あの日

鵜海 喨

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 倒れ込んだ人間の腕はない。しかし、血液が外へ流れ出した痕跡もない。一方、傷口は皮膚が覆い異様な姿をしていた。
 この日の依頼は、ある殺人事件の調査だ。そしてその遺体は、異様他ない。
 左腕が欠けたその遺体は、うつ伏せの状態で倒れ込んでいる。場所は事件の起こった住宅のニ階、書庫だ。腐敗臭が漂うこの部屋には、血の匂いが一切ない。それが気になる点だ。
 言葉通りの首の皮一枚繋がった状態でありながら、左腕もない。左腕同様、首も傷口には皮膚が覆っている。まるで、この体は長い間生きて傷口を再生したかのように思える。
 寄生獣。そうふと思った。
 この地域での伝説。怪死した人間体には人間にはない骨が入っておりソレが、一時的に人間を生かし、生かすことで生成される血液を啜る。そんな噂だ。
 これが、その怪死なのだろうか。
 私は、服のポケットが異様に膨らんでいる事を見つけた。手を伸ばしその膨らみを触る。ハンカチだろうか、柔らかい。その物を取り出そうと、遺体に触る。
 それは温かい。
 生きている。
 この姿で生きている。
 脳と体は完全に剥離している。なのに生きている。
 その時の私は気づかなかった。背後に光る眼光を。
 気づけば、私は自分の体を見上げていた。
 しかし、その体には頭がない。なぜなら頭が私だからだ。
 時間が経つにつれて、体のバランスは崩れ、体制が傾く。
 数秒の事が数時間に感じるほど長く、時は引き伸ばさた。
 私の首の上には、小人が立っていた。
 
 
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