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第十五話
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屋台でたらふく食べたテルラ一行は、夕飯用のお弁当も買って洞窟に入った。石のブロックで床、壁、天井が整備されていて、横にも上にもかなり広い。
「すっごいけど、ここに住むの怖いなぁ」
歩きながら感嘆の声を上げるカレン。
入り口近くは居住区。普通の街の住宅街に当たる。洞窟の壁に横穴を掘って家としていて、多くの住人が行き来している。
その横穴住宅は三段建てで、坂を使って上の段に昇る様だ。
「上の方はかなり高いっスねぇ。やっぱり身分の高い人が上になるんスかねぇ。手摺りが無くて危ないっスから、この街では偉くなりたくないっスねぇ」
「そうだねぇ」
カレンとプリシゥアは左右を見ているが、先頭のレイは正面を見たまま歩いている。
「日光が届かない奥の方も昼の様に明るいですわね。蛍導灯と言う魔具のおかげでしょうけど、どこにそれが有るか分かりませんわ」
レイの言葉を受け、テルラは天井を見上げた。三段住宅のせいでかなり高い。
「上の方は暗いので、手が届く範囲の壁に仕込んであるみたいですね。それにしても、どうやって上の方まで掘ったんでしょうか。凄い苦労が想像出来ますね」
居住区を数百メートル進むと、洞窟の規模が段々と狭くなって来た。上に昇るための坂が無くなり、段も無くなる。
ちょっと広めのトンネル程度になると、旅人向けの看板が目立って来た。
お土産屋。
旅の道具屋。
保存食屋。
そして宿屋を見付けた一行は、ハンター用の部屋をひとつ取ってそこに荷物を置いた。
「さて。身軽になったので各自自由行動としましょうか。僕は図書館に行ってみます」
「私はテルラの護衛っスから付いて行くっス」
「別にそんなに気にしなくても良いですよ、プリシゥア。ここは治安が良い事で有名ですし」
「どうせレイも付いて行くって言うに決まってるっスから、一緒に行くっス」
「殊勝な事を言っても、プリシゥアは気が付いたらどこかに消えてしまいますから、わたくしが居ないと危険で仕方ありませんわ」
仲間達のやり取りを見ていたカレンもその輪に加わる。
「本には興味無いけど、みんなが行くなら私も行くよ。見る物全部新鮮で面白いし」
宿を出た一行は、普段と同じ隊列を作って奥へと向かった。
旅人向けの看板が見えなくなって来ると、人の行き来が無くなって来た。
「やっぱり、本目的でこんなところまで来る人は少ないんだねぇ」
図書館や本屋の入り口を探している仲間達とは違い、カレンは周囲の人々を見ていた。主婦や宅配の人が多かった洞窟入り口とは違い、学校の先生みたいな賢そうな中年や魔法使いのローブの様な物を着ている老人ばっかりだ。
なので、数人のメイドを連れた二人の金髪少女はとても目立っていた。
片方は身分が高そうな豪奢なドレス。
もう片方は真っ黒なゴスロリドレス。
「って、向こうが目立ってるなら、こっちも目立ってるよね。一応、こっちも若い娘の集団だし。テルラは若い男の子だけど」
「一人で何をぶつぶつ言ってますの? カレン」
「何でもなーいよ、レイ。――ん?」
二人の金髪少女の許に鎧を着た若者が駆け寄り、その内の一人に耳打ちをした。
その後、話を聞いていた少女に緊張が走る。
「何かトラブルかな」
「トラブルですの? 無関係な面倒事なら早めに立ち去るべきですわね」
カレンが見ている方を見るレイ。
「あれは――ハイテン姫かしら?」
「知り合い?」
「知ってるも何も、ランドビークの姫です。つまりあのハイタッチ王子の妹君ですわ」
「げぇ」
面倒臭い男を思い出したカレンは、思わず変な声を漏らした。
静かな区域なので、突然の音に反応した大勢の人の注目を浴びてしまった。
あの金髪少女二人もこちらに顔を向けている。
豪奢なドレスを着ている方がレイの顔を二度見した。
「お互いに気付いたのなら挨拶しないといけませんね。テルラ、ちょっと寄り道しても宜しいでしょうか」
「はい、どうぞ。僕達も一緒しましょう」
レイが進む方向を変えると、向こうもこちらに向かって歩いて来た。
豪奢なドレスを着た方の金髪少女が綺麗な礼をする。
「まさかと思いましたが、レインボー姫でしたか。ごきげんよう。なぜこちらに?」
「ごきげんよう、ハイテン姫。通り道の途中で、有名なシーキュー図書都市の観光を、と。こちらはテルラティア・グリプト。エルカノートを代表する大聖堂の跡取り様ですわ」
「初めまして、ハイテン・ガガ・ランドビーク様。テルラティアと申します。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いいたしますわ。――ええと、今はちょっと緊急事態で……」
「姫。こちらが隣国のレインボー姫で間違いないのなら、今の話を聞いて貰った方が良いんじゃないんですか?」
黒いゴスロリドレスを着ている方の金髪少女がハイテン姫の言葉を遮った。ヤル気の無さそうな声色をしている。
「どうしてですの?」
「今聞いた話が事実なら、良く考えなくても大陸全体を揺るがす大事件です。なら、隣国の協力を得た方が良いのでは」
「確かに……。それなら、北のハープネット国の協力も必要ですわね」
「それは先輩に訊いてください。私は私の仕事をしなければならないので、政治の話は上の人達でしてくださいな」
「ここで一旦分かれる、と?」
「はい。私に護衛は必要ではないので」
少し考えたハイテン姫は、頷いてからレインボー姫に向き直った。
「レインボー姫。少々困った事件が起きてしまいましたので、エルカノート国のご協力をお願いしたいのです。宜しいでしょうか」
「困った事件とは?」
「ここでは、ちょっと。奥の個室を借りますので、そこで王族同士の話し合いをしましょう」
今度はレインボー姫が少し考える。
「状況が切迫している様ですが、こちらにも事情が有ります。テルラとその護衛の同席を許して頂けるのなら、お話を伺いましょう」
レイは、目配せでカレンに謝罪した。
仲間外れを謝っている事に気付いたカレンは、気にしてないよとの意味を込めて首を振って返した。
「同席を許しましょう。こちらも情報を持って来た彼を同席させます。メイドはわたくしの護衛以外はポツリさんに」
姫の指示に深く頭を下げる数人のメイド。
「行きましょう」
二人の姫と金髪の少年と僧兵少女と若い騎士と一人のメイドは、連なって奥の方に歩いて行った。
残されたカレンとゴスロリ少女と数人のメイド達は、無言でお互いの顔を見合った。
「すっごいけど、ここに住むの怖いなぁ」
歩きながら感嘆の声を上げるカレン。
入り口近くは居住区。普通の街の住宅街に当たる。洞窟の壁に横穴を掘って家としていて、多くの住人が行き来している。
その横穴住宅は三段建てで、坂を使って上の段に昇る様だ。
「上の方はかなり高いっスねぇ。やっぱり身分の高い人が上になるんスかねぇ。手摺りが無くて危ないっスから、この街では偉くなりたくないっスねぇ」
「そうだねぇ」
カレンとプリシゥアは左右を見ているが、先頭のレイは正面を見たまま歩いている。
「日光が届かない奥の方も昼の様に明るいですわね。蛍導灯と言う魔具のおかげでしょうけど、どこにそれが有るか分かりませんわ」
レイの言葉を受け、テルラは天井を見上げた。三段住宅のせいでかなり高い。
「上の方は暗いので、手が届く範囲の壁に仕込んであるみたいですね。それにしても、どうやって上の方まで掘ったんでしょうか。凄い苦労が想像出来ますね」
居住区を数百メートル進むと、洞窟の規模が段々と狭くなって来た。上に昇るための坂が無くなり、段も無くなる。
ちょっと広めのトンネル程度になると、旅人向けの看板が目立って来た。
お土産屋。
旅の道具屋。
保存食屋。
そして宿屋を見付けた一行は、ハンター用の部屋をひとつ取ってそこに荷物を置いた。
「さて。身軽になったので各自自由行動としましょうか。僕は図書館に行ってみます」
「私はテルラの護衛っスから付いて行くっス」
「別にそんなに気にしなくても良いですよ、プリシゥア。ここは治安が良い事で有名ですし」
「どうせレイも付いて行くって言うに決まってるっスから、一緒に行くっス」
「殊勝な事を言っても、プリシゥアは気が付いたらどこかに消えてしまいますから、わたくしが居ないと危険で仕方ありませんわ」
仲間達のやり取りを見ていたカレンもその輪に加わる。
「本には興味無いけど、みんなが行くなら私も行くよ。見る物全部新鮮で面白いし」
宿を出た一行は、普段と同じ隊列を作って奥へと向かった。
旅人向けの看板が見えなくなって来ると、人の行き来が無くなって来た。
「やっぱり、本目的でこんなところまで来る人は少ないんだねぇ」
図書館や本屋の入り口を探している仲間達とは違い、カレンは周囲の人々を見ていた。主婦や宅配の人が多かった洞窟入り口とは違い、学校の先生みたいな賢そうな中年や魔法使いのローブの様な物を着ている老人ばっかりだ。
なので、数人のメイドを連れた二人の金髪少女はとても目立っていた。
片方は身分が高そうな豪奢なドレス。
もう片方は真っ黒なゴスロリドレス。
「って、向こうが目立ってるなら、こっちも目立ってるよね。一応、こっちも若い娘の集団だし。テルラは若い男の子だけど」
「一人で何をぶつぶつ言ってますの? カレン」
「何でもなーいよ、レイ。――ん?」
二人の金髪少女の許に鎧を着た若者が駆け寄り、その内の一人に耳打ちをした。
その後、話を聞いていた少女に緊張が走る。
「何かトラブルかな」
「トラブルですの? 無関係な面倒事なら早めに立ち去るべきですわね」
カレンが見ている方を見るレイ。
「あれは――ハイテン姫かしら?」
「知り合い?」
「知ってるも何も、ランドビークの姫です。つまりあのハイタッチ王子の妹君ですわ」
「げぇ」
面倒臭い男を思い出したカレンは、思わず変な声を漏らした。
静かな区域なので、突然の音に反応した大勢の人の注目を浴びてしまった。
あの金髪少女二人もこちらに顔を向けている。
豪奢なドレスを着ている方がレイの顔を二度見した。
「お互いに気付いたのなら挨拶しないといけませんね。テルラ、ちょっと寄り道しても宜しいでしょうか」
「はい、どうぞ。僕達も一緒しましょう」
レイが進む方向を変えると、向こうもこちらに向かって歩いて来た。
豪奢なドレスを着た方の金髪少女が綺麗な礼をする。
「まさかと思いましたが、レインボー姫でしたか。ごきげんよう。なぜこちらに?」
「ごきげんよう、ハイテン姫。通り道の途中で、有名なシーキュー図書都市の観光を、と。こちらはテルラティア・グリプト。エルカノートを代表する大聖堂の跡取り様ですわ」
「初めまして、ハイテン・ガガ・ランドビーク様。テルラティアと申します。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いいたしますわ。――ええと、今はちょっと緊急事態で……」
「姫。こちらが隣国のレインボー姫で間違いないのなら、今の話を聞いて貰った方が良いんじゃないんですか?」
黒いゴスロリドレスを着ている方の金髪少女がハイテン姫の言葉を遮った。ヤル気の無さそうな声色をしている。
「どうしてですの?」
「今聞いた話が事実なら、良く考えなくても大陸全体を揺るがす大事件です。なら、隣国の協力を得た方が良いのでは」
「確かに……。それなら、北のハープネット国の協力も必要ですわね」
「それは先輩に訊いてください。私は私の仕事をしなければならないので、政治の話は上の人達でしてくださいな」
「ここで一旦分かれる、と?」
「はい。私に護衛は必要ではないので」
少し考えたハイテン姫は、頷いてからレインボー姫に向き直った。
「レインボー姫。少々困った事件が起きてしまいましたので、エルカノート国のご協力をお願いしたいのです。宜しいでしょうか」
「困った事件とは?」
「ここでは、ちょっと。奥の個室を借りますので、そこで王族同士の話し合いをしましょう」
今度はレインボー姫が少し考える。
「状況が切迫している様ですが、こちらにも事情が有ります。テルラとその護衛の同席を許して頂けるのなら、お話を伺いましょう」
レイは、目配せでカレンに謝罪した。
仲間外れを謝っている事に気付いたカレンは、気にしてないよとの意味を込めて首を振って返した。
「同席を許しましょう。こちらも情報を持って来た彼を同席させます。メイドはわたくしの護衛以外はポツリさんに」
姫の指示に深く頭を下げる数人のメイド。
「行きましょう」
二人の姫と金髪の少年と僧兵少女と若い騎士と一人のメイドは、連なって奥の方に歩いて行った。
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