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中編
第53話
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「通信を開始します。合図の空砲を」
『了解』
返事をしたのは黒沢隊の通信士。男性の声。
直後、遠くで戦車が空砲を一発撃った。これを合図に全体が通信機の電源をオンにする。
「明日軌です。通信状態報告」
『コクマ、音声クリア』
『萌子、音声クリアです』
『黒沢隊通信士、音声クリア』
次々と返事が帰って来た。
しかし、一人だけ返事が無い。
「萌子さん、蜜月さんはどうしました?」
『蜜月さんはヘッドフォンを外して何かしています。――蜜月さん、大丈夫ですか?』
『――すみません、指がツマミに当たって周波数を弄っちゃいました。聞こえますでしょうか』
「明日軌、音声クリア」
『コクマ、音声クリア』
『萌子、音声クリアです』
『黒沢隊通信士、音声クリア』
普段はこんな報告をしないが、混合部隊である今回は混乱を避ける為にあえてやっている。
そんなやりとりを横目で見ているエンジュ。
『蜜月、音声クリアです。お騒がせしました』
「落ち着いてください。――コクマ、敵情報報告」
『人間三人。資料確認で、妹社翔、妹社隆行、妹社キノ。以上』
「装備は?」
『見える限りでは、歩兵銃と日本刀。妹社の標準装備です。三人共鏡の鎧は着ていません』
「以後、蝦夷の妹社は敵妹社と呼称。妹社隊の戦闘開始の合図は敵妹社の抜刀、もしくは発砲。黒沢隊は変わらず神鬼の警戒」
『了解』
複数の声が重なる。
「黒沢隊、神鬼は?」
『発見報告0』
「妹社隊前進。コクマは敵妹社監視続行」
『了解』
海岸に二人の人影が歩み出た。鏡の鎧を着ているので輝いている。
それを見て、橋の上の敵妹社の三人が動きを止めた。もうすぐ本土に降り立てる位置だ。
『明日軌様。流れ弾の恐れが有るので、物陰にお隠れください』
「そうね。了解」
海岸から百メートル以上離れているので歩兵銃の射程の外だが、コクマの進言に従って近くの木の影に隠れて現場を見る明日軌。
エンジュは変わらず腕組みで仁王立ち。
「蜜月さん、萌子さん。敵は神鬼ではなく、妹社です。狙うのは的の大きい胴を。余裕が有れば腕や足を撃ってください」
『了解』
返事が一拍遅れている。人に銃口を向けるのは初めてだから怖いのだろう。
「二人共。無心ですよ。戦いに勝って家に帰りましょう」
『はい』
『……そうですね』
蜜月は平坦な声で返事をしたが、萌子の声は微妙に掠れていた。やはり萌子の迷いは大きいか。
『回避行動! 手榴弾よ!』
コクマの言葉と共に、妹社の二人が別々の方向に飛び退いた。
直後、二人の間で大爆発。
明日軌は顔を歪める。妹社の二人を分断したか。敵妹社は本気だ。
「コクマは萌子さんの援護。急所は狙わずに」
瞬間的に予想した通り、蜜月に一人、萌子に二人が襲い掛かる。
敵妹社の事情が分かったので、コクマに丙の用心をさせなくても良いだろう。実際、龍の目で見た限りでは、三人に神鬼の影は無い。
「最悪ね。父と姫のマンツーマンになったわ」
ぽつりと呟くエンジュ。
双眼鏡で顔を確認。ツンツン髪の細面。
頭の中に有る資料の写真と照らし合わせる。
妹社翔。あの人が人質の想い人か。
明日軌はヘッドフォンから口元に伸びるマイクを手で覆い、音声が電波に乗らない様にする。
「蜜月さんは大型を落とした有名人ですからね。マンツーマンではなく、時間稼ぎでしょう」
「ん? どう言う事?」
戦いから目を離さずに小首を傾げるエンジュ。
「まず力量で劣っているであろう萌子さんを二人掛かりで倒し、それから蜜月さんを三人で、と言う作戦でしょうね。本気でこちらに勝つつもりの様です」
「なるほど。みんな色々考えて戦っているのねぇ」
風と波の音だけだった海岸に銃声が鳴り響き出した。
特に萌子が無闇矢鱈に撃っている。
男女二人組みの敵妹社も反撃する様に撃っているが、必死な感じは無い。
戦いが長引くと危険そうだ。
一方、蜜月は確実に一発ずつ撃っている。落ち付いていて頼もしい。
対する翔は日本刀を構え、弾道を見切って避けている。
「蜜月さん。彼の名前は翔です。銃を持っていますか?」
『持っていません。でも強いです』
もう蝦夷では銃弾の補給は出来ない。数に限りが有る弾を他の二人に渡し、翔は接近戦のみで戦う、か。
彼がのじこの様な戦い方を得意としているなら、刀の間合いに入られたら蜜月に勝ち目は無い。
「会話を仕掛けてみてください。隙が生まれるかも知れません」
『はい。えーっと……』
考え事を始めてしまう蜜月。逆に隙を生みそうだ。
「なぜ寝返ったのか?」
『貴方達はどうして寝返ったんですか?』
明日軌の助け船をそのまま言う蜜月。
相手の声を聞く為にヘッドフォンのボリュームを上げる。銃声が耳に痛いが、我慢する。
『近い内に人は滅びるからだ! 俺達は生き残りたいんだ!』
蜜月のマイクを通じて聞こえて来る男の声。
明日軌は更に蜜月を喋らせる。
『どうして橋を渡り、こちらに来たんですか?』
『お前達を倒せれば、向こう側で暮らす権利が貰えるんだ。悪いが俺達に倒されてくれ!』
向こう側、か。
ここでの戦いに勝てば人質は解放され、更に樹人側の信頼を得られる。とでも言われているのだろう。
彼の共生欲は人質の女に向いてると思っていたが、その通りだった様だ。とにかく人質が生き残る選択を優先している。
他の二人はその協力者だな。
思い付きの口車の様な作戦だ。
普通の戦争なら、そんな口約束が守られる事は極めて稀だと明日軌は思う。守られる時は、何か裏が有る時だろう。
この状況は、敵妹社の純粋さを利用した、ただの捨て駒としか思えない。
そうこうしている間にも萌子の苦痛の声が聞こえて来ている。
鏡の鎧が割れる音。
致命傷は無い様だが、被弾している。
敵妹社にもコクマの狙撃が当たっている。
予想より早く勝負が決まりそうだ。中々死なない妹社同士だから勝負が長引くと思い、電池切れしても良い様にと予備のヘッドフォンを持たせたが、無意味だったか。
「蜜月さん、返事不要。私の言う事を彼に伝えてください。そうするときっと隙が出来るので、足を撃ちなさい」
確実に撃たせる為に命令形で言う。
こっそりとエンジュを見る明日軌。余裕ぶって腕を組んでいるが、腕や足がピクピクと動いている。蜜月のピンチに飛び出すのは間違い無い。万が一、翔が逆上しても大丈夫だろう。
「今ならまだ間に合います、投降してください。現在戦闘指揮をしている雛白明日軌の許に下るなら、罪を不問にする努力をします」
蜜月は、素直にそのまま言う。
『今更人の側に行けるか! もう後戻りは出来ないんだ!』
「雛白明日軌は龍の目の持ち主です。貴方の記憶を辿れば、大切な人を見付ける事が出来ます」
『龍の、目?』
パン、と発砲音。
『ぐわ!』
蜜月の銃弾が当たった男は膝を突く。
「動くな、と出来る限りの大声を出し、翔の頭に銃を突き付けて」
『動くな!』
遠く離れたエンジュにも聞こえるくらいの大声を出す蜜月。
銃声が止む。萌子と戦っていた隆行とキノの動きも止まっている。
「突き付けたまま翔の背後に回る。萌子さんは警戒。蜜月さん、全員武器を捨てなさいと叫ぶ」
『全員武器を捨てなさい!』
しかし敵妹社三人は動きを止めたままで武器を捨てない。
「貴方達の仲間を人質にする様な者の言う事を信用するのですか? 大人しく投降しなさい。今すぐ救助行動を起こせばきっと間に合う」
その言葉を大声で言った後、人質? と小声で呟く蜜月。
「蜜月さん、普通の声で翔に訊いて。龍の目の能力は知ってる?」
『翔さん、龍の目の能力は知ってますか?』
『……何かの本で読んだ事は有る』
「過去の記憶が見える事を知っているのですね?」
『ああ』
「なら、投降した方が貴方達の得になります。負けが確定しているのに悪あがきをすると、時間を浪費して事態が悪くなります」
『その龍の目の持ち主は、信頼出来るのか?』
『出来ます』
明日軌の言葉を待たずに、蜜月は翔の質問に即答する。
『……分かった。俺達の、負けだ』
日本刀を投げ捨てる翔。
それを見て、他の二人も銃を捨てた。
「妹社隊戦闘終了。黒沢隊、適当な歩兵小隊前へ。現場を警戒包囲。衛生兵待機」
『016小隊出ます』
マイクを手で覆う明日軌。
「これからすぐに蝦夷に向かいます。エンジュ。出来れば蝦夷のお仲間を逃がして貰えませんか。足手纏いな人質を残して」
「そうさせて頂くわ。貴女に従うのは癪だけど、あの男の思い通りになるのはもっと嫌」
肩を竦めたエンジュだったが、口元は笑んでいた。
「猿が貴女みたいなのばっかりだったら、こんな戦いは始まらなかったのに」
心から残念そうに言うエンジュ。
「まぁ、私達の方にもあの男みたいなしょうがない人は居るけど。じゃ、バイバイ」
「色々と教えてくれたお礼に、私も独り言を言うわ」
木の影から出た明日軌は、声を張りながら海岸に向かって歩く。
「このまま行くと、最後はエンジュと蜜月さんの対決になります。蜜月さんは貴女達の側には絶対に行かない。結末は残念ながら分からないけれど」
「……ふぅん」
「その時は、私は命懸けでエンジュの左目を貰う事になるわね。そうならないと良いな。独り言おしまい」
「ふふ。怖い独り言ね」
そんなに本気にしてないな。
「ああ、そうそう。越後に帰った後の、最初の中型神鬼戦。指揮車から落し物をするわ。おすすめよ」
「何かしら。楽しみにしてるわ」
そう呟いたエンジュは、茂みを踏む足音と共にこの場から走り去った。
『了解』
返事をしたのは黒沢隊の通信士。男性の声。
直後、遠くで戦車が空砲を一発撃った。これを合図に全体が通信機の電源をオンにする。
「明日軌です。通信状態報告」
『コクマ、音声クリア』
『萌子、音声クリアです』
『黒沢隊通信士、音声クリア』
次々と返事が帰って来た。
しかし、一人だけ返事が無い。
「萌子さん、蜜月さんはどうしました?」
『蜜月さんはヘッドフォンを外して何かしています。――蜜月さん、大丈夫ですか?』
『――すみません、指がツマミに当たって周波数を弄っちゃいました。聞こえますでしょうか』
「明日軌、音声クリア」
『コクマ、音声クリア』
『萌子、音声クリアです』
『黒沢隊通信士、音声クリア』
普段はこんな報告をしないが、混合部隊である今回は混乱を避ける為にあえてやっている。
そんなやりとりを横目で見ているエンジュ。
『蜜月、音声クリアです。お騒がせしました』
「落ち着いてください。――コクマ、敵情報報告」
『人間三人。資料確認で、妹社翔、妹社隆行、妹社キノ。以上』
「装備は?」
『見える限りでは、歩兵銃と日本刀。妹社の標準装備です。三人共鏡の鎧は着ていません』
「以後、蝦夷の妹社は敵妹社と呼称。妹社隊の戦闘開始の合図は敵妹社の抜刀、もしくは発砲。黒沢隊は変わらず神鬼の警戒」
『了解』
複数の声が重なる。
「黒沢隊、神鬼は?」
『発見報告0』
「妹社隊前進。コクマは敵妹社監視続行」
『了解』
海岸に二人の人影が歩み出た。鏡の鎧を着ているので輝いている。
それを見て、橋の上の敵妹社の三人が動きを止めた。もうすぐ本土に降り立てる位置だ。
『明日軌様。流れ弾の恐れが有るので、物陰にお隠れください』
「そうね。了解」
海岸から百メートル以上離れているので歩兵銃の射程の外だが、コクマの進言に従って近くの木の影に隠れて現場を見る明日軌。
エンジュは変わらず腕組みで仁王立ち。
「蜜月さん、萌子さん。敵は神鬼ではなく、妹社です。狙うのは的の大きい胴を。余裕が有れば腕や足を撃ってください」
『了解』
返事が一拍遅れている。人に銃口を向けるのは初めてだから怖いのだろう。
「二人共。無心ですよ。戦いに勝って家に帰りましょう」
『はい』
『……そうですね』
蜜月は平坦な声で返事をしたが、萌子の声は微妙に掠れていた。やはり萌子の迷いは大きいか。
『回避行動! 手榴弾よ!』
コクマの言葉と共に、妹社の二人が別々の方向に飛び退いた。
直後、二人の間で大爆発。
明日軌は顔を歪める。妹社の二人を分断したか。敵妹社は本気だ。
「コクマは萌子さんの援護。急所は狙わずに」
瞬間的に予想した通り、蜜月に一人、萌子に二人が襲い掛かる。
敵妹社の事情が分かったので、コクマに丙の用心をさせなくても良いだろう。実際、龍の目で見た限りでは、三人に神鬼の影は無い。
「最悪ね。父と姫のマンツーマンになったわ」
ぽつりと呟くエンジュ。
双眼鏡で顔を確認。ツンツン髪の細面。
頭の中に有る資料の写真と照らし合わせる。
妹社翔。あの人が人質の想い人か。
明日軌はヘッドフォンから口元に伸びるマイクを手で覆い、音声が電波に乗らない様にする。
「蜜月さんは大型を落とした有名人ですからね。マンツーマンではなく、時間稼ぎでしょう」
「ん? どう言う事?」
戦いから目を離さずに小首を傾げるエンジュ。
「まず力量で劣っているであろう萌子さんを二人掛かりで倒し、それから蜜月さんを三人で、と言う作戦でしょうね。本気でこちらに勝つつもりの様です」
「なるほど。みんな色々考えて戦っているのねぇ」
風と波の音だけだった海岸に銃声が鳴り響き出した。
特に萌子が無闇矢鱈に撃っている。
男女二人組みの敵妹社も反撃する様に撃っているが、必死な感じは無い。
戦いが長引くと危険そうだ。
一方、蜜月は確実に一発ずつ撃っている。落ち付いていて頼もしい。
対する翔は日本刀を構え、弾道を見切って避けている。
「蜜月さん。彼の名前は翔です。銃を持っていますか?」
『持っていません。でも強いです』
もう蝦夷では銃弾の補給は出来ない。数に限りが有る弾を他の二人に渡し、翔は接近戦のみで戦う、か。
彼がのじこの様な戦い方を得意としているなら、刀の間合いに入られたら蜜月に勝ち目は無い。
「会話を仕掛けてみてください。隙が生まれるかも知れません」
『はい。えーっと……』
考え事を始めてしまう蜜月。逆に隙を生みそうだ。
「なぜ寝返ったのか?」
『貴方達はどうして寝返ったんですか?』
明日軌の助け船をそのまま言う蜜月。
相手の声を聞く為にヘッドフォンのボリュームを上げる。銃声が耳に痛いが、我慢する。
『近い内に人は滅びるからだ! 俺達は生き残りたいんだ!』
蜜月のマイクを通じて聞こえて来る男の声。
明日軌は更に蜜月を喋らせる。
『どうして橋を渡り、こちらに来たんですか?』
『お前達を倒せれば、向こう側で暮らす権利が貰えるんだ。悪いが俺達に倒されてくれ!』
向こう側、か。
ここでの戦いに勝てば人質は解放され、更に樹人側の信頼を得られる。とでも言われているのだろう。
彼の共生欲は人質の女に向いてると思っていたが、その通りだった様だ。とにかく人質が生き残る選択を優先している。
他の二人はその協力者だな。
思い付きの口車の様な作戦だ。
普通の戦争なら、そんな口約束が守られる事は極めて稀だと明日軌は思う。守られる時は、何か裏が有る時だろう。
この状況は、敵妹社の純粋さを利用した、ただの捨て駒としか思えない。
そうこうしている間にも萌子の苦痛の声が聞こえて来ている。
鏡の鎧が割れる音。
致命傷は無い様だが、被弾している。
敵妹社にもコクマの狙撃が当たっている。
予想より早く勝負が決まりそうだ。中々死なない妹社同士だから勝負が長引くと思い、電池切れしても良い様にと予備のヘッドフォンを持たせたが、無意味だったか。
「蜜月さん、返事不要。私の言う事を彼に伝えてください。そうするときっと隙が出来るので、足を撃ちなさい」
確実に撃たせる為に命令形で言う。
こっそりとエンジュを見る明日軌。余裕ぶって腕を組んでいるが、腕や足がピクピクと動いている。蜜月のピンチに飛び出すのは間違い無い。万が一、翔が逆上しても大丈夫だろう。
「今ならまだ間に合います、投降してください。現在戦闘指揮をしている雛白明日軌の許に下るなら、罪を不問にする努力をします」
蜜月は、素直にそのまま言う。
『今更人の側に行けるか! もう後戻りは出来ないんだ!』
「雛白明日軌は龍の目の持ち主です。貴方の記憶を辿れば、大切な人を見付ける事が出来ます」
『龍の、目?』
パン、と発砲音。
『ぐわ!』
蜜月の銃弾が当たった男は膝を突く。
「動くな、と出来る限りの大声を出し、翔の頭に銃を突き付けて」
『動くな!』
遠く離れたエンジュにも聞こえるくらいの大声を出す蜜月。
銃声が止む。萌子と戦っていた隆行とキノの動きも止まっている。
「突き付けたまま翔の背後に回る。萌子さんは警戒。蜜月さん、全員武器を捨てなさいと叫ぶ」
『全員武器を捨てなさい!』
しかし敵妹社三人は動きを止めたままで武器を捨てない。
「貴方達の仲間を人質にする様な者の言う事を信用するのですか? 大人しく投降しなさい。今すぐ救助行動を起こせばきっと間に合う」
その言葉を大声で言った後、人質? と小声で呟く蜜月。
「蜜月さん、普通の声で翔に訊いて。龍の目の能力は知ってる?」
『翔さん、龍の目の能力は知ってますか?』
『……何かの本で読んだ事は有る』
「過去の記憶が見える事を知っているのですね?」
『ああ』
「なら、投降した方が貴方達の得になります。負けが確定しているのに悪あがきをすると、時間を浪費して事態が悪くなります」
『その龍の目の持ち主は、信頼出来るのか?』
『出来ます』
明日軌の言葉を待たずに、蜜月は翔の質問に即答する。
『……分かった。俺達の、負けだ』
日本刀を投げ捨てる翔。
それを見て、他の二人も銃を捨てた。
「妹社隊戦闘終了。黒沢隊、適当な歩兵小隊前へ。現場を警戒包囲。衛生兵待機」
『016小隊出ます』
マイクを手で覆う明日軌。
「これからすぐに蝦夷に向かいます。エンジュ。出来れば蝦夷のお仲間を逃がして貰えませんか。足手纏いな人質を残して」
「そうさせて頂くわ。貴女に従うのは癪だけど、あの男の思い通りになるのはもっと嫌」
肩を竦めたエンジュだったが、口元は笑んでいた。
「猿が貴女みたいなのばっかりだったら、こんな戦いは始まらなかったのに」
心から残念そうに言うエンジュ。
「まぁ、私達の方にもあの男みたいなしょうがない人は居るけど。じゃ、バイバイ」
「色々と教えてくれたお礼に、私も独り言を言うわ」
木の影から出た明日軌は、声を張りながら海岸に向かって歩く。
「このまま行くと、最後はエンジュと蜜月さんの対決になります。蜜月さんは貴女達の側には絶対に行かない。結末は残念ながら分からないけれど」
「……ふぅん」
「その時は、私は命懸けでエンジュの左目を貰う事になるわね。そうならないと良いな。独り言おしまい」
「ふふ。怖い独り言ね」
そんなに本気にしてないな。
「ああ、そうそう。越後に帰った後の、最初の中型神鬼戦。指揮車から落し物をするわ。おすすめよ」
「何かしら。楽しみにしてるわ」
そう呟いたエンジュは、茂みを踏む足音と共にこの場から走り去った。
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