…
よくよく考えてみれば触れた指先ではなく、肩から腰にかけて痛みが走ったようにも思える。

もう一度ゆっくりと葵の頬に触れれば指先に痛みは感じない。

そのまま葵の頬に流れた涙を拭って、体制を整えようとすると腰に痛みが走った。


「あ"っ…」

「紫雨さんっ…!」

「腰…っ」

「え?」

「腰が痛てぇ…」

「指…は…?」

「よく見てみ?葵の頭の下…」


葵は慌てた様子で体を起こしその状況を確認すると、まん丸のお目目で俺を見つめてくる…


「…!?痛く…ないの?」

「おぅ、痛くない」

「じゃあ…っ」

「とりあえず、克服できたのかもな。先生に連絡しなきゃ」

「紫雨さんっ…うぅ…っ」

「せっかく涙拭いてやったのに…また泣くの?」

「だってぇ…」


グズグズと泣き出す葵が可愛すぎて、そのまま俺の腕の中に収めた。

触れている箇所の痛みはない。

ただ腰やら肩やらが痛いのはきっと別の理由…
こんなに幸せな痛みならあっても悪くないな。

それでも葵は遠慮がちに手を回してこようとはせず、布団をぎゅっと掴んだまま…


「葵…俺の事も抱きしめてよ」

「…っ、うん」


ゆっくりと葵の手が俺の背中に回ると、さっきよりも肌が触れ合って葵の温もりを感じられる。

神様…どうかもう二度とあんな思いさせないでくれよ。
俺、こいつの事本気で大事にするからさ。


「…ほんとに…平気?」


俺の胸の辺りから顔をひょこっと出して、まだ涙目のまま上目遣いで問いかけてくるからたまったもんじゃない。


「全然平気…むしろもっとこっちきて…」

「もうこれ以上近づけないよ?」

「ふふっ…じゃあ俺から行くわ…」


どういうこと?とでも言いたげにキョトンとした表情の葵の顔を覗き込み、無防備な唇を塞げば柔らかくて気持ちいい…

下敷きになってた腕を引き抜き、葵の上に覆い被さりもう一度唇を重ね、優しく挟み込むように何度も角度を変えながら葵の唇を堪能した。


「…っ、ん、ふ…っ、はぁっ…紫雨さ…っ」

「違うだろ…っ、昨日教えよな…?」

「ん…っ、ゆ…うっ…////」

「堪んないね…っ、葵…」

「優…っ、俺っ、ちゃんと話さなきゃいけない事がある…っ」

「うん、後で聞く…今はこっちに集中して…」

「んぅ…っ////」

「大丈夫…俺が絶対守ってやるから…」

「んっ…優…っ」


やっと…やっと普通の恋愛ができる。
これで俺らを阻むものはなくなった。
これからは俺が全力で葵を幸せにしてやる。
もう、離さないからな。
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