花吹雪

鵜海 喨

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 凍て返った今日、卒業式がある。学校生活の三年間に幕を閉じる大切な日だ。
 僕は彼女と学校へ向かった。
 スーツを身に纏った彼女は、何時も可愛いのだが、キチッとした服を着る事によって可愛いは美しいに変わっていた。もちろん、その姿も好きだ。
 今日は、春とは思えない程に冷え込み、少し着込まないと肌寒い一日になると天気予報で言っていた。手が少し冷えるが手を繋ぎ、温めあった。
 柔らかいその手もひんやりと冷たくなっていた。僕は、手を繋いだまま、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
 自分の熱で彼女が温まると何だか不思議な気分で嬉しかった。
「あのさ。今日でこの町、最後なんだ」
 唐突に震えた声で言った。
「私、引っ越すんだ。東京に。卒業式が終わったら、すぐに出発だから、手を繋ぐのもこれが最後」
 僕は目を丸くする。
「本当?」
 半信半疑だった。また僕をからかっているかと思った。
「本当」
 真っ直ぐな目つきで彼女は言った。
「そっか。最後なんだ」
 僕は受け止めきれずに道を歩いた。
 そして、もう一歩で学校の所で僕は立ち止まった。そして周りに人がいない事を確認して。
 唇を奪った。
 これが初めてのキスだった。
 彼女は顔を赤らめながら、それを受け入れた。
 弾力のある彼女の唇は冷たかった。しかし、それを上回るほどの幸せが込み上げてきた。
 唇を離し目を見つめる。
「急だよ」と小声言ってるのが聞こえる。
 そして、手を少し強く握り学校まで歩いた。
 僕は卒業式で涙を流せずにいた。
 心に何かが引っかかっていからだ。
 そのまま卒業式も終わりその帰り道。
 いつもの場所に彼女の姿は無かった。
 一人で帰る肌寒い道。繋がれていない手はうっすら凍っているのでは思える程冷たくなっていた。
 桜は一昨日満開になり、今は花吹雪として散っていた。花は生涯を終えようとしていた。
 僕は花吹雪をかき分け道を進む。一瞬彼女の温もりを感じ、手に視線を落とすが、無論、何もない。
 その時。卒業式では流れなかった涙が初めて流れた。居なくなる現実を突きつけられ、心に穴が開いた。
 僕は、凍るように冷たい手を見ながら、花吹雪を浴び、立ち尽くしていた。涙をこぼしながら。
 
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