さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第八話

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 離れたところで一部始終を見ていたテルラは、レイの計画による暗闇が発生する前に一人で宿に帰った。スヴァンとクーリエを繋ぐ伝言係が居たら見張る役目を負っていたが、その様な人物は居なかったから。
「ただいま戻りましたわ」
 数時間遅れて宿に戻った女性陣は、帰りを待っていたリーダーに報告をする。
「わたくしの計画通りに事が進み、クエスト完了の報酬が役所から支払われましたわ」
 レイが差し出した現金入りの封筒を受け取ったテルラは、女神に感謝した後、それをテーブルの上に置いた。
「みなさん、お疲れさまでした。報酬は、計算が終わった後、ルールに則って分配します。――計画通りと言う事は、やはりスヴァン様が犯人でしたか? クーリエが共犯かどうかは半々って話でしたが、そこはどうでしたか?」
「クーリエは、結果を見れば共犯ではありませんでしたわ。でも、スヴァンが何かをしている事に気付いていて、勘で彼の助けになるタイミングで暗闇の魔法を使っていました。そこを追求すれば共犯にする事も出来ましたが――」
「でも、そうしなかったよね。クーリエは無罪放免。どうして?」
 カレンが訊くと、レイは慈愛の微笑みで剣の柄に手を置いた。
「騎士や神官なら正義の名の許に罪を暴いたでしょうが、ハンターはあくまでクエストクリアが第一目標だからですわ。未来有る学生を罪人にしても、誰も幸せになりませんし。それに、わたくしの名で無実にするから協力してくださいともお願いしましたので」
「レイの判断を信じましょう。スヴァン様の手口はどの様な物だったんでしょうか」
 テルラの質問に応えるのはプリシゥア。
「今日ずっと一緒に歩いて分かったんスが、彼の肩に乗っていたちっちゃいサルが凄く賢いんスよ。そのサルが、暗闇が起こったら勝手に適当な家に侵入して、こっそりお金を取って来て、そっとスヴァンのポケットに入れてたんス。だから証拠が残らなかったんスね」
「なるほど。では、盗難事件の真犯人はそのサルと言う事ですか」
「そうなるっスね。悪事がバレてしまった時はサルのせいにして逃げるつもりだったとスヴァン本人が言ったっス。王女の前でウソを言うほど根性が座っていなかったから、諦めて全部喋ったっス」
「そうですか。残念です」
「今回はレイの指示で闇がすぐ晴れたので、サルが帰って来てポケットに入れる様子をその場にいた全員がバッチリ目撃したっス。だから言い逃れが出来なかってのも有るっスね。被害者の家はグレイが見付けてくれたっス」
「俺が召喚したベルスライムをサルのうなじ辺りにくっ付けた。それはベルの様にチリンチリンと鳴るスライムだが、うるさいとサルが動かないと思ったので、時間差で音が鳴る仕組みにした」
「スライムを召喚したんですか? 何を対価にしたんですか?」
「プライドだ。サルに触ってスライムを仕込むためにスヴァンにすり寄らなければならないと言う作戦上必要だったから、試しにやってみた。対価は物質でなくても良いみたいだ」
 それを聞いたカレンが笑顔になる。
「なーんだ。そんな物でも良いんだ。グレイ一人が損したんじゃないかと心が痛かったんだよ」
 仲間達も同感だと頷いたが、グレイは眉を吊り上げた。
「そんな物とはなんだ。この俺が男に媚びを売る様なマネをしたんだぞ。屈辱で歯を食いしばったせいで奥歯が折れるところだった」
 拳を震わせて怒ったグレイは、溜息と共に拳を下げた。
「とにかく、闇が晴れた後にベルの音が鳴る様にした。その音を辿って被害を受けた家を見付けた。その家の主に被害を確認してから、アトイが現行犯逮捕した」
「それを役所に報告して、クエストクリアになった訳ですか」
 そう言うテルラに首を横に振って見せるレイ。
「いえ、それだけでは済みませんわ。どんな理屈をこねても、クーリエの闇魔法が街に迷惑を掛けていた事実は覆りません。ですので、役所で『然るべき許可無しでは闇魔法を使いません』と誓約書を書かせて、そこでやっとクエストクリアですわ」
「なるほど。――しかし、アトイ様はスヴァン様に情けを掛けなかったんですか? 仲が良さそうに見えましたが」
 憮然とした表情で黒コートの襟を正しているグレイが吐き捨てる様に言う。
「仲間だからこそ厳しくしたんだろ。そこんとこをナァナァにすると、勇者としての信用が無くなるからな。船の上でも街の中でも、狭い世界内で目立つ奴が特別扱いされると妬み嫉みが生まれて治安が悪くなる」
「なるほど。アトイ様の毅然とした態度は憧れますね。僕達のパーティ内でも、悪い事をしたら厳しく断罪した方が良いんでしょうね」
「全くその通りだな。――しかし、勇者ってのは灰汁の強い奴等だな。その地位を利用して悪い事をしている奴等は他にも居そうなのに、それを咎める制度や仕組みが無い。今後こう言うクエストが有って、アトイみたいなちゃんとした奴が居なかったら、とんでもなく苦労しそうだぞ」
「それは仕方が有りません。突然現れた魔物への対処が最優先でしたから。でもそうですね。考えなければならない時期に来ているのかも知れませんね」
「話は以上だな。早く分配してくれ。さっさと寝て、男に媚びを売った恥辱を忘れたい」
「本当にグレイのプライドが傷付いたんですね。ちょっと待ってください、まずは共用の財布をチェックしないといけませんから」
 共用の茶色のサイフを取り出したテルラは、その中身をチェックした。
 その隙にレイがプリシゥアの袖を引く。
「ちょっと、プリシゥア」
「なんスか?」
 部屋の隅で小声になる二人。
「まさか、テルラにはそっち系のケが有るんじゃないでしょうね?」
「そっち系とは何スか?」
「テルラは、前も勇者に憧れを持っていましたわよね。今回もやたらと褒めています。わたくしのアプローチに冷たいのはそのせい? 女に興味が無いから女性パーティの中に居ても平気とか? 袖にされるのも悪くないと思っていましたけど、そうなると話が違ってきますわぁ!」
「ああ。そっちって、そっちっスか」
 理解したプリシゥアが苦笑する。
「いやぁ、あれは違うっスよ。男の友情に対する憧れっスよ。テルラは友達を作れない環境で育ったっスから、そう言うのに過剰に反応するんスよ」
「でも、教会は男女別の生活が基本だから、同性の道に走る人も居るって聞きますわ」
「私もその話を聞いた事が有るっスけど、全然違うっスよ。絶対そんなんじゃないっス」
「どうしてそんなに否定しますの? 何か知っているんですの? まさか、何か隠してらっしゃるの?」
「隠してないっスから! 考えすぎっス! 面倒なんで、アホな妄想は止めるっス!」
「アホとは何ですか! わたくしは真剣に――」
「どうしました? ケンカですか? 何か問題が?」
 ついつい声が大きくなっていたので、テルラが金勘定の手を止めて心配した。
「なんでもありませんわ。ね? プリシゥア」
「なんでもないっス」
「そうですか。では、分配を始めます。終わったら旅立ちの準備を始めましょう。明日朝一で出発です。良いですね?」
「了解ですわ。オホホホ」
 無事にクエストをこなして報酬を得た一行は、次の街に向かう準備を始めた。
 レイだけはその後も一人でモヤモヤしていたが、明日になればどうでもよくなって忘れている事だろう。
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