37 / 39
第四章 事務長、決戦!
4
しおりを挟む「何いいいいぃぃっ?!」
レーゼは慌てて操縦装置に齧りつき、姿勢制御に取りかかる。ただでさえ、力を込めた大きな振り下ろしの直後、しかも空振りで、左足に体重をかけていたところ、いきなりその左足を砕かれてしまったのだ。このままでは立っていられない。
だが、残った片足でも立てないことはない。右側に重心を移せば、と思ったらレーゼのすぐ目の前、透明な板の向こうで、剣を構えた絶世の美女が上昇した。リネットだ。
「ここぉっ!」
リネットは逆手に持った剣を、岩石巨人の眉間に突き刺した。全体重と全筋力を込めた一撃だったが、先端がほんの少し、人差し指程度の長さ、刺さっただけ。
だがとりあえばそれで充分だった。リネットは剣から手を離すと、柄尻に向かって両足を揃え、踏み込み蹴りを叩き込む!
それは、微力ではあったが、バランスを崩して転倒間近だった岩石巨人にとっては、最後の一押しとなった。レーゼの姿勢制御は間に合わず、全身の傾斜を修正することができず、岩石巨人はこれまででダントツ最大の地響きを立てて、仰向けに転倒する。
ちょっとした山ほどある巨人の転倒である。辺りに莫大な砂煙が舞った。
岩石巨人が仰向けに倒れたので、その頭部にある操縦席も後方に九十度倒れている。今まで正面に向いていた窓は、真上を向いている。その外に見えるのは、もうもうとした砂煙。
「くそっ! 早く立ち上がらねば……んっ?」
何か、大きなモノが跳ねた音がした、と思ったら。砂煙を切り開いて、三つの人影が降ってきた。
少年を背負い、槍を下に向けて構えた巨漢が、口に咥えていた少女を離して、三人一緒に落下してくる。
「事務長おおおおぉぉぉぉ! もう一丁おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「はいっっっっ!」
標的は、今レーゼがいる、この操縦席!
「あ、あいつらっ!」
立ち上がる暇はない。レーゼは岩石巨人の両手を操作して、操縦席前に配置した。同時に、ミレイアがクラウディオと一緒に槍を握る。輝きを纏った槍が、三つ数える間だけ強化された。
ひとつ、クラウディオたちを掴み取ろうとした岩石巨人の右手の平が砕かれる。
ふたつ、操縦席を覆う形でガードしていた岩石巨人の左手の甲が割られる。
みっつ、操縦席の窓が破壊されて槍が、クラウディオたちが突入!
「ひいいいいぃぃっ!」
槍は、落ちてきた勢いそのままで操縦装置を突き刺し抉り壊し、盛大に火花を飛ばした。その火花が別の装置に飛んで新たな火花を呼び、操縦席は連続爆発音と白煙に包まれる。
その煙にまぎれ、割れた窓からレーゼは這い出し、逃げようとしたが、
「逃げられると思った? アタシらがアンタを逃がすワケないでしょ!」
人差し指の爪だけを長く伸ばしたリネットが走り込んで来て、
「ガッ……!」
レーゼの眉間に、爪の根元まで深々と突き刺した。
一瞬遅れて、レーゼの首はスッパリと切断、体から切り離された。そのすぐ後ろでクラウディオが、刀を振って血を飛ばし、鞘に納める。
「って、アンタねえ」
リネットは、爪を突き刺したレーゼの生首を、ぽーんと後方遠くに抜き投げる。
首を失ったレーゼの胴体が、噴水のように血を吹き出しながら倒れた。倒れた岩石巨人の上に、倒れたレーゼの体から、流れ出す血がみるみる広がっていく。
「お嬢ちゃんと坊やが、すぐそこで見てるのよ? だからアタシはわざわざ気を遣って、できるだけグロくしないようにと」
「またあの薬を使われて、強化されて、逃げられたら大変だからな。念には念だ」
「それは、確かにそうだけど」
「実は俺も、事務長にそういうのを見せないようにと気を遣ったことはある。だが、もう大丈夫だろう。事務長もニコロも、この短時間で結構な修羅場を経験した。二人とも、もう立派に戦士としての根性が……」
言いながらクラウディオが振り向くと、操縦席から這い出したミレイアとニコロが、二人仲良く気絶していた。
「で、根性が何よ」
「いや、まあ、二人とも無理したからな。疲れ果ててたんだろう。あと、決着がついたことで緊張が一気に解けた、気が抜けたというのもあるな。うん」
「はいはい。それも確かに、そうかもしれないわね……こんな風に……」
言いながら、リネットが倒れかけたので、クラウディオが慌てて駆け寄って支えた。
「お、おい」
「ごめんね。今、アンタが言った通りよ。アタシも結構、気ぃ張ってたから。今、もう、終わったんだって、思ったら。ちょっと、力が、抜け、ちゃって」
「よく見りゃ、お前も随分と傷だらけだな。俺が動けなかった間、事務長やニコロを庇ってくれてたんだよな……面倒かけたな、感謝してるぜ」
「ふふっ」
クラウディオに抱き支えられたリネットが、小さな声で笑った。
「どうした?」
「アタシはね。アンタや坊ややお嬢ちゃんを見物できればそれで満足、他には何もいらない、って思ってた。ううん、今もそう思ってる。ほんとよ。けど、こうして……アタシ自身が、アンタの腕に抱かれてるのも……意外と悪くないなって……」
「お、おい?」
リネットの目が閉じられた。すやすやと寝息を立てている。
「ったく。しょうがないな」
クラヴティオは、まずリネットを、続けてミレイアとニコロも、抱き上げて運び、地面に横たえた。
岩石巨人の操縦席からはもうもうと煙が立ち上り続けており、更にそこから、ひび割れが広がりつつある。クラウディオが一息ついて腰を下ろした頃には、岩石巨人の全身が細かくひび割れ、振動を始めていた。
「おお、派手にぶっ壊れそうだな。少し離れた方がいいか?」
と、クラウディオが思ったその時。遠くで、地面から天空まで貫く光の柱が立った。続けてあちこちに、二本、三本と増えていく。
柱といっても綺麗な円柱ではなく、どれもこれも少し歪んでいる。また、岩石巨人同様に、細かいひび割れができているのも見える。
「なんだ?」
柱の増加は、十本ほどで止まった。その中で一番ここから近いのは、
「確かあそこは……そうだ。俺と事務長が通った、向こうの山との出入り口だな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ああ、私が逮捕されればそうなるか。麻薬の精製をする機材も、このフィールドへの出入りを管理する設備も、その他の資料も道具も、全てあそこにあるぞ。私を逮捕できたなら、好きにするがいい」
レーゼは顎をしゃくって、背後にある岩山の洞窟を指した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今いるここは、理屈はよくわからないがエルフ星人の拠点がある異世界で。
あの岩山が、丸ごと岩石巨人になって。
それは今、煙を吐いてぶっ壊れそうで。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
出入りを管理する設備も、全てあそこにあるぞ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「じょっ、冗談じゃねええええぇぇぇぇ!」
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。
黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた!
「この力があれば、家族を、この村を救える!」
俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。
「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」
孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。
二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。
優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる