明石の小さな日常

ハネクリ0831

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25話

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放課後、大学近くの“ファミリー向け居酒屋”に4人が集合した。
入り口の赤ちょうちんが妙に本格的で、明石は思わず足を止める。

「……ここ、本当に未成年入っていいんだよな?」
「大丈夫大丈夫! ご飯屋だよここ!」
斉藤はドヤ顔で胸を張った。

店に入ると、店員がにこやかに言った。

「4名様、ドリンクはどうされますか?」
「ジンジャエールで。」
「コーラで。」
「カルピスで。」
「メロンソーダで。」

全員ジュースで頼んだ瞬間、店員が一瞬だけ「あっ(察し)」という顔をした。
明石はその表情をなんとなく見逃さなかった。

席につくと、斉藤が早速テンションMAXだ。

「よーし! 今日は“居酒屋でジュースだけ飲む勇気ある大学生の会”を開催する!」
「そんな名前、今日生まれただろ。」
渡辺が呆れながらメニューをめくる。

「お、ポテトがある! これは頼むしかない。」
「お前ポテト好きすぎだろ。」
岡田が笑いながら突っ込む。

ドリンクが届き、4人でグラスを掲げた。

「かんぱーい!」
「……って、全部炭酸じゃん。」
「居酒屋で炭酸の音しかしないのシュールすぎるだろ。」

それでも不思議と盛り上がる。

ポテト、唐揚げ、だし巻き卵、枝豆。
テーブルの上が一気に“ジュース会とは思えない”居酒屋飯で埋まっていった。

斉藤が唐揚げを頬張りながら叫ぶ。

「うめぇぇ! 居酒屋メシ最強だな!」
「テンション上がり方が完全に飲んでるやつなんよ……」
明石が呆れながらも笑ってしまう。

すると渡辺が唐突に言った。

「てかさ、明石。お前この前教授に“お母さん”って言ってたよな?」
「言ってねぇよ!? “お任せします”って言ったんだよ!!」
「いや俺には“おかあさ…”って聞こえたぞ。」
「聞き間違いがひどすぎるだろ!」

岡田は腹を抱えて笑う。

「でも明石、お前そういうとこあるよな。ちょいちょい天然っぽいとこ。」
「ねぇよ!?」

すると斉藤が真剣な顔で言った。

「明石、天然っぽいのは褒め言葉だぞ。
 ……俺なんて“生活音がオタク”って言われたからな。」

「どんな音だよ。」
「なんか“カチャカチャ…フッ、フッ…”みたいな。」
「怖い怖い怖い!」

店内に笑い声が広がる。

やがてポテトを追加注文し、ジュースを2杯、3杯と飲むころには、テーブルは戦場のようになっていた。

渡辺がストローを片手にぼやく。

「ストロー噛みすぎて先っぽ潰れた……」
「噛むなよ!!」
明石が即ツッコミ。

斉藤は枝豆の殻を積み上げながら満足げに笑った。

すると渡辺のスマホの通知が鳴った。
渡辺は画面を見ると少し固まった。
明石が「どうしたの?」
渡辺は「大丈夫、なんでもない」

明石は気になったが

斉藤がふいにメガネをクイッと押し上げた。
その仕草だけは、なぜか妙に“デキる男”っぽい。

「……実は、一つ悩みがあってね。」

突然の真剣モードに、明石・渡辺・岡田の3人は箸を止めた。

「どうしたんだ?」
「腹でも痛いのか?」
「それとも単位の話?」

斉藤は首を横に振ると、少し震える声で言った。

「いや……その……私、恋愛をしてみたいんだよ。」

「「「……は?」」」

3人の声が見事にハモる。

斉藤は続けて、さらに深刻そうな顔をした。

「でもさ、私は一体どんな人に接したらいいのかなって……全然思いつかなくて。」

(※言い方がやたら哲学的)
3人は一瞬だけ沈黙し、それぞれ真面目に考えた。

そして——

「近所のネコとか?」
明石が真顔で言った。

「それなら散歩してる犬とか。」
渡辺も続ける。

岡田は枝豆をつまみながら呟いた。

「いや、あえて“メガネザル”ってのもアリじゃね?」

斉藤は固まり、次の瞬間、テーブルに両手をついた。

「嫌々いやいやいや!! ふざけないでよ!? 私、結構マジなんだからね!?
 ていうかせめて“人間”にしてよ!!」

店内に響く斉藤の魂の叫び。
近くのテーブルの客がこちらをチラ見した。

「わ、悪い悪い……」
「ちょっと遊びすぎたな……」
「ごめんって……」

3人は一斉に謝った。
斉藤は頬をふくらませたままジュースをちゅーっと吸う。

「はぁ……でも、とは言ってもさ。ここにいる全員、恋愛とは無縁だよね。」

「たしかに。」
「まあ……否定はしない。」
「ぐうの音も出ないな。」

岡田が天井を見上げながらぽつりと言う。

「そもそもうちの学科、女子が少ないからな。
 学科内で恋愛は……宝くじレベルだろ。」

「当たりが存在するのかも怪しいよな。」
渡辺が追加のポテトをつまみながらつぶやく。

そこからしばらく“どうやって恋愛に接近するのか”という、
経験値ゼロの4人が考えるにしては無謀なテーマが続いた。
しかし何も思いつかず、机の上に沈黙が落ちる。

すると明石がラムネのビー玉越しに斉藤を見て、肩をすくめて言った。

「まあ……とりあえず、また後で考えようや。
 今のご時世、20代の半分は独身だからな。」

「たしかに!」
「安心感あるなそのデータ!」
「心が軽くなったわ!」

3人は一斉にうなずき、斉藤も思わず吹き出した。

「……みんなありがと。なんか少し、気が楽になった。」

その瞬間、店員が追加のポテトを持ってきて、場の空気は再び明るくなる。

居酒屋のテーブルは依然として賑やかだった。
枝豆をつまみながら談笑していると、岡田が突然、ドヤ顔でグラスを掲げた。

「よーし、せっかくだしビール飲もうぜ!」

渡辺は目を丸くして声を上げる。

「お、お前正気か!? 俺ら未成年だぞ!!」

しかし岡田は落ち着いた様子で首を横に振った。

「なに言ってるんだよ。ノンアルコールに決まってるだろ!」
「……あ、なるほど。」
明石は思わずツッコミを入れつつも、胸を撫で下ろした。

店員がやってきて、泡立つグラスを4つ並べる。
中身はビールそのものに見えるが、ラベルには小さく「ノンアルコール」と書かれていた。

斉藤がグラスを手に取り、興味津々で匂いを嗅ぐ。

「……うーん、本当にビールっぽい香りだな!」
「そりゃ匂いは似せてあるからな。」
渡辺が小さく突っ込む。

明石は一口、慎重にグラスを傾けた。
シュワッという炭酸の音とともに、ほんのり苦味が口の中に広がる。

「……おお、ビールっぽい!」
「けど、アルコールゼロって信じられないな。」
岡田は得意げに笑う。

「これなら安心して飲めるし、雰囲気も楽しめるだろ?」

斉藤もグラスを掲げ、少し照れくさそうに言った。

「……私、こういうのなら挑戦できそうだ。」

全員で「かんぱーい!」とグラスを軽くぶつける。
泡が跳ね、ポテトの皿に少し飛び散ったが、それもまた居酒屋らしいご愛嬌。

一口、また一口とノンアルビールを味わいながら、4人は笑い、ツッコミ、談笑を続ける。

「雰囲気だけでも十分テンション上がるな!」
「酒飲んでる気分は味わえるし、罪悪感ゼロ!」
渡辺はストロー代わりに自分のジュースをかぶせて冗談混じりに叫ぶ。

「俺はこっちの方が好きかもしれん!」

斉藤も微笑みながら、少しだけ真剣に呟く。

「……こういう楽しみ方もアリかもしれないな。」

居酒屋の照明が柔らかく揺れる中、未成年4人組は、
ビールの泡のように弾ける笑い声を立てて、夜のひとときを満喫していた。

居酒屋を出ると、夜風がちょうどいい涼しさで頬を撫でた。
斉藤はまだ少し照れくさそうにグラスの泡を思い出している。

「……いやぁ、ノンアルでもビールって気分出るな。」
「泡だけでテンション上がるお前、すごいよな。」
渡辺が笑いながらツッコミを入れる。

岡田は両手をポケットに突っ込み、軽快に歩きながら言った。

「お、次はカラオケで“シラフなのに酔ったフリ”しようぜ!」
「やめろよ、リアルに恥ずかしくなるやつだ。」
明石も苦笑いしながら歩く。

街灯に照らされる4人の影が、夜のアスファルトに長く伸びる。
歩きながら、居酒屋でのくだらない話題が再び盛り上がった。

「斉藤さ、恋愛の話、あれから考えてみた?」
「まだだな……でも、ポテトとノンアルビールの話で頭いっぱいだった。」
「真剣な悩みが軽くなるスピード、早すぎね?」
岡田が笑いながら肩を叩く。

渡辺はふと思い出したように言った。

「明石、今日のポテト戦績は?」
「……3皿完食。」
「やっぱりな。」
斉藤もつい笑い出す。

暗い道を歩きながら、ふと斉藤が手をポケットから出して言った。

「まあ……こうやってみんなで話して笑えるだけで、なんか安心するな。」
「そうだな。酔ってないのに酔った気分、味わえた感じだ。」
明石が小さくうなずく。

「……でも、俺は帰ったらゲームして寝るだけだけどな。」
「青春感ゼロすぎるだろお前!」
岡田と渡辺が同時に突っ込む。

笑いながら、4人は大学の正門をくぐった。
夜風が、居酒屋で弾けた泡のように、笑い声を優しく運んでいく。

斉藤はふと空を見上げて、つぶやいた。

「……次は本当に、恋愛の話も考えようかな。」
「その前に、カラオケ会だろ!」
岡田が即ツッコミ。

「ま、今日はこれで十分だな。」
明石がぽつりと言うと、みんなが軽く笑った。

夜の静かなキャンパスに、未成年4人組のはしゃぎ声と笑い声が、ほんの少しだけ残った。

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