41 / 54
変わりつつある日常
奇妙な関係
しおりを挟む
「築城基地って確か、築上郡築上町にあって、2,399メートルの滑走路が1本あってF-2戦闘機が配備されてる基地だったよな?」
アカシは内心の混乱を隠しながら、記憶の片隅にある情報を掘り起こしてみた。
その一言を聞いた瞬間、達也の目はまるで炎が宿ったかのように輝きを増した。
「そうだ!築城基地には第8航空団が駐屯してて、F-2が主力機なんだ。日本が誇る次世代戦闘機でありながら、見た目も性能も超一流。あの曲線美……まるで空を切り裂く鷹のようだ!」
「確かこの部隊の愛称はブラック・パンサーズで、配置転換が一番多い部隊と聞いた事があるな。」
アカシは自分の知識を付け足すように言った。
達也は大きく頷き、さらに熱を帯びた声で続けた。
「その通り!配置転換が多いのは、それだけこの部隊のパイロットが優秀って証拠だ。どこに行っても即戦力になるエリート中のエリートだよ。」
「たしか、F-2ってF-16を基にしてるんだよな?けど、日本仕様にいろいろ改良されてるって聞いたけど……。」
アカシは達也の熱量に圧倒されつつも、会話を繋げるように言葉を選ぶ。
「その通りだ!」
達也は満面の笑みを浮かべ、勢いよく語り始めた。
「ただの改良じゃない!全長を伸ばして燃料タンクを増設し、航続距離を大幅にアップ。それに電子装備だって国産の最新技術を搭載してる。中でもヤバいのは、海上での作戦行動を完璧にこなせるように設計されてる点だ。特にASM-3――超音速の対艦ミサイルを運用する姿なんて……もう芸術だよ!」
「海上での作戦……やっぱり日本ならではの仕様なんだな。」
アカシは感心したように呟く。
「そうなんだよ!」
達也はさらに力を込めて言葉を重ねた。
「F-2は“海の守護者”って呼んでもいいくらい、日本の海を守るために生まれた機体だ。築城基地の航空祭では、このミサイルを搭載したF-2が飛行展示するんだ。その迫力と言ったら、心臓が飛び出るくらい凄まじい!」
その様子に、アカシは少し苦笑しながらも思った。
(この人……ただのミリオタじゃない。魂を込めて語ってる。完全に心酔してるな。)
「築城基地ってそんなに魅力的なのか?」
アカシは心底感心した様子で問いかけた。
達也は真剣な目をアカシに向けた。
「魅力的どころの話じゃない。築城基地は、俺にとっての“聖地”だ。日本の空を守る最前線であり、技術の結晶が集う場所。そこに行くたびに俺は思うんだ……自分もいつか、何かに命を懸けられる人間になりたいって。」
その言葉に、アカシは思わず息を飲んだ。
(ただのオタクじゃない……何か覚悟があるんだ、この人。)
「去年、築城基地の航空祭に行ったんだけど……。」
達也は少し遠くを見るような目で続けた。
「F-2が青空を駆け抜けるたび、涙が止まらなくなった。あれはただの戦闘機じゃない。俺にとっては夢そのものなんだ。」
「夢……か。」
アカシはぼんやりとその言葉を繰り返した。
「そうさ。築城基地は、そんな夢が詰まった場所だ。」
達也の言葉は純粋で、心の底から湧き出る情熱に満ちていた。
しばらく二人で築城基地やF-2について語り合っていると、達也がふと真剣な顔になった。
「なぁ、青山……君、本当にミリタリーに興味があるのか?」
アカシは少し間を置き、真摯な表情で答えた。
「……正直言うと、そこまで深くはない。
興味があると言えるほど知識もないよ。」
達也はその言葉に少し驚いたものの、すぐに満面の笑顔を浮かべた。
「なら問題ないさ!これから一緒に学んでいけばいいじゃないか。同志ってのは、そういうもんだろ!」
アカシはその言葉に一瞬たじろいだが、達也の真っ直ぐな目に圧され、小さく頷いた。
「……まぁ、そうだな。よろしく頼むよ。」
こうして達也のミリタリー愛に巻き込まれたアカシは、思いがけず新しい世界へと足を踏み入れることになった。
そして、その出会いが後に二人を予期せぬ運命へ導くことを、まだ誰も知らなかった――。
達也はしばらく熱く語ると、腕時計に目をやり、慌ただしく立ち去った。
「嵐のような人だったな……」
アカシは呆れと感心が入り混じったような表情で、去っていく達也の背中を眺めた。
その情熱的な語り口は印象に残るものだったが、どこか引っかかるものもあった。
(でも……なんだか、上手く誤魔化された気がする。まぁ、バレたらその時だな)
そう結論づけると、深く息をついて歩き出した。
その後、綾香と合流し、夕焼けに染まる帰り道を一緒に車に乗って家に帰った。
翌朝。
教室に入ると、いつもの景色が広がっている。
アカシの隣には火乃香が座り、その視線は周囲からの嫉妬や敵意の眼差しを一身に浴びている。
――まさに日常になりつつある光景だ。
しかし、今日は何かが違った。
火乃香の隣、普段は空席である場所に、彼――達也が座っていたのだ。
「おはよう、青山!」
達也が人懐っこい笑顔を浮かべて手を振る。
「……おはよう、渡辺」
アカシは少し戸惑いながらも返事をする。その様子を見た火乃香が眉をひそめた。
「ねぇ、この人誰?」
火乃香が小声で尋ねる。その口調には明らかに警戒心が含まれている。
「あ、俺は渡辺達也。よろしくな!」
達也は勢いよく火乃香に向き直り、にこやかに自己紹介をした。声の大きさに教室内の数人が振り返る。
「私は西村火乃香。こちらこそよろしくね!」
火乃香も笑顔を作るが、その目は達也を観察するかのようにじっと見つめている。
「で、どういう関係なの?」
火乃香はアカシに向かってさらに突っ込んだ質問をする。その瞳は真剣そのものだ。
「えっと……昨日話してたら、なんか意気投合しちゃって、そのまま仲良くなったの!」
アカシは焦りつつも、できるだけ自然に答える。
「そうそう!築城基地の話で熱く語り合ったんだよな!」
達也が笑いながら、誇らしげに腕を組む。
「築城基地?なんでそんな話で盛り上がったの?」
火乃香が首を傾げる。彼女の表情には純粋な疑問と、少しの不安が混じっている。
「いや、まぁ……色々あったんだよ」
アカシは曖昧な言葉で返しながら、目を逸らした。
(話の感じからすると、昨日の出来事は忘れているみたいだな……)
アカシは小さく胸を撫で下ろした。
その後も授業中や休み時間に、3人で話をする機会が増えていった。
最初は警戒していた火乃香だったが、達也の性格に引き込まれたのか、徐々に打ち解けていく。
少しずつだが火乃香も笑顔を増やしていく。
(昨日はどうなることかと思ったけど……なんだかんだで、結果オーライだな)
アカシは窓の外を眺め、穏やかな青空に少し救われた気持ちで目を細めた。
やっと訪れた穏やかな時間に、彼はほっと息を吐くのだった。
アカシは内心の混乱を隠しながら、記憶の片隅にある情報を掘り起こしてみた。
その一言を聞いた瞬間、達也の目はまるで炎が宿ったかのように輝きを増した。
「そうだ!築城基地には第8航空団が駐屯してて、F-2が主力機なんだ。日本が誇る次世代戦闘機でありながら、見た目も性能も超一流。あの曲線美……まるで空を切り裂く鷹のようだ!」
「確かこの部隊の愛称はブラック・パンサーズで、配置転換が一番多い部隊と聞いた事があるな。」
アカシは自分の知識を付け足すように言った。
達也は大きく頷き、さらに熱を帯びた声で続けた。
「その通り!配置転換が多いのは、それだけこの部隊のパイロットが優秀って証拠だ。どこに行っても即戦力になるエリート中のエリートだよ。」
「たしか、F-2ってF-16を基にしてるんだよな?けど、日本仕様にいろいろ改良されてるって聞いたけど……。」
アカシは達也の熱量に圧倒されつつも、会話を繋げるように言葉を選ぶ。
「その通りだ!」
達也は満面の笑みを浮かべ、勢いよく語り始めた。
「ただの改良じゃない!全長を伸ばして燃料タンクを増設し、航続距離を大幅にアップ。それに電子装備だって国産の最新技術を搭載してる。中でもヤバいのは、海上での作戦行動を完璧にこなせるように設計されてる点だ。特にASM-3――超音速の対艦ミサイルを運用する姿なんて……もう芸術だよ!」
「海上での作戦……やっぱり日本ならではの仕様なんだな。」
アカシは感心したように呟く。
「そうなんだよ!」
達也はさらに力を込めて言葉を重ねた。
「F-2は“海の守護者”って呼んでもいいくらい、日本の海を守るために生まれた機体だ。築城基地の航空祭では、このミサイルを搭載したF-2が飛行展示するんだ。その迫力と言ったら、心臓が飛び出るくらい凄まじい!」
その様子に、アカシは少し苦笑しながらも思った。
(この人……ただのミリオタじゃない。魂を込めて語ってる。完全に心酔してるな。)
「築城基地ってそんなに魅力的なのか?」
アカシは心底感心した様子で問いかけた。
達也は真剣な目をアカシに向けた。
「魅力的どころの話じゃない。築城基地は、俺にとっての“聖地”だ。日本の空を守る最前線であり、技術の結晶が集う場所。そこに行くたびに俺は思うんだ……自分もいつか、何かに命を懸けられる人間になりたいって。」
その言葉に、アカシは思わず息を飲んだ。
(ただのオタクじゃない……何か覚悟があるんだ、この人。)
「去年、築城基地の航空祭に行ったんだけど……。」
達也は少し遠くを見るような目で続けた。
「F-2が青空を駆け抜けるたび、涙が止まらなくなった。あれはただの戦闘機じゃない。俺にとっては夢そのものなんだ。」
「夢……か。」
アカシはぼんやりとその言葉を繰り返した。
「そうさ。築城基地は、そんな夢が詰まった場所だ。」
達也の言葉は純粋で、心の底から湧き出る情熱に満ちていた。
しばらく二人で築城基地やF-2について語り合っていると、達也がふと真剣な顔になった。
「なぁ、青山……君、本当にミリタリーに興味があるのか?」
アカシは少し間を置き、真摯な表情で答えた。
「……正直言うと、そこまで深くはない。
興味があると言えるほど知識もないよ。」
達也はその言葉に少し驚いたものの、すぐに満面の笑顔を浮かべた。
「なら問題ないさ!これから一緒に学んでいけばいいじゃないか。同志ってのは、そういうもんだろ!」
アカシはその言葉に一瞬たじろいだが、達也の真っ直ぐな目に圧され、小さく頷いた。
「……まぁ、そうだな。よろしく頼むよ。」
こうして達也のミリタリー愛に巻き込まれたアカシは、思いがけず新しい世界へと足を踏み入れることになった。
そして、その出会いが後に二人を予期せぬ運命へ導くことを、まだ誰も知らなかった――。
達也はしばらく熱く語ると、腕時計に目をやり、慌ただしく立ち去った。
「嵐のような人だったな……」
アカシは呆れと感心が入り混じったような表情で、去っていく達也の背中を眺めた。
その情熱的な語り口は印象に残るものだったが、どこか引っかかるものもあった。
(でも……なんだか、上手く誤魔化された気がする。まぁ、バレたらその時だな)
そう結論づけると、深く息をついて歩き出した。
その後、綾香と合流し、夕焼けに染まる帰り道を一緒に車に乗って家に帰った。
翌朝。
教室に入ると、いつもの景色が広がっている。
アカシの隣には火乃香が座り、その視線は周囲からの嫉妬や敵意の眼差しを一身に浴びている。
――まさに日常になりつつある光景だ。
しかし、今日は何かが違った。
火乃香の隣、普段は空席である場所に、彼――達也が座っていたのだ。
「おはよう、青山!」
達也が人懐っこい笑顔を浮かべて手を振る。
「……おはよう、渡辺」
アカシは少し戸惑いながらも返事をする。その様子を見た火乃香が眉をひそめた。
「ねぇ、この人誰?」
火乃香が小声で尋ねる。その口調には明らかに警戒心が含まれている。
「あ、俺は渡辺達也。よろしくな!」
達也は勢いよく火乃香に向き直り、にこやかに自己紹介をした。声の大きさに教室内の数人が振り返る。
「私は西村火乃香。こちらこそよろしくね!」
火乃香も笑顔を作るが、その目は達也を観察するかのようにじっと見つめている。
「で、どういう関係なの?」
火乃香はアカシに向かってさらに突っ込んだ質問をする。その瞳は真剣そのものだ。
「えっと……昨日話してたら、なんか意気投合しちゃって、そのまま仲良くなったの!」
アカシは焦りつつも、できるだけ自然に答える。
「そうそう!築城基地の話で熱く語り合ったんだよな!」
達也が笑いながら、誇らしげに腕を組む。
「築城基地?なんでそんな話で盛り上がったの?」
火乃香が首を傾げる。彼女の表情には純粋な疑問と、少しの不安が混じっている。
「いや、まぁ……色々あったんだよ」
アカシは曖昧な言葉で返しながら、目を逸らした。
(話の感じからすると、昨日の出来事は忘れているみたいだな……)
アカシは小さく胸を撫で下ろした。
その後も授業中や休み時間に、3人で話をする機会が増えていった。
最初は警戒していた火乃香だったが、達也の性格に引き込まれたのか、徐々に打ち解けていく。
少しずつだが火乃香も笑顔を増やしていく。
(昨日はどうなることかと思ったけど……なんだかんだで、結果オーライだな)
アカシは窓の外を眺め、穏やかな青空に少し救われた気持ちで目を細めた。
やっと訪れた穏やかな時間に、彼はほっと息を吐くのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる