貴方のものにはなりませんから

ボンボンP

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私の部屋にはマリナ、あと2人の侍女がいて私の朝の支度をしていた。

家令がやって来たので、私は今日中に欲しい物があるから侍女をお使いに出したいと言った。

「まず、今日発刊の限定版の赤い表紙の『愚かな崇拝者』という本とグレージュ調香店で5番と8番と10番を買って来てほしいの。我慢してたけどやっぱり好きな香りがないと寂しいわ。それから、『愚かな崇拝者』はシリーズ物で人気があるからもしも、1軒目で無かったら何件か回っても絶対に買ってきて欲しいのだけど。」

「お前たちの中で、グレージュ香水店を知るものはいるか?」
2人の侍女は首を振ったがマリナはおずおずと手を挙げた。

「知っているのか?」
「はい。メラミン通りとハラサル通りのあたりの路地…。」
「では、君が行ってくれ。こちらを。」

マリナは家令から金子の袋を受け取ると足早に出ていった。
「お嬢様はなかなかに買い物がお好きなようですな。」
「そうかしら?でもここには私の好きな物が1つもないのだから仕方ないでしょう。」

「本日は主様はお帰りになられるようです。」
「そう。わかったわ。」

私は着飾った自分を姿見で確認するとまた屋敷の中を歩き回る為に部屋を出た。



ーーーー ーーーー

お使いを頼まれたマリナはできる限り急いでマルタン公爵家に向かった。
この時間はまだ辻馬車も少ない為に取り敢えず急ぎ足で歩いた。

道の端に落ちていた新聞に王太子の婚約が解消され次期婚約者の選考中、という見出しがあった。
今は拾って読む時間すら勿体ないのだ。

公爵邸に着く頃には息切れがしていたが、門番にまずはバレリー男爵を呼んでほしいと伝えた。
公爵邸は妙にひっそりとしていた。

暫く門の前で待っていると兄のサクレがやって来た。
兄は私を見ると笑顔になった。

「どうしたんだ?休暇がもらえたのか?」
サクレは妹の乱れた髪と汚れた足元を見た。
「お前、その格好は…よっぽど急いできたのか?」

「兄様。フォルクス・マルタン様は?今おいでになりますか?お嬢様からご伝言を預かってきました。」
サクレは訝しげに妹の顔を見た。

「何を不謹慎なことを。」
「兄様、お嬢様が行方不明だと言っていたでしょう?お嬢様は伯爵邸におられます。」

「お前、何を言うのだ。既にご遺体が見つかり葬儀も終わったあとなのだぞ。滅多なことを言うもんじゃない。ただ…普通の亡くなり方では無かったので身内で行われた葬儀だったが…。だから、お前が何を言っているのかさっぱり分からん。お前はお嬢様に会ったことなど無いだろうが。」

「ご遺体?葬儀ですって?だから、オブスキュア伯爵邸で会ったのですよ!私が侍女として雇われたのはお嬢様のためだったんですから。」

門の前で揉めていた私たちの近くにいた門番が一人、フォルクス様を呼びに行ってくれたようだった。


「お前たち、公爵邸の前でみっともない事をするな。」
お嬢様と同じ髪の色に緑の瞳のフォルクス様は門番の詰所に私達を入れた。

「バレリー男爵の御息女か?君が私に何を言いに来たのかは知らないが…。」

私は兄が恐縮して小さくなっている横でフォルクス様に向かって、指を丸めたり小指から順に立てていったりお嬢様から習ったハンドサインを見せた。

フォルクス様は驚いたようだったが少しだけ口の端を上げた。

「それは…。私とクレアで決めたハンドサインだ。意味を聞いたかい?」
「いいえ。」
「褒めてっていう意味だ。君に褒美与えろと言うことだね。」

マリナは暫くぽかんとしていたがすぐに目的を思い出した。

「お嬢様から伝言がございます。今日、買物のふりをしてマルタン公爵邸に行くようにと。伝言は『お嬢様のお部屋のクローゼットの奥の黒い箱』でございます。」

「どういうこと?今日?」
「お嬢様はオブスキュア伯爵家におられます。お嬢様が仰るには、お嬢様に懸想した伯爵様が王太子との結婚を阻止する為にお嬢様を攫ったと。それで…王太子様と結婚できないようにその…。あの…。」

フォルクス様の顔が怒りで赤くなるのがわかった。
詳しく聞きたいからと邸内に招かれた。

そして…マリナは知っていることを話した。










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