さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

文字の大きさ
213 / 277
第二十四話

9

しおりを挟む
 ポーカンカの港を目的地にすると船長が宣言すると、メイドのシズが操舵室に入った。
 すると帆を張っていないのに船が動き出した。
「この動き――漕ぎ手が居るんですか?」
 ミマルンの疑問に応える、固定された車椅子に座ったままのオペレッタ。
「船底に六人の奴隷が居ますわ。力仕事なので全員男性ですわ。私とシズの女二人で出航するので奴隷も女性が良かったんですが、残念ながら力仕事が出来る女性奴隷が売っていませんでしたの」
「大丈夫なんですか? オペレッタ様なら反乱されても返り討ちに出来るでしょうが、そうなると動力が無くなりますが」
「何重も鍵を掛けていますから大丈夫ですわ。環境も食事も厚待遇にしてありますし、私の戦歴も伝えてありますので、反乱は考えないはずです。グレイも男所帯で操を守った経験がお有りですし、心配はございません」
「なら良いのですが……」
 オペレッタとミマルンの会話を聞いていたテルラが微妙な表情をしていた。
 それに気付いたグレイがにやける。
「僕は男なんですけど、って顔だな」
「え? 僕は男ですけど、別にそこは気になっていません。奴隷が当たり前な状況に文化の違いを感じていただけです」
「ふん。相変わらずからかいがいの無い奴だ。つまらん」
 溜息を吐いたグレイは、黒コートの前を開けて胸に付けているハンターバッチを見せた。
「ちょっと聞きたいんだが、このバッチを使い続けても大丈夫なのか?」
「グレイ本人が使っているのなら何も問題は有りません。いつ僕達のハンターパーティに戻っても良い様にしてありますから」
 お店の人を呼ぶ時の様に手の平を打ち合わせて皆の注目を集めるオペレッタ。そしておもむろにグレイを指差す。
「ハンターに戻りたいですか? グレイ」
「……どうだろうな。正直、悩んでいる。右目を潰した時は俺一人きりで生きて行こうと思っていたんだが、仕事をして金を稼ごうと思ったら、こうして人の輪に入らないと何も出来ない。なら、私情を捨てて必要とされている場所を居場所にするのが真っ当な人の道なのかも、とかな」
 グレイは自嘲気味に笑む。
「こんな事で悩み迷うなんて、俺はまだ子供だな。偉そうにオペレッタに船長指南をしてはいるが、本当にまだまだだ」
「世間一般ではグレイは実際に子供ですけどね。テルラさんと同じくらいの年齢ですよね?」
 オペレッタに見られたテルラは「僕はもうすぐ11歳です」と言った。
「俺もそれくらいだ。さて、テルラもミマルンも疲れただろう。明日には港に着くから、船室で休んでくれ。俺が案内しよう。オペレッタは遭難者が居ないか見張っててくれ」
「了解ですわ」
 車椅子の影から双眼鏡を出したオペレッタは、海軍式の敬礼をした。
 そして翌日。
 ポーカンカの港に着いたので、騒ぎにならない様にランの海賊旗を仕舞って一般船として入港した。
 テルラ達はハンターバッジで、オペレッタとメイドは身分証で入国を許可された。
 奴隷達は船で留守番。
「早速レイ達が来ていないか聞き込みをしないとな」
 グレイが港を見渡していると、シズに抱っこされて船を降りたオペレッタも港を見渡した。
 広く賑やかで、エルカノートとの貿易で潤っている様だ。
 勿論、漁港として機能している一角も有る。
「私は船長として物資補給の手配をしますので、グレイはテルラさん達と行動してくださいませ」
「任せた。――遭難明けで疲れているだろうが、手分けして効率良く行こう。集合場所は船宿。玄関の目立つところに俺の眼帯の予備を吊るしておく」
「ランの眼帯を、ですね。分かりました」
 王女のミマルンは顔を隠して港周辺、グレイは漁師、テルラは商人を中心に遭難者関連の噂話が無いかを訊いて回った。
 三人とも成果はゼロだった。
 港の外にも漂着した人間は居ない様だ。
「となると、無人島に漂着しているか」
 船宿の一室を取ったグレイは、黒コートを脱いで買い足した火薬や銃弾のチェックした。
 テルラとミマルンは、歩き疲れと喉の渇きでへばっている。自分達が思っている以上に遭難生活が体力を落としている。オペレッタ達が来たら食事に行く予定になっているので、それまでは水筒の水を飲んで待つしかない。
「小島を探りながら北のエルカノートの港町に向かう事になるだろうが……今のオペレッタとオペレッタ号だと難しいんだよな」
「大丈夫ですわ!」
 元気にドアを開けて大声を出すオペレッタ。
 令嬢海賊は車椅子に乗っているので、実際にドアを開けたのはメイドのシズだが。
「小島を探りながら航行するのは、海流や海底の地理を把握するスキルが必要だとおっしゃりたいのでしょう? 何度も聞いたので覚えていますわ。ですが、難しい航海をこなすのも海賊修行。むしろ挑戦したいですわ」
「船長がそう言うなら、俺には文句は無いな。テルラ達はどうだ? 危険な航海になるが、行くか?」
 返事が分かっているのか、勇ましい笑顔になっているグレイ。
 当然、テルラとミマルンは迷い無く頷く。
「行きます」
「オペレッタ。補給は?」
「食料は現在運搬中。飲料水は明日早朝。私達三人、テルラとミマルン、奴隷六人、そして遭難者三人の、計十五人分ですわ」
「十分だ。出発は明日だな。今日は食って寝て、明日からの捜索に備えよう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...