魔王英雄伝 ~ドラゴンの幼女と魔剣の妖女~

川口大介

文字の大きさ
35 / 41
第三章 魔王の英雄

しおりを挟む
「わかったわ! じゃあ早速、」
「あ、待って。そのまま行ったんじゃ、街中で妖魔と戦ってる騎士団に攻撃されるよ」
 張り切って走り出しかけたラディアナが、ピタリと止まって振り向く。
「何でそうなるの?」
《あのねラディアナちゃん。人間たちの常識では、ドラゴンってのは魔物。敵なの》
「ほら、僕と出会った時、二人で一緒にドラゴンと戦っただろう? 極稀な例外を除いて、ドラゴンという生物はああいうものだと思われてるんだ」
 と言われて、ラディアナは激怒する。
「何よそれ! あんな、飼い慣らされた挙句に飼い主にさえ噛み付くような奴と、あたしたちを一緒にするっての⁉」
《普通はそういうドラゴンしか、人間と関わらないからね。ラディアナちゃんだって、リュマルドの事件がなければ、街に来ることなんてなかったでしょ?》
「う。それはそうだけど……でも、あたしが妖魔たちをばしばしやっつけて見せれば、とりあえず味方だってことぐらい解るでしょ」
《敵同士の仲間割れと思われて、妖魔と戦うラディアナちゃんを「チャンス!」とばかりに後ろから刺すわね。でしょ、クリス君?》
 パルフェがさらりと言った。ラディアナがクリスを見る。
 クリスは、申し訳なさそうに頷いた。   
「っっ! 何なのよ人間ってのはああぁぁ!」
 今にも火を吐いて暴れだしそうなラディアナを、クリスが慌てて宥める。
「お、落ち着いて。妖魔たちを倒すだけじゃだめだけど、ちゃんとラディアナを味方だと理解させる方法はあるから」
 そう言われてラディアナが一応、落ち着く。まだ疑い深そうな顔をしているが。       
「ほんとにぃ?」
「ほんとほんと。カイハブがラディアナにやったことを真似すればいいんだよ」
「え?」
「つまり……」

 街の中。カイハブが吐き散らした妖魔の種の着弾と、そこから生まれた妖魔たちの大暴れによって、あちこちで火災が発生している。その火と妖魔たちとに追われた人々が、慌しく逃げ惑っている。
 そんな中で、銀色の鎧を着た騎士たちが、市民を護るべく奮闘していた。避難誘導して一箇所に集め、ある程度集まったら騎士団が警護している拠点まで護衛して連れて行く。そうしながら、襲ってくる妖魔たちと戦い、更に消火活動まで行う。
 騎士団だけでなく有志の冒険者たちも加勢しているものの、倒すべき敵は多く、護るべき市民は更に多く、悪戦苦闘している。燃え盛る炎に照らされながら、斬っても斬っても湧いてくる妖魔たち相手に、騎士たちは果ての見えない戦いを続けていた。そこへ、
「つぅおりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 
 轟き渡ったのは、紛れもなく幼女の声。
 地響きを立ててやってくるのは、真っ赤なドラゴン。
「な、なんだあれは?」
「新手か! みんな、怯むな!」
 妖魔の群れと戦っていた騎士たちは、向かってくるドラゴンに対しても剣を構え、双方への迎撃態勢を整える。真っ赤なドラゴンは、あっと言う間に騎士たちの目の前まで走ってきて……騎士たちの目の前を素通りし、妖魔たちに襲い掛かった。
 その爪で、その牙で、その尾で、その剛力で。騎士たちを手こずらせていた妖魔たちを、ドラゴンは瞬く間になぎ倒していく。切り裂かれ、叩き潰された妖魔たちはピクリともしない。完全に死んでいる。
 更にドラゴンは、そうやって妖魔たちと戦いながら、何度も火災現場に向かって、
「すううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 口を窄めて大きく息を吸っていく。巨体を考慮してなお膨大なその肺活量は、家々の表面にびっしりと生えた雑草のような炎を、根元からどんどん毟り取ってしまう。
 取られた炎はドラゴンの口へと吸い込まれていくが、千切られて小さくされているので、口まで到達する前に消えてしまう。つまりドラゴンが大きく息を吸うたび、みるみる内に家々の火災が鎮められていくのである。水や砂をかけるのとは桁の違う、強力な消火活動だ。  
「これは……」
 騎士たちは、振り上げた剣の振り下ろし場所に困ってしまう。
「ほらっ、あんたたち!」
 見える範囲の全ての妖魔たちを倒し、全ての火災をも鎮めたドラゴンが、愛らしい幼女の声で騎士たちを怒鳴りつけた。遥か頭上から響く声に、騎士たちは思わず直立不動してしまう。
「さっさとその人たちを安全なところまで連れて行きなさいっ! それがあんたたちの役目でしょ! あたしは次行くから!  解ったわね? ほら、返事!」
「は、はっ!  了解しましたっ!」
「よしっ!」
 幼女の声のドラゴンが、どたどたと走り去っていく。
 走りながらも、右を向いて左を向いて息を吸って、街の火をどんどん消していく。
「妖魔の仲間……じゃないみたいだな、どうやら」
「だな。とりあえず、あの子の言ってたことには従わないと。確かに、それが俺たちの役目だ」
「あの子、って」
「あの子はあの子だよ。きっとあの子、ドラゴンの仲間内じゃあ相当な美少女、いや美幼女だぜ。俺には声で判る。ほら、いくぞ! ドラゴンちゃんの好意の行為を、無にしない為に!」

 中央広場から少し歩いたところに、大きな教会がある。ここは大人数を収容できる広さがあり、これまで幾多の台風や地震を乗り切ってきた頑丈さもあるので、街の中央ブロックの災害時指定避難所となっている。食料や医薬品も備蓄されており、大規模災害の際には騎士団の分隊が駆けつけ、街の人たちを保護する、救助活動の拠点となるのだ。
 今こそ正にその時。きっとケガ人が大勢運ばれて手当てを受け、その人たちを護る為に騎士団が詰めているはず。そう思ってクリスは、エレンたちを連れて教会へと向かった。
 まだ意識を取り戻さないザンファーをエレンとダイラックが両側から支え、パルフェを構えたクリスが周囲を警戒しながら一緒に歩く。
 エレンとダイラックは、今はのんびり話をしている場合ではない、と言われ事情を説明されていない。だから剣になったパルフェと、異様な鎧を纏ったクリスを、複雑な表情でちらちらと見ている。
 クリスは何も言わない。今は妖魔たちの襲撃に備えることが第一だからだ。また、そのことに集中し専念していないと、自己嫌悪に押し潰されそうだから。
 街の惨状、ザンファーとダイラックの負傷、エレンの店の倒壊、焼失。先程までは目前の敵との戦いに集中していられたが、こうして僅かながら落ち着いてみると、罪の意識が後から後から湧き上がってきた。
『僕らが、この街に来なければ……あの遺跡でカイハブを倒せていれば……えい、だめっ! そんなことを悩むのは後回し! 今はエレンたちを無事に避難所まで送り届けて、騎士団に護ってもらって、早くラディアナに加勢しないと!』
 クリスは罪の意識を義務感で押さえつけながら、パルフェを構えて歩いていく。
 やがて、一行は運良く妖魔と遭遇せずに、教会まで辿り着いた。が、
「うっ……」
《ま、予想できたことね》
 教会には妖魔たちが押し寄せていた。次から次に教会へ向かっていく無数の妖魔たちに対し、十人ほどの騎士たちが必死に応戦している。
 これでは教会に入るどころか、近づくこともできない。それどころか、こうして見ている間にも騎士たちは怪我を負い疲労を積み重ね、少しずつ妖魔たちに押されている。
 そんな様子を見たクリスは、躊躇わず言った。
「エレン、ダイラックさん。少しだけここで待ってて。奴らの包囲を崩す……いや、殲滅する」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...