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誘拐はしてはいけない

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どうも櫻井です。
先日誘拐された廃工場に今回は救出のために乗り込むことになりました。
俺が監禁されていた場所に行ってみると……恐らく何度も痛めつけられたであろうボロボロの金堂さやかがいた。
(気分が悪い。)
一眼見て分かった。
コイツらは許しちゃ駄目な奴らだ。
金堂の側にいる気の強そうな女に再度問いかける。
「おい、さっさと答えろよ。何で俺の知り合いがお前らなんかに痛めつけられてんだ?」
…睨みつけるだけで答えない。
何だコイツ!感じ悪い!
「櫻井さん、あの女は恐らく進藤派の転生者よ。さやか様から聞いていた特徴に似ているわ。」
なるほど、これでこの誘拐事件の犯人がほぼ確定したな。
「能力はどんなの?」
「確か…『無敵化』みたいな感じだったかしら?」
うわ、小学生が考える能力トップ1じゃん。
まぁ死ぬ寸前に咄嗟に思いつくことだからこんなもんか。
「ありとあらゆる敵意が含まれた攻撃が効がない…みたいな話を聞いたわ。」
「おっけ、ちなみに向こうで立ち上がろうとしている黒服は宮本さん楽勝だったりする。」
「何言ってるの?楽勝以外の何者でもないわ。」
よし、何とかなりそうだな。
「じゃあアレ任せた。俺は無敵のとこ行ってくる。」



金堂達の元に歩いていく。
急にバイクで突っ込んできたヤバい奴が近づいてくるにも関わらず一切身構えることもなくこちらを見ている。
やっぱり攻撃の類が効かないとそういう感じになるんだな。
海道も俺にぶつかった時はめちゃくちゃ驚いてたなぁ。
「アンタ何者?コイツとどんな関係なの?」
金堂を足蹴にしながら俺に問いかける。
…その足どけろや胸糞悪い。
「…ソイツに誘拐された被害者だよ。」
「はぁ!?そんな奴が何でコイツを助けに来てるのよ?」
どんどん歩きが早歩きになる。
「何?アンタ私とやり合おうっての?生憎私がアンタみたいなどこの誰か分からない奴と遊んでいる場合じゃないんだけど。」
こっちだってさっさと金堂を持って帰りたいんだよ。
気の強そうな女のすぐ目の前まで来た。
女は大きなため息をつく。
どうやらイライラしているようだ。
「私は進藤様に使える転生者!組織内の幹部クラスに位置する者よ!アンタみたいな不審者に構う暇は…。」
とりあえず…無敵かどうか調べようか。
本当は女性にこんなことするのは良くないよなぁと思うけれど…金堂を足蹴にしている所為で少しばかり力が入ってしまうけれど…その傲慢で理不尽な行いから俺の能力が発動してもの凄く強化されるかもしれないけれど…しょうがないよな。
俺はその女の頬を思いっきり平手でぶっ叩いた。



…久しく感じていなかった感覚。
シンジンと頬が痺れるような…痛み。
…痛み?何故?
『無敵』な私が?
どんな人間の攻撃もダメージを喰らうことがないはずの私が?
今1人の男のビンタで吹っ飛ばされた?
男に目を向ける。
もうこちらに目も向けず金堂さやかに手を差し伸べていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう…。」
一体何で…私が転生したことで手に入れた『無敵化』が何で効かない?
そんなことができそうなのは最近進藤様が言っていた奴ぐらい…。
「アンタもしかして櫻井理人か!?」
「…そうですが?」
「何でソイツの味方をしている!?進藤様を裏切ったのか!」
「そもそも味方になったことなんかねぇよ。時々仕事手伝ってその変わりに家とかの報酬を貰うwin-winの関係だったわ。」
「それでも何でソイツの味方に…。」
「こんなことしてるからだろうが。」
金堂の方を抱きながら食い気味に答える。
「自分の都合の悪い存在とはいえ、普通に考えたらこんなの良くないって分かるよね?」
櫻井理人は不快そうな視線をこちらに向けてくる。
一眼で分かる圧倒的な敵意。
今までこの世界で恐れる必要のなかったそれが私の鼓動を何倍にも早める。
「あと俺が誘拐されてることを知っておきながら助けてくれないし、あろうことが裏切ったんじゃないかとか言ってくるし。普通に腹たったし信用がなくなったんだ。進藤に伝えとけ馬鹿。」
コイツ!進藤様に何で態度を…。
いつもだったら絶対に許せない狼藉。
今すぐにでも訂正するまで殴りつけるのに。
…コイツにはできない。
そうだ…コイツには私の能力が効かないから…やろうと思えば私を殺すことだってできる。
私の…天敵じゃないか。



「ふぅ、言ってやったぜ。」
もう『進藤さん』なんて呼んでやらねぇ。
じゃあなイケオジ!
「…なんで助けてくれたの?」
「ん?」
「私ってアンタにとって厄介な存在だから…いなくなるに越したことはなくない?」
「だって誘拐は良くないから。お前も分かったか?誘拐されるのってすごい怖いんだからな?」
「え、えぇ…。」
「それにこの救出作戦のおかげで進藤のやり方がよく分かった。それさえ分かれば後はもうここを後にするだけだ。さっさと帰るぞ。」
バイクを指差す。
それを見た女がハッとした良いな表情をした。
「黒服!早くアイツを止めろ!」
…まぁ確かに黒服の人のシンプルムキムキ攻撃は俺にも効くけどさ。
その人…とっくに意識飛んでるよ。
黒服はとっくに宮本さんが制圧していた。
一体何があったのか黒服の身体が壁にめり込んでいる。
「お待たせしましたさやか様。帰りましょう。」
「よし!逃げるぞ!3人乗りは多分かなりギリな気がするけどもう気にしてられん!」
2人にヘルメットを渡してそそくさとバイクに乗る。
「あばよ。無敵の人。もしまた悪いことしたら夜道で俺が強襲しに来るからな!」
俺たちはバイクで走り出した。


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