彼氏いない暦22年の私、出会って2ヶ月、異世界で結婚する 

ボンボンP

文字の大きさ
12 / 60

◆ランブランの不運 3

しおりを挟む
私は無言で執務室を後にすると令嬢のいる客室に向かった。
ノックをすると侍女が迎え入れてくれた。

「ごきげんよう。フロリック様。」
いつもと変わらない微笑みを浮かべて令嬢は優雅に私の前でお茶を飲む。

「ご令嬢。結婚式の日取りを決めたいと思うのですが。」
「…。はいわかりました。いつ頃がよろしいですか?私はいつでもかまいませんのでフロリック様の良いように。」

「あの、お聞きしたいのですが、貴女は私との婚姻を望まれているのですか?」
「…。私がここにいるのは王命ですわ。」

「では、貴女は此方のユゴニス様と私とではどちらと結婚したいですか?」
「私は王命でここにいると言いましたわ。それが答えです。貴方はこの国の英雄ですから。」

「ならば、王命が取り消されればどうしますか?」
「そうですわねえ。そうなればユゴニス様と結婚することになるでしょう。ムリガニー辺境伯様は子供を切望されておりますから。身分も申し分ないですし見目も良い方ですわね。」

「ユゴニス様が好きなのですか?」
「私は好きだから結婚するとかそういった教育は受けておりません。望まれればそのお方のもとに行き、子供を産むことが私の役割と存じております。そしてそれに相応しい対価は頂き、いつでも与えられた権利は主張いたしますわ。」

つまり、王命で私と結婚はするが子供を産んだらすぐに離婚するつもりなのだな。


ふと、彼女の首にかかったネックレスが目に入った。

私がマダム・リンカの店で買うのに躊躇した大きなルビーのネックレスだった。
彼女は私の視線に気が付いたが何も言わずに微笑んだ。

その時何かが腑に落ちた。

「私は騎士です。主君には逆らいません。では失礼いたします。」

彼女は何も言わずに微笑んでいるだけだった。
こちらを見ているはずなのに彼女が何処を見ているのか分からなかった。


ドアの前にいた侍女が教えてくれた。
「お嬢様がこの城に滞在された日から、ユゴニス様がほぼ、毎日いらしてました。あの首飾りもユゴニス様が昨日お持ちになられました。」

私は無言で頷くと部屋を出た。


領主は彼女が来た時点で、いやもしかして私が報奨として結婚相手を賜ったと聞いた時から彼女を奪うつもりだったのではないのか?

流石に私が直接陛下から頂いた報奨に手を出すのだ、今日まで水面下で動いていたのだろう。

それにこのまま彼女と結婚しても…。

やはり夢は夢と言う事だ。
ならば。




「領主様、わかりました。この話お受けいたします。」

「おお!ありがとう恩に着るぞ。儂は貴殿が同意してくれると確信しておった。さすが我、ビダールの騎士だ!では先程話した条件で良いか?別に賞与をつけるか?」

「いいえ、副団長の給料は規定通りでお願いします。それ以外は先ほどの条件で結構です。その代わり1つだけお願いします。」

「申してみよ。」
「次に私が何か望んだ時には必ずそれを叶えて下さい。」

「なんと漠然としておるなあ、まあ良い。約束しよう。」
側近に指示すると、その一文を加えた書面にサインをした当主が満足そうに頷き私に書面を渡した。

私はユゴニス様の前に書面を差し出した。

「ユゴニス様の署名も頂きたい。」
父が私に注意しかけるが当主様が遮った。

ユゴニス様もサインをしてくださった、優越感を滲ませた目で私をちらっと見ながら。
ムリガニーの嫡男というだけで騎士団長の地位にいる男に、私が見くびられるのは許せない。



私の元結婚相手がユゴニス様と結婚したのはそれから1ヶ月後だった。
あまりにも早い結婚で一体いつから画策していたのかと呆れた。

私が王から報奨として賜わった縁談相手を領主が権力で奪い取ったと、騎士団の仲間は団長であるユゴニス様に腹を立て、副団長となった私こそが本当の団長であると、私の為に力を尽くすと結束が強くなった。

もともとユゴニス様が兵舎の団長室にいることは滅多になく、式典等の行事の時には嬉しそうに騎士団長の制服を着て私たちの先頭に立って歩くのだ…。
団長ではなく、領主の息子がただ賓客として参加している、団員は皆んなそう思っていた。

領民の間でも英雄である私に同情的な噂がされていた。


私は無心で仕事と鍛錬に明け暮れた。




3年間そんなふうに過ごして来た。

そして、あの日、異国の若い女性が保護されたと報告があったのだ。

私の惨めな過去を知らない女性。

部下のせいで怪我まで負ってしまい申し訳無いことをしてしまった。
完治するまではちゃんと面倒を見なければ。
私が意図せず裸身を見てしまった事は許して欲しい。

言葉も通じず不安だっただろうが、接しているうちに物怖じせずに私の事を、一生懸命意思疎通をしようと見つめる瞳から目が離せなくなった。

彼女は謎の魔法具を持っていた。
本当に何処の国からやってきた人なんだろうか。
早く彼女から色んなことを聞いてみたい。

注文した魔法薬が届くまで後少しだ。


買物にも行ったが彼女は必要最低限なものしか買わせてくれなかった。

女の望むままに買い与えてこそ男の甲斐性の見せ所。
また、ねだってくれるのは好意を持つ相手に甘えているからこそ、と聞いたことがある。

店員も何とも言えない目で私を見ていた。

でも彼女が最後に選んだネックレスは白金の鎖にアクアマリンの石だった。
まさしく私の色だった。
彼女が意味を知っているかわからないが、少しでも希望を持ちたい。

馬車の中では魔法具で〈写真〉と言うものを見せてくれた。
そこには1つの絵の中に嬉しそうな笑顔の私とココアの顔があった。
私もこんなふうに笑うんだな…

いつかの憧れたあの光景が頭に浮かんだ。


何とか私のことを好きになってくれないだろうか…。


















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...