アカシの小さな冒険

ハネクリ0831

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変わりつつある日常

奇妙な関係

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「築城基地って確か、築上郡築上町にあって、2,399メートルの滑走路が1本あってF-2戦闘機が配備されてる基地だったよな?」
アカシは内心の混乱を隠しながら、記憶の片隅にある情報を掘り起こしてみた。

その一言を聞いた瞬間、達也の目はまるで炎が宿ったかのように輝きを増した。
「そうだ!築城基地には第8航空団が駐屯してて、F-2が主力機なんだ。日本が誇る次世代戦闘機でありながら、見た目も性能も超一流。あの曲線美……まるで空を切り裂く鷹のようだ!」

「確かこの部隊の愛称はブラック・パンサーズで、配置転換が一番多い部隊と聞いた事があるな。」
アカシは自分の知識を付け足すように言った。

達也は大きく頷き、さらに熱を帯びた声で続けた。
「その通り!配置転換が多いのは、それだけこの部隊のパイロットが優秀って証拠だ。どこに行っても即戦力になるエリート中のエリートだよ。」

「たしか、F-2ってF-16を基にしてるんだよな?けど、日本仕様にいろいろ改良されてるって聞いたけど……。」
アカシは達也の熱量に圧倒されつつも、会話を繋げるように言葉を選ぶ。

「その通りだ!」
達也は満面の笑みを浮かべ、勢いよく語り始めた。
「ただの改良じゃない!全長を伸ばして燃料タンクを増設し、航続距離を大幅にアップ。それに電子装備だって国産の最新技術を搭載してる。中でもヤバいのは、海上での作戦行動を完璧にこなせるように設計されてる点だ。特にASM-3――超音速の対艦ミサイルを運用する姿なんて……もう芸術だよ!」

「海上での作戦……やっぱり日本ならではの仕様なんだな。」
アカシは感心したように呟く。

「そうなんだよ!」
達也はさらに力を込めて言葉を重ねた。
「F-2は“海の守護者”って呼んでもいいくらい、日本の海を守るために生まれた機体だ。築城基地の航空祭では、このミサイルを搭載したF-2が飛行展示するんだ。その迫力と言ったら、心臓が飛び出るくらい凄まじい!」

その様子に、アカシは少し苦笑しながらも思った。
(この人……ただのミリオタじゃない。魂を込めて語ってる。完全に心酔してるな。)

「築城基地ってそんなに魅力的なのか?」
アカシは心底感心した様子で問いかけた。

達也は真剣な目をアカシに向けた。
「魅力的どころの話じゃない。築城基地は、俺にとっての“聖地”だ。日本の空を守る最前線であり、技術の結晶が集う場所。そこに行くたびに俺は思うんだ……自分もいつか、何かに命を懸けられる人間になりたいって。」

その言葉に、アカシは思わず息を飲んだ。
(ただのオタクじゃない……何か覚悟があるんだ、この人。)

「去年、築城基地の航空祭に行ったんだけど……。」
達也は少し遠くを見るような目で続けた。
「F-2が青空を駆け抜けるたび、涙が止まらなくなった。あれはただの戦闘機じゃない。俺にとっては夢そのものなんだ。」

「夢……か。」
アカシはぼんやりとその言葉を繰り返した。

「そうさ。築城基地は、そんな夢が詰まった場所だ。」
達也の言葉は純粋で、心の底から湧き出る情熱に満ちていた。

しばらく二人で築城基地やF-2について語り合っていると、達也がふと真剣な顔になった。
「なぁ、青山……君、本当にミリタリーに興味があるのか?」

アカシは少し間を置き、真摯な表情で答えた。
「……正直言うと、そこまで深くはない。
興味があると言えるほど知識もないよ。」

達也はその言葉に少し驚いたものの、すぐに満面の笑顔を浮かべた。
「なら問題ないさ!これから一緒に学んでいけばいいじゃないか。同志ってのは、そういうもんだろ!」

アカシはその言葉に一瞬たじろいだが、達也の真っ直ぐな目に圧され、小さく頷いた。
「……まぁ、そうだな。よろしく頼むよ。」

こうして達也のミリタリー愛に巻き込まれたアカシは、思いがけず新しい世界へと足を踏み入れることになった。
そして、その出会いが後に二人を予期せぬ運命へ導くことを、まだ誰も知らなかった――。

達也はしばらく熱く語ると、腕時計に目をやり、慌ただしく立ち去った。

「嵐のような人だったな……」
アカシは呆れと感心が入り混じったような表情で、去っていく達也の背中を眺めた。
その情熱的な語り口は印象に残るものだったが、どこか引っかかるものもあった。
(でも……なんだか、上手く誤魔化された気がする。まぁ、バレたらその時だな)
そう結論づけると、深く息をついて歩き出した。

その後、綾香と合流し、夕焼けに染まる帰り道を一緒に車に乗って家に帰った。

翌朝。
教室に入ると、いつもの景色が広がっている。
アカシの隣には火乃香が座り、その視線は周囲からの嫉妬や敵意の眼差しを一身に浴びている。
――まさに日常になりつつある光景だ。
しかし、今日は何かが違った。

火乃香の隣、普段は空席である場所に、彼――達也が座っていたのだ。

「おはよう、青山!」
達也が人懐っこい笑顔を浮かべて手を振る。

「……おはよう、渡辺」
アカシは少し戸惑いながらも返事をする。その様子を見た火乃香が眉をひそめた。

「ねぇ、この人誰?」
火乃香が小声で尋ねる。その口調には明らかに警戒心が含まれている。

「あ、俺は渡辺達也。よろしくな!」
達也は勢いよく火乃香に向き直り、にこやかに自己紹介をした。声の大きさに教室内の数人が振り返る。

「私は西村火乃香。こちらこそよろしくね!」
火乃香も笑顔を作るが、その目は達也を観察するかのようにじっと見つめている。

「で、どういう関係なの?」
火乃香はアカシに向かってさらに突っ込んだ質問をする。その瞳は真剣そのものだ。

「えっと……昨日話してたら、なんか意気投合しちゃって、そのまま仲良くなったの!」
アカシは焦りつつも、できるだけ自然に答える。

「そうそう!築城基地の話で熱く語り合ったんだよな!」
達也が笑いながら、誇らしげに腕を組む。

「築城基地?なんでそんな話で盛り上がったの?」
火乃香が首を傾げる。彼女の表情には純粋な疑問と、少しの不安が混じっている。

「いや、まぁ……色々あったんだよ」
アカシは曖昧な言葉で返しながら、目を逸らした。

(話の感じからすると、昨日の出来事は忘れているみたいだな……)
アカシは小さく胸を撫で下ろした。

その後も授業中や休み時間に、3人で話をする機会が増えていった。
最初は警戒していた火乃香だったが、達也の性格に引き込まれたのか、徐々に打ち解けていく。
少しずつだが火乃香も笑顔を増やしていく。

(昨日はどうなることかと思ったけど……なんだかんだで、結果オーライだな)
アカシは窓の外を眺め、穏やかな青空に少し救われた気持ちで目を細めた。
やっと訪れた穏やかな時間に、彼はほっと息を吐くのだった。

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