224 / 277
第二十六話
2
しおりを挟む
車椅子に座っている銀髪美女は、反転して去って行く軍艦を見送っているテルラ一行を興味深そうに眺めた。
特に自分と同じ髪色の美女を見ている。
「あいつがエルカノートの王女だよ」
視線に気付いたグレイが車椅子の美女に耳打ちする。車椅子を軋ませて喜ぶと思っていたグレイだったが、反応は素っ気なかった。
「ねぇ、グレイ。エルカノートの王女が見付かったのなら、もうエルカノートの港に向かう必要は無いですわよね?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、練習航海はここで一旦おしまいにしても良いですわよね?」
「ん? どう言う事だ?」
「どうもこうも、目的だった大陸半周は達成したも同然でしょう? これ以上の航海は必要無いと思いますの」
「うん、まぁ、俺としては否定したいところだが、ポーカンカの港で沢山物資を積んだから、エルカノートの港に入ってもやる事は無いな」
「でしたら――」
銀の鎧とラベンダー色のスカート姿のレイがグレイに笑顔を向けていた。
それに気付いて会話を途中で止める二人。
「ああ、レイ。紹介しよう。この船の船長、オペレッタだ」
グレイに紹介された銀髪の美女が令嬢スマイルになる。
「マグラグナ国、ジウージョ伯爵家長女、オペレッタ・ジウージョですわ。負傷により立てなくなりましたので、車椅子で失礼しますわ」
「わたくしはレインボー・イン・エルカノート。テルラを助けて頂いた事、心より感謝致します」
王族スマイルになったレイは深く頭を下げる。
貴族の社交辞令的な会話を続け、一区切り付いたところでオペレッタは高貴なオーラを仕舞った。
型に嵌った挨拶は終わりだと悟ったレイも肩の力を抜く。
「レインボー様は、この後どうなさるおつもりですか?」
「当初の目的地はポーカンカの港でした。しかし、遭難と言うアクシデントのお陰で一旦中断されました。今後どうするかは、パーティリーダーであるテルラと相談してから決めますわ」
「そのテルラから聞いたんですが、王女様達は魔物の害の原因を探るためにリビラーナ王国を目指しているとか」
「ええ」
「しかし、大陸南側の諸国は、港町以外は危険です。戦争中ですので、平和な北側の様に徒歩では旅は出来ません。女子供は特に。国境越えは不可能と言っても良いでしょう。いえ、不可能と言い切りましょう」
厳しい言葉に表情を引き締めるレイ。
「ならば、わたくし達の旅はここで終わりと?」
「それも選択肢のひとつですが――ここにはミマルン王女もいらっしゃいます。国境越えが不可能なら、この船で直接グラシラドに向かうと言うのはどうでしょう?」
「直接?」
「ええ。リビラーナ王国はグラシラド王国の北に有ります。ミマルン王女の案内が有れば、戦場に近寄らずとも目的地に向かえると思います」
「なるほど。良い案だと思いますわ。早速ミマルンと相談致しますわ。でも、オペレッタ様はそれでよろしいんですの? この船でどこかに向かっていたのでは?」
「私の事はオペレッタとお呼びください。――それを今グレイと相談していたんですわ。どうでしょう、グレイ?」
顔を向けられたグレイは、頭を掻きながら短く応える。
「船長の判断に異論は無い」
「なら、この船はマグラグナ国に戻りますわ。その途中でレインボー様達をグラシラドの港に降ろしましょう。勿論、それ以外の国に降ろす事も可能です」
「願ってもないお話です。早速テルラと相談しますが、きっと喜んで受け入れてくださいますでしょう。それと、わたくしの事はレイと。今のわたくしはハンターですので」
「分かりましたわ、レイ。――では、シズ。目的地変更ですわ。最終目的地は故国マグラグナ。途中、グラシラドに寄りますわ。南に反転! ですわ」
陰に控えていたメイドに向け、元気に指示を出すオペレッタ。
メイドが一礼してから船内に消えると、中型船はゆっくりと旋回を始めた。
特に自分と同じ髪色の美女を見ている。
「あいつがエルカノートの王女だよ」
視線に気付いたグレイが車椅子の美女に耳打ちする。車椅子を軋ませて喜ぶと思っていたグレイだったが、反応は素っ気なかった。
「ねぇ、グレイ。エルカノートの王女が見付かったのなら、もうエルカノートの港に向かう必要は無いですわよね?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、練習航海はここで一旦おしまいにしても良いですわよね?」
「ん? どう言う事だ?」
「どうもこうも、目的だった大陸半周は達成したも同然でしょう? これ以上の航海は必要無いと思いますの」
「うん、まぁ、俺としては否定したいところだが、ポーカンカの港で沢山物資を積んだから、エルカノートの港に入ってもやる事は無いな」
「でしたら――」
銀の鎧とラベンダー色のスカート姿のレイがグレイに笑顔を向けていた。
それに気付いて会話を途中で止める二人。
「ああ、レイ。紹介しよう。この船の船長、オペレッタだ」
グレイに紹介された銀髪の美女が令嬢スマイルになる。
「マグラグナ国、ジウージョ伯爵家長女、オペレッタ・ジウージョですわ。負傷により立てなくなりましたので、車椅子で失礼しますわ」
「わたくしはレインボー・イン・エルカノート。テルラを助けて頂いた事、心より感謝致します」
王族スマイルになったレイは深く頭を下げる。
貴族の社交辞令的な会話を続け、一区切り付いたところでオペレッタは高貴なオーラを仕舞った。
型に嵌った挨拶は終わりだと悟ったレイも肩の力を抜く。
「レインボー様は、この後どうなさるおつもりですか?」
「当初の目的地はポーカンカの港でした。しかし、遭難と言うアクシデントのお陰で一旦中断されました。今後どうするかは、パーティリーダーであるテルラと相談してから決めますわ」
「そのテルラから聞いたんですが、王女様達は魔物の害の原因を探るためにリビラーナ王国を目指しているとか」
「ええ」
「しかし、大陸南側の諸国は、港町以外は危険です。戦争中ですので、平和な北側の様に徒歩では旅は出来ません。女子供は特に。国境越えは不可能と言っても良いでしょう。いえ、不可能と言い切りましょう」
厳しい言葉に表情を引き締めるレイ。
「ならば、わたくし達の旅はここで終わりと?」
「それも選択肢のひとつですが――ここにはミマルン王女もいらっしゃいます。国境越えが不可能なら、この船で直接グラシラドに向かうと言うのはどうでしょう?」
「直接?」
「ええ。リビラーナ王国はグラシラド王国の北に有ります。ミマルン王女の案内が有れば、戦場に近寄らずとも目的地に向かえると思います」
「なるほど。良い案だと思いますわ。早速ミマルンと相談致しますわ。でも、オペレッタ様はそれでよろしいんですの? この船でどこかに向かっていたのでは?」
「私の事はオペレッタとお呼びください。――それを今グレイと相談していたんですわ。どうでしょう、グレイ?」
顔を向けられたグレイは、頭を掻きながら短く応える。
「船長の判断に異論は無い」
「なら、この船はマグラグナ国に戻りますわ。その途中でレインボー様達をグラシラドの港に降ろしましょう。勿論、それ以外の国に降ろす事も可能です」
「願ってもないお話です。早速テルラと相談しますが、きっと喜んで受け入れてくださいますでしょう。それと、わたくしの事はレイと。今のわたくしはハンターですので」
「分かりましたわ、レイ。――では、シズ。目的地変更ですわ。最終目的地は故国マグラグナ。途中、グラシラドに寄りますわ。南に反転! ですわ」
陰に控えていたメイドに向け、元気に指示を出すオペレッタ。
メイドが一礼してから船内に消えると、中型船はゆっくりと旋回を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる