十六夜の月

むらさきおいも

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敦史あつしっ!」

「おぅ、龍士りゅうじ。今、充彦みつひこ真壁まかべが向かってるから」

「二人だけで平気か!?」

「うん、まぁ真壁には念の為、色々準備させといたから…」

「ああぁっ、もぉっ!なんで酒なんか飲むかなぁ!」

「今そんなこと言っても仕方ないだろ…落ち着け龍士」

「…っ、クソっ!」


充彦たちが出て行ってからまだ数十分しか経っていないのに、ものすごく長い時間に感じる…

敦史の携帯に充彦から向こうに着いたとの連絡を受けて、俺は敦史の携帯を奪い取り電話に出たが、興奮して話しにならないと充彦にキレられ逆上した俺を見て敦史に携帯を奪い返された。

冷静な敦史とは対照的に不安とイライラとで落ち着いてられない俺は、外に出て門の周りを右往左往するだけで何が出来る訳でもない。


「龍士…少しは落ち着けよ」

「あぁ!わかってるよっ!」


冷静すぎる敦史にイラついて思わず声を荒らげ、敦史の手を払い退けた。

だけどすぐ様振り払った手を敦史に強めに握り返えされ、鋭い眼光が俺に向けられ普段より低いトーンで名前を呼ばれると背筋が一瞬にして粟立った。

俺だってそこそこの修羅場をくぐってきてはいるけど、あの目に睨まれたらひとたまりもない。

敦史の怖さは、キレたらヤバイとか喧嘩が強いとかそんなレベルでは無い。

纏ってる覇気がただのチンピラとは違うんだ…


「落ち着いて」

「…っ、わかったって」


殴るでも怒鳴るでもなく静かで重たい敦史の圧により、イライラする気持ちは多少静まり冷静さを取り戻す。

だけど不安ばかりはどうやったって拭いきれない。


「そろそろ着くみたい。おい、すぐ動けるようにしとけ」

「はいっ」


敦史が下の奴らに指示を出してる間に、充彦の車が屋敷の中に入ってくる。

運転席から充彦が降りてくると、後ろの扉を開けグッタリとした斗亜とあを抱き抱え、真壁さんが付き添いながら斗亜の友達らしき子と一緒に屋敷に入って行く。


「斗亜っ!真壁さん、斗亜は…っ」

「とりあえず大丈夫だから、毛布とか用意して」


大丈夫と言いながらも真壁さんの表情は強ばってるし斗亜の意識は全くない。

呼吸も浅いのか、真壁さんは酸素吸入と点滴を始める。


「なぁ…本当に大丈夫なのかよっ…」

「僅かに反応はあるけど呼吸が浅い…後は様子見るしか…」

「何があった!?なぁ!どうしてこんな事になったんだよっ!」

「原因はお酒だね、急性アルコール中毒だよ」

「斗亜ぁ…ごめんね…っ、斗亜ぁ」


泣きながら斗亜の手を握っているコイツが、斗亜を誑かしたのか?

茶髪のパーマなんて、絶対に調子に乗ってんだろ。
ガキの癖に酒なんか飲んで斗亜を巻き込みやがって!

俺はふつふつと湧き上がる怒りを抑えきれずに、ソイツの肩を掴み上げ怒鳴り散らした。


「ごめんねじゃ済まねぇよ!?大体お前ら未成年だろっ!?何で酒なんか飲んでんだよ!」

「ごっ、ごめんなさぁいぃぃぃ…」


謝られても怒りが収まらない俺に充彦が詰め寄ってきて引き剥がされると、壁に追しつけられ背中に痛みが走る。


「龍士、落ち着けよ。別にコイツが悪いわけじゃねぇだろ!?」

「…っ、落ち着いてられっかよ!意識ないんだぞ!?」

「おい」


そこへ敦史の低い声が響き部屋の中に一瞬緊張が走る。

掴まれていた光彦の手が俺から離れ束縛から開放されると、俺は大きく息を吐いた。


「…っ、悪ぃ…ちょっと頭冷やしてくる」


ここにいたって何も出来ずにイライラするだけ…
大事な人が苦しんでる姿は見たくない。

俺は逃げるようにその場を離れた。
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