どうやら私はヤバメのバイトに就いたらしいです。

鵜海 喨

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薬編

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「ユーくん大好き」
 そう言って、手を添えてきたのは縁。
「俺もだよ」
 側から見ればただのカップルだろうが厳密には違う。
 カップルと言えばカップルだが、俺は雇われの身の高校生だ。
 彼女の介護のアルバイトをしている。そう言った方が簡単だろうか?
 まぁいいが、何故か彼女いない歴と人生が等しかった俺に色々あって彼女が出来た。
 雇い主兼俺の彼女の縁。
 ちなみに縁は元子役だ。今は中学生になって引退したらしいが、貯金がかなりあるらしく俺を雇うことができているそう。
 いやぁそれにしてもおかしな事だな。
 何がおかしいって、採用試験の時。介護士やらの資格を持ってる成人男性とかも試験にいたのに何故、俺を選んだのか全く検討がつかない。
 でも今となってはどうでもいい話か。
「マスター今日はどうしますか? どこに行きたいですか?」
「水族館に行きたい!」
 元気よく返事をした縁。
 フッ化水素酸が蝕んだ足を持つ少女は笑った。
 フッ化水素酸
 強い腐食性を持つが工業において重要な物質。
 毒物として扱われる。
 時は遡る。採用試験最終面接。
「では、佐分利さん。彼女はいますか?」
 ここに居るのは志望者は自分含めて二人。
 なんか、資格とか持っている人との一騎打ちの面接。
 勝ち目がない!
 そう思えた。
「お付き合いしている人ですか? 今のところはいません」
「わかりました。では、佐分利さん。私、縁を愛すことは出来ますか?」
「それは出来ません! いくらなんでも雇い主を愛す、いえ、そのような目では見ることは出来ません」
「なるほど、がっかりです。では、今回はご縁が無かった事で」
「!?」
 なんか、ものすごい質問されているのですけど?! それでなんか、落ちた宣言食らっているんですけど!
「では大坪さん。貴方には彼女等の人物がいますか?」
「はい。いません」
 と言うか、人生で一回も彼女が出来たことがない。
 そんな事は言えるはずもなく、次の質問。
「私を愛すことができますか?」
「はい!」
 と答えた。
「どのような体でも?」
「はい!」
 うん? 今なんて言った? 勢いで返事をしてしまった。
 すると、面接官及び雇い主であるとても可愛らしい少女、白谷 縁さんは言った。
「貴方は気が合いそうです。では、これからよろしくお願いしあます。大坪 優さん!」
「はい!よろしくお願いします」
 なんか、合格した。
「では、こちらこそ今日からよろしくお願いします」
 季節は夏。
 俺は、泊まり込みのバイトに受かった。
「ゆーくん。って呼んでいいですか?」
 彼女の自宅に向かい車椅子を押す。
「え? 僕は構わないですよ」
 そういうと、彼女は目を丸くした。
「やったー! 後、敬語やめて。堅苦しいの嫌いなの」
「あ、わかりまし、いや。わかった」
 そして、そんな話を続けていたら、もう彼女の自宅に着いてしまった。
 なんと言うか、普通の家だった。
 これは勝手な思い込みだが、専属の介護士を雇う事のできる中学生って事は、相当なお金持ちに生まれたのかと思っていた。
「あっ。ゆーくん。これ家の合鍵。あげる」
「合鍵って、貰っていいのですか?」
 唐突に大事な物を渡された。
「だって。私の事愛してくれるって言ったじゃん。ならもう契約期間切れても会いにきてくれるかなーって思って。悪い? 親も二人とも海外出張で、今年の冬に一回しか帰ってこないし。寂しいし」
「わかった。って、それは、縁さんと付き合えと?」
「そう言うこと!」
 彼女はご機嫌だ。
 待て、初めての彼女が可愛すぎる件なんだが? なんというか、年相応の胸でしかも体ちっちゃいし、髪も俺好みのセミロングだしこんな事があっていいのだろうか?
 あまりにも尊いため、血反吐を吐きそうになる。「ところで、何故、俺を採用したのです?」
「え?料理が趣味って言うし、カッコいいから」
 ありがとうございます。こんな天使のような存在からカッコいいという言葉がもらえました。
「あ、そうなの。立ち話もあれなんで家入りましょう」
 あまりの、嬉しさに片言になる。
「だね! ゆーくん抱っこ」
 ん?
「抱っこ?」
「そう。車椅子を靴箱の横に置いてるからそこに置いて、私を部屋まで連れて行って」
 いきなりハードなものがきた。
 彼女の脇に手を入れて、持ち上げる。
 そして、胴体を近づけて、赤ちゃんのように抱っこする。
 車椅子を玄関入ってからすぐのところに置き、指示された通路を歩いて部屋に向かった。
 二階に上がり部屋に入ると、そこはまさに女の子の部屋だった。
 ピンク色を基調とした、華やかな部屋。とても可愛らしい。
 ベットに彼女を置いて、俺は部屋を後にしようとする。
「待って! ここに、私の近くに居て」
 と、ベットの足元をポンポンと叩いて指示をする。
「わ、わかった」
 俺は、指定された場所に座った。
 なんと言うか、恥ずかしい。
 脈が上がってるのがわかる。
「ゆーくん、緊張してるの? もしかして、女の子の部屋初めて?」
 そう、悪戯っぽく笑う縁。
「はい」
「あはは、その様子だと、プロの童貞だね。と言っても、私もやったことないんだけど」
 なんか、ムカつく。そしてブーメラン。
 なんと言うか、してもないくせににバカにされた。
「ところでさ、飲み物とってくれない? そこの冷蔵庫に入ってるから」
 と、白い箱を指さす。
 一リットルペットボトルぐらいの大きさの見てわかる白い箱で、銀色の取手がついている。
 それを開けると、一丁前に冷気が漏れ出してくる。中身は、缶ジュースが二本しか入っておらず、片方を手に取り、扉を閉める。
「ありがとう。ゆーくん」
 と笑う縁。
 ごくごくと、のどを鳴らしてジュースを飲んでいるのを横目で見と、そこには美味しそうに嬉しそうに彼女の姿。
 眺めていると何だか微笑ましい気持ちになった。
 案外普通の中学生だな。
 そう思った。
「ゆーくん。ゆーくん。なんでそんなに離れているの? もっと近づいてくれたっていいじゃん。私はゆーくんが好きなんだから!」
 ん? 今なんて? 好き?
「それってどういう意味です?」
「え? だってあの採用試験は、私のお婿さん探しみたいなものだし。それに選ばれた貴方は実質私の花婿だよ?」
 ちょっくら気が早すぎないか?
「でも結婚できるのって十八からですし、ちょっと早くないですかね?」
「そう? 結婚できなくても新婚生活みたいなことはできる思うんだけどなー」
 めちゃくちゃだな。
「あ、なるほどもう僕が縁さんを好きになることは決まっているですね。わかりました。はい」
 そう、生返事をしておく。
「何その返事。面白くない。でも私の事を愛してくれるって言ってくれた時、うれしかったよ」
「どんなけ俺の事好きなんだよ。仕事は始めてまだ一日も経ってないぞ。俺はまだその気になれない。それにまだ知らないことが多いし」
 悲しい顔をした縁が言った。
「じゃぁ、時間かけて相思相愛になろうね!」
 最後は笑顔だった。
 夕食時になった。
 俺は、縁に言われた通りにカレーを作った。何というか普通の食卓だ。
「いただきます。え? なにこれ美味しい。味に深みがあって、野菜の甘さだけじゃない、香辛料の辛さもしっかり主張してきてバランスの取れた味。どうやって作ったの?」
「食レポがお上手のようで、ただなんか、家から持ってきた無水調理器とルーを二種混ぜただけだよ。甘口と中辛を」
 そんなことは聞いていないように、パクパクと口に運ぶ縁。
 その食べる顔が本当においしそうに食べるので、こっちも作ってよかったと思う。
 それにその顔がかわいい。
 やべぇ。これじゃ相手の思うつぼじゃないか。別に好きになることが悪いことじゃないが、なんか負けた気分になる。
「おかわり!」
 とキレイに食べた大皿を渡してくる。
「はいはい。よそって来ますね」
 と、おかわりした分もペロッっと食べてしまった縁は、お風呂に入りたいと言い始めた。
「ん? 一緒に入らないのゆーくん?」
「いやぁ僕は、まだ付き合っている訳でもないし、やめておくよ。心臓に悪いし」
「ははーん。もしかして心の準備ができていないとか。それもそうだよね。なんだってプロの童貞だもんね」
 やかましいわ。
 そう怒鳴りそうになるが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
 気があるためか、あまり悪いところは見せたくない。
「俺、負けたのか?」
 そう呟く。
 いや、まだ完全に好きになった訳ではない。
 まだ勝機はある。
「というか、俺は何と戦ってるんだ。あほかよ」
 今、俺の中には二つの感情がある。
 いっその事、本当に好きになって、カップルになるか。
 それか、仕事と割り切って、彼女の誘惑に耐えるか。
 どちらも荷が重たい。
 だって、好きになるとしても彼女は、元子役のめちゃめちゃ可愛い子だぞ? 周りから、「釣り合ってないから分かれろ」だとか、そんな事言われたら返す言葉が見当たらない。
 かといって、あの誘惑に耐えらるかと言ったらそうでもない。
「本当にどうしたら?」
 いっそのこと本人に聞いてみるか。
「あのさ縁。俺も貴方のことが好きかもしれないんだよ。初めて会った時からというか、このバイトを見つけた時、顔写真見てやりたいと思ったんだ。正直に言うと好みなんだ。でも、もし本当に付き合ったら、その何というか、負けた気分になるんだよ。過去の自分を裏切ったみたいで。それに付き合ったら付き合ったで、不釣り合いだのと言われるのが怖いんだ。俺はどうしたら」
「ふーん、そう思ってるんだ。私は、何でもいいけどなー。ゆーくんの事、大好きだから。今日分かったけど、性格も私好みだし、本当にお婿さんになってほしいと思ってる。じゃぁさ。この一か月で、付き合うか、付き合わないかを決める時間にしようよ。もちろん私は誘惑するけど」
「気が乗らないけど、そうするしかないのか」
 まぁいいけど。
「でさ、ごめんだけど、湯船に入れてくれない? 入りにくくてさ」
 それって、この女の子の入ってる浴室に入れと?!
 待て待て、落ち着くんだ。
 いくらそうだとしても、何というか、これは仕事だ。仕方ない。そうだ仕方ない。
「入ってもいいのか?」
「入らなきゃどう動かせっていうの?」
「だよな。じゃぁ失礼します」
 扉を開ける。しかし、そこには頼まれた事が既に完了していた。
 俺の目に前に丸みの帯びた体が目に入る。
「失礼しました!」
 と勢いよく浴室を後にする。
「かわいいなーゆーくん」
 勢いよく飛び出した俺は、なんとなくリビングのソファーに身を委ねた。そして息を吐く。
「あれって、ありかよ。なんだよ。ある意味セクハラじゃないか」
 脳裏に焼き付いた、あの姿が浮かぶ。
「何考えているのだ俺!」
 でも、あの足のケガ本当にどうしたのだろうか。
 あの火傷のような跡、足を切断しなくちゃいけないほどの火傷?
 俺は、彼女になるであろう少女の体よりも怪我のほうが気になって仕方なかった。
「あのー出たいんですけど!」
 そんな声で我に返る。
「ごめん。今行きます」
 と声を出しながら、浴室に向かう。
「もう。ゆーくんったら。ちょっとした悪戯でパニックになりすぎ。で、タオル取って」
 と言われ、カゴに山積みになってるタオルを手に取った。
「はい」
 扉の隙間から伸びている手にそれを渡す。
「でもゆーくんって、優しいんだね。今まで雇ってきた人たちは、数時間そこらでやめていっちゃったから、私、またそうなるんじゃないかって心配だったんだ。でも今居てくれて嬉しい」
 泣き出しそうな声で言う縁。
「縁。大丈夫。仕事だから一緒にはいるぞ。お金、欲しいし」
「もー! お金なんかいらないから、一緒にいさせてくれって契約期間の一ヶ月で言わせてやる」
 そう、声色を変えて言った。
「それはどうかな。ってその手は何かな」
 気づけば、先ほどのように扉の隙間から手が伸びていた。
「パンツと下着、取って」
「え?」
 反射的に声が出る。
「だから、タオルの入っていた棚の横に下着があるからそれを取ってって言ってるの!」
「あぁぁ。わ、わかった」
 と言われ、その場所に向かう。
 そこには確かにスポーツブラとパンツが置いてあった。
「え? 俺がこれ触るの?」
 ちょっと待った。この女っ気が微塵もない俺がこれを触れって?
 待つんだ。心の準備が。
「早くー。取ってよー」
 女の子の下着なんだぞ?! 俺が触って良いわけがない。
 でもこれって、仕事だから仕方なのないことだから。良いのか?
 いやいやでもこんなザ・童貞が触って良いはずがないと言うか見てはいけない物だろ。これ。
「あぁーどうすれば!」
「もうゆーくん! 私裸のまま出てきちゃうよ? それでも良いの?!」
 あーこうなったらヤケクソだ。
 俺は、言葉通りの鷲掴みをして、下着を取った。
 なんというか、温もりはなかった。あ、でも当たり前か。これから使うんだし。
 そのまま、その持っている物を渡した。
「ありがとう」
 そう言って、手が引っ込んでいった。
「良い湯だったよー」
 と背負われている縁が言った。
 今はリビングに向け、縁を輸送中だ。
「やっぱり、このソファーいいなー」
 と降ろしたソファーで、寝転がった。
「寝るなら、布団で寝ろよ」
「えぇ。あの敷き布団より低反発なんだもん。柔らかい方が良いじゃん。女の子の体のようにさ」
 なんすごい凄いことを口走っているが気にしないでおこう。
 気にしたら負けだ。
「はいはい。そうですね」
 と皿洗いをしながら返事をする。
「もう。その返事嫌い。あ、言うこと思い出した。でさ、明日ショッピングモール行こうよ。彼氏面したらボーナスあげるから」
「ボーナスなんて要りませんし、行きたくありません。こんな破廉恥少女と、ショッピングモールなんて俺の心臓が爆発してしまいます」
 とキッパリ断る。雇われ側としてどうなのかは置いておいて。
「明日は、後輩が出てる映画がやるからお願いー!」
「うん? 後輩?」
 そういえばこの子、元子役だったっけな。現役だった頃の後輩かな。
「佐藤 佐奈ちゃんって言うのだけど、その子が主役の「静かな水」って言う映画はやるの! 先輩として見ておきたいから。お願い」
 静かな水? 聞いたことがない作品だな。あまり大々的に宣伝してないだけかも知れんが。
 まぁ映画だけなら学校の輩と会う事は少ないだろう。会ったら会ったで、面倒な事になるが。
 とりあえず、okを出す。
 異常なほどに喜んでいる縁。
 時刻は、十一時
「縁、そろそろ寝ません? 俺眠たくなったんですが」
「ん? あー十一時だね。確かに寝よっか!」
 歯磨きをしに洗面所に連れて行く。
「ゆーくん、歯磨き持ってきた?」
「あ、忘れてきたかもしれん」
「なら、私の使う? なんちゃって。その収納箱の中に新品入ってるから使って」
 と言って指を指す。
「ありがとう。って本当に新品?」
 と言って使う。だが不可解なことに確かに中身は新品なのだが、封が空いていた。
「あ、それは、私が一回使ってみて、合わなかったやつ。新品はもう一個の収納箱」
 と恥ずかしそうに言う。
 うん? 使用済み? なんてこった。
 急いで、歯ブラシと口を濯ぎ、謝る。
「ごめん! 縁」
「いや、私もごめん」
 と顔を赤くする。
「まぁ良いや、これからそれ使って。捨てるのもったいないし」
 え? でも僕の心臓が持たないんだが?
「え? あ。はい」
「何その返事。こんな可愛い子の使った歯ブラシを使えるなんて嬉しい事でしょ?」
 どこか、感性がズレているような。
「あ、ありがとう」
 苦笑した。
 そんな事がありつつ、縁を彼女の自室に連れて行く。
「一緒に寝てくれない?」
 そう縁が弱々しく言った。
「え? やだ」
「これは、雇い主の命令。お願い」
 と、ほんとうに泣きそうな声で言った。
「命令。わかりましたよ」
 と、彼女の入っている布団に入り込んだ。
「あの、真っ暗じゃないと寝られないんですが、そのランプ消してもらって良い?」
「駄目。真っ暗だと怖い。暗いのが良いなら、こうして」
 と、僕の顔を胸に押し付けてた。
 確かに真っ暗になったが、流石にこれは。
 縁の体が、ピッタリくっついてくる。
 温かいが、その温かさが逆に心臓に悪い。
 脈拍はどんどん上がっていく。
 ちょっと、離してもらおうかと思ったが、縁は既に眠っている。
 どうすれば。このまま、未発達の胸に顔を押し付けていて良いのか?!
 よく眠れない夜だった。
 いつもとは違う朝。
 それは、横に女の子かつ美少女がいること。
 少女は、可愛い寝息を立てて、ぐっすり眠っている。
 待て俺。何この状況を飲み込んでいるだ。
 俺は、年齢と彼女いない歴が等しい人間だ。女っけなんて微塵もなかった。
 そんなある意味、女子や女性を近寄らせなかった俺が、なに女子の懐の中で寝てるのだ。おかしいだろ。
 覚醒した意識が、今現状のおかしい箇所を袋叩きにする。
 過度なストレスから、頭を掻き毟る。
「あ」
 なんだか、ネトネトする。
 そう言えば俺、昨日風呂入ったっけ?
 俺、最低かよ。この非日常で女の子と寝る事したのに、風呂に入ってないのかよ。あー絶対嫌われた。しかも、懐の中、真上には鼻。
 やっちまった。
「ゆーくん何やってるの?」
 布団の上で、絶望した顔で呆然と膝立ちしていれば、そう言った感想も出てくる。
「そう言えば、縁。昨夜、俺臭くなかったか?」
「うん? 何も感じなかったけど。と言うかいつもよりよく眠れたよ。どうしてそんな事聞くの?」
 まぁ実際は少しは匂ったけど私の好きな匂いでよく寝られたんだけど。
「縁、何か言ったか? いや、なんでもない」
 セーフ!
 なんと言うか、気づかれなくてよかった。
「いやぁ。ゆーくんそれは?」
 と、顔を隠した縁。
 説明しよう。
 男の子というのは、朝元気になってしまうのだ。だが、それは本人の意思ではないので生ぬるい目で見ておいてあげよう。見つけても触れないように! かなり傷ついてしまうぞ!
「とう言う訳だ。縁、わかったか? ってなんでそんなに残念そうなの!?」
「私で興奮した訳ではないのね。残念」
 と、憂鬱な顔を見せる。
 彼女自身何言ってるのか分かってるのか?! 到底俺の頭には理解できな事が渦巻いているのは理解した。
「なんか、ごめん」
 それは、朝七時頃の出来事だった。
 時刻は八時。
 俺は、シャワーを浴びた後、朝食を作っている。
「卵焼きに、砂糖いるか?」
「うーん。要らない。醤油だけで良いと思う」
「オッケーって、今更思った事なんだが、なんでそんなに早くから婿探しをいてるのか、俺にはさっぱりわからん」
 思っていたことを言ってしまう。
「なんでって、母がそう言った。そうなっちゃった以上早く養ってくれるパートナー見つけろって。で見つけたのがゆーくん!」
 ない足をポンポンと叩いて言った。
「ごめん変なこと聞いた」
 養わないといけないのか。荷が重い。
 そもそも、結婚するかすら、彼女になるかどうかすらわからないのに、何考えているんだ俺。
「今日ショッピングモールに行くんだよね?! じゃあ、おしゃれしなくちゃ」
と言って、匍匐前進で洗面所に向かって行く。
「おいちょっと待って、これ焼き上がったら、連れてくから」
 と声をかける。
「やったー! ゆーくんの抱っこだ!」 
 と、ソファーに戻り、はしゃく縁。
「はい出来ました。っと、じゃぁ洗面所行くか」
「うん!」
 洗面所に着いたのだが、縁は謎に隣接する扉を指さしてその中に入った。
 そこは、でっかいクローゼットだった。
 服がびっしりと並んで、なんというか凄かった。華やかな服から、渋く落ち着いた服までなんでもあった。
 その中で、縁が指さした服を手に取るとそれはワンピースだった。青くヒラヒラの付いたそれを、彼女に渡す。
 なんと言うか。ってここで着替えるのかよ。
「え。ちょっ。後ろ向いておくわ」
「だーめ手伝って。ほら、子供みたいにバンザーイとか。してさ」
 もうそれ、手伝いじゃないくて着せてってことだよね?
「あ、はい。バンザーイって、パジャマ脱いで」
「うん? あ、今脱ぐね」
 と本当に脱ぎ出した。
 なんだか、こっちが恥ずかしい。まぁ良いや。
 脱ぎ終わった体を見ると、足以外はとても綺麗な肌だった。足は完全に膝から先が無い。その周辺は、赤く火傷のような跡が残り痛々しい。
「そんなジロジロ見ないで。恥ずかしい。早く着せて」
「え? あっ。バンザーイ」
 つい見惚れてしまった。健康的な少女の着替えなんて心臓が爆発するかと思っていたが、何やら感心に近い感覚だった。
 そして、青色のワンピースを身につけた少女は、それはもう美しかった。
 細くて綺麗な腕。セミロングの髪は動く度に動いて可愛らしい。顔は元子役なだけあって、整っており、精密に作られた人形みたいでそれはもう、可愛い。
「ゆーくん。どう? 似合う?」
「うん。似合うよ。とっても可愛い」
 と、言うと腕の中に飛び込んできた。
「好きな人に可愛いって言われるとドキドキしちゃうね」
「そ、そうか。朝ごはん冷めるから食べよっか」
「うん」
 そして、俺たちは移動して、朝食を食べた。
 女の子と一緒に食べる、食事はとてもおいしかった。
 そして、問題が発生するであろうショッピングモールに向けて移動する。
 車椅子との駅内の移動は、かなりしんどかった。
 色々、階段だらけで、車椅子と縁を一緒に運ぶのに苦労した。しかし、その度に縁が応援してくれたから、なんとかがんばれた。
 そして、着ショッピングモール。
「わぁ! 久しぶりに来たー!」
 と言って、某アルファベット三文字のショッピングモールに来た。
「意外と混んでるな」
「だってここ人気だもん。で、映画館はかなり上の方だから」
 と誘導され、映画館に入る。
 そして、二人の時間を過ごした。
 映画の内容は、少女が災害から身を守る話。だが最後には主人公は暴れ出した狂人を、自身の身を投げ出して止めた話だった。
 映画の視聴中。彼女が手を握ってきて、ドキッとしたがもう慣れたものだ。握り返してあげた。
 それからもう、映画が終わるまで離さなかった。
 映画が見終わり、昼食を食べようと三階に降りた。その時。
「おーいどうしたのお前って。その子だれ?」
 と学校のクラスメイトが話しかけてきた。
「ゆーくんの彼女でーす」
 と縁が言った。
「おいちょと待て。縁、変な事言うなよ」
「お? お前彼女出来たなら教えろよ。それなら、俺らはおじゃま虫なんでどっか行くわ。楽しめな」
 と姿を消していった。
 だが。
 振動したスマホを取り出してその通知の内容を確認する。
「げっ!」
 そこに書かれていたのは、チャットアプリのクラスグループ。俺に彼女が出来たと言った報告メッセージだった。
「あいつら」
「ゆーくんどうしたの?」
「いや、見てよこれ」
「あーなるほど、じゃぁ本当にお付き合いしちゃう?」
 と悪戯っぽく笑った。
「うん」
 体が勝手に返事をしていた。
 ごめん。俺。一人だった時の俺ごめん。
 縁は、目を丸くしていた。
 気を紛らわせるために、俺は近くにあったフードコートのラーメン屋に向かった。そして注文した。ちゃんと二人分。
 俺は、縁を席に着かせて、ラーメンを取りに行った。
「わぁ、美味しそう。ってさっきの何?」
「いただきます。って、あれの事? 俺の気持ちだよ」
 縁は泣きながらラーメンを啜っていた。
 それにしてもこのラーメン美味いな。
 家に帰ると、縁は当たり前のようにソファーに寝転がった。
「嬉しいなー、ゆーくんが付き合ってくれるって。ねぇゆーくん今夜も一緒に寝よーよ!」
「はいはい、わかりました」
 と、帰りに寄ったスーパーで買ったものを冷蔵庫にしまう。
 今夜も? だと。
 内心焦りながら。
「それ終わったら、こっちにきてね」
 とソファーをトントンしている。
 そこに向かうと、横には縁が座っていた。
 なんか嫌な予感しかしない。
 腰をかける。すると、縁は俺の足の上に乗ってきて、嬉しそうに笑った。
「クーラー涼しいね。ゆーくんは温かいけど」
 と、頬を触ってきた。
 体を密着させ、甘えてくる。
「彼氏だから何しても良いよね」
 気付けば顔がキスをする距離まで近づいてきた。が、俺はそれを離した。
「なんでよ。せっかくキスをしてあげようと思ったのに」
「待て、俺が死ぬ。心の準備が出来てない。また今度な、それに女からなんて男の恥だからさ」
 適当な事を言って誤魔化す。
「たしかに私も、ゆーくんから来てほしい」
 なんか丸く収まったようだ。
「ねぇどうしたいの? これから」
「そうだな。事をするのはまずはバイトの契約期間が切れてからかな」
「何それつまんない」
 と、頬を膨らませて見るからに怒っている表情を見せる。
「いやぁ、でもお金貰っている以上仕方ないだろ」
「まぁそうだけど」
 それに、今までは、雇い主だったのが彼女になった事で色々こっちのターンにも出来そうだ。今夜にも、その胸を。
「よっしゃーバイト頑張るぞ!」
 と声を張る。
「がんばれー」
 と縁。
「では、縁。夕飯の支度してくる。何が食べたい?」
「お好み焼きがいい!」
「そうだな。それが良い」
 とキッチンに向かう。
 いや待てよ。お好み焼き? ホットプレートが必要なんじゃ。
「ごめん、ちょっと家帰って忘れ物取りに行ってくる!」
「え? 何か忘れ物? もしかしてパンツ?! いやぁ今ノーパン」
「そんな訳ないから。ホットプレート。どうせなら、お店みたいに一緒に焼いて食べようぜ」
「確かに、そうだよね。そっちの方が楽しいし。いってらっしゃい」
「おう。行ってくる」
 家を飛び出す。
 家までの距離はそこまで遠くないのが幸い、おそらく持って帰るのも楽だろう。
 と思っていた時期にも僕にはありました。
 家に帰り、姉に一言かける。
「ただいまーってホットプレートある?」
「あるけど何? 使うの?」
 と、自室から顔を出した。
「でさ、あんたどうよ。あのバイト受かったんだって。よかったじゃん彼女出来そう?」
 事の元凶がちょっかいをかけてくる。
 なんというか鬱陶しい。
「うまくいってますから心配しないでください。じゃぁこれ借ります」
「待って!」
 と言われたかと思えば、背中に柔らかい感触。姉が抱きついてきた。
「あぁ。愛おしいの弟くん。こうやってると安心するわ。でも、雇い主に言っておいてね。もしこの子に手を出したら、容赦しないってね」
 でた、ブラコン姉。
「じゃっ、いってらっしゃい! 弟くん」
 自宅を後にした。
 重い。とんでもなく重い。
 あれ?ホットプレートってこんなに重たかったっけ? でも仕方ないか、鉄の塊だし。
 これは帰るの一苦労だぞ。
 このまま、一駅分ぐらい歩くことになった。
「ただいまって縁、何してるの?」
「ゆーくん、トイレ行きたい!」
 と、廊下でうずくまっている縁が言った。
 どうやら、扉のドアノブに手が届かなかったらしい。
 小柄な縁には災難だったな。
「あーはいはい」
 駆け寄るが、事遅し。
「あー無理無理。動かさないで!」
 花が無いのに花を摘んでしまった。
 以上。
 後片付けが大変だった。
「さっきはごめんね」
「別に良いよ。勤務場所から離れた俺が悪いんだ」
 ソースを焦がし、香ばしい匂いを放つお好み焼き。
 俺はそんなお好み焼きを切り分け、縁の皿に乗せる。
 「んー!なにこれ美味しい! こんなに美味しいお好み焼きってあったんだ!」
 と美味しそうに咀嚼する縁。
「レシピ通りに作っただけだけどね」
「いや、ゆーくんが作ったっていう隠し味があるから美味しいの!」
 と飲み込んで話した。
 俺は笑顔で答える。
「そんなの不味くするだけだろ」
「ううん、そんな事ない。誰もが自分のために作ってもらったご飯は美味しいものだよ。特に恋人はね」
 目を輝かせて言う。
 恋人か。俺なんかで良いのかな。もっと料理も上手くて、良い顔の男なんていっぱい居るはずなのに。なぜ俺なのか。
 応募者の中で俺が一番良かったから? 多分そうか。
 待てよ。なぜ俺はこう、ネガティブな思考に至ったんだ? 別に自分を下げる必要なんてないじゃないか、逆だ。自信を持て!
「ゆーくん?」
 そんな声で現実に連れ戻される。
「新しいの焼いてくれない? って顔色悪いよ! 大丈夫?」
「うん? 大丈夫。新しいのな、わかった」
 近くにあるボールを手繰り寄せ、ホットプレートの上に乗せる。
 ジュージューと、音を立てて焼けていく様は俺の心のようだった。
 焼けば焼くほど焦げが出る。考えれば考えるほど焦げ、使えない思考が出てくる。
 深くため息を吐く。
 今日一日疲れたなーなんて自分に言い聞かせながら、お好み焼きを頬張る。
 縁に癒してもらおうかな。
 そう思った。
「ゆーくん? どうしたの? まだ虚ろな顔して、何かあったの?」
 と縁。
「なんでもない。ほれ、焼けたぞ」
 焼き上がった、お好み焼きを縁に渡す。
「じゃぁ、風呂洗ってくるわ。食べ終わったら教えて」
 微笑み、風呂場に向かう。
 その時の縁は、なんと言うか寂しそうな顔だった。
 洗剤を付けたスポンジで浴槽を擦る。
 なんと言うか、やり慣れたことだ。子供の頃親に頼まれてやったっけ。
 そんな過去を思い出す。
 でも姉が来てからは、姉が代わりにやったっけ。
 と思いつつ、事を済ませた。
「この部屋、お好み焼き臭いな」
 消臭スプレーどこと縁に訊き、棚に置いてあったそれを手に取る。
 カーテンや、ソファーなど布製品を中心的に部屋全体に吹いていく。
「ゆーくん。どうするのこれから」
「え? これから? 洗い物してお風呂入るかな。なんで?」
「一緒にお風呂入りたい」
 んんんん?????
「ごめんそういうのは、バイト中はお断りしています。それに今の気力じゃ色々抑え込むのが無理そうだから。一緒に入りたいなら契約期間の終わったプライベートでお願いします」
 よっしゃ、今回は流されずに済んだぞ。
「じゃぁ一緒に寝るときに可愛がってあげる」
 ウインクして、怖いことを言う。
「今夜は癒してもらおうかな。なんちゃって」
 と、鉄板を洗いながら言う。
 二人の間に笑いが起こる。
「いっぱい癒しちゃうんだから。覚悟してね」
「あ、でもえっちいのは無理だから」
 無理な事は前もって言う。
「ゆーくんのえっち。誰がそんな事するって言ったの?」
 今ままでの態度とかから、しかねないと思ったんだが。と絶対本人の前では言えない。
 と思っているといつの間にか、鉄板と皿が全て終わっていた。
「風呂入ってくる。って縁入ったっけ? ド忘れした」
「後でいいよー、というか後がいい」
 なんか嫌な予感がする。
「わ、わかった入ってくる」
 と、風呂に向かった時。
「待って! 私も連れて行って。お話したい」
 縁が声を上げる。
「よし、じゃぁおいで」
 と、縁を抱き上げる。
 そして一緒に風呂に行った。
「ごめん、服脱ぐから後ろ向いてて」
「あ、うん」
 そんなやりとりの後、俺は浴室に入る。
「ゆーくんは、なんでこのバイトを選んでくれたの?」
 と質問。
「あの、俺に姉がいるのだけど、その姉にオススメされたからかな」
「そうなんだ、やっぱりお金欲しいの?」
 なんかとんでもない事を訊いてきた。
「まぁ人並みには欲しいかな」
「ふーん」
 帰ってきたのは生返事。
「なにが訊きたいんだよ」
「いやなんでも。それにしてもゆーくんいい匂い」
 今なんて?
「待て、今縁、俺の服嗅いでるな?」
「あ、バレちゃった」
 ったく、この娘は何をやらかす分からないな。
 その後、落ち着けず、風呂に浸かっていた。
「ゆーくん。入るよ?」 
 と、許可を得ず縁がドアを開け浴室に入ってきた。
 その姿は水着だった。
「ちょっお前、って水着かってどっから持ってきたんだよ!」
「あの部屋からだけど」
 首を傾げる縁。
「ちょっと待て、俺は一人じゃ動けないって聞きたぞ」
「残念でした。膝立ちなら動けるんでした!」
 ニコニコ笑顔でピースをした。
「そうか、スネの九割は無いけど一様膝はあるからな出来るな。確かに」
「なに勝手に考察してるのゆーくん! それに女の子の傷に触れるのはタブーだよ!」
 改めて、縁の体をみる。
 一言で言うと、ロリ体型。まぁそれもそうか、年齢もロリだし。
 反射的に少し残念そうにため息を吐いた。
 俺の好みはロリ巨乳が好みなんだが、これではただのロリコンになってしまう。まぁ、巨乳な事を除けば俺もロリコンに属するのだが。
 そういえば、どこかのテレビで成長期の少女は、唾液に含まれる男性ホルモンを摂取すると胸が大きくなるって聞いた事があるな。長い付き合いになるんだったら。別に巨大化させても良いのか?
 だが、必然的により唾液が混ざる深い方のキスをした方がいいということになる。俺にそんな勇気があるのか?
 と思考を巡らせるのに六秒の時間を要した。
「ゆーくん、なにため息吐いてるの? 大丈夫?」
 と髪を濡らした縁が視界に顔を覗かせた。
「いやぁ、ちょっと物足りないなーって」
 俺の視線は、縁の胸に釘付け。
「ゆーくんってすけべさんだね」
「そ、そんな事ないし」
「じゃぁ、何が物足りないの? 言ってみて?」
 言えないを訊いてくる。
「え? む、胸」
「やっぱり」
 と俺の手を手に取って、自ら胸に擦り付ける縁。
「ちょっと。何やって」
「今は、これだけだけど、これから大きくなるから安心して待ってて」
 まぁ俺も、大きくしようと企んできるんだがな。
「あぁー。ドキドキしちゃう。ゆーくんに触られると余計に好きになっちゃう」
 顔を赤くする。
「ごめん」
 と手を離した。
「好きだけど、まだ、したくない」
「え?」
「まだ、心の準備がまだだからさ」
 と、恥ずかしながら言う。
「わかった、これから慣れていこうね」
 笑う縁。
 何言ってるんだ。なんと言うかその、仕事は仕事だし、相手を傷けたくない、と思ってそう言ったけど実際どうなのだろうか?
 それもそうだし、本当に心の準備が出来てない事も事実だ。
「ゆーくん入るね」
 と、足の上に乗ってきた。
 女の子独特の重さと柔い感触に、頭が変になりそうだが、今は我慢するしかない。
「ゆーくん。好きだよ」
 と片道切符の言葉を投げかけて来る縁。
 今は仕事。仕事。ふざけていられる場合じゃない。なんと言うか、ちゃんと仕事はしないといけない。
 そうだ。これは仕事だ。
 だが、体は正直だ。
 縁の体を抱きしめ、引き寄せている自分がいる。
「ごめん暑い。のぼせる」
「ごめん!」
 と、俺は浴室を後にする。
「ごめん。これ洗濯機に入れておいて!」
 と渡されたのは、上下のビキニ水着。
「は?」
 待て待て。
 やっぱり破廉恥娘だな。縁は。
 と、重たい水着をネットにいれ洗濯機にいれ、服を着て歯磨きを開始する。
 その時、お風呂から出てきた縁と目が合う。
「きゃぁー! 変態!」
「どっちがだよ!」
 と反射的に言う。
「どっちがって? 私の事?」
 どうやら自覚がないらしい。
「ごめん。忘れて」
「あ、はい。わかった」
 と心の抜けた事を言う。
 そして、下着を渡した後、縁はパジャマに着替えた。
「私も歯磨きするー!」
 と僕の横に膝立ちして、事を開始する。
 当然早めに始めた俺から終わっていく。
 洗面所から離れようとすると縁は袖を引っ張り俺を引き留めた。
「離れないで」
 そう言って泣きそうな瞳で言う。
「分かった」
 と、手を繋がせられ、その場所に留めさせられる。
 縁は椅子を駆使して、うがいを済ませる。
「ありがとう。寝よっか」
「だな」
 と縁を連れて二階に行き、彼女の自室に入る。
 二人で布団に入り二人で抱き合う。
 昨日と同じく、胸に顔を押し付け撫でられる。
 こんな事、数えるほどしかない祝福だ。
 なんと言うか、包み込まれている感と言うか、温かみと言うか、そんな温かい感触の塊だ。
 よく耳を澄ませれば、彼女の鼓動が聞こえてくる。
 彼女もまた生きている。
 そう思うと、なんだが嬉しくなる。
 彼女も好きでやっていることだ。
 それに身を委ねて何が悪い。これも一様、仕事だ。
 と言い聞かせ、自分を甘やかす。
 人の温もりとは、遊戯以上の幸せな時間を与えてくれる温かみ。
 つまり最強だ!!!
 人とは最強だ。
 何を言っているんだろう?
 まぁいい。人とイチャイチャすることは悪くない事。これは明白だ。
 それも、好きな人。気がある人ととは格別だ。
 それに匂いも頭を痺れされる材料。
 何も考えられなくなり頭が真っ白になる。
 好きだ。
 以上。
 朝。
 俺は息苦しい縁の胸の中で目が覚めた。
 朝日は登り、時はもう八時と告げている。
「やべぇ寝過ごした! おっと」
 急いで手で口を塞ぐ。
 まだ縁が寝ているのに大きな声を出さまいと思った、必死の抵抗だった。
 実際は出てしまっているのだが。
 まぁいい。まだ縁はぐっすり夢の中だ。
 まだ、起床時間はまだ先だった。
 暇を持て余した俺は、なんとなく彼女の唇を指でなぞる。
 透明感のある桃色の唇は予想をはるかに超える柔らかさに驚きながらも、声は断じて出さなかった。
 まだ、縁も寝てるし、せっかくなら彼女の感触を堪能しておこう。
 そう言った出来心だ。
 もう一度、彼女の胸にうずくまり、鼓動を感じようとする。
「ん?」
 妙に鼓動が速い。
「ゆーくん? 何してるの?」
 そう、頭上から聞こえてくる。
「すみません。二度寝しようとしてました。おはようございます。マスター!」
 満更でもない嘘をつく。
「何、マスターって」
 笑う縁。
「いやぁ、反射的にそう言っちゃっただけ」
「でも、マスターは無いわー」
 腹を抱えて笑う縁。
「じゃぁ起きよっか。彼氏さん」
 と言い微笑む縁は、光に照らされてなんだか神々しく見えた。
「朝食作ってくるね。」
「だめ」
「え? 一様、仕事だし。ん?!」
 それは、一瞬だった。
 唇を奪われると言うことはこの事だったのか。
 俺は、立ち上がった後、裾を引っ張られて、後ろを向いた、その時縁の顔が目の前にあって。あって。
 キスをした。
 おいおいおいおいおい。おかしいだろ。まだ出会って三日目だぞ? それでキスってどんなけ俺の事が好きなんだ。
 待て待て! おいちょっと!
 それ以上の一線越えようとする縁は、なんだか寝ぼけたように見える。
「ちょっと、縁!?」
「だってゆーくん、胸が大きい方が良いって目で言ってたもんだから、調べた方法を試そうかなって」
 それってもしや、俺の知識にあるやつじゃないよな?
「だから、唾液ちょうだい」
 とウインクした。
 俺は、その部屋から逃げる。
 無我夢中で逃げる。逃げて、着替えて朝食を作る。
 ちょっと焦って、作る量をミスったスクランブルエッグが山盛りになっているが気にしない。
 一心不乱にスクランブルエッグを作る。
 なんだか、口の中が妙に乾くのは気のせいだろう。
 うん気のせい。
 はい。気のせいです。
 今日も一日大変そうです。
「ゆーくん! ちょっと作り過ぎじゃない?」
 と、しばらくして縁が降りてきた。
 どうやって降りてきたのかは知らんが、降りてきた。
「おう。今朝食を作ってるから、席に座って」
 そう、自分でも分かる濁ったガラス玉の目をするような感情で言った。
 神様、この娘をどうにかしてください! お願いします。
 とんでもない量の卵を食べた俺は、吐きそうになっていた。
 それを悟れない縁は、トランプトランプと連呼していた。
 なんと言うか、狂気じみていた。
「はいはい、トランプで何するの?」
 と訊いてみる。
「なんだろう? 七並べ?」
 そこまで面白くないものが来た。
 ごめん、内心笑ってる。
「いやぁ、七並べも良いけどもっと、面白いゲームしない?」
「え? じゃぁスピード?」
 え。俺のライフポイントがない時に気力を使うやつは、やめて欲しい。
「もっと良いのないかな? ババ抜きとかさ」
「ババ抜きは二人だと面白くない。初手の手札で大体揃って、最終的に残る手札って多くて四枚ぐらいでしょ? それの何が楽しいのかな」
 と、表情を変えずに圧をかけてくる縁。
「ジジ抜きは?」
「同様」
「人数を増やす」
「私に友達が居るとでも?」
 駄目だ、七並べやらされる。
 あんな楽しくもないゲームを淡々とやらされ続けられるんだ。
 あぁ終わった。
 そして、窮地に追い込まれた俺は妙案を思いつく。
 そうだ。姉を使おう。
 姉なら、ゲームに付き合ってくれるだろうし、楽しませてくれるはず!
 そう期待して、電話をする。
「もしもし姉ちゃん?」
「何、弟よ」
「今からトランプ付き合ってくれない?」
「トランプ? 別に良いけど」
「待ってその前に、縁、ここに人呼んで良いか?」
 と振り返って縁に訊く。
「良いよー」
 と返事。
「じゃぁ、今の俺のいる所に来て、現在地送るから」
「了解! ではまた後で弟くん」
 電話を切り、そして縁に姉が来ることを伝える。
「えぇー! ゆーくんにお姉ちゃんがいたの? それが家に来るって?!」
「そう叫んでもらっても」
 と、完全なるオーバーリアクションをするのは縁。
 そして、数分後。
 ピンポーン
 お、姉が来た。
 玄関に向かい、ドアを開ける。
「イラストレーター姉参上! 今日の分は描き終わってるから遊べるぜ!」
 ご機嫌で、決めポーズをする姉。
 第一印象。変なやつ。
 俺はそーっと扉を閉める。
「待って弟くん。ごめんってふざけすぎたってごめんって」
 と、閉まりかけの扉の隙間に指が出てくる。
 仕方なく扉を開ける。
 なんと言うか、なんでこうも不思議な人なんだ姉は。
 よくわからなんなーほんと。
「じゃぁ入って」
「お邪魔しまーす」
 その後、リビングに誘導する。
「ゆーくんのお姉ちゃん?」
 姉を見た縁はなんか呟いた。
「そうだよ! 天才絵師の姉です!」
 再び面白くもない決めポーズ。
 それに失笑する縁。
「で、トランプやりたいって言ったからどうせなら人数が多い方が良いと思ってね。手っ取り早い姉を連れてきた」
 横で堂々と頷く姉。
「で、君が縁ちゃんかい。話には聞いているよ。それにしても可愛い顔してるね」
 とよからぬ事を言いはじめた姉。
 まぁ良い。ババ抜きしよう。
「所でトランプは?」
 と焦る姉。
「待てって、ほらここにあるから」
 第一回ババ抜き大会開幕。
 一番手、姉。
 これからの実況は私、作者が担当します。
 姉さんは、縁さんからカードを引き抜くのですが、その縁さんの手札にはババ。
 さて、姉さん、どうするのでしょうか?!
 おっと、姉さん回避! ババの横のカードを引いた!
 縁さんはなんだか不満そう顔つき、逆にその顔で悟ったのでしょう。姉さんは勝ち誇った顔。
 うざったらしい顔です。
 二番手、縁さん。
 これは、自分がババを持っているので、安心して引けますね。
 迷わず、ゆーくんの手札から一番端っこを引いた縁さん。
 そしてカードを捨てた!
 割愛。
 今現状は、ゆーくんの手札が二枚、姉さんの手札も二枚。縁さんの手札だけ三枚と言った状況。
 ババの移動は無し。
 これは縁さんのピンチですね。
 姉さんが縁さんからカードを引きます。
 おっと、なんだこの渋い顔。
 おっと?! これは、ババを引いた模様。
 姉さん、気持ちが隠しきれていないもよう。
 それに対して、縁さん、満面の笑み。
 これを見て理解したのでしょう。ゆーくん固まっております!
 そして、縁さんの引く番。
 ゆーくんから、引き抜いたカードはスペードの六。
 おっとこれは? 手持ちに同じ数字のカードがある! 
 縁さん勝ち誇った顔でカードを捨てます。
 一上がり確定です。
 続いて、ゆーくんのターン。
 爆弾姉さんからカードを引きます。
 おっと引いたカードはハートのキング!
 ババではない! セーフです。
 姉さんのターン。
 最後の一枚の縁さんからカードを引きます。
 最後のカードを引いた!
 縁さん上がりです!
 ですが、姉さんはカードを捨てられない。
 続いて、ゆーくんのターン。
 ゆーくんの手札には、ハートのキングとダイヤの一。
 姉さんの手札には、ダイヤのキングとクローバーの一、そしてババ!
 ゆーくんはここでカードを捨てる事が出来れば上がる事が出来ます。
 そして、引いたカードは。
 上がれるカードを引く確率は三分のニ。
 おっと! 引いたカードはダイヤのキング!
 ゆーくん手札を捨てます。
 そして、姉さんが、ゆーくんの最後の手札を引きます。
 姉さんの負け!
 その後もトランプを楽しんだ。
 気づけばもうお昼時だった。
「縁、お昼どうする? 何か作るけど」
「焼うどん! 焼うどんが食べたい」
 そう、手をあげて言った。
「あ、私もそれで」
 と姉も同意する。
「はいはい」
 冷凍庫を開け冷凍麺を取り出し、レンチンする。
 野菜を切り、炒める。
 そこに解凍した麺を入れて、麺つゆで味付けをする。
 水分が飛ぶまで火を通し、そこらへんの調味料で味を整える。
 そして出来上がり。
 そんな簡単な料理を出して良いのかわからないが、まぁ良いだろう。
 少し多めに作っておいたから、おかわりもできるようにしておいた。
 おそらく、縁は気に入っておかわりするだろうと思って。
 適当に盛り付けて、縁達に渡す。
 食卓には、姉と縁が座っており俺の座る場所がない。
「美味しい!」
 そう言ってパクパク食べる縁の姿をみるとなんだか、安心する。
 何があろうが、普通の女の子なんだな。そう思わされる。
「守りたいな、この笑顔」
 その後、トランプに飽きた縁は、姉に別れを告げ俺と一緒にテレビを見る事を選んだ。
「ゆーくん。なんだか幸せな気分」
 ソファーに寝転がっている縁が言う。
「誰かと遊んで、いっぱい笑って、美味しい物を食べて、これが幸せって事?」
 それを聞いた時、俺は違和感を覚えた。
 お前の幸せは、それだけなのか? 違うだろ好きな人と一生一緒にいて一生好き同士でいる事だろ。
 そんな小さい幸せを最大の幸せだと認識させたくない。
 いつの間にか、本気で好きになっていた。
 自分が捨てられた、そんな感情になる。
「何泣いてるの?」
 縁が優しく問いかける。
「いや、縁が幸せを知っちゃって俺の事を捨てるんじゃないかって思ってさ。俺の母さんみたいに」
「捨てる? そんな事する訳ないじゃん! 逆だよ! ずっと恋人として居てほしい。私には貴方が必要なの」
 自分でも情緒が不安定なのは自覚している。それに最近ひどくなってきている。
 不安が一気に放たれたのか、温もりを覚えたからなのか。
 俺ですらわからない。
 少なからず今、縁と離れたら大事に至る事は理解できる。
「俺も必要」
 そう訴えた。
 その後、俺は縁と初めて手を繋いだ。
 その手は離すといった言葉を知らず、握ったままだった。
 俺はそれに答えた。
 握り続けた。
 温かく柔らかいその手は俺も物より一回り小さく少し握りにくい。
 だがそんな事は関係ない。
 ぼーっとテレビを眺める二人の影。
 好きでもない番組をただひたすらに眺め続け、時を過ごした。
 まるで、授業中、窓の外でやっている体育の授業を眺めるように、時は刻々と過ぎていく。
 時は不思議だ。
 好きな人と居るだけで早く過ぎる。逆に一人寂しく泣く時間は対に当たる。
 面白くもない物語を読むように。
 つまらない、映画を見るように。
 動かない動物を見るように。
 時は過ぎた。
 面白い事に、もうすっかり日は落ち辺りは闇に包まれようとしている。
 俺はお茶を飲みに立ち上がる。
 口に含んだ麦茶はどこか色褪せて感じた。
「夕飯どうする?」
 縁に問う。
 しかし、返事はなく、優しい息しか聞こえてこない。
「縁?」
 彼女の顔を覗く。そこにあったのは可愛いとわかっている寝顔。
 どうやら、疲れて寝ているようだ。
 俺はキッチンに立ち、何事もなかったように料理を作る。
 何故だろう。
 華やかに感じた時の後は、普通の日常なのに色が無くなりつつある世界になるのだろうか?
 だが一つわかった事がある。
 色褪せた世界でも好きな人と居れば、白黒では無くなり暖色に包まれるように感じた。
 心の温かさに比例するのだろうか?
 俺にはわからない。
 そもそもこの世の中は残酷な世界。
 人さえ人を殺す。人が作った社会も複雑極まりない形をして自身の首を握っている。
 社会は人を殺す。
 縁だってそうだ。
 友達が居ないと言った。
 どうせ、イジメにでもあったのだろう。
 彼女は中学生。そこは所詮ガキの集まりだ。
 彼女の足を病気だなんだと難癖を付けて寄って集ってイジメていたのだろう。
 体のアザがそう告げていると思う。
 見て見ぬふりをした。彼女も触れてはならないと言った。
 そして。
 まだ夏休みに入って一週間も経っていない。
 それは何を意味するのか。
 彼女の記憶に未だに色濃く残っている記憶。
 それが彼女自身を苦しめているのだろうと。
 俺には何ができる?
 縁を愛すだけで良いのだろうか?
 彼女は俺の事を好きだと言った。
 そして俺も同じ気持ちを抱いている。
 良いのだろうか?
 このままの不安定な関係で居続ければいずれは別れる。
 早めに一緒になるか、またはその対か。
 そうしなければ、彼女、縁は糸が切れた時、闇に落ちる。
 一緒に居たいのは事実。しかし、あまりにも荷が重いのも事実。
 俺はどうしたら?
「ゆーくん?」
 起きた縁が声を上げる。
「何? 縁?」
「ゆーくんと別れる夢をみちゃってさ。私悲しくて悲しくてこれが夢で本当によかったと思っている」
 どうやら、選択肢は一つのようだ。
「大丈夫。ずっと一緒にいるから」
 夕飯を食べ終わりソファーで横になっていると縁が近寄ってきて笑顔になった。
「ゆーくん体の上に乗っていい? 失礼しますよー」
 と体の上に乗ってきた。
 まるで、き、なんでもない。
 まぁ察しの良い方は察してくれ。
 そして、縁は俺の胸に飛び込んできた。
 なんと言うか顔が近い。
 俺は恥ずかしくなりそっぽを向くと、縁は頬を膨らませた。
「こっち見てよ。と言うか私だけを見てよ」
 そう、俺の顔を掴んで向きを修正する。
 その後、顔を近づけて頬同士を擦り付け始めた。
 キス以上の急接近で心臓が破裂しそうになるが、そんな事をお構いなしに、楽しそうに擦り付けている。
 耳に違和感。
 待て。舐めれている。
「おいちょっと縁。舐めるのはちょっと」
「じゃぁ食べちゃう」
 耳たぶを甘噛みした。
 なんと言うかそうと言うか。
 うん。
 抵抗する術がない。
 実際にはあるのだがあまりしたくない。
 そんなお返しとして、頭を撫でてやる。
 お? 舌の動きが止まったぞ? これは効いているのか?
 わしゃわしゃと、頭を撫でる。
「幸せーっ」
 小声で耳元で言った。
 吐息がかかってゾクゾクするが、そんな事を知らない縁は息を荒くする。
「ギュッてしてぇー」
 と弱々しい声。
 背中に手を回し赤ん坊のように背中をトントンする。
 さすったり、撫でたりして彼女を落ち着かせる。
 手に伝わる縁の鼓動はおさまる事を知らずに、ずっと速く強くリズムを刻んでいる。
 突如として耳から口を離した縁は俺の唇を瞬時に奪い取った。
 俺の体を撫でまわし、唇さえもその領土に加えるように激しく交わす。
「お風呂入りたいんだけど」
 と、唇が離れた瞬間に言う。
 だが縁はそれを無視して接吻を繰り返す。
 と思ったが服を脱ぎ始めていた。
 声を出すことも出来ずにただ彼女の脱ぐ姿を目で見ていた。
「お風呂入ろ?」
 そう言って体から離れた。
「後、ゆーくんの体の所有権は私だから勝手に自己発電しないでね」
 この時、俺は気付いて居なかった。毎晩、睡眠薬を飲まされて深夜に好き勝手されている事を。
 それはまた別の話だが。
 全裸の縁を抱き上げて俺は風呂に向かった。
 服は洗濯機に入れ縁を浴室で下ろす。
「ゆーくん一緒に入ろ? 雇い主の背中を流すことも仕事のうちだと思うんだけどなーって扉閉めないで!」
 ゆっくり閉めたが気づかれた。
 だが、仕事と言われてしまえば仕方ない。
 仕方ない。
 日本には混浴と言う物も存在する。ならこれも正当な仕事と言えるはず。俺はロリコンじゃない! でも否定できないか。
 まぁロリコンだろうがなんて気にしない。これは仕事。
 はい。仕事。
 超えてしまいたくない一線だったが仕方ない。
 じゃぁな、俺の一線。元気でよ。
 と閉めた扉を再び開けた。
 だが、そこは秘境だった。
 秘境はなんだか凄かった。
 鮮明には言及しないが、まぁうん。背中を流したり、胸も洗えって言われたりした。
 なんと言うか、うん、柔らかかったとだけ伝えておこう。
 これ以上言うと俺が変態確定してしまうので、言わないでおく。
 と言うか、一線どころか二線超えてしまったような気がする。
 まあどうで良いとしてだ。
 今は、布団の上にいる。
 なんと言うか、縁がべったりくっついて寝てしまっている。
 それに何かが変だ。
 昨日までは直ぐに寝ることが出来たが今回はそうとはならなかった。
 まぁ良い。とにかく寝る努力をしよう。
 そうだな。うん。
 と思ったその時、縁に動きがあった。
 縁の手は俺の息子を撫でるようにして動いている。
 息が荒い縁は、俺の胸に飛び込んできて、何やらモゾモゾ動いている。
 たまに身震いを起こして声を上げていた。
 最近、目覚めが良い理由がわかった気がした。
 以上。
 これも明確には言及しないでおく。
 縁も女の子だしこれを誰かに話したらお嫁にいけなくなってしまうかもしれない。
 うん。一つ言うのであれば凄かった。行為まではしなかったが凄かったなと思う。
 女の子、怖ー。
 ある意味、トラウマを植え付けられた。俺は次の日大変な事になる事を悟らなかった。
 なんと言うかそうと言うか。
 朝起きた、ある意味、最悪の目覚めだ。
 体はスッキリしているが、気持ちがどんよりしている。
「縁、起きろよー」
 と体をさする。
 触れた時すぐに異常が分かった。
 縁が震えている。
「ゆーくん寒い」
 弱々しい声を上げた。
 温度計を見るとそこには二十二の文字。
 寒いはずがないが、縁は毛布に包まりブルブルと震えている。
 俺は急いで体温計を持ってきて、彼女の体温を測る。
 その数字はとんでもない数字だった。
 三十九度。
 いや、四十度近い熱がある。
 これはおかしい。
「縁、何か寒い以外に症状はあるか?!」
「そんなの無いよーっ」
 症状なし。それなのに高熱。
 おかしい。
 まぁいい。いや良くない。
 どうしたものか、とにかく粥でも作って食べさせるか。
「縁。食欲はあるか?」
「うん」
「お粥作ってくるから待っててね」
 と部屋を後にする。
 なんと言うか、焦っている自分がいる。
 不自然な焦りだ。彼女の事だもしもの時は救急車を呼ぼう。
 そして、粥を作った。
 だが、縁の病状は急変していた。
 今度は暑いと言い始めたのだ。
「ゆーくん、頭ぼーっとする。冷たいもの食べたい」
 そして、不自然な事に手足が異常に温かい。
 俺はこんな病状な人と出会した事は無論、一度もない。
 そしてどうして良いのかもわからない。
 とりあえず、姉に電話しよう。そして助けてもらおう。
「もしもし、姉ちゃん。縁が大変なんだ! 朝から高熱を出して、最初は寒いって言ってて今は逆に暑いって言ってるんだけど。何か分かる?」
「高熱で暑いか。手足って温かい?」
「そうだね、温かい」
「それって、熱中症じゃないの? とりあえず部屋の中を冷やして、お茶でもスポドリでも飲ませたら?」
「熱中症? そうか分かった。はい、ありがとう」
 と電話を切る。
 そして、クーラーの設定温度を最低にして、俺はコンビニまで走った。
 スポドリを買って急いで帰る。
 帰った頃には縁は寝ていた。
 俺は凍えそうな部屋から出て、自分の朝食を作る。
 なんと言うか、久しぶりに食べる一人飯は寂しく感じた。
 この前までは、一人飯だけだったのに。
 そんなことを思いつつ食事を口に運ぶ。
 食べ終わった食器すらも片付けずに、縁の部屋に向かう。
 変わらず、縁は寝ていた。
 しかし、置いておいたスポドリは半分近く無くなっていた。
 縁は吐息を吐いて寝ている。
 俺は心配で心配で縁の側から離れなかった。
 だが、いつの間にか寝てしまっていた。
「ゆーくん。ゆーくん」
 そんな声で目が覚める。
「縁、大丈夫か?」
「もう大丈夫、熱も下がったみたいだし」
「良かった!」
 と縁に抱きつく。
「ゆーくん、私ね、夢を見たんだ。ゆーくんと一緒に結婚式をする夢、本当にできたら良いなーなんてね」
 そんな夢を語られたら本当にしてあげたくなるだろ。
「じゃぁ、本当にしよっか」
 なんと言うか、余計な事を言った気がした。
「本当やったー! ずっと一緒にいようね」
「だね」
 と会話を交わす。
「なんかお腹空いちゃった夕飯は何?」
「縁が好きなもの作ってあげるよ。何がいい?」
「うーん。そうめん! そうめんが食べたい!」
 ある程度、この家に何かあるか把握しているが、そうめんはなかった気がする。
「そうめんか。なかった気がするから買ってくるね」
「待って! 私も行きたい」
「まだ、熱も残っているだろ? 寝た方がいいんじゃないか?」
「確かにそうだけど。でもゆーくんと一緒に居たい」
 結局一緒にスーパーに行く事になった。
 縁の車椅子を押しながら歩く道は通常では使わない筋肉を使うためかとんでもなく疲れる。
 しかし、縁のためなら頑張れるようになってきた。
 なんでかわからないが、周りの目線が冷たいように感じる。
 そして、ある事を思い出す。
 これって、デートじゃね?
 でも、これは仕事。仕事。
 と言うか、前回のショッピングセンターのデートは仕事と割り切っていたが今回のデートは初回になる。それの行き先がスーパーってダサくないか?
 でもでも、これは仕事。
 でもでもでも、これは側からみればデートだって。
 一体どっちなんだ?
「ゆーくんとデートだぁ」
 と呟く縁。
 結論。デート。
 仕方ない。今回の料金は俺が払う事にしよう。
 うん。
 それに懐が寒くなるな。多分。
「デートって、一様、買い出しですけどね」
 と前提の目的を言っておく。
「えぇーでもショッピングモールと売ってるものが違うだけじゃん」
 それを言われたら元も子もない。
「たったしかに」
 でも、そのスーパーは、二階が服屋や雑貨屋などが入っているフロアだ。盛って言えばショッピングモールとさほど変わらない。
 だとすれば、まずは二階に行くか。
「あれ? ゆーくん二階には用はないはずだよ?」
「久しぶりに行ってみたくなってね。付き合ってくれる?」
「うん!」
 そして、二階行きのエレベーターに乗った。
 二階では、服や本、雑貨を見て回った。
 縁が欲しいと言っている服を買ったり、雑貨屋で不思議な物を見たりした。
 縁は、心底楽しそうに笑って、俺に接してくれた。
「ゆーくん見てこれ!」
 とペアになっているお茶碗を差し出してきた。
「可愛くない?」
 とても申し訳なさそうに首を傾げて言う縁の手からそれを受け取る。
 カップルが使いそうな物を手に取った事は、今までに無かったがこんな気持ちになるんだな。
 青色と桃色の茶碗は、チンアナゴが描かれており、二つの絵柄を組み合わせるとハートの形になる仕掛けがあった。
 ピンク色の茶碗には、デフォルメされた熱帯魚が描かれており、逆に青色の茶碗には深海魚が描かれていた。
「確かに可愛いな」
「二人で使お?」
 食い気味に、恐る恐る、それに恥ずかしそうに言った。
 顔が真っ赤な縁。俺と目線を合わせないようにそっぽを向いている。
「そうしようか」
 俺は笑顔で答える。
「バカ、渡した時に気づいてよ。恥ずかしい」
 いや、そんな事恥ずかしがるならもっと別の事を恥ずかしがれよ。
 苦笑する俺。
 そして、会計を済ませて一階に戻る。
 そうめんと必要な物を買い店を出た。
 なんと言うか。楽しかった。
 家に帰る頃には、もうすっかり暗くなっていた。
 二人とも手洗いうがいした後、縁をソファーに座らせた後、そうめんを茹がきにキッチンに移動した。
 縁は呑気にテレビを見ている。
 一方、俺はせっせこ麺を茹がくている。
 そうめんと言う物は意外に早く茹で上がる。
 あっという間に出来上がった。
 切ったネギをつゆの中に入れ、そうめんは、ガラス製のおおきな皿にいれ氷と一緒に盛り付けて終わり。
 とても簡単だ。
 食卓にそれらを乗せ、縁に声をかける。
「できたぞー!」
「はーい。連れてって」
 と返ってきた。
 縁を迎えにいき、食卓に座らせる。
 そして食事を始めた。
 色々あった食事が終わった。
 普通ならこれからお風呂に入るのだが今日はドタバタして、お風呂が洗えていない。
 縁は離れたくないと言って俺を離してくれない。
 そのくせ早く寝よ! などと寝る事をせかしてくる。
 おそらくあれだ、明日の朝、今日買ったお茶碗が使いたいのだろう。
 残念だが明日の朝飯はパンだと勝手に決めている。
 たまには俺の好きなものぐらい食べさせてもらっても良いはずだ。
 そんな訳で、今はソファーの上に寝転がって縁にくっつかれているのでした。
 流石にため息も吐きたくなる。
 何がって、縁が可愛くて仕方ない。
 あまり気にしていなかったが、ここに来てからと言うもの、心拍数が下がらずに困っている。
 そろそろ心臓を休ませてあげないと。あ、政治は関係ないですよ。あの人は一般人に戻ったので。十分に休んでいると思いますよ。
 と言うわけだ。
 どう言うわけだ!?
 ごめん。テンションがおかしい。
 だって、さっきの夕飯だって、急に縁があーんって言って口をつけた箸で食べさせてこようとするんですよ。
 間接キスですよ。萌えますね。
 可愛いです。
 そして何かと言いますと、その表情に一切の悪意がないのですよ。断ろうともできない笑顔です。
 俺はそれを受け入れましたよ。
 でも心臓さんはとんでもなく動いている訳です。
 もう痛いったらありゃしない。
 ちょっと休みたいが、この家にいる以上はドキドキしっぱなしなんです。
「縁、ごめん。風呂洗ってくるから離してくれないですか?」
「あ、ごめんゆーくん」
 と謝る縁。
 あー可愛い。
 どうせ今日も一緒に入るんだろうな俺。
 俺が、ソファーから立ち上がったと同時に、ケータイが鳴った。
 どうやら電話らしい。誰に繋がるとも知らずに電話に出てみる。
「優くん? 久しぶりー!」
 懐かしい声。
「柚子か? お、久しぶりやな。でどうしたの?」
「それがね、貴方のバイト手伝おうと思って」
「は? ちょっと待って」
 目を丸くしている縁に訊いてみる。
「このバイトって手伝いとかってありなんですか?」
「ゆーくんが居れば私はなんでもいいよー」
「もしもし。いいらしい」
「それは良かった。じゃぁ明日、葵さんに聞いてそっちに行くねー」
「おう」
 女先輩の柚子が来るらしい。
 電話を切る。
「明日から柚子って子が手伝いに来るから」
「はいよー」
 そう言い残して俺は浴室に向かった。
 風呂洗い完了。
「ゆーくん、お風呂溜まったら一緒に入ろうねー!」
 ニコニコ笑顔で抱きついてくる縁。
 柚子先輩が来たらこの状況どう思うのかな。まぁ多分大丈夫だろう。
 そう甘く考えていた。
 次の日。
「柚子ちゃんが来ましたーってなんでそんなに冷たい目で見るのさ!」
「俺の姉ちゃんじゃないんだからさ。そんな登場いらない」
「葵姉もそうやって登場するの? やったね!」
「やったねじゃない!まぁ良いけど入って」
 と家の中に誘導するが完全に柚子の顔には悪巧みをしていると書いてある。
 大丈夫か。本当に。
 一様、俺の中では縁を除いて一番と言って良いほど信頼を置いている人間だ。おそらくは大丈夫だろう。
 しかし。
「縁ちゃんだー!」
 リビングに入った瞬間、縁に飛び付いた。
「大ファンなんです! よかったら握手してください!」
 と圧力をかける。
 だが縁も元子役、そんな圧には屈せず丁寧なファン対応をしていた。
「ゆーくん。この人が柚子さん?」
「そうだけど」
「やっぱり良い人そう!」
 まだ確定ではないんだ。
「へぇアンタゆーくんって呼ばれてるんだ。私もそうやって呼んでいい?」
「勝手にしてください」
 生返事をする。
「何その態度。でもそんな所が好き」
 ん?
「優くん、私と付き合って欲しいの」
 んんんんんんん??????
 人間関係が複雑になりそうだ。
「ごめん、前の言葉取り消します。柚子さん悪い人」
「縁ちゃんそんな事言わないでって、優くんはどうなの?」
「え? 俺は、縁と付き合っているから断る」
 ハッキリ言う。
「そんなのつまんない。じゃぁこうしよう。このバイトの契約期間中にどちらと付き合いたいかを考えて、バイトが終わったらどちらかと付き合う。ってのはどう?」
「勝手にしてすればいいと思う。ねぇーゆーくん? 絶対私だよね? こんなクソ女は絶縁しようよ」
 怖い笑顔を向けられる。
「待て待て、柚子は何故今頃になってそうなった?」
「前から好きだったんだけど怪しいバイト始めたって聞いてもしかしてっと思って手伝いに来た」
 んん?
「確かに怪しいと言えば怪しい」
 心の声が出てしまった。
「あれれー? 柚子さんのフォローするんだ。ゆーくん?」
「ごめんごめん。でも、バイト代は払ってくれるよな?」
 縁の顔が歪む。
 え?
「ほら見てあの顔。払う気全くないじゃん! そんな嘘っぱちな女の子より信用の出来る私の方がいいでしょ?」
「払うもん! 絶対払うもん!」
 しかし俺は柚子なんかより縁の方に想いがある。
「柚子も言い過ぎだって! ごめんな。縁怖い思いをして」
 縁を抱き上げて頭を撫でる。
「ゆーくん! 好きぃ」
 と耳元で囁く縁。
 泣きそうな声だった。
「私も優くんにくっつくもん!」
 縁を抱いている腕に胸を押し付けてくる。
 俺はどうすれば。
「ほら、私の方が胸だって大きいし、いいでしょ?」
「私だってこれから成長するもん!」
 などと言い争う縁と柚子。
 まぁうん。俺はどうしてらいいのだろうか?
 お昼でも作るか。
 と、なんとなく縁を抱いたままキッチンに向かう。
 キッチンの椅子に縁を座らせ、俺は冷蔵庫から冷やご飯を取り出し、チキンライスを作る。
 チキンライスと言いつつまぁオムライスなんですが。
 盛り付けて完成。 
 ちゃんと三人分を作り食卓に乗せた。
 縁を移動させて、ケチャップを渡す。
 そして、俺の分のオムライスを渡した。
 そうこれは、オムライスイベント。今回は俺のターン!
「ゆーくんこれ、少し多くない?」
「あ、それは俺のだから何か書きたいでしょ? オムライスだし」
「うん! 書く!」
 そう言って小さな手で描きはじめた。
 その姿は、やはり天使に等しいぐらいに可愛い。
 それを指を咥えて見ている柚子。
「縁ちゃん。書き終わったら貸してね」
 そう言って自分の料理を見ていた。
「はい出来た!」
 と笑顔で俺の顔を見る縁。
 そこに書かれていたのは、ゆーくんずっと一緒だよ。と読める文字。
「縁、お前可愛いなー!」
 と頭を撫でる。
 そして、お返しに縁の分に好きと書く。
「優くん。私も書けたわよ」
 言いながら体を突っついてきた。
 そこに書かれていた文字は、あまりにも卑猥と言うか倫理的にアウトなのであまり視界に入れないでおこう。
 その言葉を見た縁は絶句する。
「柚子先輩。それはないわー」
 ドン引きする。
「だって、だって、本当に欲しいんだもん!」
「あーあー、柚子先輩それ以上言ってはいけません」
 ngワードを隠すように被せて言う。
「でも、縁ちゃんも欲しいよねー」
 同情を求める。
 縁、やめてくれ。これだけはやめてくれ。もし頷いたなら俺が縁を見る目が変わってしまう。
「うーん。ゆーくんのが欲しくないと言ったら嘘になるけど、今は良いかな。欲しくなったら絞るから」
 セーフ? いやアウト?
 うーん?
「はい! この話はおしまい! 二人とも冷える前に食べようぜ!」
 俺に向けて描いた言葉を食べるのは心が痛むが、仕方ない。
 その思いが込められたオムライスは涙が出るほど美味しかった。
 食事も終わり、洗い物をしている。
 その時、なんと言うか二人は何やら話し合いをしている。
 二人とも小声であまりよく聞こえない。
「ちょっと、柚子さん。ゆーくんから離れてよ」
「それはこっちの言葉だよ。こっちは何年も片思いでいたんだから」
「でも、告白は出来なかったのでしょ? ならもう諦めるしかないじゃん」
「それを言ったらおしまいだよ。所で優くんのどこが好きなの?」
「え? 優しい所と料理が美味しい所と、私思いな所」
「あ、最初の二つはわかる」
「だから、大好き!」
「ちょっと縁ちゃん声がデカい。聞こえるでしょ?」
「これは聞こえて良いような」
「所で、もうやったの?」
「やりたいけど、断られた」
「あーやっぱりか」
「やっぱり?」
「優くんね、そういうのあまり好きじゃないらしいの」
「ふーん」
「だから今夜、優くんに睡眠薬を飲ませて、どっちが相性が良いか対決しましょ?」
「私、ゆーくんの体は毎晩触っているから熟知しているけどいいの?」
「何それ羨ましい。でも私、優くんとどれだけ一緒にいると思うのよ。それぐらいの知識乗り越えてやるわ」
「おーい二人とも何話してるんだ?」
「なんでもないよ。ゆーくん」
「なんでもない。優くん」
 その時の笑顔はなんだか怖かった。
 その後の二人は何故かずっと喋っていた。
 何がそんなに面白いのだろう? と思うほど笑っていたりと、仲良くなっていたのかな?
 と思ったが、その中に俺が入ると関係は一変。
 取り合いの嵐。
 ソファーに座っただけなのに、縁は膝の上に乗っていて甘えてきた。
 一方、柚子は横に座ってきて、その大きな胸を主張してきた。
 困った事にこれではテレビが見られない。
 この時間には俺が好きな殺人事件系統の刑事ドラマがあるのに、二人の温もりと柔らかさで気が散って、全く集中できない。
 そんな事もあって夕方になってしまった。
 俺は例のごとく風呂を洗って夕飯の準備をした。
 まぁいつも通りの事をしていた訳だ。
 うん。
 柚子が居るだけであまり変わらない。と思っている。
 普通に夕飯を食べたし。
 しかし。
 なんだ、この状況?
 二人が入っている浴室から変な声が聞こえてくる。
 あまり触れてはいけないような気がして、耳を傾けずに洗い物をしている。
 だが、やはり女同士の入浴。少しは気になってしまう。
 なんと言うか、男子諸君はわかるだろう? そこはムー大陸に並ぶ未知の空間。
 そう、好奇心が心の中で暴れ回るんだ。
 どうか分かってくれ、そして許してくれ。
 俺はその声を聴きに行くぞ。
 洗い物が終わって自由の身になった俺は、コソコソと浴室に向かった。
 ゆーくんが近づいていくる事を察知できなかった私は、柚子さんと話をしていた。
「ゆーくんに話はもうやめにしよう!」
「なんでさ?」
「なんか恥ずかしい」
「そっか。ふーん」
 そんな会話を淡々を続ける。
「えい!」
 柚子に胸を揉まれた。
「ちょっと! 何するの?」
「いやぁー発育が良いなって」
「え? だって毎晩ゆーくんから大きくなる特製ドリンク貰ってるもん」
「特製ドリンク? それって?」
「秘密だよ?」
「そうだよね。知ってた」
 とう言って笑う柚子。
 それにしても、柚子さんのデカいなーと思う。
「なんで柚子さんはそんなに大きいの? 肩こらない?」
「もともと小さくは無かったんだけど縁ちゃんの歳ぐらいから成長したよ。で、肩はねー確かにこるね」
「そうなんだ」
「触って見る?」
 え? この人何を言って?
「ほれっ」
 腕に胸を押し付けてくる。
 比べ物にならない大きさの物が体に未着していると、羨ましくなる。
「ほら手で触ってみて」
「うっうん」
 掌で触る人の物は不思議な気分だった。
 ゆーくんも柚子さんのジロジロ見てたし大きい方がやっぱり好きなのかな?
 でも、ゆーくんから貰ったものは、効果が出ているからこのまま続ければ良い。だけど、薬の在庫が少なくなってきているから買いに行かなきゃ。
 そうは思っているけど薬局に行きたいと言えば怪しまれてしまうかもしれない。
 これは柚子さんにお願いするしかないのか?
「柚子さん。明日、薬局行きたい」
「そんなの、優くんに頼めば良いじゃない?」
「ちっ違うの! 作戦のためには仕方ないことなの!」
 そして、今やっている事を全て話た。
「なるほどね。睡眠薬を投与してその寝ている隙に好きなようにしていたと。縁ちゃんって結構サイコパスなんだね」
 サイコパスじゃないもん。
「だからお願い」
「ふーん。明日行こっか。寝ている間に好き勝手したいし。二人で遊ぼうよ優くんでさ」
 なんだか凄い事が話されていたんだが?
 気のせいか。と言うか、いつ俺に薬を投与しているんだ?
 ちょっと気にしておくか。
 夜。
 何と言うのでしょうか?
 シングルべットに三人は狭すぎる。
 まぁ縁だけなら良いとしよう。
 それに加えて柚子も横に居る事が問題だ。
 二人に挟まれているこの状態で、全く寝ることができない。
 両壁が柔い感触で埋め尽くされて、しかもあれだ柚子に関しては胸を押し付けて寝ている。
 あー心臓が爆発しそう。
 あーどうしたものか。
「ゆーくん?」
 話しかけてきたのは縁だった。
「寝たんじゃなかったのか?」
「いや、ゆーくんがゴソゴソしてたから起きちゃった」
「それはごめん」
「ううん。全然良いの。ところで睡眠導入剤飲む?」
 は?
「それはどう言う」
 と言いかけた時、縁がキスをしてきた。
 だが、普通のキスではなかった、確実に口の中に何かを移された。
 そしてペットボトルを渡され飲んでと言ってくる。
 何が何だかわからなくなるこの状況下で、指示されたら、行動に移してしまうではないか。
 俺は、口に移された錠剤らしき物を飲み込む。
 すると時間が経つにつれ、意識が遠のいていく。
 意識が切れる瞬間、縁が「一緒に遊ぼうね」と言った気がした。
 なんとか、薬を飲ませて眠らせる事ができた。
 いつもは眠った後、口移しで飲ませていたのだが、今日に限って強行突破してしまった。
「柚子さん。寝ましたよ」
「おう。そうか。じゃぁ遊びますか」
「そうですね」
 これから先の事は絶対にゆーくんには内緒だ。
 淫語を発して、ゆーくんに甘えるこの姿を見せてしまったら、引かれてしまうかもしれない。
 しかし。今は睡眠薬でぐっすりのゆーくん。
 起きることは、まずない。
 今日は、柚子さんと汚れよう。
 そう思った。
 朝風呂。浴室にて。
「柚子さん。遊びすぎですよ。ゆーくんぐったりしちゃったじゃないですか! 私の分も残しておいてくださいよ」
「ごめんごめん。でもあんなに楽しいんだね」
「そうですよ。何を今更」
「だってさ。好きな人を滅茶苦茶にできるのだよ? 最高じゃん」
「かといって、一人で残量を全て使うのはどうかと思います」
 二人で湯船に浸かる。
「でも縁ちゃんも、おこぼれ貰ってたじゃん」
「そ、それは仕方はない事です。だって欲しかったんだもん。キスだけじゃ満足出来ませんし」
「そうだよね。わかる。でさ、今日薬局行くんのだよね。なら、あれを買えばもっと楽しい事ができるんじゃない?」
「え? でも私はゆーくんの意識がある時にしたいんですよね」
「うーん。じゃぁ私だけ優くんを堪能しちゃおうかな」
「それはずるいです」
 そんな会話が続いた。
 すると起きてきたゆーくんが顔を洗いにきて、「二人で何やってるんだ?」と聞いてきたけど、私はこう答えた。
「女の子の秘密」
 女の子の秘密?
 おそらく男の俺が触れていけない事だろう。
 気にしないでおく。
「じゃぁ朝飯作ってくる」
「ちょっと待って。今日二人で出かけるから昼ご飯と夕飯が要らない」
「わ、わかった」
 遊びに行くのだろうか?
 まぁ女の子同士の買い物とかもしたいのだろうな。
 俺には否定権はない。
「んじゃ。作ってくる」
 と洗面所をあとにする。
 今日は何を作ろう。
 ソーセージとレタスでいっか。後、お味噌汁。
 そこまで難しくない料理を作る。
 野菜を切り煮る。そこに粉末出汁をいれ味噌を入れる。当然赤味噌。
 そんなこんなで、ソーセージを焼き終わり盛り付けた。
 出来上がったと同時に二人がリビングに到着する。
「頂きます。で二人は今日どこに行くんだ?」
「ゆーくんには秘密」
「秘密か。でも楽しんでな」
 雑談に花を咲かせながら食べる食事。
 しかも女子。
 今となっちゃ普通に思えるが異常な事だ。
 改めて嬉しい。
 しかしいつの間にか食べ終わっていた。
「行ってきまーす」
 と言って家を飛び出した私達。
 あまり人と遊んだ事がないからなのか、緊張してしまう。
「じゃぁまず薬局行こうか!」
 と笑顔で話しかける柚子。
 これでもライバルなんだがこんなに仲良くていいのだろうか? と疑問になるが多分大丈夫だろうと思っている。
 特に理由はないけど。
「今日は楽しもうね。縁ちゃん」
 と車椅子を押してくれる柚子ちゃん。
 その笑顔を見る限り、信じて良いような気がする。
「じゃぁ、今日は薬局で用を済ませて、服買ったりスイーツ食べたりしよう!」
 私は拳を天にかざして、元気に宣言した。
 まずの第一の行先、ドラックストア。
 例の物を買って、それのついでに柚子さんが言っていた物をそこそこ購入する。
 これを使う時を反射的に想像してしまったが、その風景は悪くないと思ってしまった。
 使い方を、柚子さんと話しながらレジにむかった時の周りの目がなんだか冷たく感じたが気にしない。だってゆーくんと触れ合えるならそれで満足。
 この体がめちゃめちゃになってもゆーくんが満たされたならそれで私は幸せだと思っている。
「じゃぁ服を買いに行こうか」
 と、連れて行かれたのは良い感じの服屋。
 唯一無二と書いてある服が沢山置いてあって、店の奥からはミシンの音が絶えず聞こえてくる。
「ここの服って全部ここで作っているんだよ」
「へぇ凄いですね」
「縁ちゃん。これなんかどう?」
 そう言って渡してきたのは、ゴスロリと言うべき服だった。
「着てみて、絶対可愛い」
 黒いヒラヒラの中に赤いリボンが流れ出るようなデザインのワンピースで至るところが透けて少しえっちだ。
「着替える? じゃぁあそこに試着室あるから」
 そう言って誘導された。
「なんで入ってくるの?」
 何故か、柚子さんと試着室の中にいる。
「だって、手伝ってあげようかなって。はいバンザーイ」
 そう言って、今着ている服を脱がされる。
 そして着せられた。
「あら可愛い。写真撮るよ」
 気づけばフラッシュが光っていた。
「優くんに送信っと。お? 返信返ってきた。可愛いだって」
 ゆーくんが可愛いだって?
「柚子さん、この服欲しい」
「そうこなくっちゃ」
 そう言って会計する。
「今回は私が払うね」
 ウインクする柚子。
「いやいや、私が払いまよ」
 結局、買ってもらってしまった。
「縁ちゃんお昼どうします?」
 店から出ると、柚子さんが訊いてきた。
 時刻は十一時頃だろうか。移動を考えるとそろそろ移動してもいいと思ったのだろう。
「うーん。ハンバーガーが食べたいですね」
 素直に食べたい物を言う。
「じゃぁ行くか!」
 そう言って駆け出す柚子さん。
 そして、ハンバーガーショップに着いた頃にはもう十二時を過ぎていた。
 私は、チーズバーガーセットを頼んで、柚子さんは何やら大きそうなギガバーガーとやらを頼んでいた。しかもLセットを。
 ハンバーガーを頬張りながら、これからどうするのかを決めていく。
「どうする? アクセサリーでも買いに行く?」
「良いですね。いちいちゆーくんに訊いてみて、ゆーくん好みになりたいです」
「縁ちゃんって、それにしか目がないよね」
 呆れ顔で言う柚子さん。
 こういった、目的の決まっていないぶらぶらした買い物は結構好きだなと感じながら、そういった店に行った。
 雑貨屋と言うべきか、そんな店に入りガラス細工のアクセを見て回る。
 私の目に止まったのは緑色のネックレス。
 親指サイズの雫形のそれは、中に白い羽が埋め込まれていた。
「え? めっちゃ似合ってる、可愛いじゃん」
 それを試着して、柚子さんに見せた。
「先ほど買った服にも似合いそう!」
 そうとも言ってくれた。
 正直嬉しかった。
 何かがある度に否定する両親と違って温かみを感じた。
 イヤリングと髪につけるリボンと言った物を買って家に帰ろうとしていた。
 だけど時間はまだ五時を過ぎた頃。
 帰ると伝えた時間よりかなり早い。
「どうする? 柚子さん」
「とりあえず、スーパー行こうか」
「はい」
 適当な食材を買って家に帰った。
 あれ? かなり早いな。
「おかえりー」
 そう言って、縁達を出迎えた。
 二人の手には大きな袋。
「ゆーくん今から着替えるから待っててね」
 そう言って柚子に背負われてる縁は、脱衣所に消えていった。
 しばらくして、縁が出てきた。
 その姿は堕天したクリスマスと言うべきか。
 黒を基調として、その中に散りばめられた赤と緑。
 胸の前で結ばれた赤いリボン。そして髪に二つ、小さいながらも同様な物付いていた。
 イヤリングと言うんだっけな。耳には緑色の十字架を象った宝石らしき物。そして、羽を飲み込んだネックレス。
 そんな可愛い事があって良いのかと思うほどに似合っている。
「どう?」
 恐る恐る訪ねてくる縁。
「可愛いよ」
 俺は答える。
 俺好みに仕上がったものだ。
 何も指示せずに俺染まっていく縁を見ると何故か怖くなる。
「二人とも恥ずかしそうだね! 今夜は私の手料理だよ。いっぱい食べてね!」
 空気を読まない柚子が間に入ってきた。
「お二人さんは、縁ちゃんの部屋にでも行って二人っきりになったら?」
 柚子のくせには気が効く事を言う。
「ん。じゃあ行こっか縁」
「いってらっしゃい」と言わんばかりに手を振る柚子。
 あいつ何考えいるんだ? だって俺を奪おうとしてこの家にやって来たのに、何だあの態度。
 まぁ別に良いのだが、というかこの態度が望ましい。
 俺は縁を彼女自身の自室に移動させベットに寝かせる。
「ゆーくん」
 甘ったるい声で寝転がった俺に触れてくる縁。
 魔女のような雰囲気を纏う少女に触れえらると、いつも以上に心臓に負荷がかかる。
 つまり可愛いと言う事だ。
 そんな可愛いらしいトロンとした表情が顔に近付いてくる。
 唇同士が触れる。
 舌同士が触れる。ざらざらした表側と柔らかい裏側が交互に下に触れる。
 芯のあるグミのような感触のそれは、舐め回すと言うか舌をコネ回した。
 気が付けば縁は俺に馬乗りになっていた。
 唇の圧が高くなって動こうにも動けない。
 完全に相手のペースに飲み込まれて激しさを増していく。
 たまに息継ぎのためか唇を離すのだが、その時の縁の息と言うものは、走った後かと言わんばかりに荒く熱っぽい。
 だが、そんな息の中また唇を合わせる。
 縁は俺の頬に手を添えて離さないように手を力ませた。
 甘ったるい匂い。甘ったるい景色。甘ったるい音。
 それを際立たせる粘液音。
 なんと言うか生きていてよかったと思う。
 俺の居場所はここだなと思った。
「ゆーくん大好き」
 そう言って唇を重ねる。
 夜な夜な勝手にしていた、キスとは違って相手も舌を動かしてくれる。
 ゆーくんの唾液を飲んで胸を大きくしなきゃ。その一心で舐めて啜る。
 ゆーくんゆーくんゆーくん。
 大好き大好き大好き。
 頭の中にあるのはその言葉。
 ゆーくんは私を求めるように舌を動かす。
 ゆーくんは抵抗せずに私の胸の中にいる。
 ゆーくんは。ゆーくんは。
 彼の事しか考えられない。
 何故なら彼は私を愛してくれるから。
 学校とは違って冷たい目で見られるような場所じゃない。学校とは違って私をいじめる人もいない。学校とは違って私を否定する人もいない。
 私の居場所はここにある。
 あぁ。愛おしい。
 そんな彼が愛おしい。
 この時間がずっと続けばいいのに。
 そう思った。
 否、時間は進む。
 無慈悲に、それも残酷に。
 時間なんて早く進めば良いと思っていた。いじめの時間が長く感じるし、冷たく反応された時も短く感じる。
 だけど今は違う。
 ゆーくんならずっといて欲しい。
 あの時を思い出さぬように。
 あれは何年前だっけ? いや数ヶ月前ぐらいの事。
 私はまだ現役の子役である撮影のために工場に来ていた。
 スタッフさんも安全な事は確認済みとニヤけて言った。
 いや、彼らは知っていた。ここの場所にあの液体が不法投棄されいる事を。
 撮影が始まって数十分。撮影中に天井が落ちて来てあの液体が雨のように降って来た。
 言い表せないような痛みと同時に足は黒焦げになった。
 親切なスタッフさんはすぐに救急車を呼んでくれたがあのスタッフ共は何もしなかった。
 芸能界でもいじめられていた。
「少し可愛いからって調子に乗るな!」
 と言われた。
 悲しかった。
 自分人気になる度にいじめられる。
 悲しかった。
 そして強い腐食性を持つ液体をかけられた私の足は、切り落とされることになった。
「おっと、何か面白そうな事してますね。ね? 縁ちゃん」
 意識を遮ったのは柚子の声だった。
 柚子は扉を開けて顔を覗かせていた。
 その形相は、鬼そのもの。
「待て、これは俺からやった。だから縁には手を出すな!」
 そう言ってくれるゆーくん。
 よく見ると、柚子は包丁を持っているように見えた。
「まっ良いです。ですがこれからは私も混てくださいね。今回は許します。お姉さんですから」
 そんなやりとりをしている間でもゆーくんは私の腰に回した手は離さなかった。
 嬉しい。
 その一言に尽きる。
 そして、外は雨が降っていた。
 私たちを守るように降り注ぐ雨は片時雨。
 表すのは、私の心だ。
 この雰囲気も悪くないと感じる。
 柚子さんがいて、私からゆーくんを奪おうとする。だけど、彼は私を選んでいる。
 そう思いたい。
 そもそも、私なんかに幸せが来て良いのだろうか?
 何も面白くない日常を何も感じずに過ごす。
 そんな日々じゃなかったのか?
 おばあちゃん。会いたい。
 今とは別の幸せは、いつの間にか、記憶から消えかけていた。
「このシチュー美味いな」
「そうでしょう? 私特製、惚れ薬シチュー」
「ちょ、お前なにシチューに入れているんだ。全部食べちまったじゃないか」
「今夜は楽しみましょ!」
「楽しみましょ! じゃない。どうするんだよ」
「まっ入ってないんですけど」
 そんな声も遠くに聞こえる。
「縁も食べな。柚子のくせに美味しいぞ」
 シチューの乗ったスプーンが近づけられる。
 私は、子供のように食べさせてもらう。
「ずるい! 私もあーんして」
「いやだ」
「なんで!?」
「縁ちゃん。何笑っているの?」
 気づけば笑っていた。
 誰もが幸せ者になれる、そんなこの世の中を私は受け入れた。
 そして、食事も終わり、三人での入浴。
 ゆーくんはまだ、頭を洗っている。
 私と柚子さんは湯船に浸かりその様子を眺めていた。
「流石にこのお風呂も三人はキツくない?」
「シングルベットサイズで三人が寝るの方が狭いだろ」
「それはそうだけど」
「それは良いけど、ゆーくん入ってきて」
 そう言ったの縁だった。
 俺は一度縁を持ち上げて、その出来た隙間に身を入れた。そして、自分の上に縁を乗せる。
 この生活にも慣れたものだ。
 今となっては普通に女の子とお風呂に入っている。
 後ろには柚子があるが、今日は何もしてこない。
 まぁそれで良いのだが。
 縁は、相変わらず俺にべったりくっついてくる。
 小さい体を一生懸命擦り付けて満足そうに笑った。
 やばい可愛い。
 いつも可愛いと思っているが、何やら今日の縁が心から笑っている気がする。
 そんな可愛い縁が好きだ。
「いつの間にか好きになっちゃったんだよな縁の事」
 水に反射する縁の顔は笑っていた。
 濡れている頭を撫でて過去の事を忘れようとする。
 家に帰りたくない。
 まぁ暗い話はここまでにしておこう。
 まだ数十日あるこのバイトを、この生活を楽しもうじゃないか。
 縁、お前からは絶対に離れないぞ!
 そうこの世の中を作った神に誓った。
「ゆーくん?」
「ううん。なんでもない」
 縁は笑う。俺は笑う。
 何事もない日々それはこれ以上ない幸せだ。
 これは身に染みている理解している事だ。
 しかし、事は翌日起こる。
「ただいまー!!」
 そう言って、朝食中に入ってきたのは顔見知りでもない人。
 それを見た縁は凍えるように震え出す。
「ゆかたん、ただいま」
 男女の二人組。
 年齢的に俺だったら両親に当たる。そんな人たち。
「パパ。ママ。どうして居るの?」
 今まで聞いた事が無い声だった。
 震え、怯え、拒絶した声。
「次に行く国の中継地だったのよ! そしたら一日、暇になっちゃってね。帰ってきたの」
「面白くない冗談だ。縁。お前に婿をやろう」
 父親らしき、人間が言った。
「これから行く国の王子がな。お前の写真を見た瞬間、四番目の妻に迎え入れたいと言ってな。一二三とお前と同じ年頃の少女集まっている。きっと今までみたいに寂しくないぞ? これを伝えにきた」
 王子の妻?
 理解が追いつかず、眺める事しか出来なかった。
「あなた達は、縁が雇ったお手伝いさんね。今の話聞いてわかっただろうけど。彼女、日本に住まなくなるから。すみません解雇でいいかしら? 縁が設定していた給料の五倍を払うから、それでいい? いいね? はい給料」
 そう言って渡された少し重たい封筒。
 困惑しているのは、柚子も一緒だった。
 柚子も同様の封筒を渡されポカンとしている。
「じゃぁ縁。行こっか」
 手を差し伸べるのは、俺ではない縁の父だ。
「いやだ」
 縁は言った。
「おっと。それは困ったな。じゃぁ欲しい物なんだって買ってやるから」
 縁の手を掴み、椅子からずり下ろした。
「おっと。乱暴にしすぎたかな?」
 こいつら、縁の事を人間として見てない。
 気付けば、俺は縁を抱きしめていた。
「待ってください」
 目を丸くする人間。
「君、どいてくれないか?」
 顔面に衝撃が走る。打たれたのだ。
「いやだ。縁は俺と結婚するんだ!」
「君。君みたいな、一般人、下等生物が縁の名を呼ぶな! 何様のつもりだ。縁と結婚? 面白くないジョークだ。笑わせてくれる。だが笑うのはお前だ」
 鳩尾に勢いよく足の先端がめり込む。
 反射的に、猛烈な痛みと息苦しさを覚える。
 息を吸ったのに反射的に吐き出される。声を出す所じゃない。
 そんな事は知っている。
「ゆ、縁を、離、せ」
「まだ言うか。面白い」
 再び衝撃。腕が飛んでいくと思うほどの力。
「やめてください!」
 叫んだ柚子。
「そんな乱暴していいと思っているのですか? 下等生物? よっぽど人に手を出す方が酷いと思います!」
「柚子、やめ、て、おけ」
 必死な思いで、叫ぶ。
「ほう。お嬢ちゃんもう一回言ってみろ」
 暴力の横行する世界とはこの事か。
 柚子は、突き飛ばされ壁にぶつかる。
 重い音と共に、彼女の身につけていた金属製品が、床に転がる。
 何も面白い事は無い。
 だが、人間は面白そうに高笑いする。
「何も、歯向かう事はなかろうに。面白い」
 恐怖に腰が抜けた縁は、言葉も抵抗も出来ていない。ただ震えているだけだ。
「縁!」
 必死に彼女に手を伸ばす。
 触れる。
 そんな事を知らない人間はのばした手を蹴り飛ばす。
「気安く触れるな。王家の妻になる人間だぞ!」
 蹴り飛ばされた手は机の足にぶつかり聞くからに痛そうな音を出した。
「パパやめてよ。お願いだからやめてよ」
「ゆぅかぁりぃ」
 必死に彼女の名前を呼ぶ。
「これ以上やったら警察呼ぶよ!」
 縁の本気だ。
 これほどの、必死になった縁の姿は初めて見た。
「ごめんよ。ゆーくん酷い事されちゃったね」
 と伸ばしたはずの手に触れた。
「パパママ出てって。私は王子のお嫁なんて行かない。このゆーくん。大坪優と結婚するの!」
「縁、それで良い訳ないだろ! こんなやつと結婚する? 笑えない冗談よしてくれって言ってるだろ! 人生のうちにこれ程のチャンスが何度あると思う? ゼロに等しいんだ! それをお前は捨てようとしているのだぞ!お願いだからわかってくれ」
「捨てる。私は人の作ったレールをただ走る玩具じゃない! やめて! 出てって! 出てってよ!」
 必死に抵抗する縁。
 それをただひたすらに見ている女の人間。
 抵抗している縁を取り押さえようとする人間。
 全てが混沌としているこの空間。
 俺は、痛みを味わいながら、縁に触れる。
 跳ね飛ばされても何度も何度も何度も。
「何やっているのですかね? 言いましたよね弟くんに手を出したら容赦しないって。あと家の鍵をかけないのは不用心ですよ!」
 そんな時、現れたのは姉の姿。
 人間に一発蹴りを入れ再度俺の顔を見てくる。
「やぁ、弟くん。災難だったね。大丈夫、私が居るから。でそちらのお二人様? なんのつもりですか?」
「お前は誰だ!」
 人間が問う。
「大坪葵。イラストレーターさ!」
 それを聞くに驚いて土下座を始める縁の両親。
 え?
「弟くん。隠しててごめんね! その縁ちゃんを妻にしたいって王子、私のお得意様なんだ!」
「は?」
「でこの二人は、私の絵を売りつける商人さ。私も絵師の間ではそこそこ名が知れた者ってもんよ。でだ。その二人が私の弟くんを楽しそうに調理していた訳なんだが、どういう事かな? 残念だなーせっかく信用していたのに。そんなことしたらクビだよ」
「葵様申し訳ありません! 知らなかったのです!」
 男が飼い犬のように言う。
「ははーん。知らなかったから殴った。変な話だね。知っていたら殴らなかった。って事でしょ? そんな人様の体を殴ったって自分に害が無いと分かったら殴る。傷つける。酷い話だね」
「申し訳ありません!」
「ま、とにかくそろそろ警察が来る。暴力罪で裁かれると良いよ。ね? 元、商人さん?」
「ひぃ!」
 金持ちだと言わんばかりの服装をした二人が鼻水を垂らしながら泣き、土下座している姿を見ると不思議な気分だった。
「もう大丈夫そう?」
 と言って起き上がったのは柚子。
 そして彼女は「気絶したふりしててよかった」と話した。
 その後、警察が来て二人は連行された。
 面白そうに笑って見ている姉は、やり切った顔をしていた。
「あの二人、私が指定した金額よりも少し上乗せした金額で私の絵を販売していたのだよ。私が給料を払っているって言うのにね。そして上乗せした分を自分の利益にしていた訳だよ。で、それに加えて自分の娘を嫁に行かせる事で、そのおこぼれを貰おうとしてたんだ。だからいつか仕返しをしてやりたかったんだ」
 そう姉はパトカーのライトに照らされて言った。
 そして、俺に抱かれている縁に向かって。
「縁ちゃん。王子には私から言っておくよ。行きたくないってね。あの子も私に頭が上がらないんだ。彼、私の絵じゃないと一人で出来ないらしいんだ」
 聞かなかった事にしておこう。
 まぁ、とりあえず事は終わった。
 だと思っていた。
「私もここで暮らそうかなーって思って。縁ちゃん良いかな?」
 縁は頷く。
「葵さんだったら良い。これからも守ってくれそう」
 と言って笑う。
「じゃぁ、明日準備して仕事道具を持ってくるよ。では、今日はここで」
 と去っていく姉。
 待て、これから、ヤバい姉、破廉恥娘二人と暮らすのか?
 明日もまた心臓が持ちそうにありません。
「ゆーくんおはよ」
 そんな声で目が覚める一日。
「何、縁」
「今日ね。水族館行きたい!」
「水族館? いいね。行こっか」
 と布団から身を起こす。
 いつものように、縁と二人で洗面所に向かい顔を洗う。
 いつものような一日の始まり。
 清々しい朝。
 あの二人が居なければ。
「ねぇ、葵姉さん。今日はどこ行きますか?」
「今日? 仕事だよ」
 柚子と葵姉さん。
 あの事件で、柚子は葵姉に惚れ、俺そっちのけで姉に甘えた。
 逆に俺はその程度でしか好きでは無かったらしい。
 よかった?
 よかったのか?
 まぁ少し寂しい気持ちがあるが、俺には縁が居る。彼女さえいればそれで良い。
 顔を洗い、服に着替え、朝飯を作る。
 何かと、楽しいこの流れ。と言うのも縁と一緒だからだ。
「ゆーくん、朝ごはんまだ?」
「はいはい。今持っていきます。そのお二人さんは自分でご飯よそってくださいね」
 ベットに寝転がっている二人に言う。
 ん? 待てよ? これってハーレムじゃね?
 と唐突な事実を知った。
 こんな、女っけが無かった俺になんでこんなに女性が群がっているんだ! 
 何があった。
 まず縁、この人は雇い主なので離れる事は基本的にできない。
 柚子、この人は俺を奪いに来たらしいが、何故か今は姉にべったりだ。
 姉、この環境を守るべくここに来た。
 そして、俺。
 この家にいる四人は何やらキャラが濃い。
 特に姉。
 まぁそんな事は関係ない。朝食を食べよう。
「はい。縁、焼き鮭。そしてお味噌汁」
「ありがと。だけど今日は魚か。骨がな」
 残念そうな顔をする。
「仕方ないから、取ってあげるから食べて」
 と彼女の機嫌をとる。
「え? 弟くんが食べさせてくれる?!」
 何故か姉が反応する。
「貴方には言っておりません」
 そう言って縁の隣に座った。
「はいあーん」
 縁に骨を取った鮭を食べさせる。
 縁は嬉しそうに、それを頬張る。
 そんな姿を見て安心する。
 気づけば、この家にいる人が全員食卓を囲んでいた。
 これほど楽しい食事はあっただろうか?
 皆、雑談に花を咲かせ、食事を運ぶ。
 面白くない日常から一変した生活。
 俺は楽しんでいた。
「そうだ弟くん! 旅行に行かないか!」
 ん?
 朝っぱらからなんか凄い事が聞こえてきた。
「姉さん? 今なんて?」
「だから! 旅行に行こう! って話。もちろんお金持ちの私が奢ってあげるからさ」
「ってどこにですか?」
 ハッとした顔で考え込む姉。
「名古屋?」
「近場です却下」
 と言うのもこの辺は電車一本でその場所に行けてしまう。旅行と言って行っても正直、日帰りが限界だ。もう既に行き尽くしている。
「どうせなら、もっと良いところ行きませんか? 葵姉さん。優くんもそう思いで?」
 また面倒な奴が話に乗っかってきた。
 一方、縁は「ゆーくんと行けるならどこでも良い」と話に参加しないでいた。
「札幌なんかは? どうかな弟くん」
「飛行機どうするんですか」
「じゃぁじゃぁ樹海の小人!」
「駄目って、どこ!?」
「あれ? 知らない? 新しく出来たテーマパーク。その名の通り樹海に生きる小人をテーマにしたものなんだけど。それがリアル脱出ゲームで超面白いって今ネットで話題でしょ? 知らない?」
 最近ネット離れが進んでいる俺には分かるはずがなく、頭の上にハテナマークを浮かべるのが精一杯だった。
「何それ?」
 柚子も同様な反応をとる。
「でも、いついくんだ? 夏休みもそこまで長くないんだぞ?」
「今から」
 即答だった。
「ほら、弟くん今から服をカバンに詰めるのだ! そしてさっさと行くのだ!」
 目を丸くする一同。
 それもそのはず、唐突に旅行に行こうとしている。
「は? 予約とかどうするんだ?」
 とりあえず訊いておく。
「多分大丈夫でしょ。株持っているし」
「は?」
 もう一度目を丸くする一同。
「それって?」
「多分株主の優遇が効くでしょ。多分」
 と、呆れ顔で言う姉。
「でも、株主の特権と言ってもそんな予約をねじ曲げるような事は出来ないんじゃ」
 言い返そうと思ったが誰かと電話をする姉。
「あ、もしもし、シャッチョ? 今日から数日間って樹海の小人のホテル空いてる? うん。あーやっぱり? うん。わかった。ありがと。じゃぁねー。空いてるってさ。でも普通の部屋で旅館エリアらしいけど」
 話が早い!
 とんでもなく早い。
「さぁ、諸君。さっさと荷物を詰めるのだ!」
 そんな事で、着きました。樹海の小人。
 長野県の山奥にあるその施設は、デッカいドーム型。外から見て分かる異様さ。
 そんな建物の中に吸い込まれるようにふらふら入って行く姉。
「おいちょっと姉ちゃん待って!」
 そんな事は聞かない姉は速度を増して歩いて行く。
 姉は入口でやっと止まったと思うと何かを見つめていた。
「姉ちゃん速いって」
 息を切らして追い付いたのだが、その事への一言。
「遅い!」
 しかし、それを言い返す事よりも、するべき事がある事に気づいた。
 景色だ。
 入口に覆い被さる木々。
 人間が放棄した建物のような蔦の張り方。
 すごく自然だった。
「みんなーこんな所にシャッチョーが居ますよー」
 見惚れていると姉がそんな事を言い始めた。
「やぁどうも。社長です」
 社長は自ら社長と名乗った、だと。
「紹介するね。この人はシャッチョーの山田さん。今回この施設を紹介してくれるナビゲーターよ!」
 すごく馴れ馴れしい。
 なんと言うか、社長と以前にもどこかで会ったような感じで話を進める姉。
「葵姉ってどんな人なの?」
 耳うちで、質問を投げかけてくる柚子。
「知らないよ。こっちが聞きたい」
 そう答えておく。
 確かに、姉は俺の知らない所で成長している。だけど、その速度が以上でおそらくはここ二年での事だ。親が居なくなってから。
「で、今回の脱出ゲームの難易度は最大を超えて鬼しておいたでよろしく」
 説明を続ける姉。
 不幸な事に、この話を別の会話で聞いていなかった事で難易度が鬼になる事に何も言えなかった。
「では、ご案内します」
 そう言って、中に案内する社長。
「ようこそ。樹海の小人へ。ここは、まるで小人になって樹海を探検する楽しみが分かる場所。樹海は謎の海。謎を解いて、一族の繁栄をしましょう」
 そんな旨のアナウンスが流れ続けている空間を抜け、施設内に入る。
 そこは、神秘的な空間だった。
 中心には、大樹。そして周りには草のようなゴム性のオブジェが並んでいる。
「では、こちらへ」
 大きい草むらに消える社長。
 俺は、縁を抱き抱えて草むらに入る。それに柚子や姉も続く。
 社長は草が描かれたドアを開け、中に案内する。
「ここに入りますと謎解きが始まります。段階を踏むにつれ難しくなっていきますので頑張ってください。では行ってらっしゃい」
「脱出ゲーム。難易度鬼。ゲーム開始。一族の繁栄を願って頑張ってください。それでは、まず中央にあります、葉型の端末を手に取ってください」
 アナウンスの通りに端末を拾う。
 なんと言うか、ザ葉っぱと言った形をした端末はディスプレイも葉形のフレームに合わせて切り取られていて一体感が凄い。裏は葉っぱらしく模様が描かれ自分は葉っぱだと主張している。
 そして端末の側面には見慣れた端子。
 だが、少し大きく持ちにくい。
「そちらの機械の木から生えた機械葉は人間が持つスマートフォンと言った物に酷似した機能を持ち合わせており通常通りのスマートフォンとしても使えます。両面を彩る光は、その葉自身が持つ屈折を操る能力によるものです。それにより裏面は栄養状態、表面は機能の選択欄を表示させることが出来ます。触れる事により機能の選択は可能です。なお問題はその機械葉に表示されます」
 そう言ってアナウンスは消えていった。
「ゆーくん、どう言う事?」
 縁が不安そうに訊く。
「ええっと。あれだ。この機械葉はこの施設で使えるスマホみたいな物で脱出ゲームの問題はそれに表示されるって事らしい」
「ふーん」
 そんな会話をしていると、その機械葉がブルリと震えた。
 ディスプレイにはデカデカと書かれた第一問の文字。
 第一問。
 古びた石板を見つけた。それはどうやら鍵のようだ。しかし使い方がわからない。石板にはこう書かれていた。「すゃけずわせれたからぬきけすち。さかぬうこびをきれ」
  すゃけずわせれたからぬきけすち。さかぬうこびをきれ?
 意味が分からない。
 なんと言うか暗号なのだろうが、どういった物なのかは検討もつかない。
 これが難易度鬼。とんでもない。
 ふと思いつき機械葉の表面をスワイプする。
 すると、石板はくるりと回転し、その裏側を見せた。
 裏にはこう書かれている。「泡、いを」と。
 どう言う事だろうか? だがヒントなのは間違いない。
 だが、しばらく考え込んでも何も浮かばない。
 一回整理しよう。おそらくこの二つは対応している。しかしだ。その二つの共通点が同じ行と言うことしか見当たらない。
 ん? 待てよ。あの一個下はい。わの一個したはを。
 つまり、あの文字はオリジナルの文から一段母音が下がった文。
 この法則を当てはめると。「食事をする所に隠した。そこに行けば分かる」となる。
 食事をするところ? ここで言うとレストランか?
「姉ちゃん。ここにレストランってあるっけ? って居ない」
 まぁとりあえず。ん? 縁が持っている物は。
「縁、それは?」
「あーこれ? さっき葵さんが渡してきた物だけど、この施設の地図みたい」
 地図?
「ちょっと見せて」
「え? うん」
 そこには確かにこの施設の地図のようだ。しかし何かが違う。書かれているのは数字と絵のみ。
 5191814131トイレ
 413122715191411263
 4191538181
 629151314171
 と他に、色々書かれている。
 は?
 そして、この地図の隅にキーボードを斜めにしたようなえが書かれており縦に線も書き加えられている。
 さっぱり検討がつかない。なんと言うのだろうか? キーボードの実物が欲しくなった。
 おそらく二桁で一文字なのは見当がつく。某ポケスズみたいに。
 だがだ。あを1に、かを2に、の通りに当てまめるとヒントであろうトイレすら、ならやたさ、になってしまう。
 しかし、この考えには一つの欠陥がある。それはこのキーボードらしき絵のヒントを使っていないこと。
 そもそも、トイレという文字が五つの区切りになる変換方法が見当たらない。
 なんだろう?
 キーボード。使うのはローマ字入力。
 ん? t o i r e? 五つの文字になったが、それをどう数字に当てはめるのだろうか?
 簡単な話だ tをな、に変換すれば良い話だ。
 で、わざわざキーボードを描いたヒントがあるのであれば恐らく場所を記している。
 ちなみにキーボードに引かれた縦線は、1qaz、2wsx、3edcのように右に一つずつ、ずらしたキーを一直線として表している。
 すまんが全く分からん。
 誰か教えてくれ。
「どうやら、二問目で苦戦しているようだね、弟くん」
 と姉の声がする。
「ちょいと難しすぎないか? 姉さん」
「え? ゆーくん分からないの?」
「そうよ。優くん分からないの? あんたも意外にバカね」
「逆に分かるのかよ!」
「弟君。女性陣がわかっているようだね。なら私の出番は無いか。じゃぁーねー」
 そんな声をお構いなしに縁は喋る。
「だってゆーくん。と、に当てはまるのが51なのは分かるよね? ならtは、5の列にあって、その一番目がtなの。ならもう分かるよね?」
 そう言う事か。それにしても難しすぎるのでは?
「縁、ありがと」
 と、頭を撫でる。
「ちょっと私も分かってたんだから!」
 そう惜しむ様に言う柚子。
 そして、413122715191411263こと、レストランに向かった。
 そのレストランには、他の人は居なかったが何やら変な植物じみた機械が置いてあり、近づくほど機械葉が強く光った。
 いかにも翳せといった、マークに機械葉を近づけると、その植物じみた機械は光り輝いて、蓋が開き中から小さな板みたいな物が三つ出てきた。
「ってこれ、苔生えてるじゃん」
 そう言って手に取るとそれが金属製だとわかった。
 とにかく重い。そして、表面には何か文字が書かれていた。
「うん? 料理?」
 そう書いてあるように思える。
 その板と言うべきか食券と言うべきか。
 それを入れるであろう場所が光り輝いている。それも俺の顔の前で。
 眩しいが、その中に食券を入れる。
 光は消え、その中に板は吸い込まれていった。
 そして、何も無かった空間に椅子と机が出現し、その机の上には料理が乗っかっていた。
 それは緑色のパンケーキ。その上には、苔のように見える粉末がかけてあった。
 しかし、デカイ。
 おもしろいほどデカイ。
 何で例えよう。そう車のタイヤほどの大きさはある。それが三枚も。
 そう思っていると、アナウンスが流れる。
「これは、人間界ではホットケーキと言われる食べ物を再現した物です。それにアレンジを加え、小人の食べやすい味付けにしました。では、お召し上がりください」
 お召し上がりくださいと言われても。
「ゆーくん何あれ! 美味しそう。食べたい」
「縁ちゃん。だよねー食べたいよね。早く食べるわよ優くん」
 背中ではしゃぐ縁と、席に座って用意されたナイフとフォークで切り分ける柚子。
「じゃぁ食べるか」
 それを口に運ぶと、野菜の甘みを感じる、ほんのり甘い味がした。
 その中には抹茶の苦味もあり、抹茶ラテと似たような味がする。だが、それよりも甘さが柔らかい。
 ふわふわなパンケーキ、ホットケーキどっちでもいいや。
 とにかく美味しかった。
「あー私たちのご飯が!」
 そう言って何処からか出てきた姉が言った。
「葵くん。いつでも食べられるじゃないか」
 姉に続いて社長も出てきた。
「いつでも食べられる?」
「あぁ。君たちには言っていなかったね。そのパンケーキはネット販売もしているのだよ」
 ふーん。と適当な返事をしておく。
「さて、みんな! 問題ってどうだった? 結構難しいでしょ?」
 といつもと違う口調で喋る姉。と言うかいつもバラバラか。
「難しい他ありませんよ。あれ」
「それはもう鬼だもんね」
 と姉は答えた。
「でも君たち知らないだろうが、鬼をクリアした景品はその機械葉だ。良いだろう?」
 これが景品。
 ポケットに入っているそれを確認する。
 確かに欲しいと言えば欲しいけど要らないと言えば要らない。微妙なラインだ。
「ゆーくん。私これ欲しい!」
 予想外の反応を示したのは縁だ。
 確かに縁スマホを持っている所を見た事がない。
 持っていないのだろうか?
「縁って、スマホ持っていないのか?」
「うん。持ってない! と言うか壊れちゃった」
 子供のように言う縁。
 そう言う事なら、縁のためにも頑張るかな。
 そんなこんなで夜。
 俺らは、難易度鬼をなんとかクリアして、機械葉を手に入れた。
 そして今は、旅館の部屋でゴロゴロしている。
 縁は何やら、機械葉のセットアップを終えたようで機械葉、スマホを弄っている。
「縁、何しているの?」
 と柚子が縁に近寄って言った。
「んー? 青い鳥ー」
「青い鳥って、あのSNSの?」
「そう。久しぶりに開くから、リプライとか現状報告を呟いてる」
「へぇー縁ってネットやっていたんだ」
 俺も近付いていく。
「ゆーくん。なんかゆーくんの事を報告したら荒れてるのだけど、なんで?」
 は?
 その後ネットニュースになったのは内緒だ。
 そんなこんなで今、温泉に入っている。
 今日一日の疲れを取るように、肩までゆったりと浸かる。
 邪魔者が来なければ良いが。
 というのも、この温泉は部屋に設置されたカップル用の浴槽だ。しかも露天。
 ん? いや露天じゃないな。
 目の前には、神木樹と言われるドームの中で最大サイズの木が聳え立っている。
 ライトアップされたその木は神秘的の他なかった。
 ここのホテル等の施設は丸みを帯びたその壁に沿って二階三階とアーチを描くように作られている。
 その中心が先ほどいた場所だ。遊具等が置かれたテーマパークとなっている。
「ゆーくん。入るね」
 そんな声が聞こえてきた。
 外から見えないからとは言え、家の外では流石に気が引ける。
「私もいるよー!」
 と縁を持ち上げた柚子が顔を出す。
 なんだ二人か。って二人?!
 入った事はあるけど、あるけどもここの浴槽は家の浴槽ぐらいか、それより少し大きかのサイズだ。確かに入れる。だけど外だと誰からか見られているようで妙に恥ずかしい。
 でも、まぁいっか。どうでも。
 縁が俺の上に座った事により全ての事がどうでも良くなった。縁の柔らかさ。それがあれば良い。
 そうは言っても、理性が吹き飛んだ訳ではない。
 理性が吹き飛んだならば、何をしでかすかわからない。
 なんと言うか、デッカい爆弾を抱えて生きているようにも思える。
 しかしだ、柚子の存在と姉の存在で理性が保てている説がある。
 二人きりだったら、誰かに見られると言った大きな恥ずかしい事はあまり起こり得ない。だが、柚子がいることによって、その恥ずかしさを回避する思考回路が働く。
 つまり、柚子様様なのだ。
 でも待てよ? 三人プレイもあり得るのか?
 まぁそんな事は置いておいて、色々な事があって理性が保てている。
 うん。
 理性の話は良いとして。
 俺は、縁の柔らかさに溺れている。
 縁の肌を感じながら、神木樹を見ていた。
 何もない事を信じながら。
 面白くない部屋。
 何もない部屋。
「ゆーくん大丈夫?」
 声が重なる。
 面白くない声。
 いつか聞いた声だった。
 何かと思えば、面白くない人なのに、これ程幸せになって良いのだろうか?
 それはわからない。
 面白い部屋。
 面白そうに笑う声。
 そんな事を想像して。
「弟くんこのバイト良いんじゃない?」
 そう言ったのは、姉だ。
 俺は生返事をしてゲームをしていた。
 親には無視をされ面白くない日常を過ごしていた。
 暴力なんて当たり前。
 そんな日々だった。
 しかし、姉だけは、俺に優しかった。
 もう成人になっていた姉は、仕事をしてその金で俺に小遣いや食費を賄ってくれた。
 親はいつの間にか、消えていた。
 だが日々が変わることは無い。
 俺は、縁の体を抱きしめる。
 そんな時、縁とであった。
 嬉しかった。
 この面白くない日常から、やっと解放される。
 そう思った。
 そして今。
 柚子は死んだ。
 姉は死んだ。
 元から居なかったと言うべきか。
 楽しい事にしがみ付いて、ひたすらに病室の天井を見ていた。
 混濁した過去と夢をループさせ、現実から目を背けた。
 過去? 妄想かもしれない。
 縁は、生きている。しかし、テレビの中で。
 破廉恥な縁は居ない。
 俺の知っている縁はもういない。
 俺の作った妄想に過ぎなかった。
 俺はバカだ。
 ゆーくんなんて呼んでくれる女なんて居ない。
 俺を呼んでくれるのは?
 俺を知っているのは?
 誰だ?
 その少女は、フッ化水素酸で、足を無くした。
 誰だ?
 混沌とした記憶。
 少女は俺の手を握った。
「ゆーくん愛しているよ」
 そう言った。
「お前は誰?」
 俺の一言。
 俺はお前を知らない。
 お前は俺を知っている。
「ゆーくんはじめからだね」
 そう、お前は言った。
 お前の手には、葉の形をしたスマホ。
 知らない。
「俺は、ゆーくん」
 お前と居る事は、悪い気はしなかった。
 お前の名前は。
「美雨」
 クラスメイトの美雨。
 高校を卒業したら結婚しようと言った美雨。
 変わり変わらない日常。
 俺は、それを望んでいたのか?
 美雨、お前は誰だ?
 縁を返せ!
 現実がわからない。
 妄想かもしれない。
 そんな事はわかっている。
 この世の縁には足がある。
 そんな事はわかっている。
 キスをしたのは縁。
 手を握ったのは美雨。
 二人。
 どうやら私はヤバめのバイトに就いたらしいです。
 好きな夢を見る事のできる薬。
 そんな実験のバイトを。
 混濁し、消えかかった記憶の中、俺は生きる。
 薬編、終わり。
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