この日

鵜海 喨

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 ここは、廃墟の中だ。
 今、俺はトイレの中に入りヤツが離れる時を待っている。 
 ヤツは、人間の塊だ。人間の体の部位がいくつも存在し、それが絶えず動いている。運動速度は人間と同じか、それ以上で逃げ切る事は難しい。
 今だ。
 ドアを開け地面を蹴る。肌寒い空気を切り前に進む。
 当然ヤツは俺に気づいた。この世の物とは思えない声を上げ、後をつけてくる。
 ここは、地下二階。階段を駆け上がり、ヤツを振り切ろうとする。だが、思った以上に体力が持ってかれる。
 絶えず鳴る喉を抱えて、俺は走る。そして探索が一割すらも終わっていないこの施設を後にしようとしている。
 背後の気配を感じ、反射的に振り向く。そこにはヤツがいた。同僚だった人間の顔を浮かべ、笑いながら走ってくる。
 俺は走った。冷や汗なのか分からない汗を流し、涙を堪え走る。
 地下一階。ここには本棚がたくさんある。これをうまくぶつければ、逃げ切る事ができるかもしれない。
 ヤツとの距離は十メートルほど。俺は、本棚の縁に指を掛け、思いっきり力を入れた。
 ガタガタと音を鳴らし、中に入っていた本が落ちる。
 もう少しで倒れる。しかし俺の視界には、ヤツの手が映っていた。しかし俺を捕まえようとした手は紙切れ一枚の距離で挙動を変えた。
 倒れかけた本棚がヤツの体を挟み込んでいる。今にも届きそうな距離で食らった攻撃だったからか、ヤツの顔は黒く濁っていた。
 ぐちゃと音がする。
 完全に本棚が倒れた。そこには濁った同僚の顔は地面に転がり、赤黒い血をばら撒きながら、萎んでいくヤツの姿があった。
 それを尻目に、俺は階段を登った。
 地上一階。出口まで、数十メートルの所で、壊れた体を見せた何かが追いかけてきた。
 人間の顔に手が二本生えた、ソレはヤツと同じ黒い液体を纏っていた。
 これはヤツなのか? 一瞬、疑問が頭に過った。
 ヤツだ。
 追いついたソレは、俺めがけて飛び跳ねた。
 ソレは腕に触れるとからみつき、離そうとしない。
 どうにかして、外そうと格闘していると、階段から大きな影が現れた。ヤツの本体だ。
 俺は、絡みついたソレに妨害されながら、扉に向かった。
 この速度では、ヤツに追いつかれると知りながら、走った。
 扉まで、一メートル。
 ドアノブに手をかけた瞬間に扉を開ける。
 ヤツとの距離も一メートルを切っていた。手を伸ばし、捕らえようとする、姿を最後に扉を閉める。
 これで終わった。
 
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