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第一話:シン・ドメイドンを編集
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火山の大爆発が、みそ汁をかき混ぜて作られた世界があることをご存じだろうか?
正確には沈殿した味噌をかき回したことがヒントになり、火山の模型を逆さにして水槽に突っ込み、絵の具などの顔料を注ぎ込んだ映像を反転させる。こうして火山の大噴火を撮影した界隈がある。
そう、特撮怪獣映画の世界。そして伝説となった作品がこれだ。
SF怪獣映画『シン・ドメイドン』。
戦後すぐに公開された初の特撮怪獣映画『ドメイドン』。今回の作品はそのシリーズの二十九作目となる。
これまでのドメイドンシリーズは、リアルなミニチュア特撮と精巧な着ぐるみ怪獣によるアクションが特徴だった。
これに対し、『シン・ドメイドン』は前例を覆した。
着ぐるみ怪獣もミニチュア特撮も一切なし。フルCGで制作されたこの映画は、怪獣ドメイドンを討伐するまでの過程をリアルに描き切ったことが評価され、日本映画のありとあらゆる賞を独占。ドメイドンシリーズ初の快挙を成し遂げた。
下火になっていた日本の怪獣映画はこれで安泰だとオタクたちは確信し、次回作を待ち望む声が高まり、その動向を海外メディアも取り上げた。
テレビのニュース、ソシャゲのコラボ、テーマパークのイベント。それら全てにドメイドンは登場する。あちこちに出現するドメイドンを見て、人々は喜び、騒ぎ、楽しみ。
そして、俺の夢があっけなく破壊された。
誤解しないでほしい。
俺個人、中島宗作として怪獣映画は大好きだ。だからシン・ドメイドンのヒットで怪獣特撮が世間に認められたような気がしてすごくうれしいし、何より3DCGで動くドメイドンの迫力に圧倒された。
ピアノ線で吊るしていた尻尾は、3Dになってヌルヌル動くし、必殺技の火炎熱光線のエフェクトは、特撮時代と考えられないほど派手なものになった。怪獣の進化に退化、凍結も血液もお手の物。CG技術は見事に怪獣ドメイドンを描き切った。
だけど俺は3DCGの怪獣よりも、着ぐるみ怪獣、ミニチュア特撮の怪獣映画の方が好きなんだ。
一見チープに見えるがそこには俺の考えられもしない創意工夫が凝らしめてあって、そのアイディアを聞くだけでも興奮した。だって、寒天で海を作って、みそ汁から爆発を描くなんて誰が思いつくだろうか。俺はそういったミニチュア怪獣特撮が好きだった。
将来は特撮怪獣を作りたい。誰も思いつかないような撮影方法で怪獣を動かしたい。
それが俺の夢だった。
だけど、シン・ドメイドンが大成功してしまった以上、今後の怪獣映画はCGで描かれるだろう。
俺はそれが嫌だった。だから特撮怪獣の可能性を探るため、高校生二年生という身分を利用してヒーローショーのバイトを始めた。
仕事内容は、どこにでもあるショッピングモールの少し開けたステージで、シャイニングマンショーの敵怪獣を演じるだけの簡単なお仕事。火薬やミニチュアは無い。だけど怪獣の着ぐるみの中に入れるから、特撮怪獣を肌で体験できると考えた。
それから俺は色んな怪獣の着ぐるみに入った。背中に棘が生えた怪獣、両腕がムチの怪獣。シン・ドメイドンが人気なだけあって、ショーとは関係なしにドメイドンの着ぐるみにも入った。
だからこそ分かる、分かってしまう。CG技術がいかにすごいのか。
俺が着ぐるみ怪獣に入り、どんな動きをしても、どんなポーズを取っても、着ぐるみの怪獣は火を噴かないし空も飛べない。
けどCGならそれができる。色鮮やかな光線も、ビルを木っ端みじんに吹き飛ばす大爆発、戦闘機と怪獣の空中戦、なんだってできる。火薬も必要ないから火事になる危険もないし、特設プールの水中戦で溺れる心配もない。着ぐるみ怪獣が撮影中に壊れてしまうハプニングとは無縁だろう。派手でアクロバティックな怪獣たちを安全に生み出せる。
危険性も少なく、色んなことができるのならCGが主流になるのも納得がいく。いや、納得せざるを得ない。
みそ汁の爆発よりもCGビームの方が派手になるはずだ。ピアノ線で尻尾を引っ張るよりも生物らしい動きになるだろう。怪獣の目玉がギョロリ動き、舌や尻尾が滑らかになった、怪獣たちのより生き生きとした姿を嫌でも期待してしまう。
テレビのシャイニングマンだって変身シーンや必殺光線はCGだ。アニメ版のドメイドンが放送されたがもちろんCG。
ミニチュア特撮は、怪獣映画は、すでにCG映像無くして創れなくなってしまった。
技術の発展はいいことだ。不可能だったことも可能になる。
だが、そこに俺の憧れた完全特撮の、ちゃちいけど迫力のある、あの作品たちはもうできなくなってしまった。
俺の大好きな着ぐるみ怪獣は、デジタル怪獣に負けてしまったのか。CGの怪獣に、特撮の怪獣は勝てないのか。
進化する映像表現の片隅で、俺の願いは絶滅しつつある。
何だっていい、誰だっていい。着ぐるみの怪獣で本物のモンスターと、怪獣と勝負をさせてくれないか。
俺の夢、着ぐるみ特撮怪獣をもう一度蘇らせてはくれまいか。
正確には沈殿した味噌をかき回したことがヒントになり、火山の模型を逆さにして水槽に突っ込み、絵の具などの顔料を注ぎ込んだ映像を反転させる。こうして火山の大噴火を撮影した界隈がある。
そう、特撮怪獣映画の世界。そして伝説となった作品がこれだ。
SF怪獣映画『シン・ドメイドン』。
戦後すぐに公開された初の特撮怪獣映画『ドメイドン』。今回の作品はそのシリーズの二十九作目となる。
これまでのドメイドンシリーズは、リアルなミニチュア特撮と精巧な着ぐるみ怪獣によるアクションが特徴だった。
これに対し、『シン・ドメイドン』は前例を覆した。
着ぐるみ怪獣もミニチュア特撮も一切なし。フルCGで制作されたこの映画は、怪獣ドメイドンを討伐するまでの過程をリアルに描き切ったことが評価され、日本映画のありとあらゆる賞を独占。ドメイドンシリーズ初の快挙を成し遂げた。
下火になっていた日本の怪獣映画はこれで安泰だとオタクたちは確信し、次回作を待ち望む声が高まり、その動向を海外メディアも取り上げた。
テレビのニュース、ソシャゲのコラボ、テーマパークのイベント。それら全てにドメイドンは登場する。あちこちに出現するドメイドンを見て、人々は喜び、騒ぎ、楽しみ。
そして、俺の夢があっけなく破壊された。
誤解しないでほしい。
俺個人、中島宗作として怪獣映画は大好きだ。だからシン・ドメイドンのヒットで怪獣特撮が世間に認められたような気がしてすごくうれしいし、何より3DCGで動くドメイドンの迫力に圧倒された。
ピアノ線で吊るしていた尻尾は、3Dになってヌルヌル動くし、必殺技の火炎熱光線のエフェクトは、特撮時代と考えられないほど派手なものになった。怪獣の進化に退化、凍結も血液もお手の物。CG技術は見事に怪獣ドメイドンを描き切った。
だけど俺は3DCGの怪獣よりも、着ぐるみ怪獣、ミニチュア特撮の怪獣映画の方が好きなんだ。
一見チープに見えるがそこには俺の考えられもしない創意工夫が凝らしめてあって、そのアイディアを聞くだけでも興奮した。だって、寒天で海を作って、みそ汁から爆発を描くなんて誰が思いつくだろうか。俺はそういったミニチュア怪獣特撮が好きだった。
将来は特撮怪獣を作りたい。誰も思いつかないような撮影方法で怪獣を動かしたい。
それが俺の夢だった。
だけど、シン・ドメイドンが大成功してしまった以上、今後の怪獣映画はCGで描かれるだろう。
俺はそれが嫌だった。だから特撮怪獣の可能性を探るため、高校生二年生という身分を利用してヒーローショーのバイトを始めた。
仕事内容は、どこにでもあるショッピングモールの少し開けたステージで、シャイニングマンショーの敵怪獣を演じるだけの簡単なお仕事。火薬やミニチュアは無い。だけど怪獣の着ぐるみの中に入れるから、特撮怪獣を肌で体験できると考えた。
それから俺は色んな怪獣の着ぐるみに入った。背中に棘が生えた怪獣、両腕がムチの怪獣。シン・ドメイドンが人気なだけあって、ショーとは関係なしにドメイドンの着ぐるみにも入った。
だからこそ分かる、分かってしまう。CG技術がいかにすごいのか。
俺が着ぐるみ怪獣に入り、どんな動きをしても、どんなポーズを取っても、着ぐるみの怪獣は火を噴かないし空も飛べない。
けどCGならそれができる。色鮮やかな光線も、ビルを木っ端みじんに吹き飛ばす大爆発、戦闘機と怪獣の空中戦、なんだってできる。火薬も必要ないから火事になる危険もないし、特設プールの水中戦で溺れる心配もない。着ぐるみ怪獣が撮影中に壊れてしまうハプニングとは無縁だろう。派手でアクロバティックな怪獣たちを安全に生み出せる。
危険性も少なく、色んなことができるのならCGが主流になるのも納得がいく。いや、納得せざるを得ない。
みそ汁の爆発よりもCGビームの方が派手になるはずだ。ピアノ線で尻尾を引っ張るよりも生物らしい動きになるだろう。怪獣の目玉がギョロリ動き、舌や尻尾が滑らかになった、怪獣たちのより生き生きとした姿を嫌でも期待してしまう。
テレビのシャイニングマンだって変身シーンや必殺光線はCGだ。アニメ版のドメイドンが放送されたがもちろんCG。
ミニチュア特撮は、怪獣映画は、すでにCG映像無くして創れなくなってしまった。
技術の発展はいいことだ。不可能だったことも可能になる。
だが、そこに俺の憧れた完全特撮の、ちゃちいけど迫力のある、あの作品たちはもうできなくなってしまった。
俺の大好きな着ぐるみ怪獣は、デジタル怪獣に負けてしまったのか。CGの怪獣に、特撮の怪獣は勝てないのか。
進化する映像表現の片隅で、俺の願いは絶滅しつつある。
何だっていい、誰だっていい。着ぐるみの怪獣で本物のモンスターと、怪獣と勝負をさせてくれないか。
俺の夢、着ぐるみ特撮怪獣をもう一度蘇らせてはくれまいか。
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