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第二十四話
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ポーカンカの港を目的地にすると船長が宣言すると、メイドのシズが操舵室に入った。
すると帆を張っていないのに船が動き出した。
「この動き――漕ぎ手が居るんですか?」
ミマルンの疑問に応える、固定された車椅子に座ったままのオペレッタ。
「船底に六人の奴隷が居ますわ。力仕事なので全員男性ですわ。私とシズの女二人で出航するので奴隷も女性が良かったんですが、残念ながら力仕事が出来る女性奴隷が売っていませんでしたの」
「大丈夫なんですか? オペレッタ様なら反乱されても返り討ちに出来るでしょうが、そうなると動力が無くなりますが」
「何重も鍵を掛けていますから大丈夫ですわ。環境も食事も厚待遇にしてありますし、私の戦歴も伝えてありますので、反乱は考えないはずです。グレイも男所帯で操を守った経験がお有りですし、心配はございません」
「なら良いのですが……」
オペレッタとミマルンの会話を聞いていたテルラが微妙な表情をしていた。
それに気付いたグレイがにやける。
「僕は男なんですけど、って顔だな」
「え? 僕は男ですけど、別にそこは気になっていません。奴隷が当たり前な状況に文化の違いを感じていただけです」
「ふん。相変わらずからかいがいの無い奴だ。つまらん」
溜息を吐いたグレイは、黒コートの前を開けて胸に付けているハンターバッチを見せた。
「ちょっと聞きたいんだが、このバッチを使い続けても大丈夫なのか?」
「グレイ本人が使っているのなら何も問題は有りません。いつ僕達のハンターパーティに戻っても良い様にしてありますから」
お店の人を呼ぶ時の様に手の平を打ち合わせて皆の注目を集めるオペレッタ。そしておもむろにグレイを指差す。
「ハンターに戻りたいですか? グレイ」
「……どうだろうな。正直、悩んでいる。右目を潰した時は俺一人きりで生きて行こうと思っていたんだが、仕事をして金を稼ごうと思ったら、こうして人の輪に入らないと何も出来ない。なら、私情を捨てて必要とされている場所を居場所にするのが真っ当な人の道なのかも、とかな」
グレイは自嘲気味に笑む。
「こんな事で悩み迷うなんて、俺はまだ子供だな。偉そうにオペレッタに船長指南をしてはいるが、本当にまだまだだ」
「世間一般ではグレイは実際に子供ですけどね。テルラさんと同じくらいの年齢ですよね?」
オペレッタに見られたテルラは「僕はもうすぐ11歳です」と言った。
「俺もそれくらいだ。さて、テルラもミマルンも疲れただろう。明日には港に着くから、船室で休んでくれ。俺が案内しよう。オペレッタは遭難者が居ないか見張っててくれ」
「了解ですわ」
車椅子の影から双眼鏡を出したオペレッタは、海軍式の敬礼をした。
そして翌日。
ポーカンカの港に着いたので、騒ぎにならない様にランの海賊旗を仕舞って一般船として入港した。
テルラ達はハンターバッジで、オペレッタとメイドは身分証で入国を許可された。
奴隷達は船で留守番。
「早速レイ達が来ていないか聞き込みをしないとな」
グレイが港を見渡していると、シズに抱っこされて船を降りたオペレッタも港を見渡した。
広く賑やかで、エルカノートとの貿易で潤っている様だ。
勿論、漁港として機能している一角も有る。
「私は船長として物資補給の手配をしますので、グレイはテルラさん達と行動してくださいませ」
「任せた。――遭難明けで疲れているだろうが、手分けして効率良く行こう。集合場所は船宿。玄関の目立つところに俺の眼帯の予備を吊るしておく」
「ランの眼帯を、ですね。分かりました」
王女のミマルンは顔を隠して港周辺、グレイは漁師、テルラは商人を中心に遭難者関連の噂話が無いかを訊いて回った。
三人とも成果はゼロだった。
港の外にも漂着した人間は居ない様だ。
「となると、無人島に漂着しているか」
船宿の一室を取ったグレイは、黒コートを脱いで買い足した火薬や銃弾のチェックした。
テルラとミマルンは、歩き疲れと喉の渇きでへばっている。自分達が思っている以上に遭難生活が体力を落としている。オペレッタ達が来たら食事に行く予定になっているので、それまでは水筒の水を飲んで待つしかない。
「小島を探りながら北のエルカノートの港町に向かう事になるだろうが……今のオペレッタとオペレッタ号だと難しいんだよな」
「大丈夫ですわ!」
元気にドアを開けて大声を出すオペレッタ。
令嬢海賊は車椅子に乗っているので、実際にドアを開けたのはメイドのシズだが。
「小島を探りながら航行するのは、海流や海底の地理を把握するスキルが必要だとおっしゃりたいのでしょう? 何度も聞いたので覚えていますわ。ですが、難しい航海をこなすのも海賊修行。むしろ挑戦したいですわ」
「船長がそう言うなら、俺には文句は無いな。テルラ達はどうだ? 危険な航海になるが、行くか?」
返事が分かっているのか、勇ましい笑顔になっているグレイ。
当然、テルラとミマルンは迷い無く頷く。
「行きます」
「オペレッタ。補給は?」
「食料は現在運搬中。飲料水は明日早朝。私達三人、テルラとミマルン、奴隷六人、そして遭難者三人の、計十五人分ですわ」
「十分だ。出発は明日だな。今日は食って寝て、明日からの捜索に備えよう」
すると帆を張っていないのに船が動き出した。
「この動き――漕ぎ手が居るんですか?」
ミマルンの疑問に応える、固定された車椅子に座ったままのオペレッタ。
「船底に六人の奴隷が居ますわ。力仕事なので全員男性ですわ。私とシズの女二人で出航するので奴隷も女性が良かったんですが、残念ながら力仕事が出来る女性奴隷が売っていませんでしたの」
「大丈夫なんですか? オペレッタ様なら反乱されても返り討ちに出来るでしょうが、そうなると動力が無くなりますが」
「何重も鍵を掛けていますから大丈夫ですわ。環境も食事も厚待遇にしてありますし、私の戦歴も伝えてありますので、反乱は考えないはずです。グレイも男所帯で操を守った経験がお有りですし、心配はございません」
「なら良いのですが……」
オペレッタとミマルンの会話を聞いていたテルラが微妙な表情をしていた。
それに気付いたグレイがにやける。
「僕は男なんですけど、って顔だな」
「え? 僕は男ですけど、別にそこは気になっていません。奴隷が当たり前な状況に文化の違いを感じていただけです」
「ふん。相変わらずからかいがいの無い奴だ。つまらん」
溜息を吐いたグレイは、黒コートの前を開けて胸に付けているハンターバッチを見せた。
「ちょっと聞きたいんだが、このバッチを使い続けても大丈夫なのか?」
「グレイ本人が使っているのなら何も問題は有りません。いつ僕達のハンターパーティに戻っても良い様にしてありますから」
お店の人を呼ぶ時の様に手の平を打ち合わせて皆の注目を集めるオペレッタ。そしておもむろにグレイを指差す。
「ハンターに戻りたいですか? グレイ」
「……どうだろうな。正直、悩んでいる。右目を潰した時は俺一人きりで生きて行こうと思っていたんだが、仕事をして金を稼ごうと思ったら、こうして人の輪に入らないと何も出来ない。なら、私情を捨てて必要とされている場所を居場所にするのが真っ当な人の道なのかも、とかな」
グレイは自嘲気味に笑む。
「こんな事で悩み迷うなんて、俺はまだ子供だな。偉そうにオペレッタに船長指南をしてはいるが、本当にまだまだだ」
「世間一般ではグレイは実際に子供ですけどね。テルラさんと同じくらいの年齢ですよね?」
オペレッタに見られたテルラは「僕はもうすぐ11歳です」と言った。
「俺もそれくらいだ。さて、テルラもミマルンも疲れただろう。明日には港に着くから、船室で休んでくれ。俺が案内しよう。オペレッタは遭難者が居ないか見張っててくれ」
「了解ですわ」
車椅子の影から双眼鏡を出したオペレッタは、海軍式の敬礼をした。
そして翌日。
ポーカンカの港に着いたので、騒ぎにならない様にランの海賊旗を仕舞って一般船として入港した。
テルラ達はハンターバッジで、オペレッタとメイドは身分証で入国を許可された。
奴隷達は船で留守番。
「早速レイ達が来ていないか聞き込みをしないとな」
グレイが港を見渡していると、シズに抱っこされて船を降りたオペレッタも港を見渡した。
広く賑やかで、エルカノートとの貿易で潤っている様だ。
勿論、漁港として機能している一角も有る。
「私は船長として物資補給の手配をしますので、グレイはテルラさん達と行動してくださいませ」
「任せた。――遭難明けで疲れているだろうが、手分けして効率良く行こう。集合場所は船宿。玄関の目立つところに俺の眼帯の予備を吊るしておく」
「ランの眼帯を、ですね。分かりました」
王女のミマルンは顔を隠して港周辺、グレイは漁師、テルラは商人を中心に遭難者関連の噂話が無いかを訊いて回った。
三人とも成果はゼロだった。
港の外にも漂着した人間は居ない様だ。
「となると、無人島に漂着しているか」
船宿の一室を取ったグレイは、黒コートを脱いで買い足した火薬や銃弾のチェックした。
テルラとミマルンは、歩き疲れと喉の渇きでへばっている。自分達が思っている以上に遭難生活が体力を落としている。オペレッタ達が来たら食事に行く予定になっているので、それまでは水筒の水を飲んで待つしかない。
「小島を探りながら北のエルカノートの港町に向かう事になるだろうが……今のオペレッタとオペレッタ号だと難しいんだよな」
「大丈夫ですわ!」
元気にドアを開けて大声を出すオペレッタ。
令嬢海賊は車椅子に乗っているので、実際にドアを開けたのはメイドのシズだが。
「小島を探りながら航行するのは、海流や海底の地理を把握するスキルが必要だとおっしゃりたいのでしょう? 何度も聞いたので覚えていますわ。ですが、難しい航海をこなすのも海賊修行。むしろ挑戦したいですわ」
「船長がそう言うなら、俺には文句は無いな。テルラ達はどうだ? 危険な航海になるが、行くか?」
返事が分かっているのか、勇ましい笑顔になっているグレイ。
当然、テルラとミマルンは迷い無く頷く。
「行きます」
「オペレッタ。補給は?」
「食料は現在運搬中。飲料水は明日早朝。私達三人、テルラとミマルン、奴隷六人、そして遭難者三人の、計十五人分ですわ」
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