アカシの小さな冒険

変わりつつある日常

二人の誓い

「あの、望月さん……」と彼が少し躊躇しながら声をかけると、彼女は不思議そうな顔をして振り返った。

「ん？ ああ、綾香でいいよ」と彼女は柔らかく微笑んだ。「私もあなたのこと名前で呼んでるんだから、遠慮しなくていいのよ」

彼はその笑顔に少し緊張しながらも、「じゃあ……改めて、綾香さん」と丁寧に言葉を重ねた。「俺のこと、恨んでいないんですか？」

綾香は一瞬戸惑ったように眉を上げ、「どうしてそんなことを聞くの？」と首をかしげる。

「だって、今日のこと…」彼は視線を伏せて、わずかに息を飲んだ。「あれはどう考えても、仕返しのように思えたからです」

「ふふっ、ああ、そういうことね」と綾香は意味ありげに微笑みながら、少し考えるように遠くを見つめた。「まあ、完全に恨んでいないって言ったら、嘘になるかもね。でも、今はもうそこまで気にしてないの」

「じゃあ、今日の行動は……？」

「そう。ただ、やってみたら面白いんじゃないかって思っただけよ」と彼女はさらりと言い放った。

その瞬間、彼の中に「この人は完全にSだな……」という思いが湧き上がり、無意識に眉をひそめてしまった。

彼はふと思い出したように言った。「そういえば、俺が事務所に潜入した時、綾香さんにはすでにバレてたのに、わざわざ胸を机に乗せて見せたあの行動も……同じ気持ちだったんですか？」

「ふふ、それはね……」綾香は少し目を細めて思い出すように微笑んだ。「あの時はあなたが大胆に侵入してきたから、これくらいはバチが当たらないかなって思っての行動だったのよ」

「なるほど……」と彼は納得しながらも、彼女の大胆さに少し圧倒される。

綾香はくすくすと笑い、「むしろ、感謝してほしいくらいよ」と冗談っぽく言った。

「え……？」彼は少し困惑しつつも、愛想笑いを浮かべた。

気を取り直して、彼はもう一つ気になっていた質問を投げかけた。「もう一つ、どうして俺との同居を認めてくれたんですか？」

綾香はしばらく沈黙してから、視線を合わせ、少し意地悪そうに微笑んだ。「それはね……あなたに興味を持ったから。だって縮小能力がある上に、機械の製造や改造が得意なんて、なかなか面白い存在でしょ？あの時、家に入り込んだ時も、あなたが作ったものを見つけて、さらに気になっちゃったの」

彼は思わず目を見開き、驚いた表情で彼女を見つめた。「……え？」

「だから、あなたのことをもっと知りたいと思ってるの」と彼女は無邪気な笑顔を浮かべる。

その笑顔に、彼は胸がドキッと高鳴るのを感じた。

綾香はふっと表情を引き締め、お椀を左手で持ちながら、右手の人差し指を彼の目の前に差し出した。

「これから、私を守ってもらうから、よろしくね」と彼女は真剣な眼差しで言った。

「……はい。まだまだ未熟な部分も多いですが、よろしくお願いします」と彼は丁寧に返事をし、人差し指をそっと握って握手を交わした。

「ふふ、頼りにしてるわよ」と彼女が柔らかい笑みを浮かべる。

彼はその一瞬、何かが解けたような気持ちになり、心の中で温かさが広がるのを感じた。色々あったけれど、この瞬間、二人の間にわずかな距離が縮まったように思えた。