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第13章 2度目の学園生活
74 邪の霧
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咄嗟に身体強化をした私は、アリアの手を掴んで無理矢理抱き寄せた。
ほぼ同時に悪獣の身体が黒く輝き強大な邪気が弾け飛び粒子となり、獣の形をした霧と化した。
さらには悪獣から放たれている圧も跳ね上がっていて、まるで水中にいるかのように呼吸を苦しくし、全身に重石でも身につけているかのようなプレッシャーを掛けてくる。
「っ……」
「あらら……これは厄介な」
私の腕の中では邪気にあてられたせいか、アリアが顔色を悪くしていて苦しそうにしていた。
私自身も久しぶりに全身から冷や汗が出るくらいには死の気配を感じたくらいだ。
「アリア、じっとしていてね」
抱き寄せていたアリアを地面へと降ろしたが、少し勢いが付きすぎてしまったようで小さな悲鳴が聞こえた。アリアに対して内心で謝りつつも換装用の腕輪に魔力を流して夜月を取り出すと抜刀の構えをとる。
「夜月!」
刀の名を呼び鞘から刀を抜くと同時に魔力を込める。周囲の邪気を取り込んで放たれた黒い斬撃は粒子と化した悪獣に触れるまでの間に5メートルにも及ぶ巨大な閃光となった。
そして、悪獣の身体だったものに触れた瞬間、二つの力が交わって膨大な邪気は決壊寸前にまで膨れ上がっていた。
「ちっ!?」
魔力を斬るつもりで放った斬撃だったが、どうやら邪気同士が干渉してしまったようだ。このまま大爆発を起こせば悪獣も消滅するだろうが、巻き込まれた私たちも無事では済まないだろう。
たとえ爆発を斬ったとしても防御魔術を構築したとしてもアリアまで守りきることは難しい。となれば魔術を超えた力を使うしかなかった。
私は換装用の魔術具を使って急いで魔法杖を取り出した。魔法杖に全力で魔力を込めて脳内に結界をイメージし、私たちを守るための球状の結界を構築しようとする。
これは空間を断絶し全てを遮断する完全防御の魔法だ。理論が一切解明できず消費魔力も桁違いに多い代物だが、物理的な力では絶対に破ることはできないとされている。
結界が完成すると同時に内部が暗くなり杖に込められた魔力の光が僅かに結界の中を照らし出す。
「ギリギリ間に合った……大丈夫?」
「ええ。おかげさまで。それよりも……」
アリアの視線は、私が握っている夜月と私の顔の交互に向けられていた。
ラティアーナだった頃に何度もアリアたちの前で夜月や辰月を使っていた。カトレアが確信を得たようにアリアが私の正体に気付いたとしても不思議ではないだろう。
「アリア……けほっ」
どう説明するべきか悩んでいると思わず咳き込んでしまった。口を抑えた手は赤く染まり錆びた鉄の匂いが鼻につく。
「ティア!?血が……」
「だいじょうぶ……思ったよりも反動が大きかった、だけだから」
心配そうに優しい声で叫んだアリアに問題はないと首を横に振る。
これは敵から受けた傷ではなく自身の身体が強大な魔力に耐えきれなかっただけの話だ。邪気による影響と夜月の制御を僅かに誤ったせいで魔力回路以外が損傷してしまったようだが、致命傷ではないので無視をしても問題ない。それに、効果が薄くても治癒魔術を行使し続ければ悪化を遅らせることはできる。
「とりあえず細かい話はあとで。そろそろ結界を解くけど準備はいい?」
この結界の弱点は、魔力の燃費がすこぶる悪いことと結界内の空気が補給されないことだ。今の私の魔力でも10分少しくらいしか維持できず、この狭い空間で2人もいれば酸欠になってしまうだろう。
おまけに外の様子を知る術がないことも使いづらさに拍車をかけていた。
「いつでもどうぞ」
「分かった。じゃあ三数えると同時に……一、二、三!」
結界を解除すると同時に周囲の気配や魔力に探りを入れる。けれど、辺り一帯には濃密な邪気が漂っているだけで近くに気配などは感じなかった。
悪獣が逃げた可能性もゼロではないが恐らくは倒せたのだろう。
「ふっ……流石に疲れたわ」
私は警戒を少しだけ緩めると土の上に腰を下ろして力を抜く。
先ほどの反動に加えて体力と魔力を大きく消耗したこともあり立っているだけでも辛かった。近くに魔物がいないのであれば小休止が欲しいところだ。
「お疲れさま。ティアがいなかったら、どれほどの被害が出たかどうか……」
アリアはしみじみと呟くと私と背中を合わせるように腰を降ろす。
「懐かしいわね……共に戦うのは強化種の件以来かな」
「そうだね……また会えてよかったよ。それにアリアのことは特別だと思っているから」
「……特別?」
「アリアは……それとノアやドムもだけど、私が初めてパーティを組んだ相手だからね。お忍びで仲良くなった初めての人だし」
ラティアーナがまだ王女だった頃は、時間にも余裕があったためお忍びで出掛けることも多くアリアたちと接する機会も多かった。流石に王位についてからは忙しさのせいで年に数回くらいの頻度となってしまったが、今でも大切な友人であり仲間だという意識が強い。何より幼馴染であるアドリアスやイリーナを除けば家族以外で初めて仲良くなった人だ。
「ふふ。最初の出会いは緊急依頼のときだったね。あの時も今回みたいに突発的な出会いで……私にとっても大切な出会いだった。まさか、生まれ変わっているとは思わなかったけど、こうして再会できて嬉しいわ」
「私も嬉しいよ……でも良く生まれ変わりに気付いたね」
「これでも精霊教会の騎士団長なのよ?当たり前でしょ」
アリアの話によると精霊教会の教えの中に魂に関するものがあるらしい。人の身体が生まれると同時に魂が宿ることで新しい生命となり肉体の死と共に魂が抜ける。ほとんどの魂は記憶となる部分が白く上書きされるが、稀に上書きが行われずにそのままの記憶を持ち越す者がいるらしい。
そのため、教会の中で一定以上の立場にいる者にとって、生まれ変わりが存在することは常識だそうだ。
ほぼ同時に悪獣の身体が黒く輝き強大な邪気が弾け飛び粒子となり、獣の形をした霧と化した。
さらには悪獣から放たれている圧も跳ね上がっていて、まるで水中にいるかのように呼吸を苦しくし、全身に重石でも身につけているかのようなプレッシャーを掛けてくる。
「っ……」
「あらら……これは厄介な」
私の腕の中では邪気にあてられたせいか、アリアが顔色を悪くしていて苦しそうにしていた。
私自身も久しぶりに全身から冷や汗が出るくらいには死の気配を感じたくらいだ。
「アリア、じっとしていてね」
抱き寄せていたアリアを地面へと降ろしたが、少し勢いが付きすぎてしまったようで小さな悲鳴が聞こえた。アリアに対して内心で謝りつつも換装用の腕輪に魔力を流して夜月を取り出すと抜刀の構えをとる。
「夜月!」
刀の名を呼び鞘から刀を抜くと同時に魔力を込める。周囲の邪気を取り込んで放たれた黒い斬撃は粒子と化した悪獣に触れるまでの間に5メートルにも及ぶ巨大な閃光となった。
そして、悪獣の身体だったものに触れた瞬間、二つの力が交わって膨大な邪気は決壊寸前にまで膨れ上がっていた。
「ちっ!?」
魔力を斬るつもりで放った斬撃だったが、どうやら邪気同士が干渉してしまったようだ。このまま大爆発を起こせば悪獣も消滅するだろうが、巻き込まれた私たちも無事では済まないだろう。
たとえ爆発を斬ったとしても防御魔術を構築したとしてもアリアまで守りきることは難しい。となれば魔術を超えた力を使うしかなかった。
私は換装用の魔術具を使って急いで魔法杖を取り出した。魔法杖に全力で魔力を込めて脳内に結界をイメージし、私たちを守るための球状の結界を構築しようとする。
これは空間を断絶し全てを遮断する完全防御の魔法だ。理論が一切解明できず消費魔力も桁違いに多い代物だが、物理的な力では絶対に破ることはできないとされている。
結界が完成すると同時に内部が暗くなり杖に込められた魔力の光が僅かに結界の中を照らし出す。
「ギリギリ間に合った……大丈夫?」
「ええ。おかげさまで。それよりも……」
アリアの視線は、私が握っている夜月と私の顔の交互に向けられていた。
ラティアーナだった頃に何度もアリアたちの前で夜月や辰月を使っていた。カトレアが確信を得たようにアリアが私の正体に気付いたとしても不思議ではないだろう。
「アリア……けほっ」
どう説明するべきか悩んでいると思わず咳き込んでしまった。口を抑えた手は赤く染まり錆びた鉄の匂いが鼻につく。
「ティア!?血が……」
「だいじょうぶ……思ったよりも反動が大きかった、だけだから」
心配そうに優しい声で叫んだアリアに問題はないと首を横に振る。
これは敵から受けた傷ではなく自身の身体が強大な魔力に耐えきれなかっただけの話だ。邪気による影響と夜月の制御を僅かに誤ったせいで魔力回路以外が損傷してしまったようだが、致命傷ではないので無視をしても問題ない。それに、効果が薄くても治癒魔術を行使し続ければ悪化を遅らせることはできる。
「とりあえず細かい話はあとで。そろそろ結界を解くけど準備はいい?」
この結界の弱点は、魔力の燃費がすこぶる悪いことと結界内の空気が補給されないことだ。今の私の魔力でも10分少しくらいしか維持できず、この狭い空間で2人もいれば酸欠になってしまうだろう。
おまけに外の様子を知る術がないことも使いづらさに拍車をかけていた。
「いつでもどうぞ」
「分かった。じゃあ三数えると同時に……一、二、三!」
結界を解除すると同時に周囲の気配や魔力に探りを入れる。けれど、辺り一帯には濃密な邪気が漂っているだけで近くに気配などは感じなかった。
悪獣が逃げた可能性もゼロではないが恐らくは倒せたのだろう。
「ふっ……流石に疲れたわ」
私は警戒を少しだけ緩めると土の上に腰を下ろして力を抜く。
先ほどの反動に加えて体力と魔力を大きく消耗したこともあり立っているだけでも辛かった。近くに魔物がいないのであれば小休止が欲しいところだ。
「お疲れさま。ティアがいなかったら、どれほどの被害が出たかどうか……」
アリアはしみじみと呟くと私と背中を合わせるように腰を降ろす。
「懐かしいわね……共に戦うのは強化種の件以来かな」
「そうだね……また会えてよかったよ。それにアリアのことは特別だと思っているから」
「……特別?」
「アリアは……それとノアやドムもだけど、私が初めてパーティを組んだ相手だからね。お忍びで仲良くなった初めての人だし」
ラティアーナがまだ王女だった頃は、時間にも余裕があったためお忍びで出掛けることも多くアリアたちと接する機会も多かった。流石に王位についてからは忙しさのせいで年に数回くらいの頻度となってしまったが、今でも大切な友人であり仲間だという意識が強い。何より幼馴染であるアドリアスやイリーナを除けば家族以外で初めて仲良くなった人だ。
「ふふ。最初の出会いは緊急依頼のときだったね。あの時も今回みたいに突発的な出会いで……私にとっても大切な出会いだった。まさか、生まれ変わっているとは思わなかったけど、こうして再会できて嬉しいわ」
「私も嬉しいよ……でも良く生まれ変わりに気付いたね」
「これでも精霊教会の騎士団長なのよ?当たり前でしょ」
アリアの話によると精霊教会の教えの中に魂に関するものがあるらしい。人の身体が生まれると同時に魂が宿ることで新しい生命となり肉体の死と共に魂が抜ける。ほとんどの魂は記憶となる部分が白く上書きされるが、稀に上書きが行われずにそのままの記憶を持ち越す者がいるらしい。
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