さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十五話

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 洞窟入り口での朝食を終えたテルラ一行は、昨日の話の続きをするために宿のロビーに戻った。
 約束通りポツリが待っていたが、その隣にほぼ同じデザインの黒いゴスロリドレスを着た女性が座っていた。
「お待たせしてしまいましたか。こちらのお方は?」
 テルラが訊いたが、ポツリは緊張した面持ちで固まったままだった。
 それを無視する形で隣の女性が立ち上がり、深く頭を下げた。
「初めまして、レインボー姫。そしてテルラティア様と異教の方々。私はコクリ・コツン。ポツリの先輩巫女です」
「初めまして」
 簡単な名乗りの後、全員で座った。
「私達の目的は、昨日ポツリが説明したと本人から聞いております。しかし、ランドビークが大変な騒ぎになっているので、我々の調べ物は一旦中止せざるを得ない状況になってしまいました」
「なるほど。闇雲に情報公開をしてしまいますと無政府状態になりかねない状態なので、仕方ないと僕も思います」
「我々と共に来た他の巫女や学者を全員集めて今後どうするかの相談をしようとしたのですが、聞けば貴方方は不死の魔物退治が目的との事。それならば、どうか我々にお力をお貸し頂けませんでしょうか」
「魔物退治の依頼、と言う事でしょうか。今の僕達はハンターです。ハンターとして依頼されるなら、喜んでお受けいたしましょう。そうでなくても、不死の魔物は退治させて頂きますが」
「助かります。では早速北の我が国、ハープネット国に参りましょう。旅の準備と我々の仲間への連絡が有りますので、昼食後出発で宜しいでしょうか」
 相談も無しにテルラが頷きそうだと思ったレイが、多少不作法ながらも早口で先制した。
「いえ、こちらにも少々事情が有りまして、一旦エルカノート国内に戻らなければなりませんの。ですので、真っ直ぐハープネット国に向かう事は出来ません」
「ランドビークで起きた事件についての連絡でしょうか。それならば、ハイテン王女、レインボー王女の連名で、関係各国に書状が送られる、と聞いていますが」
 コクリは、一歩離れたところで立っているメイドを見た。彼女から極秘情報を得たのだろう。
「それも勿論有りますが、魔物退治を効率化するための案をわたくしの名で送らなければならないんです。王城への手紙なので、外国からでは信用出来る郵便が送れないのです。この国の治安を疑っている訳ではないのですが、間違いが有ってはいけない案件なので。ご理解頂ければ幸いです」
「うーん……それなら、仕方ないですね……」
 コクリが俯き加減で思考している様子を見ながらカレンが口をへの字にする。
「なんか私、話に付いて行けてないな。昨晩の内にランドビークの騒ぎって奴の事を聞いておけば良かったよ。なんで聞かなかったんだろ、私」
「宿に入ると洗濯や旅道具の修理で忙しいから忘れてもしょうがないっス。後で教えてあげるっスよ。相手に失礼っスから、コソコソ話は止めるっス」
 カレンとプリシゥアが囁き合っている内に本題が進んで行く。
「では、コクリさん達も僕達と一緒に一旦国境まで行って、国境を護るエルカノート軍に手紙を預け、そのまま北に行く。この計画ではどうでしょう」
 テルラの案に頷くコクリ。
「遠回りによる日数の増加と国境越えの手間は増えますが、妥当な折衷案だと思いますので、こちらに異論は有りません。ただ、本隊を遠回りさせるのは予算の都合で出来ない可能性が高いので、ここで結論は出せません。恐らく、本隊は引き続きランドビーク国内で予定の日数を仕事で消化し、私とポツリの二人のみが遠回りに同行する形になるでしょう」
 それを聞いたポツリが勢い良く先輩巫女に顔を向けた。
「え? 私もその遠回りに付き合わないといけないんですか? 先輩が行くなら自分はいらないんじゃ?」
 ポツリが嫌そうに言うと、コクリは深い溜息を吐いた。
 その音を聞いてビクリと身を震わせるポツリ。
「このポツリは才能が有るんですが、引きこもり気味と言うか、やる気が無いと言うか。なので、わざわざ遠出させたんです。しかし本隊と一緒だと後ろに引いて何も働かない事は過去の事例からも明らか。それでは来た意味が無いので、知の宝庫であるシーキュー図書都市で魔物について調べろと独自の任務を授けた訳なんです」
 コクリは、こめかみに怒りを表す血管を浮かび上がらせながら続ける。
「我々はハープネット王の命を受けた国賓扱いなので、ランドビーク王家末っ子のハイテン王女が私とポツリを案内してくださいました。しかし、まさかそのお陰で首の皮一枚残るとは……」
「僕達に必要なのは、その『まさか』なんです。ポツリさんには、その『まさか』を引き寄せる潜在能力が有る。不死の魔物退治を行うなら、ぜひポツリさんも同行してください。きっと魔物退治の成功率が上がるでしょう」
 テルラの言葉に頷くコクリ。
 ポツリは心底嫌そうな顔をしているが、先輩巫女はそれを無視して笑顔になる。
「願ってもない提案です。首輪を付けてでも同行させましょう。では、お昼に――」
「出来れば出発は明日の朝にして頂けませんか? 折角シーキュー図書都市に来たのに、色々有って、僕達は何の本も見れていませんので。旅の準備も何もしていませんし」
「早く魔物を退治しないと凍死者が増えるのですが――ここで焦っても仕方ありませんわね。
分かりました。では、明日の朝、ここで待ち合わせをしましょう。朝食は東側出口で共に取りましょう」
「はい」
 話が付いたので、テルラ達とコクリ達は一旦離れた。
 部屋に戻ったところで、カレンはプリシゥアに小声で耳打ちされた。
「ランドビークの騒ぎって奴を簡単に説明すると、ランドビークの王族全員がハイタッチ王子に殺されたんスよ」
「はぁ? 全員?」
「どうやってとか、動機とか、そう言うのは正式に発表されるまでは不明っス。昨日会ったハイテン王女は、ポツリさん達を案内するって言う公式の予定に無かった行動をしていたから助かった、って訳っス」
「それ、本当なの? そんな事出来るの? 偉い人って、そうならない様に護衛が付いてるもんじゃないの? プリシゥアみたいに」
「普通は有り得ないっス。ハイテン姫も半信半疑で信じてなくて、だから冷静に動けてるんスよ。もしも本当なら唯一の生き残りである姫がこれから頑張って国を維持しないといけないんス。大変っスね」
「なるほどねぇ。そりゃ大事件だ。……またとんでもない物を召喚したんだろうなぁ」
「女神様が見てくださっているっスから、世界をどうこうする事態にはならないと思うっスけどね。で、レイが王城に出す手紙ってのは、カワモトから教わったハンターギルド創立案っス」
 こちらは外に声が漏れても問題は無いので、普通の声色になって説明する。
 ハンターギルドとは、国籍の縛りを無くして、ハンターの仕事をやり易くするための組織。
 ギルドに保険料を納めていれば、万が一魔物退治で怪我や死亡事故が起こっても、どこの国のギルドからでも金銭的な援助や支援が受けられる。これにより、数が多かったり強かったりする魔物相手でも多少の無理が利く様になるだろう。
 一番の肝は、ギルドにも専用の魔法通信士を配備し、大陸全土を網羅する様に魔物の発生状況をやり取りする案。今はテルラの特権として教会の魔法通信を利用しているが、それを全ハンターが行える様にするのだ。
 これが実現出来ればハンターの活動効率が上がり、きっと100年もしない内に魔物を根絶出来るだろう。
 このギルド設立には各国の協力が必要なので、各国の王族に動いて貰わなければならない。だから王城に手紙を出す、と言う訳だ。
「ふーん。なんか良く分からないけど、実現すれば良いね」
「そっスね。じゃ、旅の準備をするっス」
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