赤色

鵜海喨

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終わらせる。

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 それは赤い色していた。
 刃渡り十五センチは超えるであろう三徳包丁は、その油脂で赤を弾いていた。
「なんだ、赤いじゃない」
 ふと、そんな言葉が漏れる。
 ただ只管に漏れ出る液体を差し置いてに、鉄の匂いと熱の匂いが鼻につく。臭い臭い。なんて酷い匂いだ。
 
 油脂は従順にその役目を果たしていた。中身は正直なのにこの男は、私を汚し続ける。

 再び入れてやる。躰にモノを入れるって苦しいんだ。
 男は、まだ息をしていた。しかし虫の息。違う、虫に失礼だ。
「モノを入れて気持ちいいですか? 私は楽しいよ!」

 腹に入れる。油脂で滑る柄を何度何度も握り直して、鬱陶しいと思いながら、それすらも楽しく。赤が漏れ出る。

 包丁は、嫌うように血を滴らせている。錆にすらさせたくない、そう言っていた。

 何度も何度も入れ込む。ナカなんて鼓動して嬉しそう。ほら立場が逆転しただけでこんなに体は喜んでる。叩き潰した肋骨が、鋭利に光を反射した。桜色のそれは、可愛らしく佇んでいる。薄い照明。明るく暖色に私とソレを照らした。

 不快な臓物の匂い。汗のような酸の匂い。生温い服も温かみ。水のように重く、穢れたセーラー。クリーニングに出さなきゃ。
 シュークリームのソレはち切れんばかりの腹は、クリームを撒き散らして冷めてしまった。なんて残念。そしてなんて不味そう。楽しかったのに。

 シャクカ様。見ていますか? 私は役目を全うしました。全うされました。褒めてください。この罪深きせかいえんを切り落としました。削ぎ落としました。私は青の為になったのでしょうか?

 残酷なように楽しい世界。役目不全なんて許されない。
 そう。私は繋がりと役割と世界で出来ている。
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