十六夜の月

むらさきおいも

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敦史あつしさん…何であの時、俺を止めたんですか?」

「そんなの決まってるだろ?」


敦史さんは震える俺の手を傷のある方の手でそっと握ると、俺を引き寄せ優しい声で呟いた。


「好きだからだよ」


俺の心臓はドキッと跳ね上がり、急な事に息が止まりそうになる。

敦史さんが…?俺を好き…!?

そんな訳ないっ、そんな訳…っ

敦史さんの手が俺の背中に周り、ギュッと抱きしめられると俺はどうしたらいいか分からずフリーズしたまま、心臓だけがドキドキと鼓動を早めた。

そしてそっと体が離れると、敦史さんは眉を下げながら少し俺から距離を取り、顔を真っ赤にしながら頭を掻き始めた。


「迷惑…だったかな…?」

「あ…いや…っ」


迷惑なんかじゃない。
だけど、信じられなくて…

俺の勝手な片想いだとばかり思ってたし、何て答えていいかわからなくて、早まる心臓の音だけが身体中に響き渡る。


「ごめんな…困らせちゃったな…」

「…っ、ちが…っ、だって…俺、敦史さんの事傷つけて…っ」

「けど治してくれただろ?」

「だって、そんなの…っ」


上手く言葉にできなくて、俺も好きだっていいのか分からなくて、なのに今すぐにでも敦史さんに触れたくて震える手を伸ばした。


「敦史さん…っ、俺…」

「…もう一度、抱きしめてもいいかな?」

「…っ、はい」


再び俺の手を握り抱きしめてくれた敦史さんは暖かくて、もう二度と離したくはなくて、行き場をなくしていた腕をやっとの思いで敦史さんの背中に回した。

ドキドキが止まらないし、思いが溢れ出しそうで怖くて俺は敦史さんにしがみついた。


「どうしよう…っ、敦史さんっ…ドキドキして止まらないっ。嬉しいのと…っ、怖いのと…っ、信じられないのと…っ」

「俺の事信じて…?好きになってくれなくてもいいから…」

「好きだよっ!好きだから…っ、あ…っ///」


言ってしまった…
思わず放ってしまった言葉に自分自身がビックリして、敦史さんを見つめたまま固まってしまった。

すると急に敦史さんの表情が険しくなり、分厚い敦史さんの唇が俺の唇と重なった。 


「…んっ!?」

「…っ、もう我慢しなくていい?」

「が、がまん…っ!?」

「両想いって事で良いんだよな?」

「は、はい…でも…っ、俺なんかでいいんですか…?」

「好きだって言ったろ?好きなんだよ、真壁まかべ

「…俺も…っ、俺も好き…敦史さん」


初めて見る敦史さんの男らしい表情に更に鼓動が高まると、その場に押し倒され再び唇を重ねた。

叶うはずもないと思っていた敦史さんへの想い…

いや、そんな希望すら持っちゃいけないと思ってたから…
幸せになんかなっちゃいけないって思ってたから…

嬉しさと申し訳なさでまた涙が零れてくる。


「真壁、もういいんだよ…十分償っただろ?」

「うぅ…っ、敦史さん…っ」

「敦史で良いよ…俺のが歳下なんだし…」

「いや、でも…っ」

「俺も…圭吾けいごって呼んでいい?」

「はいっ…」


求めちゃいけないと思ってた幸せが目の前にある…
神様、俺…幸せになってもいいですか?
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