アカシの小さな冒険

ハネクリ0831

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変わりつつある日常

カミングアウト

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女性警察官とアカシは、一瞬目を見合わせ、驚きを隠せなかった。

「それでいいの？」と女性警察官が、少し心配そうに達也に問いかける。

ちなみに、彼女たちがやった行為は、名誉毀損罪に該当する可能性が高かった。それを承知で達也は、柔らかな口調で答えた。
「はい、大丈夫です。実害がないので、そこまでのこととは思っていません。」

達也の穏やかな態度に、アカシは眉をひそめて不満げに言った。
「俺だったらさ、生きてることを後悔するくらい徹底的にするけどな。」

その言葉に達也は、苦笑いを浮かべて首を振った。
「お前、ひどいこと言うな。でも、ありがとう。」

女性警察官は、少し呆れたように笑みを浮かべながら、視線を二人に移した。
「本人が決めること、か…。まあ、らしいですね。」

そして、真剣な表情に切り替えると、達也に向かってしっかりと言葉を続けた。
「ただ、もう二度と同じことをしないように、きつく注意しておきます。」

彼女の言葉にはどこか力強い意思がこもっていたが、次の瞬間、不穏な笑みを浮かべて付け加えた。
「大丈夫、そこはしっかりやるから。」

その笑みを見た達也とアカシは、思わず目を合わせた。なんとも言えない妙な空気が漂ったが、結局それ以上言葉を交わすことはなかった。

達也が解放されたのは、それから1時間後のことだった。

夜風が心地よく吹き抜ける公園で、二人は静かに腰を下ろしていた。

「大丈夫か？」とアカシが達也の顔を覗き込むように尋ねた。
達也はゆっくりと頷き、少し笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫だよ。気にしてくれてありがとう、アカシ。」

その言葉に、アカシは軽く肩をすくめた。
「まあ、気にはなるだろ。あの警察官、本当に大丈夫かなってさ。」

達也はしばらく考え込むような表情を見せたが、やがて静かに言葉を紡いだ。
「確かにな。でも、“しっかりしてくれる”って言ってくれたし、信じようと思う。」

二人はその後、他愛のない話をしばらく続けた。仕事のことや趣味の話、明日の予定。公園の静けさが二人を包み込み、穏やかな時間が流れた。

ふと、達也が何かを思い出したように顔を上げた。
「そういえばさ、気になってたんだけど…」

「ん？」とアカシが首を傾げる。

達也は、少し茶化すような調子で問いかけた。
「あの時さ、どうして手を後ろに組んでたんだ？」

達也は深く息をつき、少しだけ空を見上げると、ぽつりと口を開いた。
「…障害者だからだ。」

その言葉に、アカシは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに真剣な眼差しで問いかけた。
「どんな障害なんだ？」

達也は静かにリュックを探り、障害者手帳を取り出すと、アカシに差し出した。
「これを見てくれればわかると思う。」

アカシは手帳を慎重に受け取り、記載内容を確認する。
「精神障害者保健福祉手帳…3級か。」
その言葉を反芻するように小声でつぶやき、視線を達也に戻した。

達也は少し苦笑いを浮かべながら説明を始めた。
「症状はADHDっていう発達障害の一種なんだ。具体的には、忘れっぽかったり、落ち着きがなかったり、コミュニケーションが苦手だったり…いろいろあるよ。」

言葉を選ぶように一つ一つ丁寧に話す達也の様子に、アカシは耳を傾けながら頷いた。

「特にさ、今回みたいなトラブルは、本当に苦手なんだ。頭が真っ白になって、何を言えばいいのか分からなくなる。」
達也は自嘲気味に笑い、少し肩をすくめた。

アカシは少し沈黙してから、ぽつりと言った。
「そうなんだ…知らなかった。」

その声には、どこか申し訳なさと、達也を理解しようとする優しさが滲んでいた。

達也は表情を明るくして、少し得意げに続けた。
「でもね、悪いことばかりじゃないんだよ。こういう障害って、興味を持ったことにはものすごい集中力を発揮できるんだ。例えば、歴史上の人物で言えば、エジソンとか坂本龍馬がそうだったんじゃないかって言われてる。」

「エジソンに坂本龍馬？」アカシは思わず声を上げ、目を丸くした。
「なんか、すげえな、それ。」

達也は嬉しそうに笑いながら頷いた。
「だろ？だから、悪い面ばかりに目を向けるんじゃなくて、いい面を活かせば何とかなるって思ってる。」

「それに私も色々と対策はしているんだ」

アカシは「それがさっきの対応てわけだね」

アカシはふっと息をつき、穏やかな声で言った。
「俺はさ、そういうの気にしないよ。それどころか、ちゃんと自分で対策を考えてるのって偉いと思う。」

その言葉に、達也は少し驚いたような表情を見せたが、やがてほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、アカシ。お前にそう言われると、なんか救われるよ。」

二人の間には、言葉では表せない温かい空気が漂い始めていた。

夜風がそよそよと吹き抜け、木々の葉が静かに揺れる音が響く中、達也はふと空を見上げてつぶやいた。
「だから、これからも俺なりにやっていくよ。無理せず、できる範囲で。」

アカシはその言葉に力強く頷き、満面の笑みで応えた。
「いいじゃん、それで。俺はお前のやり方を応援するよ。」

二人は少しずつ距離を縮めるように話を続け、公園の静かな夜は、どこか温かい余韻を残しながら更けていった。

その後、達也は家に帰り、一人になった。
空気は静まり返り、外からわずかに聞こえる車の音が、やけに遠く感じる。
今日は色々なことがあった。疲れがどっと押し寄せ、ベンチに深く腰を沈めた。
ひとり、ぼんやりと余韻に浸りながら、空を見上げる。

しかし、ふと胸の奥に小さな違和感が生まれる。
「何か…忘れているような……」
頭をかきながら呟くと、その瞬間、背筋にひやりとした感覚が走った。

『アカシくん』

柔らかい声が、背後から聞こえた。
空気が急に重たくなった気がする。鼓動が早くなるのを感じながら、アカシは恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは――。

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