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道なり
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確か、その日は寝ていた気がする。でも薄っすらとした記憶に笛のような風切り音と、斬りつけるような眼光が目を覚ました。
勇者の姿。
親は殺された。先生も殺された。村長も殺された。
鼓膜を震わす断末魔が今でも響く。
誰かに包みこまれている。言わずとしても分かる男のぬくもり。頭を撫でられ、恰も玩具のように扱われ虫唾が走る。しかし、悪夢など昔の話と思えば悪くない。私は、昔から勇者の物だった。それだけで良い。
私は勇者の玩具。
勇者の寝息。
ほのかにヒヤリとした人の肌。
勇者の家で留守番をし、家事や料理を振る舞うただの使い魔だ。
外に連れ出したかと思えば、請負業務の討伐依頼。亜人を殺し、魔人も殺し、獣人すらも手にかけた。鉄臭く生温い体液を触ったのは、記憶に新しい。
そう思えば、この添い寝やソレの処理をするだけの日々が、どれだけの安堵を纏い退屈だったかを実感できる。
勇者を殺そうとも思った。それでも結局、奴隷におちるか、研究の為に解体されるかのどちらか。意味がない。それに私は別に勇者に恨みがある訳では無い。
父は、どれだけ愚かでどれだけ醜かろうが自分の命は大切にしろと説いた。同時に、他者に奪われる命は美しく尊いとも言った。それでも私は反する事を頭によぎらせたが、人が嫌だという理由だけで死ぬのは、馬鹿馬鹿しく感じた。笑える話だ。
怒りなど知らない。怒りなど...
あ、もう朝か。
瞑った目の中にも光が入る。
目をこすり、体を伸ばし、再度勇者の胸に顔を埋める。微かにしかない勇者の匂い。
私は勇者のことが好きだ。
私もすっかり玩具らしくなったものだ。
私は妖狐の獣人。と言っても人間に尻尾と耳が生えただけの生き物だけどね。
勇者の姿。
親は殺された。先生も殺された。村長も殺された。
鼓膜を震わす断末魔が今でも響く。
誰かに包みこまれている。言わずとしても分かる男のぬくもり。頭を撫でられ、恰も玩具のように扱われ虫唾が走る。しかし、悪夢など昔の話と思えば悪くない。私は、昔から勇者の物だった。それだけで良い。
私は勇者の玩具。
勇者の寝息。
ほのかにヒヤリとした人の肌。
勇者の家で留守番をし、家事や料理を振る舞うただの使い魔だ。
外に連れ出したかと思えば、請負業務の討伐依頼。亜人を殺し、魔人も殺し、獣人すらも手にかけた。鉄臭く生温い体液を触ったのは、記憶に新しい。
そう思えば、この添い寝やソレの処理をするだけの日々が、どれだけの安堵を纏い退屈だったかを実感できる。
勇者を殺そうとも思った。それでも結局、奴隷におちるか、研究の為に解体されるかのどちらか。意味がない。それに私は別に勇者に恨みがある訳では無い。
父は、どれだけ愚かでどれだけ醜かろうが自分の命は大切にしろと説いた。同時に、他者に奪われる命は美しく尊いとも言った。それでも私は反する事を頭によぎらせたが、人が嫌だという理由だけで死ぬのは、馬鹿馬鹿しく感じた。笑える話だ。
怒りなど知らない。怒りなど...
あ、もう朝か。
瞑った目の中にも光が入る。
目をこすり、体を伸ばし、再度勇者の胸に顔を埋める。微かにしかない勇者の匂い。
私は勇者のことが好きだ。
私もすっかり玩具らしくなったものだ。
私は妖狐の獣人。と言っても人間に尻尾と耳が生えただけの生き物だけどね。
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