王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

19 岩山竜撃退戦

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 岩山竜と戦い始めてからしばらく経った。登り始めていた月は、今夜の中で1番高い位置にいる。

「これだけ攻撃を加えても退いてくれないのね」

「全くだ…余力を残しているとはいえ、純粋に硬すぎる。このまま消耗が大きくなれば俺たちの負けだ」

「今までの攻撃でどこを攻めても変わらないと言うことがわかったわ。後は攻撃力を増せば良いだけよ」

 私とアドリアスが話しているとイリーナも話に加わってくる。岩山竜の体表は鱗などに包まれているわけではなく、皮膚のようなものに包まれている。
 しかしどのような攻撃でも少し傷つくくらいで、大きなダメージにはなっていなさそうだった。

「攻撃力を増すと言っても…どうするのよ?」

「軍団魔術の一つ上の技術…同調させるのよ。他人同士では傷ついてしまうけど、ここには双子のロアとロナ。そして従姉妹のわたくしとラティアーナがいるわ。普通は従姉妹だと難しいとされるけど、わたくしとラティアーナなら大丈夫よきっと」

 同調というのは複数人で魔力を合わせて高める技術だ。通常は魔力が近い親子あるいは兄弟姉妹の間で行われる。血のつながりが離れるほど魔力も遠くなるため異父母兄弟姉妹でも難しくなる。従姉妹間の同調ともなれば理論上は可能と言ったところだ。

「そうね。わたくし以外の魔力を取り込むのは何度もやっているわ。それにイリーナとならできる気がする」

「僕もロナとならできると思う」

「私も頑張ります」

 私とイリーナ、ロアとロナで同調させて魔術を行使することにした。

「攻撃は4人に任せる。それまでの時間は俺たちが稼ごう」

 時間を稼ぐと言ってくれた皆が岩山竜を相手に攻撃を仕掛けていく。アイリスを筆頭とする教員たちも、それぞれ攻撃に参加し岩山竜の足止めをしようとしていた。
 たとえ傷を与えることは出来なくても、せめて脚を遅くするくらいは、という気合を込めて皆が攻撃を仕掛けているのを感じる中で、私たちは準備をする。

「イリーナ準備は良い?」

「もちろんよ」

 私とイリーナは手を繋いで魔力を流す。2人の魔力がそれぞれを駆け巡り、循環し交わっていくのを感じながらも更に魔力を増やす。
 流石に魔力の親和性がそこまで高くないため不快な感覚が体を巡っていくが、初めて大気の魔力を取り込んだ時のような激痛はなかった。
 それはイリーナも同じようで、顔を顰めながらも顔色を変えずに魔力を強めていく。

「術式を展開するわよ。属性は雷に聖属性を乗せる、形状は槍でただただ高威力の雷撃の槍を放つ…それで良いわよね?」

 イリーナの言葉に私は「もちろん」と返す。岩山竜は黒龍のように魔力が効きにくいわけではないため、属性に縛りはなかった。
 魔力消費の割に威力が高い属性は炎や雷となるが、森の中だということを考えると炎は論外になる。たとえ電気を通さない相手だとしても雷分の攻撃は、そのまま物理的な破壊を伴うだけだ。
 ということで雷属性一択となり、相手が魔物ということで聖属性を付与することになったのだ。

「術式展開…雷光に聖魔力を付与して、槍を生成!」

 イリーナの言葉に合わせて私も術式を展開し、2人で1つの巨大な槍を生み出した。

「槍を打ち出すときに回転させるわよ?少しでも貫通力を上げるわ」

 魔力による雷は物理的な衝撃も伴うため、槍を弾丸のように回転させることで威力を増す。私たちの準備が完了する頃には、ロアとロナも準備が完了したようで、頭の上に巨大な氷の槍が生み出されていた。

「僕たちも準備できました…いつでも行けます」

「了解…皆、こっちの準備は完了したわ!」

 私は時間稼ぎをしている皆に向かってそう叫ぶと、カトレアが「わかったわ。隙を作るからもう少し待って!」と返す。
 アイリスたち教員たちとカトレアたちが私たちの近くまで下がると、下がらなかったブラッドとアドリアスがそれぞれの武器を構えていた。

「僕の攻撃は派手じゃないからね。こう言った相手とは、相性が悪いけど…こういうことも出来ないことはないのさ」

 ブラッドはそう呟きながら短剣を構えると、岩山竜に向かって短剣を突き刺した。剣先が刺さらずに止まっているが、ブラッドは気にせずに術式を短剣を通して移す。
 同時にアドリアスは聖剣に魔力を込めて、カトレアとアイリスは魔術を構築していく。
 ブラッドが離れたタイミングでアドリアスの聖なる斬撃が、カトレアの魔術による爆発が、アイリスの雷撃が岩山竜に放たれる。
 3人の攻撃が命中する直前にブラッドの仕掛けた術式が衝撃を増幅し大爆発を起こした。
 これには岩山竜も脚が止まる。

「後は頼むわよ!」

 カトレアの合図を受けて、私たちも攻撃を放つ。雷の槍と氷の槍が岩山竜の頭に命中すると、膨大な魔力が炸裂し轟音を響かせ衝撃が辺り一体を襲う。
 魔力を同調したことによって大きさの割に圧縮された魔力は、想像以上の威力となり流石の岩山竜も仰け反っていた。
 岩山竜は、そのまま悲鳴のような声をあげて地面へと倒れ込む。

「きゃっ!?」

 巨体が倒れ込んだ衝撃で近くにいた誰かの悲鳴が聞こえるが、私たちは岩山竜が、どうなったか見守っている。
 煙が晴れてくると傷を負った姿が見えてくるが、まだまだ元気そうだった。私たちがどうするか思案していると、岩山竜は立ち上がり横の方向に歩き出した。

「なんとかなったかしら…」

「多分ね…あの方角には国があった記憶はないから大丈夫だと思うのよ」

 岩山竜の姿が消えてからしばらく様子を見るが、再び現れることはなかった。これにアイリスが「あれだけの巨体ですが目撃されたという話は滅多にないです。もしかしたら地面に潜っているのか、あるいは他にあるのかも知れませんが滅多に姿を見せないのかも知れませんね」と言っていた。

 ともかく一難去ったことと夜も遅いことから、一先ず明日の朝までゆっくりすることになった。


 そして朝になると今後の方針を決めることになる。代表で私とアイリス、アドリアス、イリーナが集まって話をしているが、基本的には演習を継続させるつもりだった。

「幸い怪我人もいませんし先生たちに問題がなければこのまま演習を進めたいです」

「行程自体は予備として数日見てるので大丈夫ですが…このまま西方連合国家群まで移動は持ちそうですか?」

 アイリスは心配そうに聞いてくるが、話し合いの前に皆の意見は聞いていて満場一致で演習を行うという結論になっていた。
 そのことをアイリスに伝えると「わかりました」と言ってくれる。

「薬品類はわたくしたちでも多めに持ってますし、治癒魔術を扱える者も数名いますからね。精神的に問題なければ大丈夫とは思っています。後は…カイトの身柄はどうしますか?」

「拘束したまま連れて行けば良いのではなくて?」

「そうね、エスペルト王国内にも敵が潜んでいるだろうから。カイトが失敗して捕まったことは知られない方がいいと思うわ」

 王国ではニコラウスとドミニクが王城内を、シリウスが王立学園を探っているため、敵にはそのまま泳がせておきたいという打算もある。
 私はイリーナに同意すると他の人も同意見のようで

「そうだな…魔封じの腕輪とロープによる拘束をしているから逃げることもできないだろうし、妥当じゃないか?」

「わかりました。このまま拘束して馬車に乗せておきましょうか」

 アドリアスとアイリスも頷いてくれた。



 再び西方連合国家群へ向かって進み出すと、何事もなく順調な旅になる。

 西方連合国家群の第15、フローリアには予定より1日遅れて到着した。
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