さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第三話

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 夜明けと共に起きて身支度を整えたテルラは、八番のドアを軽くノックした。
 その後ろには、同じく夜明け起きが習慣になっているプリシゥアが居る。
「カレン、グレイ。起きていますか?」
 すぐにドアが開かれ、身支度を終えているカレンが顔を出した。髪を纏めるスカーフを被っていないので、トレードマークのおでこが半分隠れている。
「おはよう。グレイはまだ寝てるよ。温かいベッドは久しぶりだって言ってたから、もうグッスリ」
 声を潜めてそう言ったカレンは、廊下に出てそっとドアを閉めた。グレイを起こさない様に気を使っている。
「色々と大変だったみたいですから、疲れていたんでしょうね」
「だろうね」
「七番の部屋では、レイがまだ寝ています。僕達は教会に行ってグレイのハンター許可証の交渉をして来ますから、レイとグレイが起きたら一緒に朝食を取ってください。はい、お金」
 共用の財布から1000クラゥ札三枚を取り出すテルラ。
 それをすんなり受け取ったカレンは、しかし戸惑った表情になる。
「分かれて食事をする時はそれぞれの財布から出すんじゃなかったっけ?」
「そうですけど、グレイは大聖堂からの財布を貰っていませんから。ハンター許可証が届くまで特別です。それに、ハンターとしての仕事もお願いしたいですし」
「仕事?」
「僕達が教会に行っている間に、カレン達には役場に行って依頼を見て来て欲しいんです。大丈夫ですか?」
「最初だからみんなで行って、どう言う物かをみんなで見た方が良いと思うけど。リーダーが居ないのは不安って言うか」
「許可証を早く送って頂きたいですからね。申し訳有りませんが、二手に分かれた方が効率的です。まぁ、レイも居るから大丈夫でしょう」
「しょうがないなぁ。――良い仕事が有ったら受ける?」
「目星を付ける程度でお願いします。レイの剣とプリシゥアの拳で解決出来るレベルの奴を。最終決定は全員の同意で。出来れば銃が使えるグレイがハンターになるまで待ちたいですが、今は何もしない一日が有るのは良くないと思いますので、彼女にはお留守番を頼みましょう」
「ハンター許可証が無いと魔物退治に同行出来ないのか?」
「あら、起きちゃった?」
 白い下着姿のグレイがドアを開けた。戦闘服と言っていた黒のジャケットを脱ぎ、下着で眠った様だ。暖かい布団が有るのならそれも有りだろう。
「寝てても人が動く気配を感じられなきゃ男所帯の女海賊はやってられないんだよ。だから気にしなくて良いぞ、カレン」
 恰好が格好なので廊下には出て来なかったが、肌を出した姿を恥ずかしがっていない。
 テルラと同い年くらいの子供だから露出を気にする者は少ないだろうが、それでも女子の下着姿なので、10歳の少年はそっと視線を逸らした。
「おはよう、グレイ。――出来なくはありませんけど、怪我をしたら余計に治療費が掛かるんですよ。ここの宿泊費が高かった様に。あと、報酬も一人分少なくなります」
「なら怪我をしなければ良いじゃないか。報酬が少なくなるのは痛いが、お前達の力量を見たいから、一回くらいは目を瞑る」
「一回目は無報酬で良いと?」
「ああ。ただし、お前達に付き合う価値無しと見たら即逃げるからな。金を貰わないのなら、契約違反の心配無く逃げられるだろ」
 逃げると言う言葉に眉を顰め掛けたテルラだったが、ハンターと言う危険な仕事への仲間入りは強制出来ないのですぐに平静に戻る。
「そう――ですか。なら、グレイもカレン達と一緒に依頼の目星を付けてください。集合場所は教会にしましょう」
「教会だな。了解した」
「では、行って来ます。宿を出る時に鍵を店に返してくださいね。僕達も下に行ったら返します。それと、忘れ物をしない様に」
「護衛で付添って来るっス」
 プリシゥアは相変わらず元気に言ったが、大きなリュックを背負って先に歩いて行くテルラの背中を確認したら追わずに真顔になった。そしてカレンの耳元に唇を近付け、珍しく落ち着いた声でそっと囁く。
「多分、レイはもう起きているでしょうから、私達が宿から出たら様子を見て欲しいっス」
「え? 何で?」
「詳しい事はレイに訊いて欲しいっス。じゃ」
 申し訳なさそうに拝んだプリシゥアは、小走りでテルラを追い掛けた。
「なんだか良く分からないけど、まぁ良いや。お金を貰ったから朝ご飯に行きましょうか」
「俺の分も有るんだよな? 遠慮無くご馳走になるぞ」
「じゃ、レイを起こして行きましょう。ここは大きな街だから、朝から開いているお店も有るでしょ」
 一旦部屋の中に戻ったドアは、スカーフで髪を纏めておでこを出した。
 グレイもタイトなミニスカートを履き、角ばったジャケットを着た。
「本当なら朝に銃の整備と調整をするんだけど、今日は街から出ないだろうからサボっても良いか」
 長銃を背負ったグレイは、その上から黒コートを羽織り、海賊帽を被った。
「昨日の夜、分解して煤とか取ってたじゃない。油とか塗って。またやるの?」
「アレは掃除。そんな事より腹減った。さっさとレイを起こそう」
「そうね」
 カレンも大きなリュックを背負い、グレイと一緒にノック無しで七番の部屋に入った。
 ふたつのベッドは綺麗に畳まれていたが、みっつ目のベッドには人が寝ている膨らみが有った。ベッド脇に剣や鎧が置いて有るので、あそこでレイが眠っているのだろう。
「レイ、起きてる?」
「起きてますわ。えっと、布団を捲って貰えますか?」
「え? ええ、良いよ」
 カレンが布団を剥ぐと、その下に縄で縛られたレイが居た。寝返りも打てないくらいにがんじがらめにされている。
「何コレ。何が有ったの?」
 驚いたカレンは、布団を全部剥いだ。足首までキッチリと縛られている。
「いえ、その……そんな事より、解いて貰えますか? おトイレ行きたいんです」
「そりゃまぁ、解きますけど」
「待て。よほどの理由が無ければ縛られない。何が有ったか言ってくれ」
 グレイが止めると、レイは照れ臭そうに頬を染めた。
「夜中にテルラの寝込みを襲おうとしたら、プリシゥアに縛られたんです。勿論冗談ですわよ? 可愛らしい寝顔を見る程度のつもりだったんですの。でも、冗談だって言っても信じて貰えなくて」
「ああ……」
 カレンとグレイは同時に溜息を吐いた。
 くだらなくて笑いも出ない。
「しかも、夜中に襲おうとした事がテルラにバレたら二度と同室にしないっスよって脅されて、声も出せなかったんです。そんな訳ですから、縄を解いてください。も、漏れちゃう……」
「しょうがなぁいなぁ」
 カレンが縄を解くと、「ありがとう」と言いながら小走りで部屋を出て行った。
「王女が寝間着のまま宿の廊下を走っているのが国民に知れたら、王室の権威はどれだけ下がるんだろうね」
 カレンが呟くと、グレイは無言で肩を竦めた。興味が無いらしい。
 数分後、スッキリした顔のレイが戻って来た。
「宿の前で待ってるから、着替えて来てね」
「分かりましたわ!」
 レイは、寝ぐせが付いていない銀髪を指で梳きながら優雅に頷いた。
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