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第十四話
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真夜中だと言うのにあちこちの家で明かりが点いていて、行きより歩き易かった。
しかし右目の怪我が辛くて身体から力が抜けているので、行きより移動に時間が掛かった。
「くっそ……いってぇなぁ……」
宿にも明かりが点いていて、玄関前はかなり明るかった。三組のハンターパーティが居て、それぞれの荷物持ち担当が大き目のランタンを持っていたからだ。
「あ、グレイっスよ!」
夜目が効くプリシゥアが、闇に溶ける色の黒コート少女に気が付いた。
戦闘装備をきっちりと着込んでいる他のハンターもグレイに目を向ける。
「ちょっと、グレイ! こんな夜中にどこに行ってましたの? 探したんですのよ!」
レイの怒りに溜息を返すグレイ。
「勝手に動いて悪かった。それより、何だ、この騒ぎは」
グレイが訊くと、テルラがランタンをグレイの方に向けた。
「海の方で爆発音がしたとかで、海賊がまた攻めて来たかも知れないからと街の人が――って、どうしたんですかグレイ! 血だらけじゃないですか!」
「ちょっとな。むぅ……血を流し過ぎたか」
めまいを起こしてよろめくグレイ。立っていられないほどではないが、目的地に着いたのでその場に座る。
「その海賊に呼び出されたんで、ちょっと船を沈めて来た。だからもう騒がなくて良い」
「船を沈めたんですか? 一人で?」
「色々有ってこの傷を貰ったんで、代償にボムスライムを召喚してな。爆発音はそれが原因だ。――悪いが、テルラ。治癒魔法をくれないか」
「え、ええ。勿論です。傷は右目ですか? 押さえている手をどけてください」
ランタンを脇に置き、傷の具合を確かめる。顔は勿論、黒コートの右側全体が赤く濡れそぼっている。
「大出血ですね。僕の治癒魔法だけでは足りないでしょう。プリシゥア、宿の人に病院の位置を聞いてお医者様を連れて来てください。カレンはベッドと着替えの準備を、レイは濡れタオルで血を拭いてください」
「了解っス!」
「すぐに用意しますわ!」
仲間達はリーダーの指示に従って散って行った。
その様子を見ていた他のハンターの中の一人が話し掛けて来た。
「大変なところ悪いが、海賊の船を沈めたとはどう言う事だ? それが本当なら海賊はどうなった?」
「船に乗ってた奴は全員死んだんじゃないかな。陸に残っている奴が居るかは分からん」
グレイの声に力がこもっていないので、テルラは治癒魔法を発動させながら話し掛けて来た男性ハンターに視線だけを向けた。
「すみません、大怪我なのでこれ以上は。船が沈んだのなら、今夜海賊が攻めて来る事は無いと思いますので、僕達はこれで宿に戻ります」
「そうだな。後は俺達に任せろ」
宿のベッドで医者の治療を受けたグレイは、丸一日眠り続けた。
その次の日に目覚めたグレイは、右目を覆っている包帯を撫でて溜息を吐いた。
「……痛い。なんか悪い夢を見ていた気がするが、怪我は夢じゃなかったな」
「目覚めましたか。良かった」
ベッドの横にテルラが居た。
その声に反応してレイもベッドの横に来た。
「テルラは、ずっとグレイの怪我に治癒魔法を当てていたんですのよ。感謝しなさい」
「でも、まだ顔色が悪いね。血になる物を食べないと。食べられる?」
カレンに訊かれ、自分の体調に意識を向けるグレイ。
「起きた直後だから食欲は無いが、果物くらいは腹に入れないとな。……プリシゥアは?」
それに応えるのはカレン。
「この街の役所に行って海賊退治の報酬を受け取ってるはずだよ。またフラフラと寄り道してなければ」
「そうか。リバース海賊団に報復されたとか、怪しい奴に襲われたとか、そう言うんじゃなんだな?」
「うん、そう言うのは全然無かったよ。――まずはお水を飲んで。胃の中がカラッポだから、水を入れて誤魔化しておいて。すぐに消化の良い物と果物を買って来るよ」
「ああ。ありがとう。テルラも魔法をありがとう。痛みは残ってるが、お陰で辛くない」
上半身を起こしたグレイは、カレンが差し出したコップに手を伸ばした。
「あ」
しかし目測を誤ってコップを取り損ねてしまう。コップは床に落ち、水が零れる。
「そうか。片目だから距離感を誤ったのか。すまない。――ん? これはマズイかも?」
ハッと気付いたグレイは、慌ててベッドの上を探した。
「俺の銃は?」
「そこに」
テルラが指差したのは、壁に掛かっている黒コート。洗濯したので血の跡は無い。
そのコートの真下に三丁の銃が置いてある。
ベッドから飛び降りたグレイは、多少よろけながらも長銃を構えた。
「どうしたんですか? まだ動いたらいけませんよ」
テルラの言葉を聞きながら長銃をそっと置いたグレイは、続いて銀色のリボルバーを構える。
居心地悪そうに首を傾げてから、力無く腕を下す。
「なぁ。この包帯、取って良いか?」
そう訊かれたテルラは、言い淀んでから、意を決して口を開く。
「気をしっかり持ってくださいね。グレイ。貴女の右目は――もう見えません」
「……そんなに悪かったのか?」
「はい。お医者様が仰るには、眼球が完全に潰れているそうです。僕の治癒魔法で復元を試みたんですが、無理でした。すみません」
「ハハ……。そうか。道理でボムスライムの威力が高かった訳だ。これだけの代償なら、そりゃそうなるよな。ハハ……」
グレイは天井を仰ぎ、納得する様に笑った。
「とりあえず今はベッドに戻り、怪我を治してください」
テルラに手を引かれたグレイは、呆けた顔でベッドに座った。その格好のまま、カレンが買って来た温かいパン粥をすすった。
数分後、ドアが静かに開いてプリシゥアが帰って来た。
「ただいまっス。お、グレイ、起きたんスね、良かったっス。海賊退治の報酬を貰って来たっスよ。早速分配するっスか?」
「そうですね。分配しましょう」
お金大好きなグレイを元気付ける様に、テルラはすぐに計算を始めた。
食事を終えたグレイは、現金を数えるテルラの手元を見ながら皿を脇に置いた。
(ああ。もう無理に金を稼ぐ必要は無いんだなぁ。あいつ等が死んだから……チャク海賊団の復活は、もう無い)
そこに気付いたグレイは、姿勢を正してパーティリーダーに向き直った。
「テルラ。聞いてくれ」
「はい?」
「右目が潰れ、銃の命中率が実戦では使えないくらい下がった。だから、俺はもうハンターは出来ない。――パーティを、抜けさせてくれ」
しかし右目の怪我が辛くて身体から力が抜けているので、行きより移動に時間が掛かった。
「くっそ……いってぇなぁ……」
宿にも明かりが点いていて、玄関前はかなり明るかった。三組のハンターパーティが居て、それぞれの荷物持ち担当が大き目のランタンを持っていたからだ。
「あ、グレイっスよ!」
夜目が効くプリシゥアが、闇に溶ける色の黒コート少女に気が付いた。
戦闘装備をきっちりと着込んでいる他のハンターもグレイに目を向ける。
「ちょっと、グレイ! こんな夜中にどこに行ってましたの? 探したんですのよ!」
レイの怒りに溜息を返すグレイ。
「勝手に動いて悪かった。それより、何だ、この騒ぎは」
グレイが訊くと、テルラがランタンをグレイの方に向けた。
「海の方で爆発音がしたとかで、海賊がまた攻めて来たかも知れないからと街の人が――って、どうしたんですかグレイ! 血だらけじゃないですか!」
「ちょっとな。むぅ……血を流し過ぎたか」
めまいを起こしてよろめくグレイ。立っていられないほどではないが、目的地に着いたのでその場に座る。
「その海賊に呼び出されたんで、ちょっと船を沈めて来た。だからもう騒がなくて良い」
「船を沈めたんですか? 一人で?」
「色々有ってこの傷を貰ったんで、代償にボムスライムを召喚してな。爆発音はそれが原因だ。――悪いが、テルラ。治癒魔法をくれないか」
「え、ええ。勿論です。傷は右目ですか? 押さえている手をどけてください」
ランタンを脇に置き、傷の具合を確かめる。顔は勿論、黒コートの右側全体が赤く濡れそぼっている。
「大出血ですね。僕の治癒魔法だけでは足りないでしょう。プリシゥア、宿の人に病院の位置を聞いてお医者様を連れて来てください。カレンはベッドと着替えの準備を、レイは濡れタオルで血を拭いてください」
「了解っス!」
「すぐに用意しますわ!」
仲間達はリーダーの指示に従って散って行った。
その様子を見ていた他のハンターの中の一人が話し掛けて来た。
「大変なところ悪いが、海賊の船を沈めたとはどう言う事だ? それが本当なら海賊はどうなった?」
「船に乗ってた奴は全員死んだんじゃないかな。陸に残っている奴が居るかは分からん」
グレイの声に力がこもっていないので、テルラは治癒魔法を発動させながら話し掛けて来た男性ハンターに視線だけを向けた。
「すみません、大怪我なのでこれ以上は。船が沈んだのなら、今夜海賊が攻めて来る事は無いと思いますので、僕達はこれで宿に戻ります」
「そうだな。後は俺達に任せろ」
宿のベッドで医者の治療を受けたグレイは、丸一日眠り続けた。
その次の日に目覚めたグレイは、右目を覆っている包帯を撫でて溜息を吐いた。
「……痛い。なんか悪い夢を見ていた気がするが、怪我は夢じゃなかったな」
「目覚めましたか。良かった」
ベッドの横にテルラが居た。
その声に反応してレイもベッドの横に来た。
「テルラは、ずっとグレイの怪我に治癒魔法を当てていたんですのよ。感謝しなさい」
「でも、まだ顔色が悪いね。血になる物を食べないと。食べられる?」
カレンに訊かれ、自分の体調に意識を向けるグレイ。
「起きた直後だから食欲は無いが、果物くらいは腹に入れないとな。……プリシゥアは?」
それに応えるのはカレン。
「この街の役所に行って海賊退治の報酬を受け取ってるはずだよ。またフラフラと寄り道してなければ」
「そうか。リバース海賊団に報復されたとか、怪しい奴に襲われたとか、そう言うんじゃなんだな?」
「うん、そう言うのは全然無かったよ。――まずはお水を飲んで。胃の中がカラッポだから、水を入れて誤魔化しておいて。すぐに消化の良い物と果物を買って来るよ」
「ああ。ありがとう。テルラも魔法をありがとう。痛みは残ってるが、お陰で辛くない」
上半身を起こしたグレイは、カレンが差し出したコップに手を伸ばした。
「あ」
しかし目測を誤ってコップを取り損ねてしまう。コップは床に落ち、水が零れる。
「そうか。片目だから距離感を誤ったのか。すまない。――ん? これはマズイかも?」
ハッと気付いたグレイは、慌ててベッドの上を探した。
「俺の銃は?」
「そこに」
テルラが指差したのは、壁に掛かっている黒コート。洗濯したので血の跡は無い。
そのコートの真下に三丁の銃が置いてある。
ベッドから飛び降りたグレイは、多少よろけながらも長銃を構えた。
「どうしたんですか? まだ動いたらいけませんよ」
テルラの言葉を聞きながら長銃をそっと置いたグレイは、続いて銀色のリボルバーを構える。
居心地悪そうに首を傾げてから、力無く腕を下す。
「なぁ。この包帯、取って良いか?」
そう訊かれたテルラは、言い淀んでから、意を決して口を開く。
「気をしっかり持ってくださいね。グレイ。貴女の右目は――もう見えません」
「……そんなに悪かったのか?」
「はい。お医者様が仰るには、眼球が完全に潰れているそうです。僕の治癒魔法で復元を試みたんですが、無理でした。すみません」
「ハハ……。そうか。道理でボムスライムの威力が高かった訳だ。これだけの代償なら、そりゃそうなるよな。ハハ……」
グレイは天井を仰ぎ、納得する様に笑った。
「とりあえず今はベッドに戻り、怪我を治してください」
テルラに手を引かれたグレイは、呆けた顔でベッドに座った。その格好のまま、カレンが買って来た温かいパン粥をすすった。
数分後、ドアが静かに開いてプリシゥアが帰って来た。
「ただいまっス。お、グレイ、起きたんスね、良かったっス。海賊退治の報酬を貰って来たっスよ。早速分配するっスか?」
「そうですね。分配しましょう」
お金大好きなグレイを元気付ける様に、テルラはすぐに計算を始めた。
食事を終えたグレイは、現金を数えるテルラの手元を見ながら皿を脇に置いた。
(ああ。もう無理に金を稼ぐ必要は無いんだなぁ。あいつ等が死んだから……チャク海賊団の復活は、もう無い)
そこに気付いたグレイは、姿勢を正してパーティリーダーに向き直った。
「テルラ。聞いてくれ」
「はい?」
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