さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十二話

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 大勢の戦闘員が隊列を組んで進んでいる中、その真ん中あたりで黒髪の少年が金髪の少年に小声で話し掛けていた。
「なぁ、テルラ」
「はい、なんでしょうか。カワモトさん」
「お前のパーティ女だらけだけど、良い思いとかしてるか?」
「良い思い……とは?」
 オッドアイをパチクリして聞き返すテルラの肩に手を置いて派手に溜息を漏らすカワモト。
「お前、まだ10歳だっけ。なら無邪気でもしょうがない。今はまだ実感出来ないだろうけど、大人になってから後悔するぞ。ああ、あの時のハーレムを満喫していればな、ってな」
「後悔……ですか? 僕には何か至らない部分が有る、と言う事でしょうか」
「ああ、至らないね。大いに至らない」
 腕を組んで何度も頷くカワモト。
「そうだな。人生の先輩として、女が身近に居る貴重さを教えなければならないな。国境の街に帰ったら、今夜辺り大人の店に行って――」
 カワモトの首元に鈍色の剣が宛がわれた。瞳だけを動かして剣の持ち主を確認すると、銀髪美女の冷たい視線と目が合った。
「そこまでです。テルラに不純な事を教えないでください」
「レ、レイか。騎士の偉い人と一緒に前の方に居たんじゃ?」
 カワモトが軽く両手を上げて降参の姿勢を取ると、レイは無表情のまま剣を収めた。
「わたくしが前方に居ると作戦の邪魔になるので下がって来たんです。話を逸らさないでください。大聖堂の跡取りであるテルラに悪事を教える事は、王女として許せません」
「大聖堂?」
「ダンダルミア大聖堂。多くの国で国教とされている女神教の、我が国の総本山ですわ」
「あー、宗教かぁ。なるほど、それはお堅いな。分かったよ。余計な事は言わない」
「よろしい。ですが……テルラがわたくしに手を出す様に仕向けるのであれば、その限りではありませんわ」
 レイに耳打ちされたカワモトは、遠い目で正面を見据えた。名も知らぬ鎧騎士の背で進む先は見えなかった。
「俺にそれくらいの積極性が有れば、転生なんかしなくても良かったのかもな」

 谷を越え、林を越えたところで全体が一旦停止する。
 最初の関門はオニの生き残りなので、先頭の一小隊だけが用心しつつ進む。
「赤くてでかいから目立つはずなのに、オニの姿は見えないな。戦闘が起きないし、砂漠側には一匹も居ないみたいだ」
 黒コートの前を開け、タイトスカートから伸びる細い足をあらわにしてプリシゥアに肩車されているグレイは、望遠鏡を覗きながらそう言った。
「親分である不死の魔物が倒されたから、統率されないまま自分の村に帰って行ったんかね」
 カワモトの言葉に首を傾げるテルラ。
「魔物に身分の上下や統率が有るとは思えませんが、この状況はそれを示していますね。可能性のひとつとして報告書に書きましょう」
「前回の戦闘で減ったまま増えていないはずなので、姿が見えないのでしたら大した脅威ではありませんわ。予定されていた戦闘準備はキャンセルされ、すぐに前進が再開されますわ」
「伏兵に注意しつつ前進!」
 レイの予想通り、オカロ・ダインの宣言と共に全体行軍が再開された。
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