さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第二十四話

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 遭難二日目。
 海岸線に沿って歩いてみたが、仲間を見付ける事は出来なかった。
 人間の足跡や気配は全く無い。
 希望を持てない状況だとストレスで疲労が普段より溜まるので、今日は早めにテントを建てる事にした。
「日が暮れる前にテルラも真水で髪を洗った方が良いですよ。道順になる様に木の幹に刀傷を付けておいたので、迷子になりませんから」
 持って来た種火で素早く焚き火を熾したテルラの横に立つミマルン。下ろした黒髪が濡れ、水滴が垂れている。
「そうですね。塩風でゴワゴワになって来ましたので、洗って来ます」
「焚き火は私が見ておきます」
「お願いします」
 30分ほどで帰って来るテルラ。
 火の番をしていたミマルンは上半身下着姿になっていた。
「おかえりなさい、テルラ。……ああ、髪を洗った際に、服がビショビショになったので。テルラもそうでしょ?」
「は、はい」
 ミマルンを見ない様にしながら焚き火を通り過ぎたテルラは、不自然な動きで砂浜の方を見渡した。真面目なテルラでも、一応は異性の裸を意識する程度には男の子の部分を持っている様だ。
「日が傾くと服が乾きませんね。火に当ててみましたが、生乾きです。でも着ないと風邪を引きますね」
 わざわざ言いながら服を着るミマルン。
「テルラも服を乾かしてください」
「そうですね」
 頷いてはみたものの、テルラは砂浜への警戒を止めなかった。
 照れているらしい。
 それか、色欲を吹っ切ろうと真面目な判断をしようとしているのか。
「テルラ。ひとつ質問良いですか?」
「なんでしょう?」
「男女の慎みを弁えているのなら、レイの好意をどう思っているんですか?」
「どう……とは?」
「恐らくですけど、彼女はテルラの気を引くために色々やって来たはずです。しかし、仲間以上の仲には発展していない様に見えます。それが不思議で」
 ミマルンは焚き火に木をくべた。生木だったので皮が爆ぜた。
 その音で振り向くテルラ。
「レイは王女で、僕は宗教者。お互いに一人前になっていないので、行動が一般的ではないだけでしょう。不思議だとお思いになるのは、一般常識のお国柄が違うからではないでしょうか」
「うーん、そう言う事ではなくてですねぇ」
 言葉を探しながら頭を掻くミマルン。
 テルラは、海岸を背にして焚き火の前に座る。金髪から水滴が垂れている。レイが居たら、その色気に見惚れて何をしただろうか。
「確かに、レイは僕に好意を持ってくださっていると思います。でもそれは、冗談なんです」
「冗談、とは?」
「幼い頃の僕は、レイに厳しい事を言いました。覚えていない事も多いですが、覚えている範囲でもとても失礼な事を言ってしまっています」
「その話はレイから聞きました。その厳しい言葉のお陰で目が覚め、ワガママ姫であった事を反省なされたとか」
 聞いていたなら話が早い、と頷くテルラ。
「本来、そんな事は有ってはいけないんです。大司教である父の言葉なら別ですが、ろくに修行もしていない子供が王族に直接意見など。不敬で首を刎ねられて当然な行為です」
「まぁ、それはそうですね。万国共通だと思います」
「ですからレイは僕の命を救うため、あの様な態度を取ってくださっているんです。僕を嫌ったなら僕は罰せられますが、逆に可愛がっていれば周囲の方々は何も言えなくなりますので」
「なるほど。でも、うーん。なんて言いますか、それもちょっと違うと言いますか」
「違いますか?」
 失礼を承知で言いますが、と前置きするミマルン。
「単純に男と女として好きだから、とは思いませんか?」
「それはありません。あってはいけません。レイには婚約者が居ますし、僕にも、相手はまだ決まっていないそうですが、ふさわしい婚約者が選ばれますから」
「政略結婚ですか? レイはそれに反抗するかも知れませんよ? 可能性は十分に有ると思いますが」
「ありません」
「断言しますね。レイも王女である前に人間ですから、政略結婚を嫌だと思うかも知れませんよ? 例えば、押し付けられた血統書付き成犬の世話を嫌がり、可愛い野良の子犬を撫でたいと思ったり、みたいな」
「レイは成犬の世話をこなしつつ、子犬を撫でます。なぜなら、王女は国民全員を愛する者ですから。レイはもうワガママ姫ではないので、きっとやりこなしてくださいます」
 ハンターを無理矢理続けている時点で十分ワガママ姫だと思うが、ミマルンはそれ以上何も言わなかった。
 正直テルラの本心が全く見えないが、王女としてのレイを信頼しているので、多分レイの事を想っている。
 多分。
 融通の効かない真面目さがガンの様な気もするが、レイはそんな部分に好意を持ってる様なので、この二人はこれで良いのだ。
 多分。
 なんにせよ、他国の姫がおせっかいして良い関係ではない。
「さて。出来る事はもう無いみたいなので、私はもう寝ます。後を頼みますね」
「はい」
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