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第10章 元王族の囚われ生活
5 研究者フォーリア
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「君に答える義理はないね……たとえワタシを人質にしても他の者は止められない。異常に気付いたほかの部隊が来るだけだよ」
フォーリアは銃を向けられても平然としていた。投降する素振りもなければ抵抗する様子も見せない。
子どもたちを助けに行きたいところだが、まずはこの場をなんとかしないといけなさそうだ。
「アイラ……ちょっとこっちに来て」
壁の近くで静かに佇んでいたアイラは「わ、わかった」と言って私の傍に寄ってくる。
銃をしまってアイラの首輪に触れながら魔力を流す。首輪の中にある魔力に干渉してから、一気に力を込めた。石が砕けるような鈍い音と共に首輪だった物が床へと落ちる。
「よし……無事に壊れたね。残りのも壊すから、そのままじっとしててね」
「ありがとう……って、え?」
私は剣を抜いてアイラの両手についている腕輪を斬る。ついでに私の左手の腕輪も斬り捨てた。
「ティアって色々できるのね。びっくりした……本当にありがとうね」
アイラは数年ぶりに自由になった体を見て、驚きつつも嬉しそうな表情でお礼を告げた。
「どういたしまして……」
アイラが不思議に思うのは無理もない。アイラにとって私は昔から捕らわれていた、ただの幼い女の子。
そんな私がいきなり体術や剣術、魔術を扱えば誰だって信じられない気分になるだろう。
アイラのことは親友だと思っている。だからこそ隠し事はしたくないわけで……全てを告げることはできなくても、前世のことはいずれ言わないといけない。それで嫌われたり気味悪がられたりすることになったとしても、だ。
そのことを考えると怖くて憂鬱な気持ちになるが、今はもっと優先しないといけないことがある。
「さて、何かしてくると思ったけど、何を考えているの?」
私がアイラを解放していてもフォーリアは動かなかった。だが投降する気がないことは目を見れば分かる。
「なに……もしもワタシが変な動きをすれば魔力弾で撃たれていただろう?ワタシはあくまで研究する者であって戦う者じゃない。君を相手にするのは分が悪いと判断しただけだよ……それにしても興味深いね。君の魔力量はそれほど多くなかったはずだが、あれだけの魔術を使い、あまつさえ魔力の波長をあわせるとはね」
「あなたたちのおかげで時間はたくさんあったから……それだけよ」
フォーリアの興味深い視線を笑顔で受け流した。
フォーリアは印象だけで言えば頭のおかしい変人だ。だが研究者を名乗るだけはあって、少しでも情報を与えてしまえばこちらが不利になる。しかも意外と観察眼も鋭いらしく下手な誤魔化しは通用しないと思ったほうが良い。
それに時間があったというのもあながち嘘ではない。ラティアーナの経験から魔力が成長している間に魔力を使えば成長が大きくなることは知っていた。だから魔封じの腕輪によって魔力を放出できないなか、身体強化や体内の魔力循環を操作して魔力を消費していたのだから。
「なるほど……たしかに君は身体強化を使用していた。それなら魔力が封じられていても練習することは可能だね。だが体内の魔力の扱いに慣れていたとしても、魔力弾や他の魔力へ干渉する高等技術は会得できないのだよ。しかも術式を介さない属性変換や高度な治癒魔術を行使している。それの意味するところはつまり……君には前世の記憶、それもこの世界の人間としての記憶があるということに他ならない!異世界の記憶を持った人間は知っていたが、同じ世界の記憶を持った人間は初めてだね。ほんとうに、君の頭の中と魂を!分解し、観察し、調べ尽くしたいところだよ!」
「それが……一体どうしたって言うの!」
剣に魔力を纏わせて振り下ろし、魔力の斬撃を放つ。それは床に触れないように真っ直ぐ進み、フォーリアの左手に命中。そのまま肩から先を斬り裂いた。
「な……!?」
フォーリアの左手は床に落ちる。けれど肩からも腕からも血が流れることはなかった。落ちた腕は勝手に動き出し、私を目掛けてゴム人形のように飛び跳ねる。まるで腕自体が独立した意思を持つ個体のようだ。
「なにを驚いている?研究者によって自身の体など研究素材でしかないのだよ。流石に自我や思考を失うところには手を入れられないが、それ以外の全てに手を加えるのは当たり前だろう!」
「っ……正気の沙汰とは、思えないわね!」
予想以上のしぶとさに内心で舌打ちをしつつも右腕に魔力をこめる。今までのような魔力だけでなく、属性変換による炎や雷の魔力を纏って渾身の一撃を放つ。
本来であればさっさと片をつけて子供たちの迎えに行きたいところ。ましてや病弱な今の私の体力は、かなり少ない。魔力の残量が少なくなれば体調にも影響があるわけで、長期戦は避けたいのが本音だ。
「ふむ……腕の中の魔術回路が破壊されたみたいだね。だがワタシにばかり集中していいのかね?」
フォーリアはそう言ってアイラに視線を向けて手を伸ばそうとして……
「ティアにばっかり頼るのもね……私の方がお姉さんなんだから!」
アイラは大きな魔力弾を放ってフォーリアの体が壁まで吹き飛んだのだった。
フォーリアは銃を向けられても平然としていた。投降する素振りもなければ抵抗する様子も見せない。
子どもたちを助けに行きたいところだが、まずはこの場をなんとかしないといけなさそうだ。
「アイラ……ちょっとこっちに来て」
壁の近くで静かに佇んでいたアイラは「わ、わかった」と言って私の傍に寄ってくる。
銃をしまってアイラの首輪に触れながら魔力を流す。首輪の中にある魔力に干渉してから、一気に力を込めた。石が砕けるような鈍い音と共に首輪だった物が床へと落ちる。
「よし……無事に壊れたね。残りのも壊すから、そのままじっとしててね」
「ありがとう……って、え?」
私は剣を抜いてアイラの両手についている腕輪を斬る。ついでに私の左手の腕輪も斬り捨てた。
「ティアって色々できるのね。びっくりした……本当にありがとうね」
アイラは数年ぶりに自由になった体を見て、驚きつつも嬉しそうな表情でお礼を告げた。
「どういたしまして……」
アイラが不思議に思うのは無理もない。アイラにとって私は昔から捕らわれていた、ただの幼い女の子。
そんな私がいきなり体術や剣術、魔術を扱えば誰だって信じられない気分になるだろう。
アイラのことは親友だと思っている。だからこそ隠し事はしたくないわけで……全てを告げることはできなくても、前世のことはいずれ言わないといけない。それで嫌われたり気味悪がられたりすることになったとしても、だ。
そのことを考えると怖くて憂鬱な気持ちになるが、今はもっと優先しないといけないことがある。
「さて、何かしてくると思ったけど、何を考えているの?」
私がアイラを解放していてもフォーリアは動かなかった。だが投降する気がないことは目を見れば分かる。
「なに……もしもワタシが変な動きをすれば魔力弾で撃たれていただろう?ワタシはあくまで研究する者であって戦う者じゃない。君を相手にするのは分が悪いと判断しただけだよ……それにしても興味深いね。君の魔力量はそれほど多くなかったはずだが、あれだけの魔術を使い、あまつさえ魔力の波長をあわせるとはね」
「あなたたちのおかげで時間はたくさんあったから……それだけよ」
フォーリアの興味深い視線を笑顔で受け流した。
フォーリアは印象だけで言えば頭のおかしい変人だ。だが研究者を名乗るだけはあって、少しでも情報を与えてしまえばこちらが不利になる。しかも意外と観察眼も鋭いらしく下手な誤魔化しは通用しないと思ったほうが良い。
それに時間があったというのもあながち嘘ではない。ラティアーナの経験から魔力が成長している間に魔力を使えば成長が大きくなることは知っていた。だから魔封じの腕輪によって魔力を放出できないなか、身体強化や体内の魔力循環を操作して魔力を消費していたのだから。
「なるほど……たしかに君は身体強化を使用していた。それなら魔力が封じられていても練習することは可能だね。だが体内の魔力の扱いに慣れていたとしても、魔力弾や他の魔力へ干渉する高等技術は会得できないのだよ。しかも術式を介さない属性変換や高度な治癒魔術を行使している。それの意味するところはつまり……君には前世の記憶、それもこの世界の人間としての記憶があるということに他ならない!異世界の記憶を持った人間は知っていたが、同じ世界の記憶を持った人間は初めてだね。ほんとうに、君の頭の中と魂を!分解し、観察し、調べ尽くしたいところだよ!」
「それが……一体どうしたって言うの!」
剣に魔力を纏わせて振り下ろし、魔力の斬撃を放つ。それは床に触れないように真っ直ぐ進み、フォーリアの左手に命中。そのまま肩から先を斬り裂いた。
「な……!?」
フォーリアの左手は床に落ちる。けれど肩からも腕からも血が流れることはなかった。落ちた腕は勝手に動き出し、私を目掛けてゴム人形のように飛び跳ねる。まるで腕自体が独立した意思を持つ個体のようだ。
「なにを驚いている?研究者によって自身の体など研究素材でしかないのだよ。流石に自我や思考を失うところには手を入れられないが、それ以外の全てに手を加えるのは当たり前だろう!」
「っ……正気の沙汰とは、思えないわね!」
予想以上のしぶとさに内心で舌打ちをしつつも右腕に魔力をこめる。今までのような魔力だけでなく、属性変換による炎や雷の魔力を纏って渾身の一撃を放つ。
本来であればさっさと片をつけて子供たちの迎えに行きたいところ。ましてや病弱な今の私の体力は、かなり少ない。魔力の残量が少なくなれば体調にも影響があるわけで、長期戦は避けたいのが本音だ。
「ふむ……腕の中の魔術回路が破壊されたみたいだね。だがワタシにばかり集中していいのかね?」
フォーリアはそう言ってアイラに視線を向けて手を伸ばそうとして……
「ティアにばっかり頼るのもね……私の方がお姉さんなんだから!」
アイラは大きな魔力弾を放ってフォーリアの体が壁まで吹き飛んだのだった。
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