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後編
第72話
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街の南側の丘には、背の高い木が疎らに生えている。
その太い枝に青井組が潜んでいた。大型相手だと意味の無い鏡の鎧は脱いでジープに残し、黒い上下姿になっている。
青井組が踏んでいる枝には雛白明日軌が結んだ青いリボンが有り、秋のそよ風に揺れている。この目印が有る場所で待っていると敵が来るらしい。
下を見ると、二人の紺色メイドが草叢の中で腹這いになっている。二人の脇には、緑の布を被せたリヤカーが有る。
海外組も同じ様にどこかの木に潜んでいるだろう。
『来ました! 南を攻めた恐竜型の大型神鬼です!』
街の外に居る観測隊の報告が、全員のヘッドフォンから聞こえた。
『三体確認! 移動速度はかなり遅目。駆け足程度です』
「少ないね。哲也君達の話だと、二十体以上居て、数匹しか倒してないはずだよね?」
三つ編みのキノが言うと、勇ましい目付きの隆行が街の外に目を向けた。稲刈りが済んで土が剥き出しの田んぼが視界いっぱいに広がっている。
「ほとんどが東京の方に行ったんだろう。向こうは大変だろうが、俺達は助かるな」
「見えて来たぞ。海外組、準備は良いか?」
翔の赤い瞳に、遠くで蠢くみっつの巨大な影が映った。
事前に見せられた資料では、体長およそ二十メートル。太古の肉食獣の姿をしていて、大きな口から極太熱線を発射する。その威力は、直撃を受けた湖が一瞬で沸騰、蒸発し、水量が半分以下になる程だと言う。
ただ、短期間に大型を大量生産したせいか、生命力が皆無らしい。撤退戦の最中に掘った落とし穴に嵌って足を挫いただけで死んでしまうくらいに。
『OKです』
向こうの中で一番年上のカイザーが返事をした。
「右の奴は俺達が。海外組は左を頼む。中心を最後に」
『了解』
「隆行、キノ。行くぞ。位置を特定されるなよ」
「了解。――なぁ、翔」
ヘッドフォンのスイッチを切る隆行。
「何だ?」
「子供の名前、考えてるか?」
「……」
命の瀬戸際が来ているこんな時に何を言い出すのかと、翔は面白くなさそうな表情を隆行に向ける。
「凛は何も言わなかったけど、あの子、陣痛始まってたよ」
キノも口元に伸びているマイクを握り、機械が声を拾わない様にして無駄口を始める。
「そんな事は分かっている。余計な事は言わなくて良い。今は大型に集中しろ」
その物言いにカチンと来る隆行とキノ。
しかし文句が出る前に翔が口を開く。
「考えているに決まっているだろ。だが、あの化物を倒さないと、俺達は勿論、子供の未来も無い。だから全力で敵を倒そう」
吐き捨てる様に言ってから、地面に飛び降りる翔。
枝の上に残された隆行とキノは、お互いの顔を見合わせてから、ヘッドフォンのスイッチを入れて飛び降りる。
三人の妹社は、リヤカーに被せられていた緑の布を取った。姿を現したのは、無数の黒い鉄の筒。バズーカと言う兵器で、この日の為に雛白で大量に作られた。
一人一本ずつ肩に担いで持ち、大型に向かって走る。
その後ろに、前と後ろの二人でリヤカーを引く紺色メイドが続く。
近付けば近付く程、大型神鬼の巨大さが恐ろしくなる。煌々と輝く大きな口から白い蒸気を上げながら、地響きと共に歩いて来る。
資料に目が悪いと書かれてあった通り、田んぼを走る翔達には気付いていない。リヤカーはさすがに目立つので、メイド達はかなり遠くで迂回する様に走っている。
翔達も、右側に回り込む様に散開して走る。
先の方で打ち上げ花火の様な物が見えた。光点が斜め上方に飛び、煙の尾を引いている。
その光点が左側の恐竜に当たり、大爆発を起こした。
直撃を受けた大型は襲って来た敵を探して左側に身を捻る。一撃では倒せなかったが、その皮膚は裂け、赤い血が吹き出している。
他の二匹も左側に身体を向け、その内の一匹が光線を吐き出した。辺りがオレンジ色に明るくなり、地面に刺さった光線が土砂を巻き上げる。資料通りの物凄い威力で、雨が降ったら川になるくらいの傷跡を地面に残している。ヘッドフォンの向こうから女の悲鳴が聞こえたが、ただ単にエリカが光線の威力に驚いただけの様だ。
「先を越されたか。急ごう!」
そう叫んだ翔が足を止め、右側の恐竜に向けてバズーカを撃った。
前方へ発射される光点の衝撃で翔の身体が後ろに飛ばされない様に、筒の後ろ側からも同時に空砲が発射される。練習では火薬だけを詰めた偽物しか触れられなかったが、本物の衝撃波は骨が砕けるかと思う程キツかった。
光点は右の恐竜の肉を削り取り、注意を翔の方に引き付ける。
「撃つ時はかなり踏ん張らないと怪我するぞ!」
ヘッドフォンのマイクに向かって叫びながら、空になったバズーカを捨てて畦の影に隠れる翔。次のバズーカの補給をしようと匍匐でリヤカーに向かうと、ニ発目、三発目の光点が左右の恐竜に吸い込まれて行った。
その太い枝に青井組が潜んでいた。大型相手だと意味の無い鏡の鎧は脱いでジープに残し、黒い上下姿になっている。
青井組が踏んでいる枝には雛白明日軌が結んだ青いリボンが有り、秋のそよ風に揺れている。この目印が有る場所で待っていると敵が来るらしい。
下を見ると、二人の紺色メイドが草叢の中で腹這いになっている。二人の脇には、緑の布を被せたリヤカーが有る。
海外組も同じ様にどこかの木に潜んでいるだろう。
『来ました! 南を攻めた恐竜型の大型神鬼です!』
街の外に居る観測隊の報告が、全員のヘッドフォンから聞こえた。
『三体確認! 移動速度はかなり遅目。駆け足程度です』
「少ないね。哲也君達の話だと、二十体以上居て、数匹しか倒してないはずだよね?」
三つ編みのキノが言うと、勇ましい目付きの隆行が街の外に目を向けた。稲刈りが済んで土が剥き出しの田んぼが視界いっぱいに広がっている。
「ほとんどが東京の方に行ったんだろう。向こうは大変だろうが、俺達は助かるな」
「見えて来たぞ。海外組、準備は良いか?」
翔の赤い瞳に、遠くで蠢くみっつの巨大な影が映った。
事前に見せられた資料では、体長およそ二十メートル。太古の肉食獣の姿をしていて、大きな口から極太熱線を発射する。その威力は、直撃を受けた湖が一瞬で沸騰、蒸発し、水量が半分以下になる程だと言う。
ただ、短期間に大型を大量生産したせいか、生命力が皆無らしい。撤退戦の最中に掘った落とし穴に嵌って足を挫いただけで死んでしまうくらいに。
『OKです』
向こうの中で一番年上のカイザーが返事をした。
「右の奴は俺達が。海外組は左を頼む。中心を最後に」
『了解』
「隆行、キノ。行くぞ。位置を特定されるなよ」
「了解。――なぁ、翔」
ヘッドフォンのスイッチを切る隆行。
「何だ?」
「子供の名前、考えてるか?」
「……」
命の瀬戸際が来ているこんな時に何を言い出すのかと、翔は面白くなさそうな表情を隆行に向ける。
「凛は何も言わなかったけど、あの子、陣痛始まってたよ」
キノも口元に伸びているマイクを握り、機械が声を拾わない様にして無駄口を始める。
「そんな事は分かっている。余計な事は言わなくて良い。今は大型に集中しろ」
その物言いにカチンと来る隆行とキノ。
しかし文句が出る前に翔が口を開く。
「考えているに決まっているだろ。だが、あの化物を倒さないと、俺達は勿論、子供の未来も無い。だから全力で敵を倒そう」
吐き捨てる様に言ってから、地面に飛び降りる翔。
枝の上に残された隆行とキノは、お互いの顔を見合わせてから、ヘッドフォンのスイッチを入れて飛び降りる。
三人の妹社は、リヤカーに被せられていた緑の布を取った。姿を現したのは、無数の黒い鉄の筒。バズーカと言う兵器で、この日の為に雛白で大量に作られた。
一人一本ずつ肩に担いで持ち、大型に向かって走る。
その後ろに、前と後ろの二人でリヤカーを引く紺色メイドが続く。
近付けば近付く程、大型神鬼の巨大さが恐ろしくなる。煌々と輝く大きな口から白い蒸気を上げながら、地響きと共に歩いて来る。
資料に目が悪いと書かれてあった通り、田んぼを走る翔達には気付いていない。リヤカーはさすがに目立つので、メイド達はかなり遠くで迂回する様に走っている。
翔達も、右側に回り込む様に散開して走る。
先の方で打ち上げ花火の様な物が見えた。光点が斜め上方に飛び、煙の尾を引いている。
その光点が左側の恐竜に当たり、大爆発を起こした。
直撃を受けた大型は襲って来た敵を探して左側に身を捻る。一撃では倒せなかったが、その皮膚は裂け、赤い血が吹き出している。
他の二匹も左側に身体を向け、その内の一匹が光線を吐き出した。辺りがオレンジ色に明るくなり、地面に刺さった光線が土砂を巻き上げる。資料通りの物凄い威力で、雨が降ったら川になるくらいの傷跡を地面に残している。ヘッドフォンの向こうから女の悲鳴が聞こえたが、ただ単にエリカが光線の威力に驚いただけの様だ。
「先を越されたか。急ごう!」
そう叫んだ翔が足を止め、右側の恐竜に向けてバズーカを撃った。
前方へ発射される光点の衝撃で翔の身体が後ろに飛ばされない様に、筒の後ろ側からも同時に空砲が発射される。練習では火薬だけを詰めた偽物しか触れられなかったが、本物の衝撃波は骨が砕けるかと思う程キツかった。
光点は右の恐竜の肉を削り取り、注意を翔の方に引き付ける。
「撃つ時はかなり踏ん張らないと怪我するぞ!」
ヘッドフォンのマイクに向かって叫びながら、空になったバズーカを捨てて畦の影に隠れる翔。次のバズーカの補給をしようと匍匐でリヤカーに向かうと、ニ発目、三発目の光点が左右の恐竜に吸い込まれて行った。
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