貴方のものにはなりませんから

ボンボンP

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◇フォルクス・マルタン

私が公爵家の騎士を30人も引き連れてオブスキュア伯爵邸に到着したのは夕刻だった。

伯爵邸の門兵が止めるのを無視して無理矢理門をくぐった。
玄関に向かおうとした時、邸内から急ぎ足でやってくる使用人、多分家令だろうが見えた。

そして、ここからは見えないが屋敷の裏、庭園の方で叫び声や悲鳴が聞こえた。

騎士の半数を屋敷に入りクレアを見つけるように指示し、私は騒がしい庭園の方に向かった。
どうやら庭園の植え込みの間に使用人や兵が何かを取り囲んでいた。

「クレア様…。何ということだ!」
「あああ、お嬢様。クレア様。どうしてこんなことに。」
「クレア様が、クレア様が。」

人々が口々にクレア様と叫んだり泣いたりしているのだ。

サクレが使用人たちをどかし道を開けると、そこには血塗れのクレアが倒れていた。
目は虚ろで美しい顔も髪も血で汚れていた。

私はクレアは落下したと思った。
肢体の状態や血の飛沫の散り方でそう思った。
ふと上を見ると4階のバルコニーに男がいて、微動だにせずこちらを覗いているようだった。

「おい、すぐにあそこにいる男を捕らえろ!犯人だろう。」
私の指示のもと騎士は走っていく。

「クレア。クレア、お兄様だよ。遅くなってごめんね。」
私はクレアの傍にしゃがみ込むとそっと手を取った。

脈を測ろうとした時クレアの指がぎこちなく動いて『大好き』とサインをくれた。
そして…クレアは本当に死んでしまった。


「お前たち、騒ぐな。どうしてクレア様の名前を知っているのだ。名前を言ってはならない!」
と大声で言いながら現れたのは家令だった。

そして…クレアを見るとがっくりと膝をつき「どうして…。」と一言だけ呟いた。
私や公爵家の兵士がいるのに眼中にないようだった。
すぐに捕縛させると私は周りの使用人に向かって言った。

「何かクレアを包む布を用意してくれ。」
「はい。」頷いたメイドが慌てて屋敷に向かった。




使用人達は伯爵邸に軟禁して聴取、邸内もくまなく捜査するように命じた。
本来ならこれは、王宮騎士団の仕事で公爵家がやっていいことではないが、そんな些末なことは後で何とでもしてやる。

家令とオブスキュア伯爵はマルタン公爵家に連れていき牢に入れた。
そして、あのバルコニーから見ていたのはオブスキュア本人だった。

クレアは私が抱きかかえ屋敷に戻った。
半信半疑で私が伯爵家に向かう事を反対した父上も変わり果てたクレアを見て涙した。


私は侍女に頼みクレアを綺麗にしてもらいベッドに寝かせた。
棺が来るまではここに、クレアに帰ってきたことを感じさせてあげよう。

その間に使用人たちにもクレアとの別れの時間を作った。



私はクレアが残した黒い箱を見つけ中を見たときに、クレアの命が危ないとわかっていた。
箱の中にはクレアが考えた事業の計画書や協力者の名簿が入っていたし、王太子のしてきた不法行為を記したノートもあった。


『愛するお兄様へ

私に何かあった時にはこれらの事業を、平民が、この国が少しでも豊かになるように考えた案を推進して下さい。
同級生であった第二王子殿下とは何度か話したことがあり、関心を持っておられますのでいい方向に進めてくださるでしょう。

この国が良き方向に進み栄えますように。

お父様とマルタンを宜しくお願い致します。

クレア・マルタン』

簡単な手紙と一緒に。


私には今、王太子の側近が手の中にあるのだ。
さらなる証拠を集めて王太子を追い落とし、第二王子殿下に王になっていただこう。

今までは何度か誘われ断ってきたが、王の補佐官に出仕しよう。
そしてクレアの意志を継げるようにマルタンが先頭に立つのだ。
そう心を決めると少しだけクレアを失ったという失意の底から這い出れる気がした。


棺が届くまでは、父上とクレアと私3人で過ごそう。
奇跡的に顔に傷は少ないものの頭の形は歪んでしまって、他にも傷があった為にすぐに埋葬した方が良いだろうから。

今、入っている誰かの遺体はさっさと処分してクレアの墓所を確保しなければ。


クレアとのお別れが済んだあとはこの私が直々にオブスキュアを取り調べ、全てを奪い死んだほうがいいと思うような目に合わせてやる。
すぐに殺してなどやらぬ。












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